Posts Tagged ‘裁判例’

「日本人の配偶者」の在留資格はどんな場合に認められる?結婚すれば必ずもらえるのか?

2023-07-25

「日本人の配偶者等」の在留資格について、あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

いわゆる「配偶者ビザ」は,日本に住んでいる外国人の方にとって,最も手堅く安全な在留資格と言えます。

ビザによる就労の制限はなく,在留期間についても更新が容易であり,何よりも永住者の在留資格を取得しやすいという点が魅力的です。

在留資格「日本人の配偶者」としてどのような要件が必要かについて、まず第一に「日本人の配偶者としての身分を有する者」であることが必要です。     
「日本人の配偶者」における「配偶者」とは、現に婚姻中の者をいい、相手方の配偶者が死亡した者又は離婚した者は含まれないとされています(審査要領)。
では、ここでの「婚姻」は、法律上の結婚で足りるのか?あるいは他に何らかの要件が必要なのでしょうか?
この「日本人の配偶者等」における「婚姻」の判断について、最高裁まで争われた事件がありました。
争いとなった事件の概要は、およそ以下のようなものでした。

出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)別表第一の三の表所定の「短期滞在」の在留資格で本邦(日本)に在留していたタイ王国の国籍を有する被上告人が、上告人(国・出入国在留管理局)に対し、法別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格への変更申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、上告人がこれを不許可とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため、被上告人が本件処分の取消しを求めたもので、日本人と婚姻関係にある外国人(タイ王国の国籍者)が、日本上陸後約1年3か月の同居生活の後、約4年8か月間別居生活を続け、その間、婚姻関係修復に向けた実質的、実効的な交渉等はなく、独立して生計を営んでいたなどの事情の下において、当該外国人の日本における活動は、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するといえるか、「日本人の配偶者等」の在留資格該当性が争点となりました。

最高裁(平成14年10月17日)は、「日本人の配偶者等」の「配偶者」としての在留資格該当性について、およそ以下のような判断を下しました。

1.「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦に在留するためには、単にその日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係があるだけでは足りない。
2.日本人配偶者との間に、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真しな意思をもって共同生活を営むことを本質とする婚姻という
  特別な身分関係を有する者として日本活動しようとすることに基づくものと解される。
3.婚姻関係が法律上存続している場合であっても、夫婦の一方又は双方が既に婚姻継続の意思を確定的に喪失しているとともに、夫婦としての共同生活
  の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至ったときは、当該婚姻はもはや社会生活上の実質的基礎を失っている者というべきである。

本判決は、「配偶者としての活動を行う者」とする者の在留資格が付与されるべき者について、日本人との婚姻が法律上有効なものであれば足りるものとする(平成6年5月26日東京地方裁判所判決)の考えを否定して、在留資格「日本人の配偶者等」での「婚姻」といえるためには「単なる法律上の婚姻だけでは足りない。」とする国側(出入国在留管理局)の主張を採用しました。
今となっては当たり前のように見える判断ですが、下級審で判決のあった平成8年当時は、決して当たり前の判断基準ではなかったということです。
この最高裁判決が、在留資格「日本人の配偶者等」の在留資格該当性における現在の判断基準となっています。
参考:最高裁判所判例,出入国在留管理局審査要領

在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所その13

2023-02-01

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,令和4年4月14日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

この事例では,外国籍の男性Aさんが,日本国内で外国籍のBさんと婚姻し,その後,永住許可を受けて日本で生活していましたが,Aさんは風俗営業法違反や売春防止法の違反によって執行猶予付き懲役刑を受け,強制送還の手続きに付されました。その後,出入国管理局は,Aさんに対して退去強制令書を発付して,正式にAさんを強制送還するとの決定をしました。

Aさんは,日本での婚姻関係やその家族と日本に引き続き在留することを求めて,退去強制(強制送還)令書の取消を求めて裁判を起こしました。

事案の概要

Aさんは「留学」の在留資格で来日した後,Bさんと出会って結婚し,日本の大学を卒業しました。

Bさんには前婚からの連れ子がいましたが,Aさんとの間にも実子をもうけました。Aさんは「留学」の在留資格から「定住者」へと変更し,その後に永住者に変更しました。

Aさんは輸入関係の会社を経営していましたが,それとは別でマッサージ店を経営するようになり,このマッサージ店において無許可で性的なサービスが提供されたことから,風俗営業法の違反によって罰金刑を受け,更にその後もマッサージ店で売春行為が行われていたことから売春防止法違反によって執行猶予付き懲役刑の判決を受けることになりました。

売春防止法違反に当たった行為は,入管法における売春関連業務に従事していることにもなったため,Aさんは退去強制(強制送還)の対象となってしまいました。

①原告であるAさんは,

・Aさんが永住許可を受けていること

・Aさんが日本に定着していること

・Bさんとの婚姻関係や子供との親子関係があること

から,在留特別許可が認められるべき事案であると主張しました。

②これに対して被告の国は,

・Aさんの売春関連業務への従事の違法性が大きいこと,犯罪性が大きいこと

・永住許可は特に考慮する事情ではないこと

・本国への帰国期間が長いこと

・家族関係も含めて,Aさんを強制送還したとして支障は少ない

から,在留特別許可が認められるべき事案ではないと主張しました。

裁判で重要になったポイント,裁判所の判断

裁判所は,Aさんの訴えを認めず,請求を棄却しました。

まず,Aさんが強制送還されるに至った事情である風営法違反や売春防止法違反の事実は,日本で法律を守って生活しようとする意識の低さを表していると指摘しました。

また,永住許可を受けているという事情についても,永住者だから直ちに在留特別許可がなされるというわけではなく,あくまで一事情にとどまり,上記のような法令の違反があることも考慮すると,在留特別許可を認める大きな事情とまでは言うことができないとしました。

そして,Aさんの日本への定着性や家族関係についても,①日本との定着性については,2度の法令違反があったのだから善良な生活状況だったとは言えない,②家族関係については,Aさんの妻と実子はAさんと同じ国籍なのだから本国で一緒に暮らすこともできること,連れ子については成人していて仕事もしているし,Aさんの本国での生活も可能である事を理由に,在留特別許可をするほどの事情ではないとしました。

コメント

在留特別許可を求める事案において,外国人同士の結婚(永住者の外国人同士)の場合には,やはり日本人同士の結婚とは異なり,法律上保護される程度が低くなっています。

また,売春に関わっていたとされると,入管法上は非常に厳しい対応をされてしまいます。売春関連については,刑事裁判で有罪の判決を受けていない段階でも,強制送還が可能とされていますし,仮に不起訴処分になったとしても,入管は退去強制事由があるとして強制送還できます。それだけ,外国人による売春に対して厳しい対応をしているということになります。

この事案のように,日本国内で,比較的安定した家族生活を営んでいるというケースであっても,売春関連業務に関わっているというように,違法性が高いと認められると,在留特別許可の見込みも低くなってしまいます。

在留特別許可に関する対応は,入管が関わる前の段階から,刑事事件での対応の段階で,ある程度の決着がついてしまいます。ご不安なことがある方は,一度弁護士や行政書士などの専門家にご相談ください。

社会保険に入らないと永住許可されない?裁判例から解説

2021-08-30

日本に長く住んでいると,永住許可の申請ができるときたことがある方も多いのではないでしょうか。

日本の制度での「永住」というのは,在留資格(ビザ)の一種で,在留期限を定めないで将来的に日本で在留することを認める在留資格のことです。

今回は,永住申請をしたところ「社会保険料を払っていないから」という理由で永住許可が認められなかったケースの裁判例を紹介します。

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在留期間の延長を求めて争った裁判事例 東京地方裁判所その1

2021-08-06

このページでは,在留期間の延長を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,令和2年2月27日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

この事例では,「定住者」の在留資格を付与されていた外国籍のAさんが,

①スピード違反により懲役3月,執行猶予2年の有罪判決を受け,さらにその猶予期間中に

②無免許運転により懲役5月の有罪判決を受けて,日本の刑務所で服役することになりました。

Aさんは,服役する直前に,在留期間の更新申請をしていましたが,この申請は不許可となり,Aさんは服役中に不法残留(オーバーステイ)の状態となってしまいました。

Aさんは,在留期間の更新申請の不許可処分に対して取り消しを求めて東京地方裁判所に訴えを起こしました。

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外国人従業員が「勝手に」不法就労をした?不法就労助長罪の成立要素

2021-06-22

不法就労助長罪は,「事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた」場合に成立する犯罪です。

出入国管理法73条の2第1号の違反となり,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が定められています。

この,①事業活動に「関して」外国人を働かせていたかどうか,また,②事業主が外国人に仕事を「させた」かどうかが争われた裁判例があります。

参照する裁判例は,東京高等裁判所が平成6年11月14日に判決を言い渡した不法就労助長罪の事件です。

この事件は,スナックを経営していた日本人がスナック店内で外国人に売春をさせていたという事件です。被告人は,あくまでスナック従業員として雇っていた外国人が勝手に売春をしていた,従業員に対して不法就労を命令していない,として無罪を主張していましたが,東京高等裁判所はこれを認めず,被告人を有罪とした一審判決を維持しました。

①事業に「関して」いるかどうか

「事業に関し」とは,運営・従事している事業のために必要な活動でなければ犯罪にならないとされています。

そのため,実際に雇い主が営んでいる事業と関係しない活動を,外国人が行ったとしても不法就労助長罪にはなりません。裁判例の被告人も,あくまで事業は「スナック」であったことを,外国人を雇っていたのも「スナックの従業員として」であることを主張していたようです。

ですが,この裁判例のスナックでは,

①外国人がスナック従業員として勤務しつつ,客との間で売春の合意ができた時には売春の対価のうち一部をスナックに支払っていたこと,

②売春のために店の外に出る時には店の了解が必要で店に断りなく売春をした場合には罰金が徴収されることになっていたこと

等の事実が認定され,看板としては「スナック」として経営されていたとしても,その実態は「売春スナック」であったから,事業に関して外国人を雇っていると判断されました。

この裁判例が「本件スナックが,正規の営業目的いかんにかかわらず」と述べているように,外国人を働かせている名目よりも,実質的にどんな業務に従事していたのかが判断の対象になります。

不法就労助長にあたらないように名目だけ適法な事業をさせていたとしても,従事していた業務の実質が判断されることになるので,外国人の雇い入れ時には注意しましょう。

②不法就労を「させた」かどうか

不法就労を「させた」といえるには,外国人を監督下において働かせたことを言うとされています。

そのため,外国人が全くの自由な判断で仕事をした場合には,不法就労助長罪とはなりません。

「外国人が『勝手に』働いていたのでは給料も支払われないのだから,そんな事態になるのはあり得ないのでは?」と思われる方がいるかもしれません。

しかし,ある事業主の下で外国人が働き,事業主からは給料が支払われなくとも,客から直接報酬が支払われるという業務であれば,そのような事態もあり得るのです。

先の裁判例においては,被告人が経営していたスナックで,外国人が売春行為をしたときに,客からの売春対価の一部が店舗に,残りが外国人の手元に残る形となっていました。そして東京高等裁判所は,不法就労をした外国人に対して,不法就労をさせた人が直接対価を支払っていなくても,犯罪は成立するとしています。

報酬を支払っていなくても,不法就労助長罪は成立するのです。

また,外国人従業員に対して不法就労することを業務として指示はしていないとしても,雇い主と従業員という上下関係があり,不法就労にあたる行為についての指導をしていたと証拠上認められたことから,不法就労を「させたといえる」と判断されました。

裁判例でみるべきポイント

具体的な事案での結論はそれぞれ異なる可能性があるので,「売春スナックだと不法就労助長になる」というロジックは正確ではありません。

一番重要なのは,「どのような要素から不法就労助長に該当すると判断されているか」という点です。

この裁判例からいえることは,不法就労助長罪が成立するかの判断で

①外国人が行った業務が,事業主が実質的に営んでいる業務なのかどうか

②「外国人に報酬を払っていない」というだけでは無罪にはならない,外国人の業務をどこまで是認していたか

が重要であるということです。

特に②については,事業主として作業場の管理が徹底していれば起きえない問題です。

管理が徹底していても,それでも外国人が不法就労をしていたということなのであれば(それだけ外国人が,巧妙に隠れて働いていた),『不法就労助長罪は成立しない』と争いやすくもなります。

外国人の雇用と不法就労助長罪について不安のある方は是非一度ご相談ください。

在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所その12

2021-06-18

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,平成19年6月14日に東京地方裁判所で退去強制(強制送還)令書の発布について取消しが言い渡された事例です。

この事例では,不法残留状態となった外国籍の男性Aさんが,日本人のBさんと内縁関係であったところ,入管に不法残留を摘発されたため,強制送還の手続きに付されました。一度退去強制令書が発布された後に,AさんとBさんは婚姻届を提出して法律上正式な夫婦となりました。

Aさんは,家族と日本に引き続き在留することを求めて,退去強制(強制送還)令書の取消を求めて裁判を起こしました。

(さらに…)

在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所その11

2021-06-10

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,平成26年1月10日に東京地方裁判所で退去強制(強制送還)令書の発布について取消しが言い渡された事例です。

この事例では,不法入国をした外国籍の男性Aさんが,日本国内で永住者であるBさんと内縁関係になり,2人の子供を一緒に養育していましたところ,入管に不法入国を摘発されたため,強制送還の手続きに付されました。

Aさんは,内縁関係やその家族と日本に引き続き在留することを求めて,退去強制(強制送還)令書の取消を求めて裁判を起こしました。

(さらに…)

在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所その10

2021-05-18

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,平成30年10月11日に東京地方裁判所で退去強制(強制送還)令書の発布について取消しが言い渡された事例です。

この事例は,「永住者の配偶者」の在留資格で来日した外国籍の女性Aさんが,配偶者の男性とうまくいかなくなり,在留資格の更新手続きをせず,在留期間が過ぎてしまったためオーバーステイになって,退去強制(強制送還)令書が発布されたので,その取り消しと在留特別許可を求めて裁判を起こしたというものです。

(さらに…)

在留特別許可を争った裁判例 東京地裁判決その7

2021-05-01

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,平成29年6月16日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

この事例は,

定住者として来日した外国籍の男性Xさんが,同じ国籍の女性と日本で結婚し,永住許可を受けた後で,日本で刑事事件(殺人未遂)を起こしてしまい懲役8年の実刑判決を受けていたため,退去強制(強制送還)令書が発布されたので,その取り消しを求めて裁判を起こしたというものです。

外国人の方が有罪判決を受けた後に在留特別許可を求めて裁判を起こしたという事例については,前回も紹介したものがありますので,併せてご覧下さい。

在留特別許可が認められなかった例1

在留特別許可が認められなかった例2

在留特別許可が認められなかった例3

(さらに…)

偽装結婚かどうかが争われた裁判例 その1

2021-04-26

このページでは,偽装結婚かどうかを争った刑事裁判について,判決を解説します。

今回の事例は,平成23年12月27日に静岡地方裁判所浜松支部で判決が言い渡された事例です。 (さらに…)

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