偽装結婚かどうかが争われた裁判例 その1

このページでは,偽装結婚かどうかを争った刑事裁判について,判決を解説します。

今回の事例は,平成23年12月27日に静岡地方裁判所浜松支部で判決が言い渡された事例です。

事案の概要

この事例は,外国籍の被告人Xさんが,長期間日本に在留するためだけの目的で日本人であるYさんと結婚したことにして,婚姻届を提出し,日本人の配偶者へ在留資格を変更したことが,嘘の婚姻届を提出して受理させたことにあたるとして,電磁的公正証書原本不実記録,同供用罪という犯罪に該当するとして起訴されたものです。

Xさんは,Yさんと真実の結婚をするつもりだったので無罪であることを主張していました。

しかし裁判所は,XさんがYさんとは真実結婚するつもりがなく,もっぱら自分の在留期間を更新するために結婚を偽装したものだとして,Xさんに懲役2年執行猶予4年の有罪判決を言い渡しました。

裁判所の判断の要素

この裁判で重要になった要素は,

①Xさんの結婚相手であったYさん(日本人)が,「Xさんから日本人配偶者のビザがもらえたら毎月5万円を貰えると言われたから結婚した」という供述をしていたこと

②XさんとYさんとの生活の状況

です。

この二つの要素が主となって「Xさんは結婚生活を送る意思がないのに婚姻届けを提出した」と認定がなされました。

①の供述からは,「偽装結婚の報酬が支払われている」との認定に繋がりました。

:日本人であるYさんから,このような供述があると,基本的には「結婚をした事にしてビザを取得する代わりにお金を払う」という関係が生まれ,通常の結婚生活であればこのようなお金のやり取りは生じないはずだという考えから,ビザ目的の結婚であることが強く疑われてしまいます。

生活費の負担のために夫婦間でお金を出しあうことはよくあることですが,結婚すること自体にお金を支払っている場合,そのお金は「偽装結婚の報酬として支払われている」とみられてしまうでしょう。

次に,②の状況からは,「結婚生活の実態がなかった」と認定されています。

①の事情だけではなく,XさんとYさんの生活状況も「偽装結婚である」との判断に影響しました。

XさんとYさんは,婚姻届けを出してから3か月後別居するようになっており,XさんからYさんに支払われていたお金についても,生活費の負担としては不自然であると見られました。

また,XさんとYさんが出会ってから婚姻届けを出すまでに,夫婦としてどのように生活するかについて話し合いもなされていないことも,真剣に結婚生活をするつもりがないことの事情としてとらえられました。

さらに,Xさんは,Yさんと出会った経緯や結婚した経緯について,裁判所で話したことと,入管に提出した資料の内容がかみ合っていないことも指摘されました。

まとめ

裁判所としても,「在留期間を更新したい」という目的と,「日本人と結婚して生活したい」という目的が併存すること自体は認めています。そのため,「日本人の配偶者等に在留資格を変更して,日本に長くいよう」という意思がすべて悪いとまでは言えません。

問題なのは,「本当に結婚するつもりがなく在留資格(ビザ)を取るためだけに結婚するような場合」です。

偽装結婚として起訴され,裁判で争う事件では,

本当に結婚するつもりであったのならば本来とるような行動をとっているかどうか

在留資格のためだけに結婚しているように見える事情はどう説明するか

という点が重要な判断の要素となってきます。

夫婦間でお金のやり取りがあったのであれば,どんな理由でのお金のやり取りなのか,生活の実態に合わせて判断がなされることになります。

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