在留特別許可について

1 在留特別許可とは何か

在留特別許可とは,本来であれば退去強制事由に該当する非正規滞在の外国人に対して,特別の事情を考慮して在留を認める制度です(入管法50条1項)。

在留特別許可は,「退去強制に該当する」ことが前提の制度ですので,違反調査が始まらない限り,在留特別許可を求めることすらできません。令和6年6月10日以降は,在留特別許可を希望する外国人から法務大臣に対して申し出をしなければなりません。

申し出をするタイミングは,収容された後,または監理措置によって収容を解かれた後になります(入管法50条2項)。一方,既に強制送還の決定が出されてしまった後は申し出をすることはできません(入管法50条3項)。

これまで在留特別許可は違反審査,口頭審理,法務大臣の裁決という三段階の審査手続きの中での一番最後に位置付けられていましたが,令和6年6月から施行された入管法では,違反審査の段階からでも在留特別許可に向けた申し出ができ得ることになりました。

実際に在留特別許可をするのは,違反認定や口頭審理の結果に服するという場合,法務大臣の裁決がなされた後であり,結局のところ,法務大臣の裁決の段階で在留特別許可がなされるという事案が多くなると見込まれます。

在留特別許可がされる場合については法律上定めがあり(入管法50条1項)

  1. 永住許可を受けているとき
  2. かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき
  3. 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき
  4. 難民認定又は補完的保護対象者の認定を受けている時
  5. その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき

とされています。

この審査の中で,法務大臣は,在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実及び人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮するものとするとされています(入管法50条4項)。

これは,こちらのガイドラインにも同様の事項が定められています。

https://www.moj.go.jp/isa/deportation/resources/08_00035.html

 

☆在留特別許可された場合には在留資格はどうなるのか?

在留特別許可とは,退去強制手続きの中で退去強制をしないで日本での在留を認めることを言いますので,在留資格とは別のものです。

在留特別許可がなされると,その時の外国人の方の日本における活動や生活の状況に応じて,改めて在留資格と在留期間が付与されます。在留特別許可と在留資格の認定を踏まえて,日本で適法に在留できるようになるのです。

 

2 在留特別許可の基準

在留特別許可を行う場合について,法律上は上記の1~5までの場合が挙げられています。

その中でも特に,5の「特別に在留を許可すべき事情がある」場合がどのようなものであるかについて明確でありません。

法務省はこの「特別に在留を許可すべき」かどうかについて,ガイドラインを公表しています。

https://www.moj.go.jp/isa/deportation/resources/08_00035.html

この中では,在留特別許可を「する」方向に考慮される事情,「しない」方向に考慮される事情が挙げられています。

 

在留特別許可を「する」方向に強く働く事情としては

  • 日本人の子供である
  • 日本人(または特別永住者)の子供がいて世話をしていること
  • 日本人(または特別永住者)と実体を伴った生活をしている(在留特別許可だけのために結婚するのでは認められません)
  • 社会,経済,文化等の各分野において日本に貢献し不可欠な役割を担っていると認められる場合

などがあります。これらは,「在留特別許可を受けようとする人」と「日本」との「結びつき」に関する事情になります。

 

一方,在留特別許可を「しない」方向に強く働く事情は

  • 重大な罪を犯して刑に処されられたことがある
  • 出入国管理の根幹に関わるような法令の違反がある(偽造パスポートの作成等)
  • 反社会性の高い法令の違反がある(売春をしたり斡旋したりした等)

などがあります。これらの事情は,日本での在留を認めるべきではない事情や,退去強制を正当化すべき事情とも言えます。

 

在留特別許可がされた例,不許可だった例がそれぞれ法務省のホームページ上でも公表されていますのでご参照ください。なお,これらの事例はあくまで,入管が選別して公表している事例です。似たような事例でも事情が違えば判断も異なることがあります。

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan25.html

なお,プラス方向の事情,マイナス方向の事情を「総合的に考慮」して,在留特別許可をするかどうかが判断されます。日本人と結婚しているからといって在留特別許可がされるとは限りませんし,日本で有罪判決を受けたとしても在留特別許可を受けられることもあります。

類型的に在留特別許可を受けやすいのは,日本人の家族がいる場合や日本での在留歴が20年以上となる場合,退去強制事由が悪質なものではない場合(被害者のいない事件や初犯の薬物事犯の場合等)があります。

 

3 在留特別許可を求めて何をするか

在留特別許可は,申請すればだれでも認められるというものではありません。そして,在留特別許可を求める方は,不許可となると退去強制されてしまう立場にある方々ばかりです。少しでも在留特別許可の可能性をあげるためにも,弁護士に相談された方が良いでしょう。

「いつ相談したらよいですか?」と聞かれますが,在留特別許可について相談すべきタイミングというのは,違反調査が始まっている場合やもしくは近い将来において違反調査がなされるような場合です。既に退去強制令書が出されてからでは遅いので,なるべく早く相談しましょう。

既に違反調査が始まっている場合には,収容されているのかどうか,手続はどこまで進んでいるのか(口頭審理は弁護士も立ち会える手続です。これに立ち会って在留特別許可を求めることをしっかりとアピール,主張しなければなりません。)をきちんと確認して対応する必要があります。

在留特別許可を求めるにあたって,定型的な事情の他にも,「特別に在留を許可すべき事情」として個々の具体的な事情を主張し,それらの事情を立証するための証拠を収集していきます。例えば,日本に家族がいる,日本に長く定着しているという事情があるのであれば,家族の上申書や住んでいる場所に関する公共料金の領収書等を証拠として提出して一つ一つ証明していきます。

在留特別許可のために主張すべき事情というのは,個々の外国人の方によって異なります。

果たしてそれが「強い」事情なのか,「そこまで強くない」事情なのかを見極めて,それに合った証拠を提出しなければなりません。

 

☆在留特別許可を求めて入管に出頭した方が良いのか?

法務省の「ガイドライン」では,入管に出頭していることが在留特別許可を「する」方向の一事情として考慮されることとされています。そのため,退去強制に当たることが分かっている,もしくは,近い将来確実にあたることになる場合(一定の有罪判決を受けてから確定までの間)であれば,入管に出頭することで,在留特別許可を求めるための事情としたり,収容を回避する事情となったりすることがあります。

しかし,進んで出頭した場合には「藪蛇になってしまう」というデメリットもあります。

まず,自分から「退去強制される事情があります」と申告することになるため,否応なく違反調査が始まることになります。本来であれば入管が知り得なかった事情まで自白することになりますし,違反調査を早めてしまうこともあります。また,違反調査がなされるということは,収容令書が出される可能性も出てきてしまう可能性もあります。

さらに,退去強制令書が発布されて執行される可能性もあります。在留特別許可とは,「本来であれば退去強制される人に対して,特別に日本での在留を許可する」というものです。在留特別許可が認められないときには本来の手続に従って退去強制がなされ,5年間(2回目以降の退去強制であれば10年間)再入国が出来なくなります。

「強制送還されるかどうか分からないけれども入管に自主申告したら有利に扱ってもらえるだろう」と安易に出頭するのは危険です。ご自身がどのような立場に置かれているのか,これからどのような立場に置かれるかもしれないのか,きちんと専門家のアドバイスを受けたうえで検討した方が良いでしょう。

 

4 刑事裁判で有罪判決を受けた後の在留特別許可

刑事裁判で有罪判決を受けることや,禁固以上の刑に処されることが退去強制事由になっていることもあるため,刑事裁判と退去強制,在留特別許可に関する手続きはある程度関連していると言えます。

いくつかのパターンに分けて簡単にご紹介します。

 

☆有罪判決を受けるまでに違反調査が始まっている場合,または有罪判決を受けること自体が退去強制事由に該当する場合

例えば,①偽装結婚をして日本人の配偶者として上陸していた場合や,②売春防止法違反で有罪判決を受けた場合などがあります。①の場合には電磁的公正証書原本不実記録罪という刑法違反で逮捕され,捜査が進む中で入管からのインタビューを受けていることも多くあります。

この場合刑事事件の捜査と並行しながら入管での違反調査が進められ,有罪判決の後すぐに入管に収容されることになります。在留特別許可を求める場合には,早期の段階から在留特別許可を「する」方向の事情を集め,申立をしなければなりません。

①,②のように,日本での身分関係を偽っていた場合や社会秩序を大きく害する犯罪の場合には在留特別許可が認められにくい傾向がありますが,その中でも悪質な事案でないことを主張することが必要です。一方,単純な不法残留(オーバーステイ)のような事案では,有罪の判決を受けたとしても在留特別許可が認められる場合があります。

 

☆有罪判決を受けて刑が確定すると退去強制事由に該当する場合

例えば,初犯の薬物所持や自己使用の場合で執行猶予付き判決を受けた場合などが典型的な例です。この場合,判決が確定してから違反調査が始まるため,判決の後すぐに入管に収容されるということはありません。

判決の確定後も,直ちに入管から呼び出しが来る場合と,次の在留資格の更新の時まで呼び出しがない場合があります。各地方の出入国管理局によって,取り扱いに違いがみられています。

判決が確定した後は他の退去強制事由がある場合と同様の違反調査が始まります。在留特別許可にあたっては,有罪判決の内容も考慮されることになります。刑事事件について取調べを受ける段階から,在留特別許可の判断の資料になることを考えつつ対応していかなければなりません。

 

☆実刑を受けて退去強制事由にも該当する場合

例えば1年を超える懲役刑(実刑)の判決を受けて退去強制(入管法24条4号リ)となる場合や,服役中にオーバーステイとなってしまい退去強制となる場合があります。

これらの場合,違反調査が先に進められ,刑期の満了後に退去強制令書が執行されることが多くなっています。実刑判決の場合であっても,在留特別許可が認められることがあります。特に,日本での生活する他の家族との関係が重要になります。

また,服役中に違反調査や口頭審理が行われることになる場合,他の事件と比べて在留特別許可の申請のための準備に時間がかかったり打ち合わせが難しくなったりすることがあります。刑事裁判が確定する前の段階から,違反調査や口頭審理も対処できるような準備を進めておくことが重要です。

 

刑事裁判での主張や保釈,情状立証は,在留特別許可を求める際の主張や情状,仮放免の申請のための資料として共通して使えるものもあります。多くの場合には,刑事裁判の方が先に行われます。弁護士としても,刑事裁判の準備の時点から在留特別許可のことまで考えた弁護方針,立証活動を行っていくことが求められます。

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