退去強制(強制送還)について

1 退去強制手続きの流れ

退去強制手続きの流れ退去強制の手続は,入国警備官による違反調査によってはじまります。

違反調査は多くの場合,不法在留や不法入国をした外国人の方が出頭してはじまるか,もしくは市民による通報によってはじまります。通報などによって不法在留や不法入国が発覚した場合は,通常は,収容令書が発布されて,入管の施設に収容されながら違反調査が進むことになります。入国警備官の調査は外国人の方に対する聞き取り(インタビュー,取調べのようなものです)と関係者からの事情聴取などを行いながら進められます。

入国警備官が調査を終えると,事件が入国審査官に引き継がれます。入国審査官は,調査の結果わかった事実をもとにして,再度,外国人の方の取調べを行い,退去強制事由(:法律上,退去強制する理由となる事情のことです)があるかどうかを判断します。退去強制事由があると判断されると,その旨の認定通知書が送られてきます。

認定通知書に不服がある場合には,認定の3日以内に異議申し立てを行うことができ,異議を申立てると口頭審理が行われます。口頭審理では,特別審理官が外国人の方に対してインタビューを行い,退去強制事由があるかどうかを再度判断します。異議に理由がないとされると,その旨の通知がなされます。

口頭審理の判定結果に対して不服がある場合や,判定自体には不服がないが,在留特別許可を受けて日本での在留を続けたいという方は,判定から3日以内に再度異議を申し立てることが出来ます。

再度の異議の申し立てに対しては,法務大臣または地方入国管理局長が異議の申し立てに対して判断をして,口頭審理に誤りがあるかどうかという点と,在留特別許可を認める事情があるかどうかを判断することになります。

それぞれの場面で退去強制事由がない,と判断されれば放免となり日本での在留を続けることが出来ますが,退去強制事由があると判断されその内容に異議を申し立てなかった場合や異議が認められず在留特別許可も受けられなかった場合には,退去強制令書という書面が発布され,退去強制がなされます。

退去強制令書が発布されると,実際に退去強制,いわゆる強制送還がなされ,国籍のある国か,市民権が属する国へ送還されることになります。ただし,その日のうちにすぐ日本から出国するのではなく,日本から出国する航空便ないし船舶が決まるまでは,日本に滞在することになります。違反調査の際に収容令書によって収容されて退去強制令書が発布された場合には,出国するまでそのまま入管の施設に収容され続けることになります。

法律上,原則的に送還の手続きは国の費用で行うこととされていますが,実際には,自分たちの費用で航空券を購入して日本から出国することが多くなっています。外国人の方が航空券の購入のために必要な現金を持っていればそれを使って航空券を購入し,現金がない場合には日本にいる家族や友人などに用意してもらうこということもあります。

 

※必ず収容されてしまうのか

退去強制事由がある場合には,入国警備官は「収容令書により・・・収容することができる」(入管法39条1項)とされていますが,入管の実務においては原則的に退去強制事由があると疑われる場合には全件収容するとの運用を行っています。このような取り扱い自体が不当であるとのいう運動もあります。

実務上,外国人の方が任意で出頭すれば収容されないまま違反の調査が進むこともありますが,出頭したらそのまま収容されてしまった,とならないためにも,弁護士などの専門家とよく相談してから手続きを進めましょう。

 

2 仮放免の申請について

入管の施設に収容されている場合(違反調査の間でも退去強制令書が出された後であっても)には,仮放免を請求することができます。これは,刑事事件における「保釈」のようなもので,弁護士が代理人として仮放免の請求をすることもできます。

仮放免にあたっては,次のような事情が考慮されます。

  • 仮放免を請求する理由
  • 収容されている方の年齢や健康状態
  • 家族の状況
  • 収容され続けている機関
  • 身元保証人がいること
  • 逃亡したり仮放免条件を違反したりするおそれ
  • 国益や公安に対する影響

これらを踏まえて,収容し続ける必要があるのかどうかが判断されます。

仮放免が許可されると,300万円以内の範囲で保証金が定められそれを納付することで仮放免がなされます。また,住居や行動範囲の制限,仮放免期間中の出頭の義務付け等の条件が付されます。その条件に違反すると,仮放免が取り消され,再度入管の施設に収容されてしまいます。

入管に収容されてしまった場合,退去強制を争うにしても,在留特別許可を求めるにしても,日本から出国することを選ぶにしても,収容されたままで手続きが進むことにメリットはありません。入管に収容されてしまう場合には直ちに弁護士を代理人として選任して,仮放免を請求しなければなりません。

なお,「弁護士が委任を受けて活動している」という事情も,仮放免を許可するかどうかの判断において考慮されることがあります。仮放免の申立てに回数の制限はありません。手続きについて弁護士に委任した場合には積極的に仮放免を申請してもらうと良いでしょう。

 

3 違反調査後の決定等に対する不服の申し立て

違反調査,違反審査の結果退去強制事由があるとされた場合や,口頭審理の結果に対して不服がある場合には,それぞれ異議申し立てをすることができます。

なお,退去強制事由があることは認めたうえで在留特別許可を求める場合であっても,形式的には口頭審理,法務大臣の裁決を経ないと在留特別許可がなされません。在留特別許可を求める場合には,最後の最後まで異議の申し立てをしなければなりません。途中で異議申し立て権を放棄してしまうと在留特別許可がなされなくなりますので,気を付けましょう。

退去強制事由がないことを主張する場合には,その主張と証拠をそろえて異議を申し立て,口頭審理を求めます。口頭審理の場では,弁護士が代理人として立ち会うことができますし,証人を呼んで証人尋問を行うこともできます。

在留特別許可を求める場合であっても,口頭審理の段階から在留特別許可を求め事情についてあらかじめ証拠を提出して立証します。法務大臣の裁決の場面では外国人に対するインタビューや証人尋問などはなされませんので,必要な事情については口頭審理までに主張,立証していかなければなりません。

退去強制そのものを争うのか,在留特別許可を求めるのかで,それぞれの場面で主張立証すべき内容が大きく異なってきます。違反調査が始まった段階から,なるべく早いうちに弁護士に相談して対応方針を決め,口頭審理や裁決となった場合に備えて証拠を準備しておきましょう。手続きがどんな場面であっても,弁護士を代理人として選任することができます。

 

4 在留特別許可について

在留特別許可とは,法律上は退去強制事由があり日本に居られない外国人であっても,個別の事情によっては日本での在留を認めるべき場合には退去強制することなく日本に在留することを特別に許可するというものです。

在留特別許可が認められるのは

  1. 永住許可を受けているとき
  2. かつて日本の国籍を有していたとき
  3. 人身取引などによって他人の支配下で在留していたとき
  4. その他,法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があったとき

とされています。

在留特別許可がなされると,在留カードが発行され,個別の事情に応じた在留資格(特定活動,永住者等)と在留期間が定められることになります。

詳しくは,「在留特別許可について」の解説もご参照ください。

 

5 出国命令制度について

退去強制の手続きの例外として,出国命令制度というものがあります。

これは,退去強制事由がある外国人であっても,一定の条件を満たす人についてはすぐに退去強制をするのではなく,入管が15日以内の期間を定めてその期間内に出国するよう命令をだし,その期間内に出国すれば退去強制をしないというものです。

出国命令の対象となる人は,

  1. 日本から出国する意思を持って出頭した人でありかつ
  2. 退去強制事由が特定のものであること(入管法24条2号の3,4,6号,6号の2,7号。これらは不法残留にあたる。)です。

特に多いのが

  • 在留資格取り消し後の出国準備期間を過ぎてしまった人
  • 在留期限を過ぎてオーバーステイとなってしまった人

という場合です。

出国命令制度を利用して出頭することのメリットは

  1. 入管に収容されないこと
  2. 上陸禁止期間が1年になること

です。

通常,退去強制事由があるとされると収容令書が発布されて入管の施設に収容されますが,出国命令の対象の外国人が出頭した場合には,収容令書は出されません。

また,退去強制によって送還されると,その後は5年間日本に入国できなくなりますが,出国命令の期間内に出国した場合に,その1年後からは上陸を拒否されないことになります。

 

6 弁護士と相談しておくべき場合

次のような場合には特に弁護士に手続きを依頼する必要があります。

  • 入管の施設に収容されている場合:仮放免の申請をしなければなりません。弁護士が活動することで,仮放免に有利になることがあります。
  • 退去強制事由がないことを主張する場合:違反調査の早い段階から主張と証拠を整理する必要があります。口頭審理の場では弁護士も代理人として立ち会い立証活動をすることができます。
  • 在留特別許可を求めたい場合:口頭審理の段階から在留特別許可を求める理由について積極的に立証しておく必要があります。また,在留特別許可を求めていく場合,出国命令制度を使えなくなってしまいますので,それぞれの場合のメリットとデメリットを,在留特別許可が出る見通しを含めて弁護士とよく相談しておく必要があります。
  • まだ調査が入っていないけれども入管に出頭しようと思っている場合:出頭したらそのまま収容されることがあります。収容されない様に事前の準備が必要ですし,そもそもどのような形で出頭すべきなのか専門家と相談するべきです。
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