Archive for the ‘入管手続き’ Category

必ず強制送還になってしまうのか?裁決の通知後の不服申し立て手段

2024-02-07

事例はフィクションです。

Aさんは外国籍(定住者,1年)でしたが,日本で大麻取締法違反の罪で逮捕され,有罪判決の言い渡しを受けてしまいます。Aさんには交際相手がおり,結婚を見据えていたのですが,結婚に向けた準備をしているうちにAさんに対して退去強制令書が発付されてしまい,異議もすべて却下されてしまいました。

AさんとAさんの恋人は,なんとか日本に残る手段がないか弁護士に相談することにしました。

強制送還の手続

Aさんの事例のような薬物事案での強制送還(退去強制)の手続は,刑事裁判が確定した後,出入国管理庁にて行われます。

まずは入国警備官の調査から始まり,入国審査官による違反認定,特別審査官による口頭審理と続いていきます。Aさんのように,何らかの事情から,在留特別許可を受けて日本に留まり続けたいと考える方は,口頭審理の後,法務大臣に対する異議の申出を行う必要があります。

強制送還の手続き上,この異議の申出をしない限りは在留特別許可が出ることはありません。また,「在留特別許可の申請」という個別の手続き自体もありません。よく勘違いされるところですが,「在留特別許可の申請」てはなく,あくまで「異議の申出」という手続きになるのです。

この「異議の申出」を受けて,法務大臣または委任を受けた各地方の出入国管理庁の長が,在留特別許可を行うかどうかについて裁決を行い,その結果を外国人本人に対して通知を行います。

入国管理庁としての手続は,この,「裁決の通知」をもって終了することになります。これ以降,さらに異議の申出をすることはできません。法律上,そのような手続きがないからです。

在留特別許可が認められなかった場合には,退去強制令書という正式書面が発付され,実際の強制送還が実施されることになるのです。

強制送還の手続きについてはこちらでも解説をしています。また,法務省HPでも解説がなされています。

退去強制(強制送還)について

裁決の通知があったらおしまいか?

裁決の通知の結果,在留特別許可をしないとなった後,さらに争うための手続は2通りです。

1つは行政訴訟になります。行政訴訟は,国や地方自治体が行った処分を取り消すように求めるという裁判です。

在留特別許可の関係では,「在留特別許可をしなかった裁決」を取り消すように裁判で求めるのです。

仮に裁判の結果,裁決が取り消されることになれば出入国管理庁(法務大臣)はもう一度裁決を行って通知をする,ということになりますし,裁判所が裁決を取り消したということであれば,同じ内容の処分を行うことはできないためほとんどの場合で在留特別許可が認められることになります。

在留特別許可をしない裁決に対して裁判を起こす場合には,裁決の通知を受け取った日から6か月以内に提訴しなければなりません。6か月を過ぎて取消の裁判を申し立てても,「出訴期間(裁判を起こすことができる期間)を過ぎている」としてすぐに却下されてしまいますから,気をつけましょう。

2つ目は再審情願になります。これは裁判手続とは違い,出入国管理庁に対して「もう一回判断を見直してほしい」とお願いをするものです。

法律上このような手続きは認められていませんが,実際の窓口では再審情願を受け付けています。ただし,再審情願をしたからといって,それに対する出入国管理庁からの返事があるとは限りません。つまり,「判断をもう一回見直してください」と申し立てても,そのまま無視され続けるということもあり得るのです。

再審情願が認められる可能性があるのは,例えば,口頭審理の時点で生じていた事情のうち,「これを伝えていれば在留特別許可が認められたはずだった」という事情について,何らかの理由で当初は伝えられなかった(もしくはうまく伝わっていなかった)ため,再度その点を伝えたい,という場合です。

日本での在留を希望する場合,口頭審理もしくはそれ以前の調査の段階できちんと準備,対応をすることが望ましいです。

ですが,既に裁決の通知を受けてしまったという状態で弁護士に相談するという方もとても多くいます。

裁決の通知の後ではやれることが限られてしまいますので,日本に残り続けたいという方や入管から呼び出しを受けているという方は,出来る限り早い段階から専門家に相談することをおすすめします。

「日本人の配偶者等」の人が交通事故をした場合,在留資格はどうなる?在留期間の更新は大丈夫?

2024-01-17

(事例はフィクションです)

日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周囲の景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんが在留期間の更新をする際にどのように影響するのか
以上の点について解説していきたいと思います。

過失運転致傷の刑事罰

Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には、危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度、②事故を起こした側の過失の程度、③被害者の側の過失の程度、④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。

  • ①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
  • ②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
  • ③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
  • ④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。

Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。

日本人の配偶者の在留資格について

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
 このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用、動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
今回Aさんは、過失運転致傷罪という罪を犯しています。処分がどのような者になるかについては⑴の通りです。
そこで、まずこの刑事処分がAさんにとって「退去強制事由」になるかどうかを見てみます。

Aさんは「日本人の配偶者」ですので、入管表別表第2に記載されている在留資格を有しています。この在留資格の場合には、「無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」(入管法24条4号リ)に該当する場合には、罪名関係なく退去強制を受ける事由となります。
今回のAさんの場合には、起訴猶予処分や罰金の処分となった場合にはこれに該当しません。また、この4号リで問題とされるのは、実刑、つまり刑務所に行かなければならないような判決だけですから、執行猶予付きの禁錮刑であればAさんにとっては退去強制事由には該当しないということになります。

次に、Aさんの罰金が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで言えるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。

この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、過失運転致傷は明示的に挙げられていません。
そのため、過失運転致傷罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性高い一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。だからといってこの事故のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。

「日本人の配偶者等」の在留資格における各種申請のための書類についてはこちらのページにまとめられていますのでご確認ください。

また,在留期間の延長についてはこちらのページでも解説していますので,併せてご覧下さい。

在留期間を延長する手続き

示談交渉は必要か

さて、先述の通り、過失運転致傷罪で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、怪我の程度がそれほど大きいものでなければ、検察官が最終的な刑事処分を決定してしまうより前に被害者の方と示談を行い、被害者の方からお許しいただければ
起訴猶予処分となる可能性があります。
ただ、任意保険や自賠責保険では、ここまでの示談交渉は行ってくれない可能性が極めて高いです。保険会社が行うのはあくまでも損害の賠償のみであり、被害者の方から許してもらうような示談交渉までは
話をしないことが通常です。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、交通事故の被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。もちろん交通事故の場合には相手方の連絡先などを警察官から
知らされる場合が多いですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で交通事故を起こしてしまった場合には、期間の更新を安全なものとするためにも、いち早く弁護士にご相談ください。

技能実習生のオーバーステイ事案,逮捕されてしまうのか?入国管理局へ出頭した方が良い?

2024-01-10

【事例(フィクション)】

Aさんは、技能実習の在留資格で来日し、技能実習生として日本の工場で働き始めました。
当初は慣れない日本で、日本語を勉強しながら技能実習生として頑張って働いていました。
ところが、長時間労働にもかかわらず、残業代は払われず、元々の賃金も低く、渡航費用のためにした借金も全然減っていかないAさんは、精神的に追い詰められて、技能実習先から逃げ出してしまいました。
その後、技能実習の在留期間が切れてしまったAさんは、入管に出頭すれば、そのまま拘束されるのではないかと怖くなり、誰にも相談できないまま今に至ります。
まだこのことは入管や警察に発覚していませんが、Aさんの不安は日々大きくなっています。

【オーバーステイ(不法残留)とは】

オーバーステイとは、在留期間を過ぎて在留資格が無くなってしまった外国人の方が、その状態のまま日本に在留し続けることをいいます。
法律用語的には「不法残留」といい、入管法に違反しているということになります。
オーバーステイは、退去強制の対象となります。

オーバーステイとなってしまう理由は人それぞれ様々でしょう。

更新の期限を忘れていた場合や,更新手続きが認められなかったという場合,何らかの理由で出入国管理局に手続きに行くことができなかったなどなどの理由が考えられます。期限内に手続きをしていたのにオーバーステイになってしまったという方もいるかもしれません。その場合,在留期間の特例があります。特例についてはこちらでも解説をしています。

在留期間更新とその特例,期限を過ぎてしまったらどうなるのか

【オーバーステイ発覚前のお悩みについて】

オーバーステイ状態がまだ入管や警察には発覚していないという外国人の方は
①入管に出頭すべきか
②発覚したらすぐに逮捕されるのか
③もう日本に残ることはできないのか
④出国までずっと入管に収容されるのか
⑤オーバーステイの刑罰はどうなるのか
といったことでお悩みかと思います。
以下、順に見ていきましょう。

①入管に出頭すべきか

②~⑤で説明しますが、オーバーステイ状態になってから時間が経てば経つほど状況は悪化しかねず、出頭をしないままオーバーステイが発覚すれば、身体拘束、強制的な送還、重い刑罰のリスクが高まります。
手遅れの事態にならないよう、早く弁護士等の専門家に相談し、出頭も含め、適切な対応を取れるようにしましょう。

②発覚したらすぐに逮捕されるのか

出頭をせずに日々を過ごしていたところ、職務質問等のきっかけでオーバーステイが警察に発覚した場合は、逮捕されることが多いです。
入管に出頭した場合は、入管が警察へ通報すれば逮捕される可能性がありますが、オーバーステイの期間が短かったり、その他の事情次第では、通報されないまま入管での手続きを進めることになることもあります。

③もう日本に残ることはできないのか

オーバーステイは退去強制の対象となります。退去強制の手続きにかかった外国人の方が日本に残る手段は、在留特別許可を受けることのみになります。
在留特別許可は、基本的に簡単に得られるものではありません。
もっとも、日本人の配偶者や日本での養育が必要な子がいるなどの事情を考慮して在留特別許可を得られることもあります。
オーバーステイ状態を放置していても、日本での不安定な地位が続くだけなので、早く弁護士等の専門家に相談し、対応を考えましょう。

④出国までずっと入管に収容されるのか

オーバーステイのような退去強制事由にあたると判断されると、入管に収容されることがあります。
もっとも、Aさんのようにオーバーステイ以外には退去強制にあたることをしていない方が、出国の意思を持って入管に出頭した場合、オーバーステイが初めてであること、日本で一定の犯罪により刑を課されていないこと、パスポート、航空券の用意があることなどの条件をみたしていれば、出国命令制度によって、収容されずに簡単な手続きで出国することができます。
出国命令制度を使えれば、再度来日できるようになるまでの上陸拒否の期間は1年間となり、退去強制手続きの場合よりも早く再来日できるので、在留特別許可を得ることが厳しい場合は、出頭して出国命令制度を利用することも選択肢として考えましょう。

出国命令制度についてはこちらに法務省の説明があります

また、収容中に、仮放免の許可を得られれば、収容を解かれた状態で手続きが進むことになります。
仮放免の許可を得るためには、仮放免を必要としており、かつ手続きの進行上認めても差支えがないという事情をしっかりと伝えなければいけないので、弁護士に相談することをおすすめします。

⑤オーバーステイの刑罰はどうなるのか

オーパーステイの期間が短く、そうなった理由や行状が悪くなければ、不起訴となることもあります。
逆に、オーバーステイの期間が長かったり、そうなった理由や行状が悪ければ悪いほど、罰金、執行猶予と、刑罰は重くなっていきます。
刑罰についてもご不安であれば、弁護士に相談しましょう。

【まとめ】

以上のとおり、オーバーステイがまだ発覚していない外国人の方は、そのまま放置していたら状況は悪化していくかもしれないので、早く弁護士等の専門家に相談し、出頭を含めた適切な対応をとっていくことをおすすめします。

飲酒運転をしてしまうと「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に影響が出るのか・延長申請ができない?強制送還になる?

2024-01-03

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、友人宅で飲酒をした後、そのまま自家用車で帰宅したところ、帰宅途中の道路で警察官に呼び止められ、そのまま呼気アルコール濃度の検査を受けることになりました。
検査の結果、Aさんの呼気からは1リットル当たり0.2mgのアルコールが検知され、Aさんは酒気帯び運転で検挙されてしまいました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんの在留期間の更新時に影響があるか、若しくは退去強制処分となるか

以上の点について解説していきたいと思います。

酒気帯び運転の刑事罰

道路交通法第65条1項により、何人も酒気を帯びて車両等を運転してはならないこととされています。この「酒気を帯びた」かどうかの判断は、呼気アルコール濃度によって行われ、呼気1リットル当たり0.15mg以上のアルコールが含まれていた場合には、酒気帯び運転として刑事罰の対象とされます。
酒気帯び運転の罪の法定刑は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています(道路交通法117条の2の2第3号)。
酒気帯び運転の罪の場合、初めて刑事罰を受けるような場合であれば、略式起訴という簡単な手続きにより罰金刑となることが多いです。
ここから先は、Aさんが罰金30万円の刑となったことを前提として解説していきます。

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格について

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
 このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
 このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
 今回Aさんは、道路交通法違反により刑事処分を受けています。
まず、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、入管法上別表第1の2の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
この上陸許可基準は公表されていますが、概ね業務に関する事項や報酬についての定めが記載されています。ですので、道路交通法違反の罰金前科があるからと言って上陸許可基準に該当しないというものではありません。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず、入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。Aさんは罰金刑を受けており、これは懲役や禁錮よりも軽い刑ですから、この条文には該当しません。
次に、24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている道路交通法違反は、この列挙された犯罪に含まれていませんし、罰金刑は執行猶予付き判決よりも軽いものですから、これには該当しません。
最後に、次に、Aさんの罰金が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで言えるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんの場合には、道路交通法違反による罰金刑を受けているだけですから、かっこ書きの中にある「道路交通法違反による罰金」に該当しますので、素行不良要件には該当しないと考えられます。
以上のような事情からすれば、Aさんの在留期間の更新は認められる可能性が高いと思われます。ただし,永住申請する際には別途検討が必要です。永住に関するガイドラインについては出入国管理局がHPじょうでも公開しており,こちらから確認ができます。

他の在留資格に関してはこちらのページでも解説しています。

酒気帯び運転で前科が付くと在留資格が更新できなくなる?刑事事件に強い弁護士事務所が解説

偽装結婚が発覚するとどうなるのか?強制送還の可能性や対処について刑事事件に強い弁護士が解説

2023-12-27

【事例】

以下の事例はフィクションです。
外国人のAさんは、日本で働いて本国の家族に送金をするため、日本人と偽装結婚をし、日本人の配偶者等の在留資格で来日しました。
その後日本で暮らしてきたAさんでしたが、ある日、Aさんと同じように偽装結婚をしていた外国人の知人が逮捕されたらしいと、風の噂で聞きました。
Aさんは、自分も偽装結婚が発覚して逮捕・収容され、本国へ強制送還されるのではと不安で、眠れない日々が続いています。

【偽装結婚と退去強制】

偽装結婚をして日本人の配偶者等の在留資格で来日したAさんは、虚偽の申請をして上陸許可を受けたということで、在留資格が取消され退去強制事由となります。

「偽装結婚とは何か」についてはこちらの記事もご覧ください。

偽装結婚で有罪となった,その後はどうしたらいいか?

また、適法に上陸した後に偽装結婚をした場合であっても、後述するとおり公正証書原本不実記載又は電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪が成立し、その刑事裁判で懲役刑の有罪判決を受ければ、執行猶予の有無にかかわらず退去強制事由となります。

【偽装結婚発覚前のお悩みについて】

Aさんのように、偽装結婚がまだ入管や警察に発覚していない外国人の方は
 ①発覚したら逮捕されるのか
 ②もう日本に残ることはできないのか
 ③出国までずっと入管に収容されるのか
 ④偽装結婚の刑罰はどうなるのか
といったことでお悩みかと思います。
以下、順に見ていきましょう。

①発覚したら逮捕されるのか

偽装結婚が警察に発覚したり、入管に察知され警察に通報された場合、個別事情によるので一概には言えませんが、逮捕されることは多いです。

警察も入管と協働して取り締まり・摘発に積極的な部分です。

参考:警察庁HP

②もう日本に残ることはできないのか

偽装結婚は、前述のとおり、退去強制事由に該当するという結論になる可能性が極めて高く、それでも日本に残るための手段は、在留特別許可を受けることのみになります。
在留特別許可は、基本的に簡単に得られるものではありません。
その上、一般的に、偽装結婚で在留特別許可を得ることは非常に困難です。
もっとも、真正な配偶者になる予定の人と相当長期間内縁関係にある、日本での養育が必要な子どもがいるなど、在留特別許可にプラスの事情があれば、100%在留特別許可は無理とも限りません。
在留特別許可が得られる見込みについては、他にも様々な事情が絡む問題なので、おひとりで悩まずに、まずは専門家である弁護士等に相談することをおすすめします。

③出国までずっと入管に収容されるのか

偽装結婚が理由で在留資格を取消される、懲役刑の有罪判決を受けるなどの退去強制事由に該当すると、入管に収容される可能性があります。
もっとも、収容された場合でも、仮放免の許可を得られれば、収容を解かれた状態で手続きが進むことになります。
仮放免の許可を得るためには、仮放免を必要としており、かつ手続きの進行上認めても差支えがないという事情をしっかりと伝えなければいけないので、弁護士に相談することをおすすめします。

④偽装結婚の刑罰はどうなるのか

真正な婚姻をする意思がないのに婚姻の届出をすると、戸籍等に不実の記載(電子化された戸籍等の場合は不実の記録)をさせ、そのような状態の戸籍等を役所に備え付けさせることになり、公正証書原本不実記載又は電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪が成立します。
有罪判決の場合の刑の重さは、懲役刑、ただし執行猶予が付いて刑務所には入らずにすむケースが多いです。最も事件に応じて、個別の事情によるので一概には言えませんが刑罰についてもご不安であれば、弁護士に相談しましょう。

【おわりに】

偽装結婚により得た身分で日本に滞在している外国人の方は、いつまで経っても不安定な地位は変わらないので、前述のとおりの発覚した場合の様々なリスクを軽減するために出頭をし、真摯な対応をするということも選択肢としてはあります。
いずれにせよ、今後のリスクについて、まずは弁護士等の専門家に相談した方がよいかと思います。

前科があると帰化申請の時に不利になるのか?道路交通法違反で罰金刑になった場合を解説

2023-12-20

道路交通法第65条1項により、何人も酒気を帯びて車両等を運転してはならないこととされています。この「酒気を帯びた」かどうかの判断は、呼気アルコール濃度によって行われ、呼気1リットル当たり0.15mg以上のアルコールが含まれていた場合には、酒気帯び運転として刑事罰の対象とされます。
酒気帯び運転の罪の法定刑は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています(道路交通法117条の2の2第3号)。
酒気帯び運転の罪の場合、初めて刑事罰を受けるような場合であれば、略式起訴という簡単な手続きにより罰金刑となることが多いです。
ここから先は、Aさんが罰金30万円の刑となったことを前提として解説していきます。

帰化申請の要件

他の在留資格と異なり、帰化については国籍法に定めがあります。
国籍法第4条2項により、帰化をするためには法務大臣の許可が必要とされていますが、その許可をするための条件は国籍法5条から9条に定めがあります。

①一般帰化
国籍法5条に定めている帰化のための条件は
一 引き続き五年以上日本に住所を有すること。
二 十八歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
三 素行が善良であること。
四 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。
五 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
六 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。
です。ただ、この条文は「次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。」とされていますので、これら6項の条件をすべて満たせば帰化ができるというものではなく、
反対にこれら6項の中に該当するものがあれば帰化をすることができないと考えることになります。

②簡易帰化
国籍法5条には、より日本との結びつきが強い関係の者について、5条より簡易な条件での帰化を認めています。

次の各号の一に該当する外国人で現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が前条第一項第一号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
一 日本国民であつた者の子(養子を除く。)で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有するもの
二 日本で生まれた者で引き続き三年以上日本に住所若しくは居所を有し、又はその父若しくは母(養父母を除く。)が日本で生まれたもの
三 引き続き十年以上日本に居所を有する者

この場合には
ア 現に日本に住所を有し
イ 1~3号のいずれかの要件を満たす場合
には①の1号の要件「引き続き5年以上日本に住所があること」という部分を満たさない場合でも、帰化を認めるものとなります。ただ、アとイの要件を満たせば直ちに帰化が認められるというものではないことに注意が必要です。

③日本人の配偶者の帰化
日本人の配偶者の場合にも、一部条件が緩和されています(国籍法7条)

日本国民の配偶者たる外国人で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有し、かつ、現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号及び第二号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。日本国民の配偶者たる外国人で婚姻の日から三年を経過し、かつ、引き続き一年以上日本に住所を有するものについても、同様とする。

この場合の要件は
ア 日本国民の配偶者であること
イ 引き続き3年以上日本に住所又は居所があること
ウ 現に日本に住所があること
エ 5条3~6号の条件を満たすこと
若しくは
ア 日本国民と婚姻の日から3年が経過していること
イ 引き続き1年以上日本に住所を有すること
ウ 5条3~6号の条件を満たすこと
となります。

交通前科と帰化の関係

Aさんは日本人の配偶者ですので、婚姻期間や滞在年数によっては国籍法7条による帰化が考えられます。
今回の場合、Aさんには交通前科がありますから、「素行が善良であること」ということの条件を満たすかどうかが問題となります。
ところで、永住許可を含めた在留資格についての手続きは、出入国在留管理庁へ申請を行います。
しかし、帰化の申請は、法務局へ申請することとなっています。
いずれも法務省に属する組織ではあるのですが、形式上は別の役所ということになります。帰化の手続きに関する法務省の案内はこちらです。
そのため、出入国在留管理庁の指針をそのまま法務局が採用するとは限りませんが、同庁のガイドラインは帰化申請においても参考になると思われます。
在留期間の更新の際に問題となる「素行が善良であること」についての考え方としては「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」との審査要領が定められています。
これを参考にすれば、道路交通法違反による罰金前科については、素行善良の要件の際に大きな問題とはならないと考えられます。
ただし、最初にも述べた通り、帰化申請は「全条件を満たすと帰化ができる」というものではなく「全条件を満たさなければ帰化できない→全条件を満たすときに帰化を許可するかは法務大臣の裁量である」
という考え方を採用していますから、罰金前科が全く否定的な評価を受けないとは限りません。
ですので、帰化申請の際には、前科についての顛末の説明や、反省の態度や再発防止策を記載した文書を提出したほうがよいでしょう。

交通事故や交通違反についてお困りの方,前科が理由で帰化やビザの手続きについてご不安なことがある方は,一度ご相談ください。

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密航で日本に来たことが発覚するとどうなる?不法入国での逮捕,強制送還はどうなるのか

2023-12-13

事例

以下の事例はフィクションです。
外国人のAさんは、密航によって日本に来ました。
日本で生活していく中でAさんは、日本人と恋をして結婚し、2人の間には子どもが生まれました。
日本でできた家族と一緒に暮らしてきたAさんでしたが、ある日、Aさんと同じように日本に密航をしてきた同郷の知人が、不法滞在で逮捕されたらしいと、風の噂で聞きました。
Aさんは、自分も不法滞在が発覚して逮捕・収容され、本国へ強制送還されるのではと不安で、眠れない日々が続いています。

不法入国・不法上陸と退去強制

不法滞在という言葉がありますが、この言葉には、適法に日本に入国・上陸した後、在留資格の期限が過ぎても日本に滞在し続ける不法残留(オーバーステイ)と、密航等、日本への入国・上陸自体が違法である不法入国・不法上陸の外国人の滞在が含まれます。
オーバーステイ、不法入国・不法上陸といった事情で不法滞在中の外国人の方は、退去強制の対象となります。

不法入国・不法上陸発覚前のお悩みについて

Aさんのように、不法入国・不法上陸がまだ入管や警察に発覚していない外国人の方は
①発覚したら逮捕されるのか
②もう日本に残ることはできないのか
③出国までずっと入管に収容されるのか
④不法入国・不法上陸の刑罰はどうなるのか
といったことでお悩みかと思います。
以下、順に見ていきましょう。

①発覚したら逮捕されるのか

逮捕、収容、退去強制といったことが怖くて出頭をせずに日々を過ごしていたところ、職務質問や、同じく不法滞在をしている知人の逮捕等のきっかけで不法滞在が警察に発覚した場合は、逮捕されることが多いです。

不法入国,不法滞在についてはこちらでも解説をしています。

うっかりオーバーステイ,どうしたらいい?入管に出頭すべき?逮捕されてしまう可能性は?

②もう日本に残ることはできないのか

不法入国・不法上陸は退去強制事由にあたりますので、それでも日本に残るための手段は、在留特別許可を受けることのみになります。
在留特別許可は、基本的に簡単に得られるものではありません。
また、一般的に、来日の入口が適法であるオーバーステイに比べて、来日の入口から違法である不法入国・不法上陸の方が、在留特別許可の判断にあたってマイナスにはたらくことが多いです。
もっとも、Aさんのような、日本人の配偶者がいて、子どももいるという事情は、在留特別許可の判断にあたってプラスになります。
他にも、違反の悪質性、日本での在留期間、婚姻期間、子どもの年齢や日本での養育を必要とする事情、退去強制歴はないか、日本での行状等、様々な要素が絡むので一概には言えませんが、不法入国・不法上陸の場合でも、在留特別許可が得られるケースはあります。

在留特別許可の判断についてはガイドラインが策定されており,判断の参考になります。

不法入国・不法上陸により日本に滞在している方は、いつまで経っても不安定な地位は解消されないままなので、入管に出頭し、真摯な態度を示した上で在留特別許可を得るための努力をするということも検討されてはいかがでしょうか。
在留特別許可が得られる見込みについては、前述のとおり様々な事情が絡む問題なので、おひとりで悩まずに、まずは専門家である弁護士等に相談することをおすすめします。

③出国までずっと入管に収容されるのか

不法入国・不法上陸のような退去強制事由にあたると判断されると、多くの場合は、入管に収容されることになります。
もっとも、仮放免の許可を得られれば、収容を解かれた状態で手続きが進むことになります。
仮放免の許可を得るためには、仮放免を必要としており、かつ手続きの進行上認めても差支えがないという事情をしっかりと伝えなければいけないので、弁護士に相談することをおすすめします。

④不法入国・不法上陸の刑罰はどうなるのか

これも事情によるので一概には言えませんが、懲役刑については、執行猶予が付いて刑務所には入らずにすむケースが多いです。
刑罰についてもご不安であれば、弁護士に相談しましょう。

おわりに

不法入国・不法上陸により日本に滞在している外国人の方は、いつまで経っても終わらないお悩みをそのままにしておくより、出頭して在留特別許可を得るという対応等について、まずは弁護士等の専門家にご相談ください。

うっかりオーバーステイ,どうしたらいい?入管に出頭すべき?逮捕されてしまう可能性は?

2023-11-22

事例

(フィクションです)

Aさんは、技能の在留資格(いわゆる就労ビザの中の1つ)で来日し、調理人として日本のお店で働いてきました。

在留期間の終わりが迫る中、Aさんは日々のお店での業務が忙しく、在留資格の更新手続きを後回しにしていたところ、うっかり在留期間を過ぎることになってしまいました。

後で在留期間が過ぎてしまったことに気付いたAさんは、入管に出頭すれば、そのまま拘束されて本国へ退去強制させられてしまうのではないかと怖くなり、誰にも相談できないまま今に至ります。

まだこのことは入管や警察に発覚していませんが、Aさんの不安は日々大きくなっています。

オーバーステイ(不法残留)とは

オーバーステイとは、在留期間を過ぎて在留資格が無くなってしまった外国人の方が、その状態のまま日本に在留し続けることをいいます。

法律用語的には「不法残留」といい、入管法に違反しているということになります。不法残留によって逮捕、起訴されてしまうと法律上、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が課されます。

オーバーステイは、退去強制の対象となります。

オーバーステイ発覚前のお悩みについて

オーバーステイ状態がまだ入管や警察には発覚していないという外国人の方は

  • 入管に出頭すべきか
  • 発覚したらすぐに逮捕されるのか
  • もう日本に残ることはできないのか
  • 出国までずっと入管に収容されるのか
  • オーバーステイの刑罰はどうなるのか

といったことでお悩みかと思います。

以下、順に見ていきましょう。

関連記事はこちら

オーバーステイで入管へ出頭,その場で逮捕されるのか?

入管に出頭すべきか

オーバーステイ状態になってからは、時間が経てば経つほど状況は悪化し、出頭をしないままでオーバーステイが発覚すれば、身体拘束、強制的な送還、重い刑罰といったリスクが高まります。

手遅れの事態にならないよう、早く弁護士等の専門家に相談し、出頭も含め、適切な対応を取れるようにしましょう。

発覚したらすぐに逮捕されるのか

出頭をせずに日々を過ごしていたところ、職務質問や交通違反の時の手続等のきっかけでオーバーステイが警察に発覚した場合は、逮捕されることが多いです。
入管に出頭した場合は、入管が警察へ通報すれば逮捕される可能性がありますが、オーバーステイの期間が短かったり、その他の事情次第では、通報されないまま入管での手続きを進めることになることもあります。

「入管への出頭≠警察での逮捕」ですから,もしも日本での在留を希望する場合には早めに手を打たなければいけません。

もう日本に残ることはできないのか

在留期間の最後の日から2か月以内であれば、在留資格更新の「特別受理」といって、更新を申請できて許可されることがあります。

特別受理が認められるのは、病気や怪我などのやむを得ない事情で在留期間中に更新手続きを行えなかった場合が典型ですが、Aさんのようにうっかり在留期間を過ぎてしまった場合でも、他の事情次第で認めれらる余地があります。

2か月を過ぎてしまっていたり、事情により特別受理が認められないのであれば、オーバーステイの方が日本に残る手段は、在留特別許可を受けることのみになります。

在留特別許可は、基本的に簡単に得られるものではありません。

もっとも、Aさんのように、うっかり在留期間を過ぎただけで他には退去強制にあたることはしていない方の場合は、日本で長期間生活している、日本に家族がいるなどの事情を考慮して在留特別許可を得られる可能性があります。

オーバーステイを放置して時間が経てば経つほど、隠れながらあえて残留し続けていたと見られ、在留特別許可の判断は厳しくなっていきますので、早く弁護士等の専門家に相談し、対応しましょう。

出国までずっと入管に収容されるのか

オーバーステイのような退去強制事由にあたると判断されると、手続き上,全ての事件で入管に収容されることになります。

これを「全件収容主義」といい,入管当局は基本的に「退去強制事由がある事件については全ての事件で収容のための手続きをとる」としているのです。

ただ,入管に収容する手続きが取られてしまっても,例外的に釈放する手続きが設けられています。

Aさんのようにオーバーステイ以外には退去強制にあたることをしていない方が、出国の意思を持って入管に出頭した場合、オーバーステイが初めてであること、日本で一定の犯罪により刑を課されていないこと、パスポート、航空券の用意があることなどの条件をみたしていれば、出国命令制度によって、収容されずに簡単な手続きで出国することができます。

出国命令制度を使えれば、再度来日できるようになるまでの上陸拒否の期間は1年間となり、退去強制手続きの場合よりも早く再来日できるので、在留特別許可を得ることが厳しい場合は、出頭して出国命令制度を利用することも選択肢として考えましょう。

出国命令制度についてはこちらに法務省の説明があります

また、収容中に、仮放免の許可を得られれば、収容を解かれた状態で手続きが進むことになります。

仮放免の許可を得るためには、仮放免を必要としており、かつ手続きの進行上認めても差支えがないという事情をしっかりと伝えなければいけないので、弁護士に相談することをおすすめします。

オーバーステイの刑罰はどうなるのか

オーパーステイの期間が短く、そうなった理由や行状が悪くなければ、不起訴となることもあります。

逆に、オーバーステイの期間が長かったり、そうなった理由や行状が悪ければ悪いほど、罰金、執行猶予と、刑罰は重くなっていきます。

【まとめ】

以上のとおり、オーバーステイがまだ発覚していない外国人の方は、そのまま放置していても状況は悪化していくだけです。

  • 日本に残り続けたい
  • 入管での収容を避けたい

という方は,速やかに弁護士等の専門家に相談し、出頭を含めた適切な対応をとっていくことをおすすめします。

強制送還されたことがあっても再入国はできる?上陸特別許可の解説

2023-11-06

「上陸特別許可」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が紹介します。

「上陸特別許可」とは、一般的には入国拒否期間中であるにもかかわらず、日本への入国が認められる許可のことをいいます。

「上陸特別許可」は、いわゆる入管法第12条に定められています。

上陸拒否期間中は原則として日本に入国することはできませんが、当該期間が経過したことにより必ず日本に入国できるというわけではありません。

上陸拒否期間経過後は「上陸拒否期間中のため」という理由により日本への入国が拒否されることはありませんが、他の別の理由で拒否される可能性はあります。

つまり、上陸拒否期間が経過することと、「日本人の配偶者等」などの在留資格が与えられることは全くの別の問題となります。

退去強制された外国人が過去に日本で法律違反を繰り返している場合などには、日本に正式な配偶者と実子がいても全くビザが許可されない事もあります。

あくまでも、過去の滞在状況と今回の呼び寄せる理由とを比べて総合的に判断されることになりますので、形式的に上陸拒否期間が経過したことだけをもって在留資格が認められるというわけではないことに注意が必要です。

また、一度退去強制されてからどれくらいの期間が経過すれば上陸特別許可が認められるかについては一概に何年という基準はありません。

退去強制事由によっても異なりますが、一般的には退去強制されてから3~4年程度経過した場合に許可されるケースが多いようです。

ただし、「上陸特別許可」は「在留特別許可」と同様に正式に認められた申請ではなく、日本への入国に際しても相当の理由が必要となるため、誰に対しても許可がおりるわけではなく、何度申請しても不許可となる可能性もあります。

「上陸特別許可」を申請する外国人を取り巻く環境などにより異なるので、一概に退去強制から何年経過すれば入国ができるということは出来ません。

そこで、事前に在留資格認定証明書交付申請を行い、あらかじめ上陸拒否者であることを前提とした審査を経る必要があります。

上記のように、「上陸特別許可」は正式に認められた申請ではないことから、どのような条件であれば認められるかが非常に難しいものになります。

「上陸特別許可」についてお困りの方はお気軽にお問い合わせください。

強制送還の危機!知っておくべき手続きと弁護士への相談方法

2023-10-31

強制送還とは、日本に滞在する外国人が一定の違法行為をした場合、日本から強制的に送り返される手続きです。

この記事は、強制送還の危機に直面している外国人、特に留学生や労働者、その家族や関係者に向けて書かれています。

強制送還は、留学や仕事、家庭生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

そのため、手続きの流れを理解し、適切な対応を取ることが非常に重要です。 この記事では、実際の事例を交えながら、強制送還手続きの詳細、弁護士に相談するメリットについて解説します。

事例

(事例はフィクションです)

Aさんは、日本の大学に留学中の20歳の男性です。

東京都内の電車で、Aさんは痴漢行為をしてしまいました。 この行為が目撃され、駅で警察によって現行犯逮捕されました。

Aさんが痴漢行為をした理由は、ストレスと好奇心からでした。逮捕後、警察の取り調べを受け、結果として罰金刑が科されました。

この事件により、Aさんは強制送還の対象となるのではないかと不安になりました。 留学生である彼にとって、この結果は日本での学業と将来に重大な影響を与えるものでした。 

この事例から、どんなに些細な違法行為でも、それが強制送還につながる可能性があることを理解することが重要です。 特に、留学生や労働者といった在留資格を持つ外国人は、一度強制送還の対象となると、その後の日本での生活が非常に困難になります。

強制送還手続きの全体像

強制送還手続きは、正式には「退去強制」と呼ばれ、以下の4つの主要な段階があります。

  1. 理由となる事実の発生: これにはオーバーステイ、不法就労、虚偽の申請、犯罪歴などが含まれます。
  2. 入国警備員による調査: 理由となる事実が発生した場合、入国管理局が調査を実施します。
  3. 入国審査官による審査: 調査の結果を基に、強制送還が適法かどうかの審査が行われます。
  4. 法務大臣による裁決: 審査結果に不服がある場合、口頭審理と法務大臣の裁決が行われます。

強制送還の理由になる事実は、一定の入管法違反や刑事事件で有罪判決を受けた場合などがあります。 特に、犯罪で有罪判決を受けた場合、その内容によっては強制送還される可能性が高くなります。

入国警備員による調査では、具体的な違反事実とその証拠が確認されます。 この段階で事実を争う場合、証拠を提出する必要があります。

入国審査官による審査は、調査結果を基に行われ、審査が不服であれば口頭審理が続きます。 最終的には法務大臣の裁決によって、強制送還をするか、在留特別許可をするかが決定されます。

この手続きは複雑であり、専門的な知識が必要です。 そのため、弁護士のアドバイスが非常に重要となります。

弁護士に相談することのメリット

強制送還手続きは非常に複雑で、専門的な知識が必要です。 そのため、弁護士に相談することには以下のようなメリットがあります。

  1. 専門的なアドバイス: 弁護士は入管法や刑法に精通しているため、具体的なケースに最適なアドバイスを提供できます。
  2. 手続きのサポート: 強制送還手続きには多くの書類や手続きが必要です。弁護士はこれらのプロセスをスムーズに進めることができます。
  3. 口頭審理での代理: 弁護士は口頭審理での代理人としても活動でき、より有利な状況を作ることが可能です。
  4. 在留特別許可の申請: 強制送還が確定した場合でも、在留特別許可の申請が可能です。弁護士はこの申請に必要な書類の作成や手続きをサポートします。
  5. 心のサポート: 強制送還手続きは精神的にも大きな負担となります。弁護士はそのような時に心のサポートも提供してくれます。

弁護士に相談することで、強制送還手続きをよりスムーズに、そして確実に進めることができます。 特に、強制送還が確定すると日本での生活が非常に困難になるため、早めの相談が推奨されます。

Aさんの事例の場合,「痴漢行為をしてしまった」ということですので,各都道府県に定められている迷惑行為防止条例違反か,不同意わいせつ罪(刑法176条)として処分を受ける可能性が高くあります。このケースで強制送還となるリスクが生じるのは

  • 1年を超える実刑判決を受けてしまった場合
  • 実刑判決にならなかったとしても,その後のビザの更新や変更が認められず不法滞在(オーバーステイ)となってしまった場合

になります。

Aさんのように痴漢で逮捕されてしまったという場合,まずは1年を超える実刑になってしまうリスクに対応しなければなりません。

罰金刑に処せられた場合,その後のビザの更新,変更の手続きにおいて,申請が許可されないという可能性も十分にあり得ます。そのため,刑事事件においても出来る限り軽微な処分を得ることが非常に重要です。

まとめ

この記事では、強制送還手続きとその法的側面について詳しく解説しました。 特に、留学生のAさんが痴漢で逮捕された事例を通じて、強制送還のリスクとその手続きについて具体的に説明しました。

また、強制送還手続きが進む各段階、入国警備員による調査から法務大臣による最終裁決までのプロセスを解説しました。 このような複雑な手続きを理解し、適切に対応するためには、専門的な知識と経験が必要です。

弁護士は法的問題を解決するための重要なパートナーです。早めの相談と適切な対応が、強制送還という厳しい結果を回避、またはその影響を最小限に抑える鍵となります。

強制送還は、その対象となる外国人にとって、人生に大きな影響を与える可能性があります。ですから、この記事が強制送還手続きについての理解を深める一助となれば幸いです。

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