必ず強制送還になってしまうのか?裁決の通知後の不服申し立て手段

事例はフィクションです。

Aさんは外国籍(定住者,1年)でしたが,日本で大麻取締法違反の罪で逮捕され,有罪判決の言い渡しを受けてしまいます。Aさんには交際相手がおり,結婚を見据えていたのですが,結婚に向けた準備をしているうちにAさんに対して退去強制令書が発付されてしまい,異議もすべて却下されてしまいました。

AさんとAさんの恋人は,なんとか日本に残る手段がないか弁護士に相談することにしました。

強制送還の手続

Aさんの事例のような薬物事案での強制送還(退去強制)の手続は,刑事裁判が確定した後,出入国管理庁にて行われます。

まずは入国警備官の調査から始まり,入国審査官による違反認定,特別審査官による口頭審理と続いていきます。Aさんのように,何らかの事情から,在留特別許可を受けて日本に留まり続けたいと考える方は,口頭審理の後,法務大臣に対する異議の申出を行う必要があります。

強制送還の手続き上,この異議の申出をしない限りは在留特別許可が出ることはありません。また,「在留特別許可の申請」という個別の手続き自体もありません。よく勘違いされるところですが,「在留特別許可の申請」てはなく,あくまで「異議の申出」という手続きになるのです。

この「異議の申出」を受けて,法務大臣または委任を受けた各地方の出入国管理庁の長が,在留特別許可を行うかどうかについて裁決を行い,その結果を外国人本人に対して通知を行います。

入国管理庁としての手続は,この,「裁決の通知」をもって終了することになります。これ以降,さらに異議の申出をすることはできません。法律上,そのような手続きがないからです。

在留特別許可が認められなかった場合には,退去強制令書という正式書面が発付され,実際の強制送還が実施されることになるのです。

強制送還の手続きについてはこちらでも解説をしています。また,法務省HPでも解説がなされています。

退去強制(強制送還)について

裁決の通知があったらおしまいか?

裁決の通知の結果,在留特別許可をしないとなった後,さらに争うための手続は2通りです。

1つは行政訴訟になります。行政訴訟は,国や地方自治体が行った処分を取り消すように求めるという裁判です。

在留特別許可の関係では,「在留特別許可をしなかった裁決」を取り消すように裁判で求めるのです。

仮に裁判の結果,裁決が取り消されることになれば出入国管理庁(法務大臣)はもう一度裁決を行って通知をする,ということになりますし,裁判所が裁決を取り消したということであれば,同じ内容の処分を行うことはできないためほとんどの場合で在留特別許可が認められることになります。

在留特別許可をしない裁決に対して裁判を起こす場合には,裁決の通知を受け取った日から6か月以内に提訴しなければなりません。6か月を過ぎて取消の裁判を申し立てても,「出訴期間(裁判を起こすことができる期間)を過ぎている」としてすぐに却下されてしまいますから,気をつけましょう。

2つ目は再審情願になります。これは裁判手続とは違い,出入国管理庁に対して「もう一回判断を見直してほしい」とお願いをするものです。

法律上このような手続きは認められていませんが,実際の窓口では再審情願を受け付けています。ただし,再審情願をしたからといって,それに対する出入国管理庁からの返事があるとは限りません。つまり,「判断をもう一回見直してください」と申し立てても,そのまま無視され続けるということもあり得るのです。

再審情願が認められる可能性があるのは,例えば,口頭審理の時点で生じていた事情のうち,「これを伝えていれば在留特別許可が認められたはずだった」という事情について,何らかの理由で当初は伝えられなかった(もしくはうまく伝わっていなかった)ため,再度その点を伝えたい,という場合です。

日本での在留を希望する場合,口頭審理もしくはそれ以前の調査の段階できちんと準備,対応をすることが望ましいです。

ですが,既に裁決の通知を受けてしまったという状態で弁護士に相談するという方もとても多くいます。

裁決の通知の後ではやれることが限られてしまいますので,日本に残り続けたいという方や入管から呼び出しを受けているという方は,出来る限り早い段階から専門家に相談することをおすすめします。

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