在留特別許可を争った裁判例 東京地裁判決その7

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,平成29年6月16日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

この事例は,

定住者として来日した外国籍の男性Xさんが,同じ国籍の女性と日本で結婚し,永住許可を受けた後で,日本で刑事事件(殺人未遂)を起こしてしまい懲役8年の実刑判決を受けていたため,退去強制(強制送還)令書が発布されたので,その取り消しを求めて裁判を起こしたというものです。

外国人の方が有罪判決を受けた後に在留特別許可を求めて裁判を起こしたという事例については,前回も紹介したものがありますので,併せてご覧下さい。

在留特別許可が認められなかった例1

在留特別許可が認められなかった例2

在留特別許可が認められなかった例3

事案の概要

Xさんは平成9年に定住者として来日し,平成13年に日本国内で外国人の女性と結婚しました。結婚後もXさんは定住者として日本に在留し続け,平成19年に永住許可を受けました。

Xさんは平成21年に殺人未遂罪によって懲役8年の有罪の判決を受け,平成22年から平成28年に仮釈放されるまでの間,刑務所で受刑することになりました。

受刑期間中に,今度は入管がXさんに対する退去強制(強制送還)の手続きを開始し,Xさんは,刑務所から仮釈放されると同時に入管の収容場へ移送されました。

Xさんは

・刑務所でまじめに服役して本来の刑期よりも1年早く仮釈放されたこと

・Xさんは母親が日本国籍の日系人で永住許可を受けて日本に定着していたこと

・日本で結婚した妻や妻の連れ子がいるため在留特別許可が認められないと家族が離れ離れになること

を裁判で主張し,在留特別許可が認められるべき事案であるとして争いました。

裁判所で重要になったポイント,裁判所の判断

まず裁判所は,Xさんが起こしてしまった刑事事件がどのくらい悪質なものであるかについて判断をしました。

Xさんの殺人未遂事件は,被害者と金銭トラブルになり,20cm以上の長さのある刃物で,お腹や首を突き刺したという事件でした。被害者は全治3か月のけがを負うにとどまり命を落とすことはありませんでしたが,少しでも刃物の位置がずれていれば被害者がなくなっていたかもしれない事件であり,裁判所も,Xさんが起こしてしまった事件は極めて重大で悪質なものであると認めました。そのため,重大で悪質な刑事事件を起こしていることは,Xさんの在留特別許可を認めるかどうかの判断の上では大きなマイナスポイントとなりました。

また,Xさんが日本に定着しており,永住許可を受けていたことがあるとしても,この様な殺人未遂事件を起こしたXさんの在留を引き続き認めることは日本の利益に適さないと判断しています。

加えて,裁判所は,Xさんの妻や連れ子との関係を見ても,Xさんも妻も同じ外国籍だから日本以外の国で結婚生活を送ることもできるし,連れ子も既に成人していてXさんの扶養の対象からも外れていたことから,Xさんが強制送還されてしまったとしても不利益は大きくないと判断しました。

結論として,裁判所はXさんの訴えを認めず,退去強制(強制送還)令書を発布した入管の処分は適法であると判断しました。

コメント(在留特別許可が認められなかった理由)

永住許可を受けていた人が刑務所に服役することになっても,一度は在留特別許可が認められる事件もあります。

服役中でも在留特別許可が認められていた事例

例1

例2

これらの事件については,窃盗罪や盗品等譲受罪などの比較的法定刑が軽い事件であったことや,執行猶予期間中であったために実刑判決を受けたという事件でした。

「永住許可を受けていれば服役しても大丈夫」というわけではなく,殺人未遂事件のように重大な犯罪を起こして実刑判決を受ける場合には,在留特別許可が認められないということもあります。

また,この裁判例でも表れているように,刑事事件で認定された事実がその後の在留特別許可の判断にも影響してくることになります。

そのため,刑事事件を起こしてしまったため強制送還されてしまうリスクが生じてきた場合には,刑事弁護の段階から入管の手続きを見据えた,一貫した弁護活動を取る必要があります。

刑事事件が自分の在留資格に影響するかもしれないという不安のある方や,在留特別許可についてご相談のある方も,一度お問い合わせください。

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