在留特別許可を争った裁判事例 東京地裁判決その8

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,平成29年6月16日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

先日解説した裁判例と同じ日に,判決が出された事件(内容は全く別々)ですが,こちらは在留特別許可を認める方向での判断となりました。

この事例は,

「定住者」の在留資格で来日した外国籍の男性Xさんが,日本で傷害事件を起こしてしまい懲役2年6月執行猶予5年の有罪判決を受けたため,在留期間の更新申請が不許可となってしまい,オーバーステイになって,退去強制(強制送還)令書が発布されたので,その取り消しと在留特別許可を求めて裁判を起こしたというものです。

外国人の方が有罪判決を受けた後に在留特別許可を求めて裁判を起こしたという事例については,前回も紹介したものがありますので,併せてご覧下さい。

在留特別許可が認められなかった例1

在留特別許可が認められなかった例2

在留特別許可が認められなかった例3

在留特別許可が認められなかった例4

事案の概要

Xさんは過去に日本でオーバーステイとなり強制送還された経歴がありましたが,平成9年に在留資格を「定住者」として来日し在留期間を複数回更新していました。

Xさんには外国籍の配偶者がおり,Xさんには2人の実子がいました。

平成17年にXさんは業法の違反によって罰金30万円の略式命令を受け,当時の配偶者とは離婚しました。

その後,Xさんは当時の配偶者とは離婚し,在留資格を「投資・経営」に変更しました。

平成25年,Xさんは友達数人と飲食していた際に,飲食店の店員と口論になって傷害事件を起こしてしまったことで逮捕されてしまいます。

この逮捕を受けて,Xさんと元配偶者が再婚し,Xさんは在留資格を「定住者」へ最後変更しました。その後,Xさんは傷害罪について,懲役2年6月執行猶予5年の有罪判決を受けました。

平成26年,Xさんは東京入管に対して「定住者」の在留資格の更新を申請しましたが,在留の状況が良くないとして不許可となり,その他の在留資格も認められなかったため,Xさんはオーバーステイの状態となってしまいます。東京入管は,Xさんに対して退去強制の手続きを進めましたが,Xさんはこれに対して異議の申し立てをしました。しかし,いずれの異議の申立ても認められず,東京入管はXさんに対して退去強制令書を発布しました。

原告であるXさん

・日本国内で真摯な家族関係,親子関係を形成していること

・日本に長く定着していること

・強制送還の理由となる事情はいずれも悪質なものではないこと

を主張して,在留特別許可が認められるべきであると争いました。

これに対して国側は,

・Xさんには,不法残留,傷害罪での執行猶予,入管への届け出の違反(住所変更後直ちには届け出ていなかった)があること

・日本での結婚生活は在留資格を得るためのもので保護する必要性が低いこと

・親子関係についても,離婚後はXさんと子供との関係が途絶してしまっていること

から,在留特別許可が認められる事案ではないと主張しました。

裁判所で重要になったポイント,裁判所の判断

まず裁判所はXさんが初めて来日してから,訴訟を起こすまでの日本での行動について,丁寧に事実を認定していきました。そのうえで,①不法残留や傷害事件,住所の届け出をしなかったこと等の悪質さや,②家族間の関係について判断をしていきました。

裁判所は,

不法残留については,Xさんは在留期間を更新しようとして認められず,更新が認められなかったことについて裁判で争うために日本での在留を続けたのだから,不法残留状態になったことにもそれなりに理由があると判断し,

傷害事件については,事件そのものについては確かに悪質だったと言えるが,被害者に対して示談をした事,裁判の後もXさんは自分自身の考え方を見つめなおして,より日本のルールを守るという意識が強くなっていると判断し,

住所の届け出については,離婚後引越しをした後14日以内に住所の届け出をしていなかった点は良くないが,実際にその間に入管がXさんと連絡が取れなかったり呼び出しをできなかったりしたという事情はなかったので,実害はなかった

と判断しました。

総じてみると①の点について,強制送還する事情の悪質さは大きくないと判断したとも言えます。

そして,Xさんの家族関係,特に夫婦の関係についても,一度は離婚していたものの,Xさんが傷害罪で逮捕されたことをきっかけに再び家族としての形を取り戻し,家族の目から見ても,Xさんは「家族優先の価値観を持つようになった」とも評価されるようになっていたと判断し,Xさんと家族との関係については,むしろ離婚前の関係よりも,より強い信頼関係で結ばれているとしました。国側は,Xさんは在留資格を得るために再婚したのであって真摯な婚姻ではないと主張していましたが,裁判所は国の主張を認めませんでした。

結論として,裁判所はXさんの訴えを認めて,退去強制(強制送還)令書を発布した入管の判断は,

傷害事件を起こしてしまった後のXさんの反省や粗暴な性格の改善の点を適切に評価しておらず,

家族関係についても,本当は真摯な婚姻関係だったのに在留資格を得るためにすぎないと判断した点に誤りがある

として,違法であると判断しました。

コメント(在留特別許可が認められた理由)

判決文から見ると,この事件では,特にXさんが,傷害事件を起こしてしまった後に深く反省して自分の生き方まで変えようとしていた点が,裁判所にとって最も印象強く映ったようです。

事件を起こしてしまっても深く反省していれば在留特別許可が認められるというわけではありませんが,刑事事件を起こしてしまった根本的な原因について振り返って考えて,その後の生活の態度を改めていくということは,素行の善良性として判断される事情です。刑事事件を起こしてしまった点は素行の善良性の判断の中では大きなマイナスポイントですが,その後の状況の変化によって少しでも挽回することで,この裁判例のように在留特別許可を認める方向へつながります

外国人の方の刑事事件で認定された事実はその後の在留特別許可の判断にも影響してくることになります。

そのため,刑事事件を起こしてしまったため強制送還されてしまうリスクが生じてきた場合には,刑事弁護の段階から入管の手続きを見据えた,一貫した弁護活動を取る必要があります。

刑事事件が自分の在留資格に影響するかもしれないという不安のある方や,在留特別許可についてご相談のある方も,一度お問い合わせください。

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

03-5989-0843電話番号リンク 問い合わせバナー