在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所判決その4

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,令和元年11月28日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

この事例は,定住者として来日した外国籍の男性Xさんが,覚せい剤取締法違反の罪で服役した後,退去強制手続きが始まったため在留特別許可を求めたものの,在留特別不許可となったため裁判を起こしたところ,裁判所は法務大臣の判断を肯定した,というものです。

この事例は,外国籍の方が実刑の有罪判決を受けた後で在留特別許可を求めたという点で,既に紹介している東京地方裁判所令和元12年月19日判決の事案と似ている部分もありますので,併せてご参照ください。

事案の概要

Xさんは,1986年に外国で生まれ,1997年(平成9年,Xさんは当時11歳)に「定住者」の在留資格で来日しました。その後,Xさんは3回在留期間の更新許可を受けており,2004年(平成16年,Xさんは当時18歳)に永住許可を受けました。

Xさんの母親の両親は日本人で,いわゆる日系3世の外国人の方でした。

来日してから,Xさんは日本で生活しており,日本で4人の女性と知り合い,それぞれの女性との間で一人ずつ子供をもうけ,その子供たちに養育費を支払う等もしていました。

Xさんには日本での犯罪歴があり,2006年(平成18年)には無免許運転の事故によって執行猶予付きの判決,2014年(平成26年)には覚せい剤取締法違反によって執行猶予付きの有罪判決を受けていました。そして,Xさんに覚せい剤取締法違反によって有罪の判決が言い渡されたことで,退去強制(強制送還)に向けた調査が開始されました。

さらに,Xさんは再度,2017年(平成29年)に覚せい剤取締法違反によって実刑の有罪判決を受けて,刑務所で服役することになりました。Xさんに対しては,再度退去強制(強制送還)に向けた調査がなされ,Xさんが刑務所で服役していた2018年(平成30年)に退去強制令書が発布されました。

Xさんは,刑務所での服役が終わったと同時に,入管の施設に収容されましたが,退去強制(強制送還)の撤回と在留特別許可を求めて裁判を起こしました。

要約すると,

Xさんは,永住許可を受けていましたが,覚せい剤取締法違反2件(1度目については執行猶予付きの判決,2度目は実刑判決)によって強制送還されそうになったため,在留特別許可を求めたという裁判です。

 

裁判で重要となった要素,裁判所の判断

Xさんに対して在留特別許可をするかどうかの判断について,

①Xさんの日本での生活状況,

②日本でXさんの子供がいること,

③日本に住んでいるXさんの母親の体調がよくないこと,

④Xさんの日本への定着度,

⑤Xさんが国籍国で生活できるかどうか,という点が判断要素となりました。

これらについてそれぞれ,裁判所の判断を短くまとめてみます。

①について

Xさんの日本での犯罪歴のうち,特に覚せい剤取締法違反がXさんにとって不利に判断されました。

覚せい剤取締法違反については,いずれもやむを得ないと言えるような事情はなく,一度執行猶予付き判決を受けて更生する機会が与えられていたのに,執行猶予期間中に再び覚せい剤取締法違反をしたことが悪質と見られました。

また,薬物事件は「単に使用者に対して薬物中毒をもたらすにとどまらず,社会全般に対して深刻な問題を引き起こす」ものであってそのような罪を犯した人は日本にとって「好ましくない程度が特に強いものとして位置付け」られるとされました。

②について

Xさんの子供が日本にいたり,日本国籍を保有していたりすることは,Xさんに対して在留特別許可を与える一事情に過ぎないとされました。

そのうえで,Xさんとその子供とのかかわりは,離婚によって離縁していたり,服役によって同居していなかったり,そもそもXさんの子供であるかどうかについても疑問があるとされました。

③について

Xさんの母親は日本で永住許可を受けて生活しており,がんの治療を受けていました。

Xさんは母親の看病のために日本に残る必要があると主張していましたが,Xさんは20歳になってから母親とは別居していましたし,Xさんが逮捕,服役してからも母親はXさんの援助なく生活することができているため,Xさんの主張は認められないとしました。

④について

Xさんは11歳から22年間日本で生活していて,日本の小学校,中学校を卒業して日本で働き,永住許可を受ける等,日本で生活するための基本的な能力があるとも言えました。

しかし,①のように,Xさんには前科があり,日本の社会には適合できていないとされました。

⑤について

Xさんは国籍国での言語も習得していて,健康面からみても,本国で働いて生活することはできると判断されました。

以上のような①から⑤のような事情を考慮したところ,Xさんには在留特別許可を与えなかった判断には誤りがないとされました。

 

コメント

入管法50条1項は,永住許可をされている人(50条1項1号)に対して,在留特別許可を与えることが「できる」とされています。永住許可を受けていても,事情によっては在留特別許可が得られない場合もあるということです。

Xさんの場合,実刑判決を受けて服役していること,実刑判決の理由が覚せい剤取締法違反であること,覚せい剤取締法違反をしてしまった動機についてやむを得ないと言えるような事情がなかったことが,在留特別不許可の大きな理由になっているようにうかがわれます。

仮に,Xさんが1度だけ覚せい剤取締法違反を犯してしまったという場合や,実刑判決を受けたとしても薬物事件が理由ではなかった場合であれば,在留特別許可を受けられた可能性もあったと考えられます。Xさんは元々,11歳から日本に住んでいて,永住許可も受けていた方であるため,比較的日本への定着度は高く,在留特別許可は受けやすい方であったとも言えます。

覚せい剤取締法違反や麻薬及び向精神薬取締法違反のように,薬物事件は悪質な犯罪として扱われており,薬物事件にかかわっていたという事情は,入管手続きの中でも,非常に悪質なものとして扱われています。

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