日本に長く住んでいると,永住許可の申請ができるときたことがある方も多いのではないでしょうか。
日本の制度での「永住」というのは,在留資格(ビザ)の一種で,在留期限を定めないで将来的に日本で在留することを認める在留資格のことです。
今回は,永住申請をしたところ「社会保険料を払っていないから」という理由で永住許可が認められなかったケースの裁判例を紹介します。
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永住許可が認められる場合
永住の在留資格を取得するための条件は,次のようなものです。
- 素行の善良性
- 独立生計維持能力
- 日本国の利益に合うこと
この3つの条件のうち「3日本国の利益に合うこと」の判断については更にガイドラインが定められています。この中には,「罰金刑や懲役刑などを受けていないこと。納税義務など公的義務を履行していること。」とされていました。
裁判所で争われたポイント
ここで紹介するのは,平成19年7月17日に東京高等裁判所で言い渡された判決に関する事件です。
この事件では,日系二世として日本で「定住者」の在留資格により生活していたXさんが,「永住」の在留資格への資格変更申請をしたところ,入管が「Xさんに対して永住許可をしない」としました。
Xさんは「本来自分は永住許可が認められるはずだった」として,入管の処分の取消を求めて裁判を起こしましたが,一審の判決はXさんの主張を認めませんでした。
これに対してXさんがさらに控訴を申し立てたところ,控訴審で逆転の判決が言い渡されたという事件です。
一審の裁判所や入管(法務省)側は,
「XさんやXさんの家族は,日本で仕事をしているのに,社会保険料や雇用保険に加入していない。国民健康保険にしか加入していないから『日本の利益に合う』とは言えない」
としてXさんの永住を認めていませんでした。
しかし,控訴審では,東京高等裁判所は,
社会保険に加入する手続きや保険料を集める義務があるのは,雇っている側なのだから,従業員として働いてたXさんに落ち度はない
Xさん以外にも社会保険に加入していないで永住許可を受けている人もいる
として,一審判決を取り消しました。
東京高等裁判所は,すぐにXさんの永住許可を認めるというところまでは判断していません。
ですが,「永住許可をしない」という処分が取り消されているところから,入管としてはXさんに対しては永住許可をせざるを得ない状況になったと言えるでしょう。
永住許可申請の注意点
上記の様な裁判例が出ていますので,「厚生年金に加入していないということや雇用保険に加入してないということだけで永住許可がされない」ということはないでしょう。
ただし,永住許可の申請をする時に,納税義務については次のような注意点があります。
・日本で働いている間の所得税,住民税は納付していないと,永住が不許可になる
・健康保険料については納付していないと,永住が不許可になる可能性が高い
→納付できていない健康保険料,納付期限が過ぎてしまっているものについても,後払い(追納)出来る場合があります。
・国民年金保険料についても,納付できていないと永住が不許可になる可能性がある
→同じく追納することが出来ます。
このように,「所得税,住民税」,「国民健康保険料」,「国民年金保険料」については,未払いであっても自分で払うことが出来ます。
ただし,「厚生年金保険料」,「雇用保険料」は,雇っている側(事業主)が納付する義務を負うものになりますので,従業員が肩代わりすることはできませんし,これらを払っていないからといって,入管の手続きでデメリットがあるというものでもありません。