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「日本人の配偶者等」の人が交通事故をした場合,在留資格はどうなる?在留期間の更新は大丈夫?

2024-01-17

(事例はフィクションです)

日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周囲の景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんが在留期間の更新をする際にどのように影響するのか
以上の点について解説していきたいと思います。

過失運転致傷の刑事罰

Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には、危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度、②事故を起こした側の過失の程度、③被害者の側の過失の程度、④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。

  • ①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
  • ②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
  • ③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
  • ④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。

Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。

日本人の配偶者の在留資格について

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
 このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用、動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
今回Aさんは、過失運転致傷罪という罪を犯しています。処分がどのような者になるかについては⑴の通りです。
そこで、まずこの刑事処分がAさんにとって「退去強制事由」になるかどうかを見てみます。

Aさんは「日本人の配偶者」ですので、入管表別表第2に記載されている在留資格を有しています。この在留資格の場合には、「無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」(入管法24条4号リ)に該当する場合には、罪名関係なく退去強制を受ける事由となります。
今回のAさんの場合には、起訴猶予処分や罰金の処分となった場合にはこれに該当しません。また、この4号リで問題とされるのは、実刑、つまり刑務所に行かなければならないような判決だけですから、執行猶予付きの禁錮刑であればAさんにとっては退去強制事由には該当しないということになります。

次に、Aさんの罰金が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで言えるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。

この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、過失運転致傷は明示的に挙げられていません。
そのため、過失運転致傷罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性高い一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。だからといってこの事故のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。

「日本人の配偶者等」の在留資格における各種申請のための書類についてはこちらのページにまとめられていますのでご確認ください。

また,在留期間の延長についてはこちらのページでも解説していますので,併せてご覧下さい。

在留期間を延長する手続き

示談交渉は必要か

さて、先述の通り、過失運転致傷罪で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、怪我の程度がそれほど大きいものでなければ、検察官が最終的な刑事処分を決定してしまうより前に被害者の方と示談を行い、被害者の方からお許しいただければ
起訴猶予処分となる可能性があります。
ただ、任意保険や自賠責保険では、ここまでの示談交渉は行ってくれない可能性が極めて高いです。保険会社が行うのはあくまでも損害の賠償のみであり、被害者の方から許してもらうような示談交渉までは
話をしないことが通常です。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、交通事故の被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。もちろん交通事故の場合には相手方の連絡先などを警察官から
知らされる場合が多いですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で交通事故を起こしてしまった場合には、期間の更新を安全なものとするためにも、いち早く弁護士にご相談ください。

前科があると帰化申請の時に不利になるのか?道路交通法違反で罰金刑になった場合を解説

2023-12-20

道路交通法第65条1項により、何人も酒気を帯びて車両等を運転してはならないこととされています。この「酒気を帯びた」かどうかの判断は、呼気アルコール濃度によって行われ、呼気1リットル当たり0.15mg以上のアルコールが含まれていた場合には、酒気帯び運転として刑事罰の対象とされます。
酒気帯び運転の罪の法定刑は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています(道路交通法117条の2の2第3号)。
酒気帯び運転の罪の場合、初めて刑事罰を受けるような場合であれば、略式起訴という簡単な手続きにより罰金刑となることが多いです。
ここから先は、Aさんが罰金30万円の刑となったことを前提として解説していきます。

帰化申請の要件

他の在留資格と異なり、帰化については国籍法に定めがあります。
国籍法第4条2項により、帰化をするためには法務大臣の許可が必要とされていますが、その許可をするための条件は国籍法5条から9条に定めがあります。

①一般帰化
国籍法5条に定めている帰化のための条件は
一 引き続き五年以上日本に住所を有すること。
二 十八歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
三 素行が善良であること。
四 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。
五 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
六 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。
です。ただ、この条文は「次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。」とされていますので、これら6項の条件をすべて満たせば帰化ができるというものではなく、
反対にこれら6項の中に該当するものがあれば帰化をすることができないと考えることになります。

②簡易帰化
国籍法5条には、より日本との結びつきが強い関係の者について、5条より簡易な条件での帰化を認めています。

次の各号の一に該当する外国人で現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が前条第一項第一号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
一 日本国民であつた者の子(養子を除く。)で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有するもの
二 日本で生まれた者で引き続き三年以上日本に住所若しくは居所を有し、又はその父若しくは母(養父母を除く。)が日本で生まれたもの
三 引き続き十年以上日本に居所を有する者

この場合には
ア 現に日本に住所を有し
イ 1~3号のいずれかの要件を満たす場合
には①の1号の要件「引き続き5年以上日本に住所があること」という部分を満たさない場合でも、帰化を認めるものとなります。ただ、アとイの要件を満たせば直ちに帰化が認められるというものではないことに注意が必要です。

③日本人の配偶者の帰化
日本人の配偶者の場合にも、一部条件が緩和されています(国籍法7条)

日本国民の配偶者たる外国人で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有し、かつ、現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号及び第二号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。日本国民の配偶者たる外国人で婚姻の日から三年を経過し、かつ、引き続き一年以上日本に住所を有するものについても、同様とする。

この場合の要件は
ア 日本国民の配偶者であること
イ 引き続き3年以上日本に住所又は居所があること
ウ 現に日本に住所があること
エ 5条3~6号の条件を満たすこと
若しくは
ア 日本国民と婚姻の日から3年が経過していること
イ 引き続き1年以上日本に住所を有すること
ウ 5条3~6号の条件を満たすこと
となります。

交通前科と帰化の関係

Aさんは日本人の配偶者ですので、婚姻期間や滞在年数によっては国籍法7条による帰化が考えられます。
今回の場合、Aさんには交通前科がありますから、「素行が善良であること」ということの条件を満たすかどうかが問題となります。
ところで、永住許可を含めた在留資格についての手続きは、出入国在留管理庁へ申請を行います。
しかし、帰化の申請は、法務局へ申請することとなっています。
いずれも法務省に属する組織ではあるのですが、形式上は別の役所ということになります。帰化の手続きに関する法務省の案内はこちらです。
そのため、出入国在留管理庁の指針をそのまま法務局が採用するとは限りませんが、同庁のガイドラインは帰化申請においても参考になると思われます。
在留期間の更新の際に問題となる「素行が善良であること」についての考え方としては「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」との審査要領が定められています。
これを参考にすれば、道路交通法違反による罰金前科については、素行善良の要件の際に大きな問題とはならないと考えられます。
ただし、最初にも述べた通り、帰化申請は「全条件を満たすと帰化ができる」というものではなく「全条件を満たさなければ帰化できない→全条件を満たすときに帰化を許可するかは法務大臣の裁量である」
という考え方を採用していますから、罰金前科が全く否定的な評価を受けないとは限りません。
ですので、帰化申請の際には、前科についての顛末の説明や、反省の態度や再発防止策を記載した文書を提出したほうがよいでしょう。

交通事故や交通違反についてお困りの方,前科が理由で帰化やビザの手続きについてご不安なことがある方は,一度ご相談ください。

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法律相談についてはこちらからも受け付けています。

強制送還の法的手続きと対策 就労ビザと窃盗

2023-11-01

強制送還という言葉を聞いて、不安を感じる方は少なくないでしょう。
特に、日本で生活している外国人にとって、この手続きは命運を左右する可能性があります。
本記事では、強制送還手続きがどのようなものなのか、その法的背景と具体的な事例を通じて解説します。
「介護」の在留資格を持つAさんが窃盗罪で有罪判決を受けた場合、どのような法的手続きが待ち受けているのか、その詳細についても触れます。
この記事を通じて、強制送還手続きについての理解を深め、必要な対策を考える一助としていただければ幸いです。

事例紹介: 介護の在留資格を持つAさんが窃盗を犯した場合

Aさんは、日本で介護の在留資格を持っています。
しかし、ある日、スーパーマーケットで食料品を盗んでしまいました。
スーパーマーケットの防犯カメラによって、Aさんの行動は記録されており、その後、警察に逮捕されました。
この事件によって、Aさんは窃盗罪で起訴され、裁判で執行猶予付きの有罪判決を受けてしまいました。
結果として、Aさんは強制送還の対象となり、その在留資格も危うくなってしまいます。

法律解説

強制送還手続きは、正式には「退去強制」と呼ばれます。
この手続きは、主に4つの段階で進められます。

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ、不法就労、虚偽の申請、犯罪歴など)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

Aさんの場合、窃盗罪で執行猶予付きの有罪判決を受けたため、強制送還の対象となりました。

Aさんの「介護」のように、就労系の在留資格の場合、執行猶予付きの判決であっても有罪となってしまうと強制送還のリスクが生じてしまうのです。

入国管理局がこの事実を知ると、調査が始まります。
調査の結果は、入国審査官に引き継がれ、「強制送還をすることが適法かどうか」の審査が行われます。
審査の結果に不服がある場合、異議を申し出て口頭審理、法務大臣の裁決へと進む手続きがあります。

Aさんが今後も日本に在留し続けたいと望む場合には,在留特別許可を得なければならないのです。

弁護士に相談することのメリット

強制送還の手続きは複雑で、専門的な知識が必要です。
そのため、弁護士に相談することで、適切なアドバイスや対策が得られます。
異議申し立てや口頭審理などの法的手続きにおいて、弁護士のサポートは非常に有用です。
弁護士は入管法だけでなく、刑事事件にも精通している場合が多く、Aさんのような犯罪歴がある場合でも、最良の対策を提案してくれます。
さらに、弁護士に相談することで、精神的な安堵感も得られるでしょう。

特に、今回のAさんのように「裁判を受けた場合に強制送還になるリスクが高い人」の場合、逮捕された直後からビザについても専門性のある弁護士に相談しておく必要性が高いのです。

今回の事例の場合

Aさんが窃盗罪で有罪判決を受けた場合、強制送還の手続きが始まってしまいます。
まず、入国管理局がこの事実を知り、入国警備員による調査が行われます。
その後、入国審査官による審査があり、強制送還が決定される可能性があります。
このような状況で重要なのは、早期に弁護士に相談することです。
弁護士は、Aさんがどのような法的手続きを進め、どう対策を取るべきか具体的なアドバイスを提供できます。
特に、異議申し立てや口頭審理の手続きは、弁護士のサポートが不可欠です。

ポイントとなるのは

  • 逮捕された直後から専門の弁護士に相談すること
  • 裁判になる前に事件を終結させること
  • 入管の手続きの経験のある弁護士に相談すること

です。

まとめ

この記事では、強制送還手続きとその法的背景について解説しました。
特に、介護の在留資格を持つAさんが窃盗罪で有罪判決を受けた場合の事例を通じて、手続きの具体的な流れと対策について説明しました。
強制送還の手続きは複雑であり、専門的な知識と対策が必要です。
そのため、早期の弁護士相談が非常に重要であることを強調しました。
法的な問題に直面した場合、適切なアドバイスとサポートが得られるよう、専門家の協力を得ることが肝心です。

解決事例 在留特別許可(留学)が認められた事例

2023-06-18

当所の扱った事案について,在留特別許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。

事案・ご依頼の経緯

ご本人は外国籍の留学生で,1年半ほど前から留学生ビザで日本に滞在していました。
両親は母国在住で,両親の友人で日本に住んでいる家族が日本での身元保証人になっていました。
日本での留学中,ビザの更新期限が近づいていましたが,学校の友達から「2か月くらいは過ぎても普通に更新できるよ」と言っていたことを信じてしまい,軽く考え、また学会の発表などで忙しかったことから更新期限をすぎてしまいました。
精神的に不安定になったご本人が,SNSに自殺を仄めかす投稿をしたところ,それをみて心配した友人が警察に通報しました。ご本人の自宅に臨場した警察官が本人確認をしたところ,ご本人のビザが切れていることが発覚し,オーバーステイとして現行犯逮捕されてしまいます。

弁護活動

刑事事件については悪質性もなく、期間も短いということを検察官に主張したところ,10日勾留の後不起訴(起訴猶予)となりましたが,直ちに入管に引き渡されることとなりました。
引き渡し当日に入管から,「仮放免を考えているが、身元保証人が今日来れないようなので弁護士が身元保証人になってほしいという」依頼もあり,弁護士が入管に出向き,仮放免となった本人の身元を引き受けると共に更新等の申請に関する委任状を提出しました。
仮放免後,比較的過ぎにすぐに違反調査,違反審査が立て続けに行われたので,更新期限徒過の経緯を記した上申書,日本での身元保証人が今後の監督を約束している聴取書等の書類を取りまとめ,在留特別許可を出すように求めました。
結果,2度の違反調査,1度の違反審査を経て,留学資格での在留特別許可決定を得られました。

事件を振り返って

この事件は,刑事事件と入管事件が連続して起こったもので,ご本人としても「日本に残れるのかどうか」が非常に大きな関心事でした。
オーバーステイのような入管法違反の事件は,刑事事件も入管事件も,一貫した対応をすることが重要です。
今回の事件においては,ご本人のオーバーステイ期間が短期間であって悪質な事案ではないことを主張し,刑事事件としては「不起訴」を,入管事件では「在留特別許可」を獲得することを目指しました。事件当初から弁護活動を開始し,ご本人の身体拘束期間をなるべく短いものとして,また,不起訴,在留特別許可という結果を得ることができました。

戸籍を貸したらになったら犯罪者!?偽装結婚は何罪になる?

2023-05-25

(架空の事例です)

Aさんは東京都内で生活する会社員でした。ある時知人から「戸籍を貸してくれたら毎月20万円もらえる」という話を聞き,怪しいなと思いながらもその話にのっていましました。

Aさんは,その知人から言われるまま,戸籍謄本を取り寄せ,印鑑と一緒に渡してしまいました。その後の話を聞くと,どうやら,Aさんは外国人であるBさんと婚姻届けを出して結婚したことになっていたようです。Aさんは当時独身で,交際相手もいなかったことや,お金がもらえるならば良いと思って,Bさんとの婚姻届けをそのままにしてしまいました。結局,AさんはBさんと一度も会うことがありませんでした。

その3年後,戸塚警察署の警察官がAさんの自宅にやってきて,Aさんは事情聴取を受けてしまいます。

Aさんにはどのような犯罪が成立し,Aさんはどのようになってしまうのでしょうか。

「戸籍を貸す」だけでも犯罪になることがある

Aさんは軽い気持ちから戸籍を貸す,つまり,Bさんの結婚相手となってしまったようです。これが,本当にBさんと結婚して婚姻生活を営むつもりがあったのであれば良いですが,「結婚して夫婦として生活するつもりはないのに,婚姻届けを出す」ということであれば,犯罪に該当します。

いわゆる「偽装結婚」と言われるようなものです。偽装結婚の場合には,公正証書原本不実記録罪が成立します。

これは,嘘や虚偽の申告をして,戸籍や住民票といった公の文書に真実と異なる記載をさせたことに対する罪です。偽装結婚のほかに,地上げ行為や車庫飛ばし等と言った行為もあります。

偽装結婚,公正証書原本不実記録罪は,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられる可能性がある犯罪です。

戸籍を使わせるだけだから良いと思った,お金がもらえるし誰に迷惑をかけるわけではないから良いと思った,という方もいますが,れっきとした犯罪であることを覚えておきましょう。

Aさんは逮捕される?起訴される?

偽装結婚をして公正証書原本不実記録罪に該当してしまった場合,逮捕される可能性が非常に高いです。

逮捕されるか/されないかという判断では,事件が重大なものであるかどうか,また,口裏合わせがされるかどうかという点が判断ポイントになります。

偽装結婚のような事件では,「戸籍」という日本の家族制度の根底をなすものに嘘の記載がなされたということになりますから,重大な事案とみなされることがあります。

また,偽装結婚は一人ではできない,すなわち,相手となる外国人の存在があります。警察当局としては「二人で『本当に結婚して夫婦として生活するつもりがありました』と口裏を合わせられるかもしれない」と疑う事案です。さらに,結婚相手を斡旋するものの存在,いわゆるブローカーの存在も窺われる事件ですから,逮捕される可能性も高いのです。

加えて,公正証書原本不実記録罪には,明確な被害者がいません。そのため,示談をして不起訴を狙うということができない事件です。上記の通り,「戸籍」の制度そのものを害する犯罪になりますから,重大な事案として初犯であっても起訴される可能性が高いです。

偽装結婚について不安なことがある,お心当たりがあるという方は是非一度,専門家にご相談ください。

Aさんは再婚できないのか?

Aさんは今後,逮捕,起訴されて刑事事件として扱われる可能性が非常に高いです。

しかし,刑事事件は,あくまで「その人に対して刑罰を科すかどうか」を判断する手続きです。そのため,刑事事件を通してAさんの戸籍が完全に回復される,というものではありません。

公正証書原本不実記録罪によって処罰された方の場合,有罪の判決が確定すると,検察庁から各自治体に対して「この人の戸籍は嘘の記載がありましたよ」と通知がなされます。

この通知を受けて,各自治体が戸籍を訂正することになります。

そのため,Aさんが逮捕,起訴されれれば,ある程度時間がたったところで修正される可能性があります。

偽装結婚をしてしまった後の戸籍についてご不安なことがある方は,是非弊所まで一度ご相談ください。

もしも,Aさんがばれていなかったら・・・?

仮に,Aさんが警察から指摘されることなく生活していたらどうなるのでしょうか。

もちろん,Aさんが自分で手続きを行わない限り,戸籍上はBさんと結婚している状態が続くことになります。

そのため,もしAさんが別の人と結婚したいと思っても,重婚になってしまうためできません。また,Aさんの家族としても,Aさんがなくなった場合,戸籍上はBさんが法定相続人になってしまうため,相続に大きな影響が生じてしまいます。

もちろん,Bさんの居場所が分かって,手続きに協力してくれるようであれば,離婚をしたり,戸籍の訂正を申し立てたりすることができます。しかし,偽装結婚の場合,Bさんがそのように協力的であることはないでしょう。

Aさんが自分で婚姻状態を解消しようと思った場合,裁判所での手続きを経なくてはなりません。

相手の居場所も分からない結婚を解消するのは,非常に困難です。

偽装結婚をしたけれども解消できないで困っている,警察に出頭すべきなのかどうか分からなくて困っているという方は,是非弊所までご相談ください。

外国人事件,刑事事件の両方について経験のある弁護士が,最善の手段のためのアドバイスを提供します。

下記のフォームからもお問い合わせをすることができます。

万引きで検挙されたら,ビザが変更できなくなる?

2023-04-08

(解説のための事例はフィクションです)

C国籍のAさんは,「技能」の在留資格で日本に在留する外国人でした。

Aさんは,日本国内で転職活動を行い,貿易業を営んでいる日本の企業での就職が決まりました。Aさんはそれまで「技能」の在留資格でしたが,転職と同時に,「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に変更する,変更申請手続きをしており,現在は申請の結果待ちです。

ある日,Aさんは日本のスーパーで買い物をしていた時,出来心からお菓子を万引きしてしまい,店内を巡回していた私服の警備員に発覚してしまいました。その場に駆け付けた警察官は,さんを逮捕しないで取調べをしましたが,「これから何度か警察署に来てもらう」と言われました。

Aさんは,取調べを受けている間に自分のビザが変更されるのか,強制送還されてしまうのではないか等の不安が生じたため,専門家に相談することにしました。

強制送還される可能性について

事例のAさんのような万引きは,日本の窃盗罪にあたります。

窃盗罪に対しては,10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。

万引きの事件の場合,1件あたりの被害額はそこまで高くならないでしょうから,Aさんに前科がなければ不起訴,もしくは罰金で終わることが多いでしょう。

一方,強制送還されるのかどうかについてですが,窃盗罪で有罪となった場合,強制送還されてしまう可能性があります。

Aさんのような「技能」や「技術・人文知識・国際業務」のような在留資格は,いわゆる就労ビザと呼ばれるものです。この在留資格で日本に在留している人の場合,有罪判決を受けて

  • 1年を超える実刑判決
  • 一定の犯罪について懲役刑,禁錮刑の判決(執行猶予だった場合も含まれてしまう)

となると,強制送還されてしまいます。

Aさんも,窃盗罪で懲役刑の判決(執行猶予がついた場合も含む)を受けてしまうと,強制送還されてしまう可能性があります。

一方,不起訴で終わった場合や,罰金刑だけで終わったという場合には,すぐに強制送還されてしまうということはありません。

外国人の方の刑事事件の場合,起訴された/不起訴になった,というだけで,強制送還されるかどうかが大きく変わってしまうケースもあります。在留資格(ビザ)の問題に発展してしまう前に,刑事事件に強い弁護士事務所にご相談ください。

変更・更新の手続きでの不利益

ビザの更新・変更の手続きをしている時に刑事事件を起こしてしまったという場合,すぐに強制送還されなかったとしても手続に影響が出ることはあるのでしょうか。

Aさんの事例の場合,ビザの変更申請に影響が出る可能性は低いでしょう。あくまでまだ,検挙されたという場合,そこから不起訴/罰金/執行猶予,のいずれの処分となるかが未確定な段階になります。刑事事件としての処分が未確定であれば,すぐにはビザの申請には影響しません。通常,在留資格の変更の手続きの場合,どの資格に変更するかによっても変わりますが,就労系の在留資格だと,変更の手続きに係る日数は約30日程度です。この30日の間に強制送還となるような出来事が起きれば別ですが,通常そのようなことはありません。

Aさんも,万引きの事件で取調べを受けることになるでしょうが,在留資格の変更についてはそのまま審査が進められることでしょう。

ただし,その後の更新手続きでは不利益があるかもしれません。日本で万引きをしてしまったことや,それが理由となって罰金刑を受けたことがあるという事情は,日本での素行不良となります。次回の在留期間の更新では,期間が短くなってしまうことがあるでしょう。また,永住申請を考えている方の場合,罰金刑を受けたことは素行不良とみられますから,しばらくの間は永住申請が認められない可能性が高いとも言えます。

罰金刑を受けたなど日本での有罪判決について心配な方や不安なことがある方は,行政書士や弁護士などの専門家にご相談ください。

下記のフォームからもお問い合わせいただけます。

口座が凍結されたら,強制送還されるのか?

2023-03-04

(解説のための事例はフィクションです)

B国籍のCさんは,技術・人文知識・国際業務の在留資格で日本に在留する外国人でした。

ある日,Cさんは日本での生活費に困ってしまい,インターネットで見つけた怪しげなサイトの表記に従って,「銀行のキャッシュカードを預ける代わりに無利子でお金の融資を受けられる」という業者からお金を借りてしまいます。

結局,Cさんが預けた銀行口座は犯罪に利用されてしまい,口座は凍結され,Cさんも警察と検察からの取調べを受け,犯罪収益移転防止法違反として罰金を受けてしまいました。

Cさんは強制送還されてしまうのでしょうか。

強制送還される可能性について

事例のCさんのような行為は,犯罪収益移転防止法,いわゆる,マネーロンダリング防止法の違反となります。日本では,キャッシュカードや支払い用カードを他人に使わせる行為は,マネーロンダリングを助長する行為でもあり,処罰の対象となっているのです。

キャッシュカードの譲り渡し行為については,罰金刑や執行猶予付き懲役刑が言い渡されることが多くあります。Cさんについても,有罪判決として罰金刑が言い渡されると,前科がつくことになります。

Cさんのように就労ビザで日本に在留している場合,前科がつくと強制送還の対象となることがあります。犯罪収益移転防止法違反の場合,前科であっても1年を超える実刑判決でなければ,強制送還の対象とはなりません。そのため,今回の事例の場合には,すぐに強制送還となる可能性は低いでしょう。

更新の手続きでの不利益

すぐに強制送還される可能性は低いと言っても,罰金刑を受けた場合には,その後の日本での在留資格に大きな影響が残ります。

「永住者」以外の在留資格の場合には,必ず在留期間の更新の手続きが必要になりますが,この時に,犯罪収益移転防止法違反による罰金前科があるということは非常に不利な事情になります。犯罪収益移転防止法というのは,いわゆるマネーロンダリング防止法ですが,これはFATFからの勧奨等の影響を受けて制定された法律でもあり,国際的な犯罪(特にテロなど)のための資金が移転されることを防止するものであるため,国際的な目で見ると特に強く非難されることになります。

たとえ罰金刑であったとしても,次回の在留期間の更新手続きの時に,不利な事情になってしまいます。

日本で罰金刑などの有罪判決を受けた方の中には,「隠していればバレないのではないか」と考える人もいるかもしれません。しかし,入管の手続きの中では「自分に不利なことを隠している」というのが最も悪いものだとされています。隠すくらいなら,最初から入管に対しては正直に申告し,それでも資格の変更や更新のために真摯に申告するという姿勢の方が重要です。

罰金刑を受けたなど日本での有罪判決について心配な方や不安なことがある方は,行政書士や弁護士などの専門家にご相談ください。

下記のフォームからもお問い合わせいただけます。

大麻取締法違反で強制送還,再入国できるのか

2023-02-24

(解説のための架空の事例です)

X国籍で東京都に住んでいたAさんは,自己使用目的で大麻数グラムを所持していたところ,路上で職務質問を受けて大麻の所持が発覚していしまい,現行犯逮捕されてしまいました。

Aさんは裁判によって,執行猶予付き判決を受けましたが,その後,東京出入国管理局から呼び出されてインタビューを受け,退去強制(強制送還)されてしまいました。

Aさんには婚約関係にあった,日本国籍のBさんという方がいました。Bさんは,Aさんと結婚して日本で生活をしていきたいと思っていますが,Aさんの再入国手続きについて弁護士に相談することにしました。

薬物事件で強制送還された場合

Aさんのように,薬物事件(具体的には,覚醒剤取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反,大麻取締法違反,麻薬特例法違反)によって有罪の判決を受け,その判決が確定してしまうと退去強制の理由(入管法24条4号チ)が生じます。判決が確定した後に強制送還の手続きとなります。

薬物事件で有罪判決を受けたことによって強制送還となると,日本に再上陸できなくなってしまいます。

日本国内で大麻取締法違反による前科(犯罪歴)がある方の場合,刑の内容や刑期に関わらず無期限で再入国できなくなってしまいます。

再入国を求める場合

Aさんのように薬物事件で有罪の判決を受けて国籍国に送還された後,日本への再入国を求める場合には,上陸特別許可を求めることになります。

上陸特別許可とは,本来は再入国できない人(上陸拒否事由がある人)についても,特別に上陸を許可する事情がある場合に,その外国人の上陸を認めるというものです。

強制送還(退去強制)される手続の中における,在留特別許可のようなものです。上陸特別許可を求めて日本へ入国しようとする場合には,大きく分けて二通りの手続きがあります。

  1. 国籍国のパスポートを取得して,出国して,日本の空港や港の入管で上陸審査を受ける。
  2. 出国する前に,在留資格認定証明書の交付を請求する。

1の方法は,言ってみれば「ぶっつけ本番」という形で,ひとまず日本へやってきて,そこから上陸特別許可を得られるかどうかの審査をしてもらうという方法です。この場合,形式的には一度「入国拒否」の処分を受けることになり,そこから改めて上陸審査を受けることになりますから,手続には数日かかることがあります。その間,空港や港から出ることはできません。

ほとんどの方は,2の方法で再上陸できるかどうかについての審査を受けることになるでしょう。

本来,「在留資格認定証明書」というのは,日本での在留資格が認められるかどうかについての事前審査として行われるものです。Aさんの場合,おそらく「日本人の配偶者等」のビザを申請することになりますが,本来であれば「日本人の配偶者等」に該当するかどうかが審査の対象になります。

しかし,上陸拒否事由がある人が在留資格認定証明書の請求をした場合,上陸特別許可をするかどうかについても併せて審査をすることになります。

つまり,AさんやAさんの家族のように,既に強制送還された後の人を呼び寄せたいと思った場合には,先に,上陸特別許可がもらえるのかどうか(在留資格認定証明書がもらえるか)についての審査を受けておいた方が良いでしょう。

1のように,ぶっつけ本番で上陸特別許可を求めても,仮に不許可となった場合には,そのまま国籍国へ帰らなければなりません。費用的にも,時間的にも,身体的にも多大な負担となってしまうでしょう。

一方,2の方法の在留資格認定証明書の請求については,弁護士や行政書士に委任すれば,オンラインでの手続きも可能です。

一度強制送還されてしまった方の再入国については,弁護士等の専門家にご相談ください。

在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所その13

2023-02-01

このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。

今回の事例は,令和4年4月14日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

この事例では,外国籍の男性Aさんが,日本国内で外国籍のBさんと婚姻し,その後,永住許可を受けて日本で生活していましたが,Aさんは風俗営業法違反や売春防止法の違反によって執行猶予付き懲役刑を受け,強制送還の手続きに付されました。その後,出入国管理局は,Aさんに対して退去強制令書を発付して,正式にAさんを強制送還するとの決定をしました。

Aさんは,日本での婚姻関係やその家族と日本に引き続き在留することを求めて,退去強制(強制送還)令書の取消を求めて裁判を起こしました。

事案の概要

Aさんは「留学」の在留資格で来日した後,Bさんと出会って結婚し,日本の大学を卒業しました。

Bさんには前婚からの連れ子がいましたが,Aさんとの間にも実子をもうけました。Aさんは「留学」の在留資格から「定住者」へと変更し,その後に永住者に変更しました。

Aさんは輸入関係の会社を経営していましたが,それとは別でマッサージ店を経営するようになり,このマッサージ店において無許可で性的なサービスが提供されたことから,風俗営業法の違反によって罰金刑を受け,更にその後もマッサージ店で売春行為が行われていたことから売春防止法違反によって執行猶予付き懲役刑の判決を受けることになりました。

売春防止法違反に当たった行為は,入管法における売春関連業務に従事していることにもなったため,Aさんは退去強制(強制送還)の対象となってしまいました。

①原告であるAさんは,

・Aさんが永住許可を受けていること

・Aさんが日本に定着していること

・Bさんとの婚姻関係や子供との親子関係があること

から,在留特別許可が認められるべき事案であると主張しました。

②これに対して被告の国は,

・Aさんの売春関連業務への従事の違法性が大きいこと,犯罪性が大きいこと

・永住許可は特に考慮する事情ではないこと

・本国への帰国期間が長いこと

・家族関係も含めて,Aさんを強制送還したとして支障は少ない

から,在留特別許可が認められるべき事案ではないと主張しました。

裁判で重要になったポイント,裁判所の判断

裁判所は,Aさんの訴えを認めず,請求を棄却しました。

まず,Aさんが強制送還されるに至った事情である風営法違反や売春防止法違反の事実は,日本で法律を守って生活しようとする意識の低さを表していると指摘しました。

また,永住許可を受けているという事情についても,永住者だから直ちに在留特別許可がなされるというわけではなく,あくまで一事情にとどまり,上記のような法令の違反があることも考慮すると,在留特別許可を認める大きな事情とまでは言うことができないとしました。

そして,Aさんの日本への定着性や家族関係についても,①日本との定着性については,2度の法令違反があったのだから善良な生活状況だったとは言えない,②家族関係については,Aさんの妻と実子はAさんと同じ国籍なのだから本国で一緒に暮らすこともできること,連れ子については成人していて仕事もしているし,Aさんの本国での生活も可能である事を理由に,在留特別許可をするほどの事情ではないとしました。

コメント

在留特別許可を求める事案において,外国人同士の結婚(永住者の外国人同士)の場合には,やはり日本人同士の結婚とは異なり,法律上保護される程度が低くなっています。

また,売春に関わっていたとされると,入管法上は非常に厳しい対応をされてしまいます。売春関連については,刑事裁判で有罪の判決を受けていない段階でも,強制送還が可能とされていますし,仮に不起訴処分になったとしても,入管は退去強制事由があるとして強制送還できます。それだけ,外国人による売春に対して厳しい対応をしているということになります。

この事案のように,日本国内で,比較的安定した家族生活を営んでいるというケースであっても,売春関連業務に関わっているというように,違法性が高いと認められると,在留特別許可の見込みも低くなってしまいます。

在留特別許可に関する対応は,入管が関わる前の段階から,刑事事件での対応の段階で,ある程度の決着がついてしまいます。ご不安なことがある方は,一度弁護士や行政書士などの専門家にご相談ください。

喧嘩で被害届が出たら強制送還されるのか?

2023-01-05

2023年1月2日の夜,神奈川県内でベトナム国籍の男性ら2人が刃物で刺されるという事件が起きたことが報じられています。

飲食店でベトナム人ら2人刺され大けが 男が逃走 神奈川 相模原

2023年1月5日時点では,犯人はまだ逮捕されていないようですが,仮に外国人同士の喧嘩だった場合,加害者として検挙される人は暴行,傷害罪の罪に問われる可能性があります。

暴行罪:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

傷害罪:15年以下の懲役又は50万円以下の罰金

事実関係はまだ明らかではないですが,もしも仮に,この事件について被害届が出されて,犯人が検挙され,その犯人が外国籍だった場合には強制送還されることがあるのでしょうか。

刑事事件で検挙された場合

刑事事件の犯人として検挙された場合であっても,直ちに強制送還されるというわけではありません。

刑事事件の手続の中で,強制送還される場合というのは次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

報道にあるような暴行,傷害事件の場合には,4つ目,もしくは5つ目の場合に該当することがあります。

暴行,傷害罪は,刑法のうち第27章に規定されている罪であり,これは入管法で言う「一定の刑法犯」に該当します。そのため,暴行,傷害罪で起訴され,執行猶予付きの判決を受けた場合には強制送還の対象となる可能性があることになります。また,裁判の結果,1年を超える実刑判決となれば,強制送還となる可能性が相当高くなります。

具体的な事実関係は不明ですが,暴行,傷害事件について被害届が出されると,警察としては犯人を特定するための捜査活動を行うことになります。加害者と被害者との人間関係や,被害者の怪我の程度によっては逮捕されてしまう可能性がありますし,怪我が重ければ刑事裁判になる可能性があります。

強制送還となる具体的な場合

実際に暴行,傷害事件で強制送還となる具体的な場合について解説をします。

まず,「一定の刑法犯にあたるとして懲役,禁錮刑に処せられた場合」に該当する場合です。これを理由として強制送還されるのは,入管法の「別表1の在留資格」に該当する場合のことを言います。

「別表1」と言われてもよく分からないかもしれませんが,入管法に定められている在留資格には,大きく分けて二種類があり,別表1と,別表2があります。別表1は,日本での活動内容に応じて認められる在留資格を,別表2は外国人と日本との結びつきそのものに応じて認められる在留資格のことです。別表2には「永住者,永住者の配偶者等,日本人の配偶者等,定住者」をさします。

別表1は「別表2以外の在留資格の全部」をさすものと考えてよいでしょう。というのも,別表1には30種類以上の在留資格があります。その多くはいわゆる就労ビザと呼ばれるものですが,「留学生」や「短期滞在」も,この別表1の在留資格に含まれます。

そのため,「別表1の在留資格」(別表2以外の在留資格)で,暴行,傷害罪で執行猶予付きの判決を受けた場合には,強制送還となる可能性があります。

逆に,別表2の在留資格(永住や日本人の配偶者等)である場合や,罰金刑のみで終わった場合には,強制送還の対象とならないで済むことになります。

ただ注意しなければならないのは,罰金刑で終わったとしても,永住の在留資格でない限りは,次のビザの更新の時の不利益な事情となる場合があります。更新した時の在留期間が短くなったり,最悪の場合だと更新が認められないということがあります。

外国人の方の刑事事件は,罰金/執行猶予/実刑という,処分そのものだけでなく,在留資格への影響まで考えて弁護をしなければなりません。

日本で在留している間に刑事事件を起こしてしまったという方や,刑事事件に関わってしまった,強制送還されたくはない,という方は,是非ご相談ください。

刑事事件から在留資格までワンストップでご相談いただけます。

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