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同居人が不法滞在?逮捕されるのか?
不法滞在の外国人を日本で住まわせていたとして,会社役員の外国人の方が逮捕されるという報道がありました。
2020年11月20日の報道
このケースでは,逮捕された方のシェアハウスに住まわせていたとされていますが,もしも同居する外国人の方が不法残留であった場合,同居している方はどうなるのでしょうか。
この報道の事例を参考に指定解説します。
不法滞在とは?
そもそも,不法滞在とは一般的に使われている用語で,法律上は「不法残留」と言われているものです。「オーバーステイ」と言われていることもあります。
不法残留とは,一旦は適法に日本に上陸して在留していたものの,在留資格を取り消された方,在留期間を更新しないまま在留期間を満了した方が,その他法律上日本に在留するための手続きをとらないで在留している状態のことをいいます。
不法残留に対しては,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されることとされています(出入国管理法70条1項柱書)。
不法残留であることが通報や出入国管理局などを通じて警察に発覚すると,多くの場合に当該外国人の方は逮捕されることがあります。
同居していた人も罪に問われる?
不法残留してしまったご本人は,出入国管理法違反(不法残留)に問われることになります。
では,その周りの方や報道にあるように部屋を提供して住まわせていた方も,共犯として扱われるのでしょうか。
ここで一旦,刑法の基本的な考え方を解説します。
刑法では,他人が実行した犯罪であっても一緒に企てて犯罪を遂行した場合や,他人に犯罪の方法を教えたり道具を提供して容易にしたりすると,共同正犯や教唆犯,幇助犯として刑罰が科される可能性があります。報道からは詳細が分かりませんが,今回逮捕されてしまった会社役員の方は,不法残留の共同正犯,もしくは幇助犯として逮捕されてしまったようです。また,逮捕されてしまった方は「不法滞在とは知らなかった」とお話しされているようです。共同正犯も幇助犯も,故意がなければ犯罪は成立しません。ここでいう「故意」とは,「不法残留であることを知っていたこと」を指します。
それでは,不法残留の共同正犯や幇助犯として扱われる場合や過去の事例を見てみます。
他人の不法残留について一緒に責任を負う場合というのは,共同正犯や幇助犯として罪に問える程度の役割をはたしていなければなりません。具体的に他人の不法残留を容易にしたり,その手助けがなければ日本での不法残留ができなかったと言えるような状況が必要です。例えば,偽造したパスポートや在留カード等の身分証をもたせたり,毎月生活費を渡して扶養していた場合等があります。
知人の外国人が不法残留であることを知っていたが出入国管理庁に通報しなかった場合や,不法残留の外国人と一緒に暮らしているだけという場合には,共同正犯や幇助犯とはならない可能性もあります。
同居人の不法残留を幇助したとして起訴されたものの,東京高等裁判所で無罪判決が言い渡されたという事例があります(東京高等裁判所令和元年7月12日判決)。この事例では,起訴された方は,同居人が不法残留であったことは知っていたとしても,一方的に養っていたわけではないし,同居人が不法残留していることを周りや出入国管理庁に対して隠していたものでもないため,不法残留を「容易にした」とまではいえないとして,無罪とされました。
また,共同正犯や幇助犯というのは,上記の様な「故意」がなければ成立しません。他人を雇い入れる場合とは異なり,単なる同居人であれば他人の在留カードを確認する義務まではありません。日常会話などの中で「○○まで有効な在留資格で日本にいる」と聞いていたとすると,それ以上に「不法残留かもしれないな」と疑うような事情がなければ,「知らなかった」という主張が通る可能性もあります。一方で,持っていた在留カードと名前が違う場合や,在留カードやパスポートを持っていないで再発行もしない場合等には,不法残留であることを疑うべき事情となるかもしれません。
☆賃借人として気を付けた方が良いか?
このような報道が出て来ると,不動産賃貸をしているオーナーの方や客付けをされている方は,「外国人には不動産を貸すとリスクがあるのか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし,結論から申し上げますと不法残留の共同正犯や幇助犯となる可能性については,過度に心配する必要はないように思われます。
大切なのは,通常採るべき確認をしたのかどうかです。
賃貸借契約の時点で在留カードを確認する,契約書とは別途誓約書の提出を求める等,各社対応が異なるところではありますが,「これだけやっておけば安心」というものもありません。
ご不安な点のある方は一度お問い合わせください。
まとめ
不法残留の共犯を疑われて逮捕された事例を通して,不法残留の共同正犯や幇助犯について解説してきました。
ご不明点や心配な点がある方は,お気兼ねなくご相談ください。
不法就労助長罪にならないためにはどうしたらよいか
不法就労助長罪は,企業にとってのリスク!
不法就労助長罪と外国人を雇う会社や事業主にとって,絶対に避けなければならない事態です。
単に経営者や管理職が逮捕されるたり前科がついたりするというだけではありません。
不法就労させていた事業の希望が大きければ報道される可能性は高まりますし,会社名などが公表されることもあります。実際に,不法就労助長罪により中華料理店を経営する会社の役員が逮捕された事件で,会社名まで公表されたこともありました。不法就労助長罪として検挙されるということは,企業としてのレピュテーションリスクでもあります。「あそこの会社は外国人を安く働かせていた,ひどい搾取をしていた」等と非難される可能性もあります。SNS等の情報媒体が発達した現代において,このような負の情報は一瞬で拡散します。
「ちょっとなら大丈夫」等と考えるのではなく,企業全体として「間違っても不法就労にはさせない」という意識が会社全体を守ることにもつながります。
外国人の雇用の点で分からないことや困ったことがある方は是非ご相談ください。
結局,何に気を付けたらいいのか?
「不法就労は違法です」,「不法就労の助長にならないように気を付けましょう」と出入国管理庁や警察は,積極的に宣伝活動や啓発活動をしています。
しかし,現場の担当者(アルバイトの採用担当者や人事の方)は「結局何に気を付けたらいいのか」と思うかもしれません。
そこで,「これだけは必ず確認しておきたい」という重要な点について解説します。
なお,次に解説する点のみで不法就労ないし不法就労助長に当たるかどうか断定できるものではありません。悩む点がある場合には,後々違法と判断される可能性があるということです。早めに弁護士等に相談しましょう。
1 在留カードを持っているか
日本に中長期在留する外国人の方は,どんな在留資格であろうが,在留カードを持っています。そして,日本に在留している間は在留カードを必ず携帯しなければならないこととされており,携帯していない場合には罰則まであります。
在留カードを持っていない外国人の方というのは,「短期滞在」の在留資格がである可能性があります。「短期滞在」の在留資格では原則日本で働くことができません。
特に採用の時点では,在留カードを持っていることを必ず確認しましょう。採用面接などの時に「今日は在留カードを忘れてしまいました」と言われそのまま確認しないままで済ませてしまうことは絶対にいけません。
外国人の方にとって,在留カードを他人に提示することは何も不利益になることはありません。仮に在留カードの提示を拒まれることや,何度も「忘れた」ということがあれば,担当者としては「何かあるのか」と引っかかるべきポイントです。
2 在留資格は何か,「就労不可」と書いていないか
在留カードの表面には「就労の可否」という欄があり,ここに「就労不可」と書かれていた場合には,日本で働くことができない在留資格の方です。
もちろん,在留カードには「在留資格」についての記載もありますが,30以上ある在留資格のそれぞれを確認して,外国人の方が働くことができるのかどうかを確認することはやや大変です。そこで,まずは,在留資格の内容を見る前に,「就労の可否」を確認して,そもそも「働いてよい在留資格なのかどうか」を確認することが簡便です。
また,「就労不可」となっていても資格外活動許可を受けていれば働いたり,アルバイトをしたりできます。その場合には資格外活動許可を受けていることが在留カードに記載がされます。この記載は,「就労不可」の一文のすぐ下欄か,裏面下部分にあります。外国人の方から「資格外活動許可を受けているので大丈夫です」と言わても,在留カードにも,そのとおり記載があるかどうか確認しましょう。
3 在留期限はいつまでか,在留カードの有効期限はいつまでか
在留カードを確認して就労の可否を確認したときに,併せて「在留期限」と「在留カードの有効期限」を確認しましょう。
当たり前のことに感じられるかもしれませんが,在留期限を過ぎている方はオーバーステイの状態ですし,有効期限の切れた在留カードでは現在の在留資格を確認できない可能性もあります。オーバーステイ状態で働けば不法就労になりますし,有効期限の切れた在留カードを確認しただけでは現時点での在留資格を確認しなかったものとして不法就労助長罪に問われる可能性もあります。
なお,在留期限を確認することは人事戦略的にも重要です。外国人の方の在留期限は,必ずしも延長されるものではありませんが,多くの方は在留期限いっぱいまで日本での在留を希望されます。在留期限を見ておくことで,いつまで日本に在留する人なのか,いつ以降は日本にいない可能性がある人なのか,を考えることもできます。
少し特別な対応をする場合
☆永住者,日本人の配偶者等の場合
永住者や日本人の配偶者等の在留資格のように,日本での在留中の活動に何らの制限のない方もいます。この場合,その在留資格が有効である限り,不法就労となることはありません。
在留カードを見て「永住者」や「日本人等の配偶者」とあれば不法就労助長となるリスクは極めて低いと言えます。「永住者」や「日本人等の配偶者等」の在留資格の方の場合には,「在留期限」が過ぎていないかという点と,「在留カードの有効期限」が過ぎていないかを確認しておきましょう。
なお,よく似ているように見えますが「家族滞在」の在留資格は全く違う在留資格ですので気を付けましょう。
☆中途採用の場合
これまで日本に在留していた中途採用となる外国人の方 を新しく雇入れる場合,在留資格の変更の必要があるのかどうかを確認する必要があります。同種の職であれば,多くの場合には在留資格の変更を必要としませんが,稀に「前職から不法就労状態であった」という場合もあります。
前の在留資格を確認しておくことももちろん重要ですが,それを軽々に信用するのではなく,あくまで自社で調査,確認することを心がけていただく必要があると思います。
まとめ
不法就労助長罪とならないために,現場の担当者の方にぜひ気を付けて頂きたい点について解説してきました。
ここに挙げたのは外国人の方を雇入れようとする際に最低限知っておきたい点になります。
より個別の場面,個々の職種や業態に応じて,担当者の方として「この時はどうしたらいいんだろう」と悩むこともあるかもしれません。
不法就労助長罪として摘発されるというのは,企業において絶対に避けなければならないリスクです。
分からないことがある場合には,そのままにせず,弁護士などの専門家へ相談しましょう。
不法就労助長罪による逮捕・処罰
このページでは,不法就労助長罪について詳しく解説します。
外国人を雇う事業主の方には必ず知っておいていただきたい内容になります。出入国管理法が定めている不法就労助長罪は「そんな法律は知らなかった」と言っても逃れられない規制ですし,「逮捕されるとは思わなかった」,「前科がつくなんて知らなかった」と思っていると,思わぬ結果になってしまうこともある事件です。
不安な点がある方は早めに弁護士に相談しましょう。
不法就労助長罪はどんな罪か
不法就労助長罪とは,日本で働くことが認められていない外国人を
1 事業のために働かせたり
2 日本で働くように自分の下で支配,管理したり
3 繰り返し(法律上は「業として」)日本での働き先を紹介したり
等した場合に犯罪になるというものです。
出入国管理法73条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
「不法就労活動」とは何か
「不法就労活動」とは,働く内容が違法かどうかという点ではなく,その外国人の方が「日本で適法に働く資格があるかどうか」が問題となります。
不法就労活動の典型例としては次のようなものがあります。
・在留資格がないが日本での生活費のために働く
・在留期間を過ぎてオーバーステイになったが生活費のために働く
・出国準備の在留資格や短期滞在の在留資格で働く
・週28時間のアルバイトが認められているがそれを超過して働く
このような場合には,出入国管理法上は不法就労活動として扱われることになります。
「させた」,「させる」とは何か
不法就労を「させる」とは,事業主として働かせた場合や,監督下で働くことを認めていた場合のことを言います。
「勝手に働いていたので知らない」と主張される方もいますが,外国人が自分の判断で働いていたとしても,その労働に対して給料を払っていた場合や会社に利益があったような場合には監督下で働くことを認めていたと判断され,不法就労をさせていたと見られることがあります。
逮捕されるのか
不法就労助長罪については事業主の方が最初に検挙されたり逮捕されたりするということは多くありません。
というのも,不法就労助長罪が発覚する場合というのは,まずは,労働者である外国人の方が不法残留(オーバーステイ)や資格外活動などにより,外国人の方が検挙され,そこから雇用主である事業主の方に対して捜査が及ぶことが多いようです。また,同業者や取引先からの告発や通報によって発覚するというケースもあるようです。
いずれのきっかけにしても,警察や出入国管理局が不法就労助長罪の疑いがあると判断すれば,他の従業員との口裏合わせや証拠隠滅のおそれがあるとして,逮捕されてしまう可能性があります。
実際に,事業主の方が逮捕される事例も多く発表されています。
↓不法就労助長罪による逮捕の報道例
在留資格のない外国人を工場に派遣していたとされる事件 https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20201118/1000056343.html
中国人留学生を風俗店で働かせていたとされる事件 https://www.sankei.com/west/news/201101/wst2011010008-n1.html
不法就労助長罪の疑いがかかると,逮捕から引き続いて最長20日間勾留されるおそれがあるほか,複数の従業員を別々の機会で働かせていた場合には再逮捕されることもあります。
逮捕されてしまってからでは自分で弁護士を探したり相談に行ったりすることが出来なくなります。少しでも不安な点がある方やこれから外国人を雇って事業を拡大しようと考えている方はあらかじめ専門家に相談しましょう。
前科がつくのか
不法就労助長罪について検挙,逮捕され,捜査された結果,不法就労助長罪の証拠が揃ったと見られると,多くの場合には起訴され,裁判になります。
不法就労助長罪は特定の被害者がいる事件ではありませんので,示談をして不起訴となるという事件ではありません。
不法就労助長罪については,「外国人が働けない状態だったとは知らなかった」と言っても処罰されることがあります。
出入国管理法上は,外国人が不法就労活動をしていることについて知らなかったとしても,事業者,雇用主の側に過失がなかった場合には処罰を免れないことが規定されています。やや難しい規定ですが,
| 不法就労であるかどうか確認をしていた | 不法就労であるかどうか確認をしなかった | |
| 不法就労であることを知っていた | 処罰される | 処罰される |
| 不法就労であることを知らなかった | 処罰されないことがある | 処罰される可能性あり |
上の表にあるように,処罰される場合の方が広くなっています。
不法就労助長罪について有罪となると,不法就労をさせていた規模や利益の程度,不法就労の内容が社会的に非難されるものかどうかという点に応じて,刑の重さが決められます。
不法就労によって大きな利益を得ていたこと(平成29年3月10日前橋地方裁判所太田支部),不法就労の規模が大きいこと(令和元年10月9日札幌地方裁判所),就労内容に売春が含まれていたこと(平成29年4月24日前橋地方裁判所)が刑を重くする事情として見られています。
会社や事業所の代表の方に対しては懲役刑と罰金刑の両方,法人に対しては罰金刑が科されることが多くなっています。これらはいずれも前科として扱われます。前科の内容によっては,会社の役員となることが出来ないことがある,各種許認可の手続ができないことがある,海外への渡航に制限が付くことがある等,種々のデメリットがあります。また,技能実習や特定技能の受け入れ機関となることが出来なくなるというデメリットもあります。
まとめ
不法就労助長罪の内容や逮捕されるのかどうか,前科がつくのかどうかという点について解説しました。
次回のページでは,不法就労助長にならないために気を付けるべき点について解説しますので,併せて読んでいただければと思います。
帰国したいのに帰国できない方へ
日本のみならず,世界の情勢として人の移動,物の移動を制限する状況が長く続いています。
新型の感染症の影響によって,各国も国境を閉鎖したり,出国・入国の禁止や制限を設けていたりします。
日本に在留する外国人の方の中でも,「帰国したいのにできない」という方や,「在留期限が過ぎて帰国したいのに母国へ帰る飛行機がない」という方もいるかもしれません。
現在,日本政府は,「本国等へ帰国が困難な外国人に係る取り扱い」を発表しています。
これは,母国等に帰りたくても帰れない状況が続いている方への救済の措置になります。
内容としては次の2点です。この救済の措置は,入国制限や出国制限などによって母国等に帰れない期間が続いている間,継続することとされています。
短期滞在の在留期間の延長
短期滞在で日本に在留している方は,90日在留期間を延長できます。
もともと,短期滞在の在留資格については特別な事情がない限り在留期間の延長は認められていませんでしたが,帰国が困難な状況が続いている間オーバーステイとしないために,在留期間の延長が認められます。
但し,自動で延長されるものではありませんので,90日おきに手続きが必要です。手続を忘れてしまうとオーバーステイになってしまい,これから先5年間,もしくは10年間,日本に再入国できなくなってしまう可能性があるため注意しなければなりません。
「特定活動」への在留資格の変更
元々帰国する予定だったため,日本での仕事を辞めてしまった方や学校を辞めてしまった方については,在留資格を「特定活動」へ変更することが出来ます。
特定活動というのは,法律で定められている活動以外に個別の活動を指定して在留を認めるというものです。
そして,特定活動の在留資格の場合には,通常働くことは認められていませんが,
・「留学」の在留資格の方(元々留学生で出国準備中だった方も含む)
・「技能実習」,もともとが「特定活動(9号,12号,32号,35号,42号)」だった方
については,週28時間までのアルバイトも認められるようになりました。
これにより,元々の在留資格が取り消されたり資格外活動として検挙されたりするリスクを下げることが出来ます。なお,それ以外の在留資格の方であっても特定活動の在留資格へ変更することはできますが,その期間働くことはできません。生活費を得るためにアルバイトの必要がある場合には,資格外活動許可を得る必要があります。
特定活動に変更した場合の在留期間は6か月,ないし3ヶ月です。
ご自身として在留資格を変更する必要があるのかどうか分からない方や不安な方は一度弁護士にご相談ください。
留学生は卒業後,日本に残れるのか
今回は,留学の在留資格で在留する外国人の方が,学校を卒業した場合について解説します。
仕事を休んだら/退職したら,帰国しないといけない?
このページは,就労ビザ(在留資格)で日本に在留する方が,退職する場合や休職する場合に,在留を続けられるのかどうかを解説します。
就労ビザ(在留資格)について
就労ビザとは,日本で働くことを目的とした在留に認められる在留資格です。
就労ビザと呼ばれる在留資格には,経営・管理(以前の投資・経営の在留資格),法律・会計業務,医療,研究,教育,技術,人文知識・国際業務,企業内転勤,介護,興行,技能,特定技能,技能実習,高度専門職が挙げらます。これらの在留資格は,それぞれに対応した職種で働くことを前提として認められている在留資格です。
そのため,「経営・管理」の在留資格で日本にいる方が本来の業務以外で教育の職に就いていたり,通訳業務等についていたりすると,資格外活動として刑罰や在留資格の取消処分が科される可能性があります。在留資格外の活動を行うことについては,出入国管理法において禁止され,刑事罰や行政処分の対象になっているのです。
では,「在留資格に沿った活動をしなかった」という場合には,どうなるのでしょうか。
具体的には退職するという場合,休職するという場合を考えてみます。
退職したら在留資格はどうなる?
退職することによって直ちに出国を命じられたり,在留資格が取り消されるということはありません。
出入国管理法には,就労ビザで在留している外国人が日本で退職した場合には,在留資格が取り消される可能性があることを定めています。
それが,在留資格の取消について定めた,出入国管理法22条の4という条文です。
出入国管理法22条の4
第6号 別表第1の上欄の在留資格をもつて在留する者が,当該在留資格に応じた同表の下欄に掲げる活動を継続して3月(カッコ内省略)以上行わないで在留していること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く)。
元々認められた在留資格に関する活動を継続して3ヶ月以上,正当な理由なく,行わなかった場合には,在留資格を取り消すことがあると定めています。
そのため,退職して3か月以上働かないで何もしないで日本で生活していた場合には,在留資格が取り消されることがあるのです。
ここで重要なのは,「継続して3か月以上」活動をしていないこと,「正当な理由」がなければ在留資格は取り消されないということです。
ですので,退職してから3か月以内に別の同じ職に就いていれば(もちろん,在留資格で認められる範囲の職に限ります)在留を続けられますし,働いていない期間の累計が3か月を超えてしまっても継続していなければ問題はありません。なお,あまりに休みがちだと会社を解雇されてしまったり,在留期間の更新申請が不許可となってしまう可能性もありますので,注意しましょう。
また,正当な理由がある場合であれば在留資格は取り消されません。例えば,自主退職した後も転職活動を続けている場合や,会社が倒産してしまったため止むを得ず解雇されてしまい新しい仕事を探しているような場合,本人や家族が病気などのため一時的に仕事を辞める場合等,本人が仕事を続けたくても続けられないようなやむを得ない事情がある場合であれば,正当な理由があると見られます。
退職したり転職したりしても,在留資格が直ちに変わるわけではありません。ですので,在留資格で認められている範囲外の仕事は資格外活動になりますし,転職するまでの間の繋ぎとして短期間のアルバイトをした場合であっても資格外活動になる可能性があります。
☆退職後に他業種に転職する場合には在留資格の変更申請を忘れずに行いましょう。
休職したらどうなる?
休職している場合にも「継続して3か月以上」,「正当な理由なく」働いていないという場合かどうかによって,在留資格が取り消されるかどうか変わります。
例えば,旅行のために1ヶ月休みをとったという場合であれば「継続して3か月」になっていませんし,病気等の療養のために一時的に仕事を休んでいるという場合には正当な理由があるといえます。本人や家族が入院する必要がある場合等についてはそもそも在留資格を取り消さないという運用がなされています。
今,問題となっているのは,感染症等によって,会社の都合により出社できなくなった場合についでです。
会社の都合で出社できない場合,例えばリモートワーク(在宅勤務)となっている場合等も,きちんと働いているものと考えられますので,在留資格の取消とはなりません。在宅勤務をしていたことの証拠をとっておくためにも,会社でのメールや通話の履歴,Web会議などの履歴はある程度保存しておくと安全です。
更に,リモートワークのみならず,会社都合での休職となっている場合も,「正当な理由」があると言えるでしょう。会社都合での休職の場合には,労働基準法の基準に従って(平均賃金の6割以上),休業手当が支払われなければなりません。但し,会社都合の休職であっても,その間に副業等をする時には,資格外活動にならないように注意しなければなりません。本来の在留資格の目的外の活動を許可なく行ってしまうと,資格外活動として在留資格が取り消されたり,刑罰を受けたりする可能性があります。
まとめ
上記の内容をまとめると,次のようになります。
☆退職する場合には次の職が決まっているかどうか,どんな業種の仕事かによって,在留資格に必要な手続きが異なります。
☆休職する場合にはどんな事情によるのか,どれくらいの期間休むのかによって,在留資格の取消の可能性が変わってきます。
退職/休職の際の手続きに不安がある方は,在留資格を取り消されないためにも,また,今後の在留に関する手続きに禍根を残さないためにも,早めに弁護士などの専門家に相談されると良いでしょう。
不倫と在留資格
このページでは,日本で不倫をした外国人の方や,配偶者の外国人の方が不倫したという方に向けて,不倫が在留資格に影響するのかどうか?と解説します。
なお,このページにおいて「不倫」とは,法律上結婚している人が配偶者以外の人と交際したり情交を結ぶ(性交等をする)ことを指すとします。
配偶者の在留資格について
日本人の方と結婚した外国人の方は,「日本人の配偶者等」という在留資格を取得することが出来ます。
「日本人の配偶者等」の在留資格は,在留中の活動に制限がなく(違法行為でない限り日本でどんな仕事もできます),結婚が継続している限りは在留期間の更新も認められやすく,とても安定した在留資格です。日本人と結婚した方で,ある程度の期間日本に在留することを希望する場合には,「日本人の配偶者等」へ在留資格を変更することが良いでしょう。
この在留資格は,「日本人と結婚していること」を前提として認める在留資格です。そのため,離婚した場合等,すでに結婚生活を行っていない場合には在留資格を認める前提がなくなってしまいます。結婚生活が行われていない状態が6か月以上継続し,在留資格を変更していないままでいると,在留資格が取り消されてしまうことになります。在留資格が取り消されると,30日間の出国準備期間が設けられ,その間に本邦から出国しなければならなくなります。
配偶者の在留資格と不倫 ~外国人の方が不倫してしまった場合~
※この項は外国人の方の方向けの解説です。
不倫をしてしまった場合,在留資格を取り消されてしまうのでしょうか。結論から言うと,すぐに取り消されるわけではありません。
在留資格が取り消されるかどうかは,日本人の方との結婚生活が続いているかどうかによって決まります。
不倫関係が数年に及んでいる場合や,夫婦で別居して家計が別々になっているような場合,お互いに離婚に向けた話し合いや調停が進んでいるような場合であれば,結婚生活は既に破綻して修復する可能性もないとして,在留資格が取り消されたり,更新が不許可となる可能性もあります。また,不倫相手との関係を日本で続けるために離婚しないだけ,というような場合も,日本人との蹴痕生活が続いていないと判断される可能性があります。
一方,そうではない場合,例えば,夫婦として同居を続けている場合や不倫があったとしても結婚関係を修復していく姿勢である場合には,引き続き在留資格を認められる可能性もあります。
不倫自体は在留資格を取り消す理由にはなりませんが,結婚生活の実態次第では在留資格が取り消される可能性があるということになります。
宗教間や文化によって「結婚」に対する考え方が異なるのは当然ですが,日本で不倫をするということは,それだけのリスクがある行為ということになります。
配偶者の在留資格と不倫 ~配偶者である外国人の方が不倫してしまった場合~
※この項は,不倫をしてしまった外国人の方の配偶者の方向けの解説です。
男女問わず,外国人である配偶者の方が不倫してしまった場合,当該外国人の方の在留資格がどうなるのかというのは上記のとおりです。
そして,不倫をされた日本人の方としては,このまま結婚生活を続けるのか,離婚を考えていくのか,が大きな問題になります。これは日本人同士の結婚でも同じかもしれませんが,外国人の方と結婚している場合には,
①相手の在留資格
②慰謝料の請求方法
③子供がいる場合には子供の親権や国籍
の問題があります。
結婚を続ける方向であれば,相手の在留資格の保持や更新申請の許可に向けた準備が必要になります。上記のとおり,不倫があったことのみで在留資格が取り消されたり強制退去になることはありませんが,資格の更新が不許可となったり,更新の期間が短くなったりする可能性があります。
一方,離婚する方向なのであれば,相手が日本から大挙してしまう可能性があるので,②,③についても考えなければなりません。
このページでは①に限って解説をしていますが,②,③についても簡単に触れると,いずれも相手が日本にとどまっているうちに請求や手続をしておく方が良いでしょう。相手が帰国してしまった場合,日本の裁判所で手続きができなくなってしまったり,適法される法律が変わってしまうことがあるためです。
まとめ
今回は,不倫の在留資格に対する影響について解説してきました。
既にふれた通り,「結婚」や「不倫」に対する考え方については,個々人の思想や信条によって異なることは確かです。しかし,日本の法律の仕組みというのも,ここでお話しした通りです。
昔日本には,「不倫は文化」という言葉もあったようですが,外国人の方の在留資格の関係で言うと,「不倫はリスク」です。
「日本人の配偶者等」の在留資格はとても安定しており,日本での在留を希望されるのであれば保持しておきたいものです。「日本人の配偶者等」の在留資格についてご不安のある外国人の方,日本人の方は一度ご相談下さい。
不法就労の「報酬」とお小遣いの区別
このページでは,資格外活動として規制される「報酬」や「収入」をともうなう活動と,単なるお小遣いとの違いについて弁護士が解説します。
不法就労活動は,出入国管理法の違反となりますが,単なるお小遣いをもらうことは違法なのでしょうか。
資格外活動への処分その2
このページでは,日本に在留する外国人の方が資格外活動を行ってしまった場合の強制送還(退去強制)について解説します。
資格外活動に対する刑事処分は,こちらの「資格外活動への処分その1」でも解説していますので併せてご参考ください。
また,どのような場合に資格外活動となってしまうのかについては,こちらの「資格外活動として検挙される場合」で解説しています。
資格外活動への処分その1
このページでは,日本に在留する外国人の方が資格外活動をしてしまった場合の刑罰やその後の処分について解説します。 (さらに…)
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