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「日本人の配偶者等」の人が交通事故をした場合,在留資格はどうなる?在留期間の更新は大丈夫?
(事例はフィクションです)
日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周囲の景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんが在留期間の更新をする際にどのように影響するのか
以上の点について解説していきたいと思います。
過失運転致傷の刑事罰
Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には、危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度、②事故を起こした側の過失の程度、③被害者の側の過失の程度、④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。
- ①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
- ②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
- ③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
- ④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。
Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。
日本人の配偶者の在留資格について
在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用、動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
今回Aさんは、過失運転致傷罪という罪を犯しています。処分がどのような者になるかについては⑴の通りです。
そこで、まずこの刑事処分がAさんにとって「退去強制事由」になるかどうかを見てみます。
Aさんは「日本人の配偶者」ですので、入管表別表第2に記載されている在留資格を有しています。この在留資格の場合には、「無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」(入管法24条4号リ)に該当する場合には、罪名関係なく退去強制を受ける事由となります。
今回のAさんの場合には、起訴猶予処分や罰金の処分となった場合にはこれに該当しません。また、この4号リで問題とされるのは、実刑、つまり刑務所に行かなければならないような判決だけですから、執行猶予付きの禁錮刑であればAさんにとっては退去強制事由には該当しないということになります。
次に、Aさんの罰金が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで言えるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、過失運転致傷は明示的に挙げられていません。
そのため、過失運転致傷罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性高い一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。だからといってこの事故のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。
「日本人の配偶者等」の在留資格における各種申請のための書類についてはこちらのページにまとめられていますのでご確認ください。
また,在留期間の延長についてはこちらのページでも解説していますので,併せてご覧下さい。
示談交渉は必要か
さて、先述の通り、過失運転致傷罪で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、怪我の程度がそれほど大きいものでなければ、検察官が最終的な刑事処分を決定してしまうより前に被害者の方と示談を行い、被害者の方からお許しいただければ
起訴猶予処分となる可能性があります。
ただ、任意保険や自賠責保険では、ここまでの示談交渉は行ってくれない可能性が極めて高いです。保険会社が行うのはあくまでも損害の賠償のみであり、被害者の方から許してもらうような示談交渉までは
話をしないことが通常です。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、交通事故の被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。もちろん交通事故の場合には相手方の連絡先などを警察官から
知らされる場合が多いですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で交通事故を起こしてしまった場合には、期間の更新を安全なものとするためにも、いち早く弁護士にご相談ください。
強制送還の法的手続きと対策 就労ビザと窃盗
強制送還という言葉を聞いて、不安を感じる方は少なくないでしょう。
特に、日本で生活している外国人にとって、この手続きは命運を左右する可能性があります。
本記事では、強制送還手続きがどのようなものなのか、その法的背景と具体的な事例を通じて解説します。
「介護」の在留資格を持つAさんが窃盗罪で有罪判決を受けた場合、どのような法的手続きが待ち受けているのか、その詳細についても触れます。
この記事を通じて、強制送還手続きについての理解を深め、必要な対策を考える一助としていただければ幸いです。
事例紹介: 介護の在留資格を持つAさんが窃盗を犯した場合
Aさんは、日本で介護の在留資格を持っています。
しかし、ある日、スーパーマーケットで食料品を盗んでしまいました。
スーパーマーケットの防犯カメラによって、Aさんの行動は記録されており、その後、警察に逮捕されました。
この事件によって、Aさんは窃盗罪で起訴され、裁判で執行猶予付きの有罪判決を受けてしまいました。
結果として、Aさんは強制送還の対象となり、その在留資格も危うくなってしまいます。
法律解説
強制送還手続きは、正式には「退去強制」と呼ばれます。
この手続きは、主に4つの段階で進められます。
- 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ、不法就労、虚偽の申請、犯罪歴など)
- 入国警備員による調査
- 入国審査官による審査
- (場合によっては)法務大臣による裁決
Aさんの場合、窃盗罪で執行猶予付きの有罪判決を受けたため、強制送還の対象となりました。
Aさんの「介護」のように、就労系の在留資格の場合、執行猶予付きの判決であっても有罪となってしまうと強制送還のリスクが生じてしまうのです。
入国管理局がこの事実を知ると、調査が始まります。
調査の結果は、入国審査官に引き継がれ、「強制送還をすることが適法かどうか」の審査が行われます。
審査の結果に不服がある場合、異議を申し出て口頭審理、法務大臣の裁決へと進む手続きがあります。
Aさんが今後も日本に在留し続けたいと望む場合には,在留特別許可を得なければならないのです。
弁護士に相談することのメリット
強制送還の手続きは複雑で、専門的な知識が必要です。
そのため、弁護士に相談することで、適切なアドバイスや対策が得られます。
異議申し立てや口頭審理などの法的手続きにおいて、弁護士のサポートは非常に有用です。
弁護士は入管法だけでなく、刑事事件にも精通している場合が多く、Aさんのような犯罪歴がある場合でも、最良の対策を提案してくれます。
さらに、弁護士に相談することで、精神的な安堵感も得られるでしょう。
特に、今回のAさんのように「裁判を受けた場合に強制送還になるリスクが高い人」の場合、逮捕された直後からビザについても専門性のある弁護士に相談しておく必要性が高いのです。
今回の事例の場合
Aさんが窃盗罪で有罪判決を受けた場合、強制送還の手続きが始まってしまいます。
まず、入国管理局がこの事実を知り、入国警備員による調査が行われます。
その後、入国審査官による審査があり、強制送還が決定される可能性があります。
このような状況で重要なのは、早期に弁護士に相談することです。
弁護士は、Aさんがどのような法的手続きを進め、どう対策を取るべきか具体的なアドバイスを提供できます。
特に、異議申し立てや口頭審理の手続きは、弁護士のサポートが不可欠です。
ポイントとなるのは
- 逮捕された直後から専門の弁護士に相談すること
- 裁判になる前に事件を終結させること
- 入管の手続きの経験のある弁護士に相談すること
です。
まとめ
この記事では、強制送還手続きとその法的背景について解説しました。
特に、介護の在留資格を持つAさんが窃盗罪で有罪判決を受けた場合の事例を通じて、手続きの具体的な流れと対策について説明しました。
強制送還の手続きは複雑であり、専門的な知識と対策が必要です。
そのため、早期の弁護士相談が非常に重要であることを強調しました。
法的な問題に直面した場合、適切なアドバイスとサポートが得られるよう、専門家の協力を得ることが肝心です。
上陸拒否されても日本に入国することができるか?上陸拒否の特例について解説
一度強制送還をされてしまうと,多くの場合には再入国を拒否されてしまいます。
再度日本へ入国することを希望する場合,どのような手続きがあるのでしょうか。
「上陸拒否の特例」について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
(架空の事例です)
Aさんは、小学校1年生の時に、南米にある日系移民が多く暮らす町から家族全員で日本に移住してきました。Aさんはおじいさんが日本人の日系3世です。Aさんは父母、弟、妹の5人家族で、Aさんが10歳の時にお父さん、お母さん、弟、妹とAさんの5人全員がA県に移住してきました。AさんはA県の公立高等学校を卒業して、A県にある自動車部品製造会社で、3交代で働いていました。
ある時知人から「この草をたばこのように紙に巻いて吸うと疲れが取れるよ。試してみないか」とすすめられ、興味本位で知人から大麻草0.5グラムを譲り受けました。
Aさんはこの草をインターネットで検索し大麻草であることを知りましたが、最近仕事でストレスがたまっていたこともあり、気分転換のつもりで吸ってもどうせばれないだろうと考え、夜勤明けに会社近くにある公園の駐車場で、紙たばこのようにして大麻草を吸っていたところ、公園を巡回していた警察官に見つかり現行犯逮捕されました。
その後Aさんは起訴され裁判所で懲役8月執行猶予3年の有罪判決を受けました。
この事件が原因で入管からこれまでの素行善良要件に問題があると判断され、Aさんは次の在留更新が不交付となって本国に帰ることになりました。本国に帰ったAさんには親しい知り合いが誰もおらず、小さいころから日本で生活しているため母国語もよくわからないため給料の高い仕事につけず毎日の生活が本当に大変です。なんとか日本に戻って安定した仕事を得て、日本にいる家族と一緒に生活したいAさんですが、入管からは無期限上陸拒否の処分がでているため、観光ビザでの入国すらも拒否されてしまいます。Aさんの大麻取締法違反の刑の執行猶予期間はとっくに経過しており、刑の言い渡しは効力を失っているにもかかわらず(刑法27条)、ほんの出来心でわずかな量の大麻を吸引して日本で罰を受けたAさんは、このままでは永久に日本に戻れません。
一体どうすればAさんは日本に戻ることができるのでしょうか?
Aさんが日本に入国するためには?入管法の規定はどうなっているのか?
入管法では上陸拒否について以下のように規定されています。
<関連条文>
入管法第5条1項
「次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に入国することができない。」
入管法第5条1項では、上陸拒否に該当する事由を列挙しています。
入管法第5条第1項4号
「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁固又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りではない。」
一年以上の懲役若しくは禁固又はこれらに相当する刑に処せられた場合は、無期限上陸拒否となります。ここで注意しなければならないのは、この条文にある「相当する刑に処せられた」です。本来「執行猶予」期間が経過すると刑が失効するにも関わらず、「一年以上の懲役若しくは禁固又はこれらに相当する刑」に「執行猶予」も含めて運用されているため、日本では起訴=有罪がほぼ100%であることから、裁判所から有罪判決を受けたという事実だけで、ほぼ無期限の上陸拒否事由に該当してしまうことになります。
結果として該当者やその家族にとって極めて厳しい選択を強いられる結果となり、事件をおこした外国人だけでなく、その家族にとっても過酷な運用となっています。
例えば入管法第5条1項4号に該当する方の日本人配偶者の場合、家族が一緒に暮らすことを選択した場合は、日本人でありながら日本国内で家族一緒に暮らすことがかなわず、家族全員海外での暮らしを余儀なくされます。子供を日本の学校に通わせたい場合は海外と日本で家族が離れ離れとなり、普通の日本人家庭であればごく当たり前のことが当事者にとってはきわめて困難な選択となる恐れが生じます。
入管法五条一項は上陸拒否の該当事由を列挙していますが、この条文と対になる条文が入管法第五条の二(上陸特別拒否の特例)です。
「法務大臣は、外国人について、前条第一項第四号、第五号、第七号、第九号又は第九号の二に該当する特定の事由がある場合であっても、当該外国人に第二六条第一項の規定により再入国の許可を与えた場合その他の法務省令で定める場合において、相当と認めるときは、法務省令で定めるところにより、当該事由のみによっては上陸を拒否しないとすることができる。」
仮に上陸拒否に該当する事由があったとしても、上陸を認める相当の理由があるときは、入管法五条に該当する事由のみをもって上陸を拒否しない、すなわち「相当の理由」があれば上陸を認める場合もあるということです。
では「相当の理由」とはどのような意味でしょうか?
法務大臣の裁決の特例としての上陸特別許可
入管法第一二条第一、二、三項に該当する場合、入管法第七条一項四号で定める上陸の基準には適合しない場合でも上陸を特別に許可する場合があります。
実務上多い類型として、入管法第十二条第三項の「その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があるとみとめるとき。」が挙げられます。
ここでの「特別に上陸を許可すべき事情」とは、家族の結合など、上陸を認めることが人道上の観点から配慮すべき場合です。
仮に無期限上陸拒否に該当する場合であっても、人道上特別な事情が認められれば、上陸(入国)が認められる余地はあるということです。
在留申請に人道上特別な事情があることを、在留資格認定証明書を通して入管に訴えていきます。
日本に滞在中に有罪判決を受けて日本への入国が拒否されている場合でも、特別に入国が認められることはあります。
上陸拒否を受けて日本への入国を拒否されている方や家族等、日本に入国できずに困っている方は、お一人で悩まずに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の専用窓口(033-5989-0843)までご相談ください。
解決事例 在留特別許可(日本人の配偶者等)が認められた事例
当所の扱った事案について,在留特別許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。
(守秘義務の関係上,事実の詳細を明らかにしない部分があります)
事案
ご依頼者であるXさんは,日本国内にて大麻を所持していたという事案によって,執行猶予付きの懲役刑の判決を受けました。
執行猶予付きの判決ではあったものの,大麻取締法違反の事件でしたので,判決が確定後に,入管から違反調査のための呼出が来ることになりました。
ご依頼の経緯
判決の言い渡し前から,Xさんは,「刑事事件の判決によって自分の在留資格がどのようになるか」という点について不安があり,当所へ相談に来られました。
Xさんは日本で育ち,家族のほとんどが日本で生活しているという状況であるため,違反調査の後,強制送還されてしまうと非常に不利益が大きいという状況でもあり,在留特別許可に向けた活動をご希望でした。
刑事事件の判決が言い渡される前からご相談に来られたことで,事前のリサーチなどを行う時間も十分に確保でき,実際に入管からの違反調査が始まって以降は速やかに正式に代理人として受任し,在留特別許可の獲得に向けた活動を行うことができました。
弁護活動
Xさんに対する違反調査,違反認定については,在宅のままで進められました。Xさんは元々日本で生活していた方で,日本人の家族もいたことから,違反調査があっても在留資格は直ちには影響を受けなかったためです。
違反認定の結果,違反事実があり,口頭審理に進むという段階でも,入管の施設内に収容されてしまうということもなく,身元保証人もいたことから,即日仮放免で出てこられました。
代理人弁護士としては,「Xさんが日本にいなければXさんが困る/Xさん以外にも困る人がいる/Xさんを日本に在留させ続けるのが誰にとっても良い」ということを入管にアピールするために,手続の早い段階から,Xさんが置かれた状況について入管の担当者に対して説明を行いました。
口頭審理が行われる前から,先だって在留特別許可を求める具体的な事情を述べ,また,入管が判断する基準に基づいても「在留特別許可するべきである」という意見と理由をつけた意見書を提出しました。ただ意見を言うだけではなく,Xさんのご家族からも嘆願書をもらう等して,資料を集めました。
実際の口頭審理の場でも,弁護士が立ち会い,Xさんに在留資格が付与されるべきであることの意見を述べ,審理の中でXさんにとって不利な供述がなされてしまわないかどうかを立会確認しました。
口頭審理の結果
口頭審理から約2週間程度という速さで,結果が出て,在留特別許可が認められることになりました。
Xさんはもともと,「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していましたので,在留特別許可(日本人の配偶者等,在留期間1年)という形で認められました。
Xさんは日本で家族との生活を続けられることになり,お仕事についても日本の法律上,何らの問題もなく続けられることとなりました。
ポイント
Xさんの事件では,Xさんが日本に長く在留していたこと,日本に家族がいたことが審理において非常に有利な点として考慮してもらう事ができました。また,Xさんの事例では,Xさん自身が日本で仕事をしていたこと,この仕事が日本や地域社会の利益にもつながっていたことも,入管に対して主張していました。
ただ,大麻をはじめとした薬物事件というのは,やはり入管業務においても重たい事案として扱われていることも事実です。
刑事裁判の結果についても触れて,その責任が必ずしも重大なものではないことについても,刑事弁護的な観点から意見を述べています。
よりよい弁護活動や一貫した弁護活動を目指すのであれば,刑事裁判の段階から入管まで見据えた弁護活動が望ましいでしょう。
今後も在留資格や強制送還に関する手続きでお困りの方,そのご家族の力になれるよう,事案に取り組んでいきたいと思っております。
窃盗罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。
「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していたXさん(40代女性)は,東京都板橋区のスーパーマーケットで「お金を払うのが勿体ない」と思ってしまい,食料品等を約1000円分を万引きし,その様子を見ていた私服警備員に現行犯人逮捕されてしまいました。
Xさんの夫である日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。
窃盗罪の場合には,強制送還があり得る
これまで当サイトにて解説している通り,入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
参考記事 強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
Xさんの事例のように,万引きの場合だと,窃盗罪が成立します。窃盗罪に対しては「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられています。
そして,「窃盗罪」というのは,上記の「一定の刑法犯」に含まれています。
執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。
-
- 住居侵入罪
- 公文書/私文書偽造罪
- 傷害罪,暴行罪
- 窃盗罪,強盗罪
- 詐欺罪,恐喝罪
これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。
外国人の方が万引きによって逮捕されてしまった場合には
- 不起訴になる
- 無罪を獲得する
- 罰金刑で済ませる
ことができないと,強制送還される可能性があるのです。
有罪になったら必ず強制送還か
それでは,Xさんの事例で,起訴されて有罪の判決を受けたら必ず強制送還になるのでしょうか。
実は,「一定の刑法犯」で強制送還になる人というのは,その時の在留資格によって変わります。
一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。
入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページでも列挙されています。
Xさんのように,「日本人の配偶者等」,「永住者」,「永住者の配偶者等」,「定住者」の在留資格であれば入管法の別表2ですから,執行猶予付きの有罪判決を受けたとしても強制送還にはなりません。
ただし,強制送還にならないからと言って全く不利益がないわけではなく,在留期間の更新の時に認められる在留期間が短くなったり,永住許可申請の時に不利な事情として扱われたりします。
強制送還にはならないとしても,その後の日本での在留に関して不利益にならないよう,刑事事件の段階でなるべく軽い処分が得られるように早期に対応しておくことが重要です。
強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
(この事例は入管手続き,刑事手続について解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。
「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していたXさん(30代男性)は,東京都新宿区の居酒屋で開かれた飲み会の帰り道,酔いすぎたせいか,好みの見た目をしていた女性に対して,路上で抱き着いてしまい,その場で通行人に現行犯人逮捕されてしまいました。
Xさんと交際していた日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。
「逮捕=強制送還」ではない
Xさんの事例のように,外国籍の方が日本で逮捕されてしまうと,「すぐに強制送還されるのではないか」と不安にある方が多くいらっしゃいます。
ですが,実際に強制送還される場合というのは入管法に規定されており,この規定に当たらない限りは「強制送還できない」ということになります。
入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。
ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。
特に,薬物事件や入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。
逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。
Xさんの事例の,強制わいせつ罪(刑法176条)の場合には「1年を超える実刑判決」を受けた場合に限り,強制送還の対象となります。
そのためXさんの事例では,起訴されないための弁護活動,仮に起訴されたとしても執行猶予を獲得できるような弁護活動に重点を置くことになります。
実刑判決にならなければOK?
それではXさんの事例で,実刑判決を回避できれば万事解決となるでしょうか。
Xさんの場合には,「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していますから,当然「在留期間」というものが決まっています。
短い人は6か月や1年,最長でも5年の在留期間が決まっており,定められた在留期間以降も日本に留まることを希望する場合には,「在留期間の更新」をしなければなりません。
強制送還をされなかったとしても,Xさんが日本での長期的な在留を望む場合,「強制わいせつ罪で逮捕された」という事実が在留期間の更新手続きの中で不利に働くことがあります。
在留期間の更新については
- 在留資格の基礎となる活動が適切なものであるから
- 在留期間を更新するのが相当であるか
という点が審査されます。「逮捕された」という事実は,このうち「更新するのが相当であるか」という点に影響してきます。
日本で逮捕されたことがある,という事実は,日本での生活の素行が悪いという方向の事実であるからです。
刑事事件と在留期間の更新については,やや事案は異なりますが裁判例について解説したものもありますので,併せてご覧下さい。
逮捕されたことで強制送還されるのではないか,在留資格に影響が出るのではないか,とご心配のある方は,一度弁護士にご相談ください。
偽装結婚かどうかが争われた裁判例 その1
このページでは,偽装結婚かどうかを争った刑事裁判について,判決を解説します。
今回の事例は,平成23年12月27日に静岡地方裁判所浜松支部で判決が言い渡された事例です。 (さらに…)
在留特別許可を争った裁判事例 大阪高裁判決その5
このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,平成25年12月20日に大阪高等裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,短期滞在の在留資格で来日した外国人夫婦が,日本で子供二人を設けて生活していたものの,家族4人とも在留資格がなく,または在留期限を超えて不法残留を続けていたという事案です。入国管理局がこの家族を摘発し,家族4人全員について退去強制令書(強制送還)の手続きがなされたため,この家族は退去強制令書(強制送還)の取消しと,在留特別許可を求めて,大阪地方裁判所で裁判を起こしました。
一審では,
①家族4人に対する退去強制令書(強制送還)の手続きは適法であり
②在留特別許可をする事案ではない
と判断されたため,家族4人は全員で控訴しました。
控訴審では,一審の判決が覆り,家族全員について在留特別許可を与えるのが相当であるとされて,退去強制令書(強制送還)の手続きが取り消されました。
在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所判決その3
このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,令和元年12月19日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,刑事事件について有罪判決を受けて一度在留特別許可を受けていたXさんが,再度別の事件について有罪判決(懲役刑の実刑判決)を受けたため退去強制(強制送還)の手続きが進められましたが,Xさんは再度在留特別許可を求めて裁判を起こしたというものです。
在留特別許可を争った裁判事例 東京地方裁判所判決その2
このページでは,在留特別許可を求めて裁判まで争われた事例について,判決文を見ながら解説をします。
今回解説する事例は,令和元年12月24日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,日本で生まれた外国籍の男性Xさんが在留特別不許可となったため裁判を起こしたところ,裁判所は法務大臣の判断を肯定したものです。
既に紹介している東京地方裁判所民事第2部令和2年2月18日判決の事案と似ている部分もありますが,裁判所の判断としては在留特別許可は不許可のままとなりました。
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