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同性婚の場合の在留資格はどうなるのか?その2
2022年9月30日,日本人と同性婚をした外国籍の方が,国を被告として起こしていた裁判について判決の言い渡しがあり,外国籍の方の主張について一部容れた判断をしたという報道がありました。
報道:日米同性カップル、定住資格認めず 「特定活動」を与えないのは違法 朝日新聞デジタル
訴訟の内容
訴訟において訴えていたのは,「定住者」としての在留資格を付与するように,というものです。
そもそも,日本にいる外国人同士の方で同性婚をしている方については,「特定活動」としての在留資格を認めています。しかし,日本人と外国人とが同性婚をした場合の扱いについては何も規定がありませんでした。
この訴訟で原告となった外国籍の方も,日本人の方と同性婚をした後,入管で「定住者」の在留資格の変更を申請しましたが,入管はこの申請に対して不許可処分としていました。
訴訟の中で外国籍の方は,異性婚であれば「日本人の配偶者等」として在留資格が認められるのだから同性婚の場合にも同様に保護されるべき等と言った主張をしていました。
判決の内容
判決の主文としては,原告の外国籍の方の訴え(定住者としての在留資格を付与する)を認めたものではありませんでしたが,入管の対応について違法があった事を認めました。
違法とされた点は,「外国人同士の同性婚」と「日本人と外国人の同性婚」で扱いという部分で,このように扱いが違うのは法の下の平等を定めた憲法14条の趣旨に反する,とまで判断しました。そして,同性婚に対して,「日本人の配偶者等」と同じ在留資格までは認められないものの,外国人同士の同性婚と同じ「特定活動」の在留資格を認めなかったのは違法である,と判断をしました。
直接の憲法の違反であるとまでは言いませんでしたが,憲法14条に言及して入管の対応について違法な点があったとまで触れた点は,一歩踏み込んだ判決であるといえるでしょう。裁判において憲法論を扱う,それも,憲法に違反するかもしれないという判断をするということは,先例としても大きな意味を持つ裁判例になります。
判決文の全文は公開されていないため,それ以上の詳しい主張や証拠については分からないところですが,報道などによれば,今後の入管における取扱いとして,日本人と外国人との同性婚において,外国人の方に対しては「特定活動」の在留資格を付与することとなっているようです。また,原告となった外国籍の方は,「定住者」の在留資格が認められなかった点について不服が残るので控訴を申し立てるとのことです。
定住者と特定活動との違い
定住者とは,日本とのつながりや活動内容に応じて,法務大臣が個別の事情を考慮して付与する在留資格です。
「定住者」の在留資格は,就労ビザや留学ビザなどと異なり,基本的には職業に制限がありません。また,定住者として「3年」以上の在留期間がもらえていれば,「永住者」へ在留資格の変更ができる場合があります。
定住者と特定活動の在留資格との大きな違いとして,この,永住者への変更のしやすさというものがあります。
定住者の場合には「3年」以上の在留期間で良いのですが,「特定活動」の場合には「5年」の在留期間が認められないと永住者への変更ができない場合があります。より早く永住者の在留資格を得られるのは「定住者」の方になります。
上記の報道のあった事件で原告の方が「定住者」の在留資格を求めて争っている理由の一つとして,永住者の在留資格の得やすさという点も考慮されているのかもしれません。
同性婚の場合の在留資格はどうなるのか?
日本において,法律上婚姻は「両性の合意」によって成立するものとされています。そのため,日本の民法では異性婚heterosexual marrigeのみが法律上有効なものとして規定されています。
そのため,入管法での「配偶者ビザ」は,日本人夫と婚姻している外国人妻,もしくは日本人妻と婚姻している外国人夫でなければ認められていません。
参考:日本人の配偶者等 日本人の配偶者若しくは特別養子又は日本人の子として出生した者
ここでいう「配偶者」とは,「法文上,日本人の配偶者であること,すなわち日本人と当該外国人との間の法律上の婚姻関係しか要求していない」ということになる。
コンメンタール出入国管理及び難民認定法2012
ところで近年,性的指向についても異性愛のみならず,同性愛,同性婚に対しても異性婚と同様の法律上の保護を認めようという動きが活発化しています。
例えば東京都では16の市区町村でパートナーシップ制度が導入されています。自治体によって制度の詳細は異なりますが,パートナーシップ宣言をしているカップルに対しては,法律上の家族と同様の扱いをする,例えば行政サービスを受ける時に同じ世帯として扱う,死亡時の情報公開制度の当事者として扱う,医療を受ける時の家族と同じ扱いとする等といった制度です。
では,入管上の扱いはどのようになっているのでしょうか。
基本的には「配偶者等」としていない
2022年時点においては,入管法上の「配偶者」は日本の民法で有効に成立した夫婦,つまり,異性婚の配偶者のみが該当します。
そのため,同性婚をして地方自治体でのパートナーシップ宣言をしていた場合であっても,入管法上の「日本人の配偶者等」の在留資格を取得することはできないことになっています。
外国人の方が同性婚をして日本での在留を希望する場合には,「日本人の配偶者等」以外の在留資格を得なければならないことになります。
同性婚の場合の在留資格は「特定活動」
同性婚の配偶者の日本でのビザは「特定活動」になります。
平成25年10月18日に,法務省が各地方出入国管理局に対して出した通知には,外国で適法に成立している同性婚の場合には,人道上の理由から外国と同様に安定した生活できるように,原則として「特定活動」としての入国,在留を認めるようにとされています。
※法務省管在第5357号
「外国で成立している同性婚」と挙げられているように,この通知によって「特定活動」の在留資格が認められているのは,外国人同士で同性婚をした場合を指しています。また,同性婚の外国人両方に在留資格を認めるのではなくて,「他の在留資格で日本で生活している外国人」と同性婚をした外国人の方に,特定活動の在留資格を認めるというものです。
例えば,技術人文知識,国際業務のビザを持っているAさんが,Bさんと同性婚をした場合,Bさんは「特定活動」の在留資格を得て日本で生活することができるというわけです。
一方,短期滞在で日本に来たAさんとBさんが同性婚をしたとしても,AさんとBさんの両方に対して「特定活動」のビザが与えられるわけではないのです。
このように,日本の入管法では「外国人同士の同性婚」については在留資格を認めるという運用を行ってきました。その理由が,「外国で同性婚が成立しているのであれば,日本で本国と同じように安定した生活ができるようにしよう」という目的で特定活動を認めていたからです。
そのため,これまでは日本人と同性婚をした外国人の方に対して在留資格を認めていませんでした。この点について,国に対して特定活動の在留資格を認めるように訴えていた方の裁判があり,2022年9月30日に東京地方裁判所での判決が出されました。
次回はこの判決の内容と特定活動,定住者の在留資格について解説をします。
オーバーステイで入管へ出頭,その場で逮捕されるのか?日本人と結婚していた場合を弁護士事務所が解説
(次の事例は解説のための架空の事例です)
Aさん(東京都在住,独身)はSNSを通じて知り合ったX国出身のBさんと仲良くなり,将来結婚することを考えるようになりました。
AさんとBさんは結婚して,日本で生活をしようと思ったため,Bさんは「日本人の配偶者等」の在留資格を取得しようと考えました。
しかし,実はBさんは留学生ビザで来日したものの,オーバーステイとなり,Aさんと出会った時から不法残留の状態になってしまっていました。
Aさんも,Bさんから不法残留,オーバーステイの事実を聞きましたが,それでも結婚して日本で夫婦生活を継続したいと思い,インターネットサイト等を見たところ,「入管に出頭した方が良い」との記事を見つけます。Aさんは,Bさんに「配偶者ビザをもらうために,一度入管に出頭しよう」と相談しましたが,Bさんは「入管ですぐ逮捕されるのではないか」と不安です。
そこでAさんとBさんは,法律事務所に相談することにしました。
不法残留に対する対応
日本の入管は,基本的に不法残留に対しては退去強制(強制送還)の手続きをとります。
Aさん,Bさんのように「配偶者ビザをもらうために出頭した」という場合であったとしても,まずは退去強制手続きを行います。
この退去強制手続きを行う中で,日本人の配偶者等として在留特別許可をするかどうかについての審査が行われます。
注意しなければならないのは「在留資格の変更」や「新たな取得」を申請することはできない,ということです。
一度日本国内においてオーバーステイとなってしまうと,元々持っていた在留資格が失効(効果がなくなる)しますので,「延長」であるとか,「変更」の手続きをすることはできません。
延長や変更は,「元々,適法に持っていた在留資格を別のものに変更したり,在留期間を延長したりする」という手続きですから,適法な在留資格がないオーバーステイ状態では取れない手続きということになります。
Aさんのように,親しい方や婚約者である外国籍の人がオーバーステイ(不法残留)であることが分かった時の対応の仕方として,入管へ出頭する,というのは一つの選択肢であります。
というのも,Bさんのように不法残留の状態だと,放っておいても在留資格が認められることはないため,仮にきちんとした在留資格を取得しようと思うのであれば,入管へ出頭する以外には現実的な手段がないのです。
入管に出頭したら逮捕されるのか
それではBさんのように,不法残留の状態で入管に出頭した場合,その場で逮捕されてしまうのでしょうか。
結論としては,逮捕されない場合もあるというものになります。
というのも,確かに入管は不法残留や不法就労について摘発を行うことがありますが,実際に不法残留について逮捕したり捜査を行ったりするのは,警察官がほとんどです。
また,不法残留の人が入管に出頭したという場合であっても,すぐに入管が警察へ連絡するというわけでもありません。
実際には,不法残留になった期間や日本での生活の状況,出頭した経緯や在留特別許可となる見込みがどれだけあるか等といった事情を加味して,入管としての対応が決まることになります。
たとえば,不法残留になってからの期間が短かった,不法残留以外には日本での法律違反がない,出頭した事情から見て在留特別許可がされる可能性が高い,というものであれば,入管としても警察へ通報しないということがあるでしょう。
逆に,在留カードを偽造していた場合や,長い期間にわたって不法就労をしていたというような場合,不法残留以外に日本での法律違反がある等という場合には,入管から警察への通報がなされるということがあります。
在留特別許可については法務省が許可した事例と不許可にした事例を公表しています。
Bさんの事例のように,「日本人の配偶者等」としての在留資格を求めて出頭したという場合ですと,他に法律違反がなければ,逮捕されないままで手続きが進むということも考えられるでしょう。
ただ,Bさんのように「入管に出頭したら逮捕されてしまうのではないか」と不安に思うのも無理ありません。実際にオーバーステイの状態になってしまっているのであれば,なおさらです。
不法残留(オーバーステイ)の状態になっているけれども日本でのビザが欲しい,きちんとビザをもらうために入管に出頭したい,と考えている方も,あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
刑事事件に強い弁護士が,入管の手続きについても対応します。刑事事件については多数の経験がありますから,逮捕される可能性がある事案についても,ご依頼者様の利益を最大化できるような選択肢を一緒に考えていきましょう。
外国人に対する判決期日での手続
日本に在留する外国人の方が日本国内で刑事裁判を受ける場合,判決の結果によって在留資格が影響を受けたり,退去強制に関する手続きが開始されたりします。
2021年の統計資料によると,2021年のうちに日本で起訴された外国人は7932人になります(検察統計調査2021年罪名別 起訴又は起訴猶予の処分に付した外国人被疑事件の国籍別人員)。
この人数は,有罪となった人,無罪となった人の両方を含みますが,大半の人が何らかの罪名で有罪の判決を受けたであろうと推測されます。
起訴された方の罪名として,特に数が多いのが,窃盗罪(1716人),出入国管理及び難民認定法違反(2270人)です。
これらの罪名について,判決の言い渡しがあり,有罪判決となった後の手続はどのようになるのでしょう。
一般的な手続きの流れ
外国人の方が刑事事件の被告人となった場合,多くの場合では勾留されたまま裁判を受けることになります。日本に在留している外国人の方の場合,「裁判期間中に母国へ出国してそのまま帰ってこないかもしれない」という疑いをもたれ,逮捕される事案が多いからです。
事実関係について認めている事件であれば,結審すると,次回期日が判決の言い渡しとなります。
判決の言い渡し期日では有罪の判決が言い渡されると,有罪の起訴となった罪名とその人の在留資格に応じて退去強制(強制送還)の手続きが開始されることがあります。
具体的には,判決言渡し期日に入管職員が傍聴に来ており,期日が終結すると,そのまま入管職員が被告人(外国籍の方)を連れて最寄りの入管へ行きます。そこで退去強制手続きに伴う収容状が発布され,今度は入管の収容場に収容されることとなります。
ただし,その後の手続の見通しや日本に身元引受人がいるかどうかといった点を考慮して,収容状が発付されたとしても当日中に仮放免が認められる場合が多くあります。
「有罪判決の言い渡しを受けた後,入管へ行ったけれども,一旦かえって良いと言われた」という方もいますが,その場合のほとんどは当日中に仮放免を受けているということになります。
単純なオーバーステイであるとか,退去強制事由に該当するとしても在留特別許可が認められる可能性があるという事案であれば,当日中に仮放免になるということもあります。
入管の施設に収容された場合であっても,一時仮放免が認められた場合であっても,その後の「違反調査」は進められることになります。
特に,入管に収容されたままで退去強制に関する手続きが進んでしまった場合,判決から60日以内に「口頭審理」という手続きまで進むことになります。仮に,有罪判決後も日本での在留を希望する場合には,この「口頭審理」での手続きが非常に重要になります。
すぐに入管へ行く場合/後日呼び出される場合
判決言い渡し期日に入管職員が控えている場合と,そうでない場合とがあります。
この違いは,判決の言い渡し後すぐに退去強制手続きがスタートするかどうかという点です。
では,退去強制手続きがいつスタートするかというと,それは在留資格や有罪となった罪名によって異なります。
外国人で刑事事件となるケースの中で特に多い,出入国管理及び難民認定法違反(いわゆる,入管法違反)や窃盗罪で有罪となった場合,判決言い渡し後直ちに退去強制手続きがスタートするというわけではありません。有罪の判決によって退去強制の理由となるには,判決が確定する必要があります。この判決が確定するまでは,控訴を申し立てないまま,判決言い渡し日を含めて15日が経過することで確定します。
一定の入管法違反の場合には在留資格を問わず,窃盗罪の場合には就労系の在留資格や留学等の在留資格の場合,判決の確定によって退去強制手続きがスタートすることになります。
「判決の確定」が退去強制の理由となる場合には,後日入管から呼び出されて,退去強制に関する手続きがスタートすることになります。
一方,入管法違反,特に,オーバーステイの場合には,刑事裁判が始まる前から,警察署や拘置所の中で入管職員が外国人の方から事情聴取を行っています。その場合,刑事裁判の確定を待たず,「オーバーステイをしていた」こと自体が退去強制を行う理由となるのです。そのため,判決の言い渡し期日にも入管職員が控えており,刑事裁判が終わったら直ちに入管での手続きが進むことになるため,そのまま入管へ連れていかれる,ということになるのです。
同じ外国人の方であっても,刑事裁判の後すぐに入管へ行くのか,後日呼び出しがあるのか,退去強制に関する手続きがどのように進んでいくのか,というのは,その人が置かれた状況によって異なります。
日本で刑事裁判の判決を控えているという方,特に,判決後も日本での在留を希望するという方は,早めに弁護士などの専門家に相談しておいた方が良いでしょう。
外国人の子供のビザ,外国人の親のビザ
日本で生活している外国人の方の中には,
・母国で生活している親を日本に呼びたい
・離れて暮らしている子供と日本で生活したい
という方が多くいるでしょう。
日本にいる外国人の方が,自分の親や子供を日本に呼び寄せる時に活用できる在留資格について解説をします。
外国人の子供のビザ
外国人の方の子供を呼び寄せようとする場合,
- 日本にいる外国人親の在留資格(ビザ)が何なのか
- 呼び寄せようと思う子供の年齢がいくつなのか
によって,ビザの種類やビザの取りやすさが変わってきます。
日本にいる外国人親の在留資格が,就労系の在留資格または,文化活動だった場合,家族滞在の在留資格で,その子供も日本での滞在が認められます。
就労系の在留資格とは,教授,芸術,宗教,報道,経営管理,法律・会計業務,医療,研究,教育,技術,人文知識・国際業務,企業内転勤,介護,興行,技能,特定技能2号の場合を言います。
技能実習生と特定技能1号の人は,家族滞在ビザで子供を呼び寄せることができません。
外国人親の在留資格が「日本人の配偶者等」,「永住者」,「定住者」である場合には,その子供と日本との関係が重要になります。
呼び寄せようと思う子供が日本人,永住者の実子なのであれば,子供も同様に「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」の在留資格が認められます。
もっとも複雑なのが,子供が,外国人の実子ではあるけれども日本人の実子ではない(連れ子),というパターンです。
この場合,子供と日本人との関係によっては,「定住者」の在留資格が認められます。この場合,子供が18歳未満で,結婚しておらず,外国人の実子であるという点が重要です。
いずれの在留資格であっても,子供を日本に呼び寄せようと思う場合,その子供が「扶養を受ける」,つまり,日本にいる人に養ってもらって生活をするという事情がなければ子供としての在留資格は認められません。
自分で生計を立てられる(養われなくても生活ができる)というのであれば日本に呼び寄せる必要はないし,仕事に応じた就労系の在留資格を取得すればよい,ということです。
外国人の親のビザ
外国人の親を呼び寄せる場合,法文上は,ビザは「特定活動」の在留資格しかありません。
明確に認められるのは,「高度専門職1号,2号の外国人」の親です。それも,日本にいる外国人に7歳未満の子供(妊娠中の場合を含む)がいて,小さい子供の世話をする間,親(おじいちゃん,おばあちゃんの立場)に日本に来てもらって家事のお手伝いをしてもらうという場合です。
その他の在留資格の方が外国から親を呼び寄せようと思う場合には,「告示外特定活動」のビザを取得するしかありません。「老親介護」とも言われることがあります。
日本に滞在している外国人又は日本人の実の親で,本国で生活しており身寄りのいない場合に,人道上の理由から「特定活動」としての在留資格が認められる場合があります。
「老親介護」のための特定活動の在留資格を申請しようと思う場合,日本にいる外国人以外に適切な扶養者がいないこと,日本で親を扶養する資力が十分にあること等が審査の項目になります。
老親介護のための特定活動ビザの申請は,本人に一度,短期滞在等のビザで来日してもらった後で,在留資格変更許可申請(短期滞在→特定活動)をすることになります。
親のビザ,子供のビザについては弁護士等の専門家にご相談ください。
「日本人の配偶者等」の在留期間が短くなったらどうする
現在,「日本人の配偶者等」の在留資格をもって日本に在留している外国人の方が多くいます。
「短期滞在」(旅行者など)の在留資格で入国する方を除くと,「定住者」についで数の多い在留資格です。
この「日本人の配偶者等」の在留資格も,「永住者」と違って在留期間が設定されており,永続的な日本での在留を希望する場合には都度,更新をしなければなりません。
「日本に滞在できる期間」という点で,在留期間の定めには意味があるものですが,実際にはさらに重要になる場面があります。
また,「思っていたよりも短い期間しか更新が認められなかった」という場合もあります。
在留期間の長さが重要になる場合
在留期間の長さが重要になる場合,それは永住許可申請をしようとする場合です。
永住許可を受ける場合に必要な条件の中に,次のようなものがあります。
・入管法施行規則に規定されている最長の在留期間をもって在留していること
在留期間について,「最長の期間が認められている場合でなければ永住許可をしないよ」ということです。
そして,当面の期間はこの「最長の在留期間」とは「3年」とされています。
「日本人の配偶者等」の在留資格の場合,在留期間については
5年,3年,1年,6か月
のいずれかが付与されることになっています。
そのため,3年の在留期間となるのか,1年の在留期間となるのかという点は,永住許可申請をすることができるかどうかについて非常に大きな差となるのです。
どのようにして在留期間が決まるのか
「日本人の配偶者等」の在留資格に該当することを証明できたとして,実際の資格付与の際には具体的な在留期間が決定されます。
この「在留期間」の決め方は,個別の在留資格によって異なります。
「日本人の配偶者等」の場合についてみると,在留資格を取得した最初のタイミングだと1年,その後の更新の際に3年,5年と延長が認められる場合が多くあります。
特に,実態を伴った婚姻生活が継続していることが,長期間の在留期間が認められるためには重要になります。「日本人の配偶者等」の在留資格を最初に取得した際の在留期間が1年とされるのも,「これから先きちんと実態のある婚姻生活が継続するかどうか」という点がまだ分からない(結婚してその後の生活が安定するかどうか分からない)という点から,「1年」の在留期間とされるのです。
その後,更新を重ねていく中で「日本での婚姻生活が継続している」と認められれば,3年,5年の在留期間が認められることになります。
逆に,全く別居していて夫婦間での交流がなく経済的にも完全に独立している,といった夫婦の場合だと,「実態を伴った婚姻生活が継続していない」として長期の在留期間が認められない場合もあります。
在留期間の更新の際にも,夫婦関係が継続していることをきちんと疎明しておく必要があるでしょう。
解決事例 永住許可が認められた事例
当所の扱った事案について,永住許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。
事案・ご依頼の経緯
ご依頼者であるXさんは「定住者」の在留資格を取得して日本で生活していました。
日本での生活が10年以上にわたり,より安定してた生活を送り,長期間にわたって日本で在留し続けたいと考えたXさんは,「永住許可」を申請しました。
しかし10年以上日本で生活していた実績があるにもかかわらず,Xさんの永住許可申請は「不許可」となってしまいました。
「定住者」としての在留資格は維持できていたものの,在留期間の更新手続きを行わなければならないこと点や日本でのローンが組みにくい点など,日本での生活に不便さがありました。
そこで,Xさんは再度,永住許可申請をしようと考え,申請の際には弁護士に手続きを依頼することにしました。
永住許可に向けた活動
永住許可申請は法律上,外国人本人でも行える手続きです。しかし,実際にはどんな場合に永住許可がもらえるのか,永住許可のためにはどんな事情や書類が必要なのかということについては,あまり理解されていないことが多くあります。
永住が認められる場合というのは,
の全てを満たしている場合です。
詳しくはこちらでも解説しています。
Xさんの事例でもそうだったのですが,永住許可申請のためには大量の書類を整理して入管に提出しなければなりません。
そのうち一部の書類が欠けているだけで,永住が不許可となってしまいます。実際,きちんと書類を全部出していれば「永住者」になれたはずなのに,書類がなかったからという理由で永住申請が「不許可」となることはとても多いのです。
Xさんの依頼を受けた弁護士も,ご本人や入管から書類を取り寄せて,永住申請のために必要な書類を整理して寄り分けて,申請書を作成しました。
提出する書類が大量にあるということは,そのすべてに矛盾しないような申請書を作成しなければいけません。書類同士で記載が違っていたり,提出した書類と申請書とで食い違いがあると,入管からは「虚偽の申請をしているのではないか」という疑いをかけられることになり,申請が不許可となってしまう可能性があります。
また,申請書を提出した後も,入管から資料の追加や理由書の提出を求められることがあります。入管がこのように求めて来るということは「今の申請書や書類だけでは永住許可することが難しい」と考えているということです。追加提出資料についてもきちんと対応する必要があります。
Xさんの事例でも,申請書類,提出資料を整えて提出し,入管から追加提出の指示があった資料に関しても適切に対応したところ,申請から約3か月ほどで永住許可が認められました。
ご自身で在留資格の変更申請,永住許可申請をしたものの不許可だったという方は,一度弁護士にもご相談ください。
オーバーステイになった後もビザを取得することができるか?
(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と事例は必ずしも関係ありません)。
Xさんは留学生として来日し,日本で専門学校を卒業しましたが,留学ビザが切れた後も日本での在留を続け,飲食店でのアルバイトなどをしながら生計を立てていました。
ある時,Xさんは路上て職務質問を受け,警察官に在留カードを確認され,オーバーステイとなっていることが明らかになったため現行犯人逮捕されてしまいました。
Xさんは,改めて日本でビザを取り直して在留を続けたいと思っています。
オーバーステイ後の資格の変更/取得
Xさんのように,ときたま,「元々在留資格をもっていてオーバーステイになってしまったけれども,新しく在留資格を取得することができるか」という相談があります。
これについて結論として,オーバーステイとなった後で在留資格を取得することは原則としてできません。
在留資格というのは,日本に上陸しようとする際に,又は,日本国内で外国国籍として生まれた場合に取得するものであり,日本で在留している間に一度ビザが切れてしまうと,日本にいながら再度ビザを取得するという手続きはないのです。
「在留資格認定証明書」を取得するという手続きがありますが,これは,
①まだ日本にいない人が,日本へ上陸する前にビザがあることを証明する
②日本で別の在留資格をもっている人が,在留資格を変更したり転職したりするときにビザがあることを証明する
というために行うものです。
そのため,一度ビザが切れてしまった人は,在留資格認定証明書を取ることもできません。
同様の理由で,在留資格の変更をすることもできません。
「資格の変更」というのは,有効期間内のビザを変更する,というものです。有効期間が切れてしまっているビザでは,それを別のものに変更するということもできないのです。
Xさんのように,一度オーバーステイとなってしまうと,基本的に,在留資格を新しく取得するということはできないのです。
日本での在留が認められる場合
オーバーステイとなってしまった後,日本での適法な在留が認められる場合として,在留特別許可が出た場合があります。
在留特別許可というのは,本来であれば強制送還の対象となる人であっても,法律で定められている場合に該当する人に対しては,特別に在留を認めることがあるというものです。
- 永住許可を受けているとき。
- かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
- 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
- その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。
以上のような場合には,法務大臣(もしくは各出入国在留管理局長)が在留特別許可をすることができます。
そして在留特別許可が認められた場合の大半は,一番最後の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」として許可がなされています。
どのような場合にこの在留特別許可が認められるのかという点について,はっきりとした基準があるわけではないのですが,日本に家族がいるのかどうか,どのような理由で強制送還の対象になっているのか,といった事情を総合的に考慮して決められることになります。
特に,日本人の配偶者がいる,日本人の子供がいて実際に扶養しなければならない,といった事情は,在留特別許可を認める上で大きなプラスになる事情です。
Xさんの事例のように,単に留学生として在留しており,アルバイトなどで生計を立てていたというだけでは,在留特別許可をもらうことは非常に難しいでしょう。
オーバーステイとなってしまった後も日本での在留を続けたいという場合,どんな理由で日本に残りたいのかという点が非常に重要です。理由次第では在留特別許可が認められやすいという場合もありますし,「およそ無理でしょう」という場合もあります。
オーバーステイ,在留特別許可については弁護士にご相談ください。
永住権が取り消されることもある?永住権を守るためにどうしたらいいか
このページでは,永住許可が取り消されることがあるのか,取り消されそうになった時にどのように対応すべきなのかについて解説をします。
永住権は取り消される?
「永住者」(永住権)の在留資格は,日本で生活する外国人の方にとって,最も安定した在留資格であって,長期間日本で生活することを考えている方であれば,「できれば永住許可を受けたい」と思う方が多いのではないでしょうか。
「永住者」のメリットとしては
- 在留期間が無期限で更新する必要がない
- 仕事の制限がない
- 結婚したら配偶者は「永住者の配偶者等」という在留資格となり,ほぼ永住者と同じ扱いを得られる
というものがあります。これらのメリットは,他の在留資格における手間やリスクといったものを覆すようなもので,「永住者」が「最も安定した在留資格」と言われる理由でもあります。
ただ,この「永住者」の在留資格であっても,取り消される場合というのがあります。
「永住者」であっても在留資格を取り消される場合としてありうるのは,大きく分けて次のような場合です。
- 永住許可申請の時に虚偽の申立てをしたり,偽造した文書を提出して永住許可を受けていた場合
- 日本で犯罪をした事によって,一定の処分や刑罰を受けた場合
虚偽の申立て等をした場合としては,例えば日本で犯罪歴があったのに申告しなかった場合や,仕事場や住所・家族構成について虚偽の申請をした場合,納税や社会保険料の納付に関して文書を偽造して提出していたという場合があります。
また,日本で犯罪をした事によって処分や刑罰を受けた場合,永住者の方であっても,退去強制(強制送還)の手続きが始まることがあります。
永住者であっても退去強制(強制送還)となってしまう可能性があるものとしては,
売春に従事しているとされた
1年以上の実刑判決
入管法違反,旅券法違反,薬物関係の事件で有罪の判決を受けた
と言ったものがあります。これらの場合には,たとえ永住者であったとしても強制送還されるおそれがあり,そうなると永住者としての在留資格も失ってしまうことになります。
永住権を守るために出来ること
それでは,永住者としての在留資格が取り消されてしまうかもしれない場合において,どのようなことができるでしょうか。
まず,虚偽の申立てや偽造した文書を提出したことを理由として永住許可が取り消されそうになってしまったという場合,申し立ての内容や提出した文書に誤りがないかどうかをよく確認する必要があります。本当に,永住許可が欲しくて嘘をついてしまったのか,それとも勘違いや誤解から真実と異なる申立てをしてしまっただけなのかによって,永住許可が取り消されるかどうかが変わってきます。
永住許可の取り消しについても,入管で事情聴取がありますから,勘違いや誤解があるという場合には説得的にそれを主張しなければなりません。
また,本当に嘘をついてしまったという場合や日本で犯罪をした事によって処分や刑罰を受けたという場合,強制送還に関する手続きの中で,在留特別許可を求めていかなければなりません。
この在留特別許可を求める際に,過去に「永住者」の在留資格を取得していた,ということは,それだけ日本で定着して生活をしていたということですから,在留特別許可をもらいやすくなる事情として働きます。
「永住者だった」というだけでなく,個別の事件における事情や,日本に残らなければならないという事情,日本から出国してしまうと困る事情を広く集めて,入管での事情聴取や口頭審理(インタビュー)手続きの中で強く主張しておかなければなりません。
口頭審理の手続きについて,事前に準備しておくべきことはこちらでも解説しています。
入管での口頭審理手続きについては,家族とは別で弁護士も立ち会うことができます。
永住許可の取消や強制送還の手続きでお困りのことがある方は,一度弁護士にも相談してみましょう。
窃盗罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。
「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していたXさん(40代女性)は,東京都板橋区のスーパーマーケットで「お金を払うのが勿体ない」と思ってしまい,食料品等を約1000円分を万引きし,その様子を見ていた私服警備員に現行犯人逮捕されてしまいました。
Xさんの夫である日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。
窃盗罪の場合には,強制送還があり得る
これまで当サイトにて解説している通り,入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
参考記事 強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
Xさんの事例のように,万引きの場合だと,窃盗罪が成立します。窃盗罪に対しては「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられています。
そして,「窃盗罪」というのは,上記の「一定の刑法犯」に含まれています。
執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。
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- 住居侵入罪
- 公文書/私文書偽造罪
- 傷害罪,暴行罪
- 窃盗罪,強盗罪
- 詐欺罪,恐喝罪
これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。
外国人の方が万引きによって逮捕されてしまった場合には
- 不起訴になる
- 無罪を獲得する
- 罰金刑で済ませる
ことができないと,強制送還される可能性があるのです。
有罪になったら必ず強制送還か
それでは,Xさんの事例で,起訴されて有罪の判決を受けたら必ず強制送還になるのでしょうか。
実は,「一定の刑法犯」で強制送還になる人というのは,その時の在留資格によって変わります。
一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。
入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページでも列挙されています。
Xさんのように,「日本人の配偶者等」,「永住者」,「永住者の配偶者等」,「定住者」の在留資格であれば入管法の別表2ですから,執行猶予付きの有罪判決を受けたとしても強制送還にはなりません。
ただし,強制送還にならないからと言って全く不利益がないわけではなく,在留期間の更新の時に認められる在留期間が短くなったり,永住許可申請の時に不利な事情として扱われたりします。
強制送還にはならないとしても,その後の日本での在留に関して不利益にならないよう,刑事事件の段階でなるべく軽い処分が得られるように早期に対応しておくことが重要です。
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