Archive for the ‘外国人と刑事事件’ Category

永住者が名誉棄損事件を起こしてしまった場合の対応

2024-06-05

永住者の方が名誉棄損事件を起こしてしまった場合,どのような対応が必要になるのかについて解説していきます。

事例

永住者のAさんは、近所の焼き肉屋で食事をした際,店員からシャツを汚されたにもかかわらず,店長からの謝罪が無かったことから,焼き肉屋の店長に腹を立て,飲食店の口コミサイトに,「出される焼肉も,ゴムのような味しかしない。ビールも,小便かと思うくらいぬるいし,マズい。衛生管理もなっていない。しかもここの店長は新興宗教の信者らしく,高いツボ買わせられそうになった。」と書き込みました。
なお,Aさんには前科前歴はなく,刑事事件化した名誉毀損事件もありません。

以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

名誉毀損罪の刑事罰

Aさんがこの通りのことを行ったとすれば,事実を摘示して飲食店の店長の名誉を毀損していることから,刑法230条1項の名誉毀損罪に形式的に該当します。
刑法230条によれば,名誉毀損罪の法定刑は,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑が予定されています。

ただし,名誉毀損罪で処罰されるないために,刑法230条の2第1項があり,
①公共の利害にかかわる事実に関して
②公益目的があり
③真実を述べた
ということすべてが言えた場合には,処罰されません。

また,真実でなかったとしても,①公共の利害にかかわる事実に関して,②公益目的があり,③真実であると信じる相当な理由があれば,故意が無いとして処罰されません。
そのため,名誉毀損罪が成立しない事情があるかということも重要になります。
名誉毀損罪の具体的な刑罰を決める際には、①どのような内容の書き込みをしたのか,②その結果財産的被害が生じたのか,③何度も繰り返しているような事案であるか,④示談が成立したかが大きな考慮要素となります。

①書き込みの態様については,差別的な内容を含んでいるかとか,一般的に社会的評価を低下させるようなことを書いていないかということから判断されます。差別的な内容を含んでいたり,一般的に社会的評価を低下させると考えられるようなことを書いていると重く見られます。
②財産的被害が発生し,その被害額が多額であると認められる場合,重く見られます。
③何度も繰り返しているような事件である場合,重く見られます。
④示談が成立し,被害者が犯人を許しているような事件である場合,罪を軽くする事情になります。

今回のAさんの事例ですと,「衛生管理もなっていない」「店長は新興宗教の信者」「高いツボを買わせられそうになった」という事実についての表現が問題になります。

飲食店に対して,「衛生管理がなっていない」とか,「高いツボを買わせられそうになった」と言った,店の信用や,店長の信用にかかわるような事項について述べているので,一般的に社会的評価を低下させると考えられるようなことを書いているということが言えそうです。また,財産的被害については,不明ですが,この財産的被害が多くある場合,重く見られます。繰り返していない点については,Aさんに有利な事情と見られる余地があります。

Aさんとしても,被害者である焼き肉店の店長と示談をするなどして事件を解決するかということは今後の弁護人の活動次第という状況です。
そのため,示談が成立すれば,不起訴や罰金刑で終わる可能性が高く,示談が成立しない場合には,罰金か執行猶予付きの有罪判決となる可能性がある事件ということが言えます。

退去強制となるか

それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。ただ、Aさんは永住者ですので、在留資格としては別表第2の資格となります。
同条4号の2には「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの」という定めがあり、この条文に該当する場合には仮に執行猶予判決であったとしても退去強制となります。

しかし,Aさんは別表第2の資格で在留してますので,この同条4号の2の要件に該当しません。

また,同条4号リには,「昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処された者。ただし,刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であってそのうち執行が猶予されなかった部分の期間が一年以下のものを除く。」と規定されています。
これに該当する場合には,別表第2の在留資格であったとしても退去強制の対象になります。
しかし,今回の事件は,Aさんにとって,初犯であることから,悪くて執行猶予,罰金になることが予定される事件です。なので,すぐに退去強制になるという可能性は低いといえるでしょう。

弁護活動

弁護活動としては,①刑法230条の2第1項に規定される通り,公益に関わる真実の事柄であることを書いたに過ぎないと主張すること,②名誉毀損を行ったことに対して示談を行い,不起訴をねらうことが考えられます。

①刑法230条の2第1項
刑法230条の2第1項に規定される通り,「公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったとき」に名誉毀損罪は成立しません。そのため,今回のAさんの書き込みの目的が,公共の利益のためであること,公益目的があること,Aさんの書いた通り焼き肉店が不衛生な環境で営業していることや,焼き肉店の店長が悪徳商法を行ったということを立証する必要があります。
もし,これらの事実が立証できた場合には,犯罪が成立しません。
なお,「焼き肉店が不衛生な環境で営業されていたということ」や,「焼き肉店の店長が悪徳商法を行っていた」という事実について立証できなかった場合でも,これらを行ったと信じる相当な理由がある場合に,故意が無いとして,無罪になる可能性があります。
今回の事案で果たして,焼き肉店の衛生管理をおろそかにしていたとか,店長が悪徳商法を行ったかどうかというのは分かりません。そのため,弁護人としては,この事情についてAさんの認識や,焼き肉店の衛生管理の状況などについて調査し,裁判で主張することになります。

②示談をして不起訴を目指す場合
今回の事例については,示談をして,不起訴を目指すということが考えられます。
たしかに,名誉毀損の場合の慰謝料というのは,低額になる傾向がありますが,今回みたいに,焼き肉店の営業活動を妨害するような態様ですと,焼き肉店の営業を回復させるという側面が出てきますので,示談金額というのはある程度高くなります。

どちらの方針であれ,初動が大切です。
特に,①の場合、Aさんが書き込んですぐの焼き肉店の営業状況を確認する必要がありますから,弁護士としては,迅速な調査を実施する必要があると考えられます。

退去強制を回避するためには、少なくとも不起訴になることが最低条件です(なお、不起訴になったとしても在留資格の更新に影響が生じる場合があります)。ですので、ご家族や知人が逮捕されてしまった場合には、
速やかに経験のある弁護士に依頼をすることが必要です。

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日本人の配偶者が万引き在留期間の更新に影響が出るか

2024-05-29

日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日スーパーで買い物をしている際、魔が差してしまい、スーパーの商品を数点万引きしてしまいました。
Aさんの行為はスーパーの店員により確認されており、店を出たところですぐに捕まってしまいました。
以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

窃盗罪の刑事罰

窃盗罪は刑法235条に定めがある罪で、その法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
10年以下と極めて重い罪になっていますが、これは被害額によって法定刑の区分がないからです。
1000円から1万円位の万引きであれば、10年の懲役等を受けることは通常考えられません。

窃盗罪の具体的な刑罰を決める際には、①被害額がいくらであるか②どのような目的で盗んだか③被害回復がなされているか④何回目の検挙であるかが大きな考慮要素となります。

①まず被害額ですが、これは単純に多ければ多いほど重くなるということになります。ただ、1000円と1万円で比較すると1万円のほうが10倍悪いという単純なものではありません。
②目的ですが、自分で使用する目的などが通常だと思われますが、転売目的や組織的な窃盗だと重く見られます。
③窃盗罪は財産に関する犯罪です。ですので、財産的な補填が被害者になされているかどうかも重要です。
④最後に、万引きのような事件の場合これが大きな問題となってくるのですが、何回目の検挙であるかも重要です。いくら被害額が少なく、被害回復がなされていたとしても、何度も何度も
検挙されているような状況では、処分を軽減することにも限度が生じます。一般的な感覚の通りですが、通常は1回目より2回目が、2回目より3回目が、3回目より4回目が重い処分となります。

また、前回と今回の間隔(何年程度空いているか)も重要です。これがあまりに近いということになると、常習性が疑われて、より重い処分となります。

そこでAさんの刑事罰ですが、1回目の検挙であれば被害回復を行っていれば起訴猶予となる可能性も十分あります。ただ、2回目であれば罰金、3回目であれば執行猶予付きの判決という形でどんどん重くなってきます。また、たとえ100円の万引きであっても、執行猶予付き判決中や猶予期間満了後すぐにやってしまうと、刑務所に行く実刑判決となる可能性が相当高いと言えます。

窃盗罪で捕まってしまった場合、被害者と早期に示談することが非常に重要になります。

日本人の配偶者の在留資格について

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。

このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは、
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。

このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
今回Aさんは、窃盗という罪を犯しています。処分がどのようなものになるかについては上記の通りです。

そこで、まずこの刑事処分がAさんにとって「退去強制事由」になるかどうかを見てみます。
Aさんは「日本人の配偶者」ですので、入管表別表第2に記載されている在留資格を有しています。
この在留資格の場合には、「無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」(入管法24条4号リ)に該当する場合には、罪名関係なく退去強制を受ける事由となります。

今回のAさんの場合には、起訴猶予処分や罰金の処分となった場合にはこれに該当しません。また、この4号リで問題とされるのは、実刑、つまり刑務所に行かなければならないような判決だけですから、執行猶予付きの禁錮刑であればAさんにとっては退去強制事由には該当しないということになります。

次に、Aさんの処分が罰金であった場合、退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで言えるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっていますが、窃盗罪は道路交通法違反でもありませんし、事件の種類も大きく異なります。

そのため、窃盗罪で罰金となってしまった場合は、退去強制処分とならないしても、素行不良の要件に該当する可能性があります。もっとも、罰金があったからといってそれだけで更新を認めないというわけではないようです。ですので、罰金前科がある場合には、正直に申告をした上で、被害弁償の状況や再犯防止への対策など、具体的な行動を入国管理局に示していく必要があります。

示談交渉

さて、先述の通り、窃盗で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、早期に被害弁償を行い、前科がないようであれば起訴猶予処分となる可能性があります。

ただ、警察は示談交渉の仲介をしてくれるわけではありませんし、前科前歴がなければ国選弁護人を選任できるような「勾留」まではされない可能性も高くありません。。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。
もちろん現場が分かっていますので店舗に行くことは可能ですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で窃盗を起こしてしまった場合には、期間の更新のためいち早く弁護士にご相談ください。

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留学生が薬物事件を起こしてしまうとどうなるのか?

2024-05-22

事例

日本の大学に留学しているAさんは、大学の友人から「これを食べると,リラックスする」と聞かされ、友人からグミをお勧めされました。
一粒食べてみたところ,友人の言う通り,リラックスでき,頭がすっきりする感じがしたため,グミを販売している人を紹介してもらい,一袋1万円で売ってもらいました。
しかし,数日後,Aさんが遊んでいたカラオケ店から帰っていたところ,警察官に職務質問をされ,身体検査を受けたところ,ポケットから買っていたグミが発見され,グミを押収されました。
さらに何日かして,警察官より,警察署に出頭するよう言われ,そこで,そのグミが違法な成分を含む大麻グミであることを知らされ,はじめて逮捕されました。

以上の事案を前提として,

①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか

について解説していきたいと思います。

大麻グミの所持の刑事罰

Aさんが行ったことは、大麻の所持に該当するのかということがまず問題となります。
大麻グミから検出された成分が,大麻の幻覚成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)である場合,大麻取締法によって規制を受ける製品ということになるのですが,検出された成分が例えば,HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)といった合成カンナビノイドの場合,大麻取締法ではなく,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保に関する法律(薬機法)によって規制されることになるためです。
大麻取締法の単純所持罪は,大麻取締法24条の2によって,その法定刑は5年以下の懲役となっています。
一方,薬機法の単純所持罪は,薬機法84条28号によって,その法定刑が,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金と規定されています。

薬物犯罪の具体的な刑罰を決める際には、①所持していた量がいくらであるか②所持態様,③何回目の検挙であるか,④治療に専念しているかが大きな考慮要素となります。
①まず所持していた量ですが、これは単純に多ければ多いほど重くなるということになります。
ただ、0.1グラムと1グラムで比較すると1グラムのほうが10倍悪いという単純なものではありません。
②所持態様つまり,どのように大麻グミを持っていたかですが,いわゆる「飲み込み」などの巧妙に隠匿するような態様だと重く見られます。
③薬物犯罪は,再犯であるかどうかも重要です。再犯である場合,重く見られます。
④最後に、治療に専念しているかという点ですが,これは,薬物犯罪に対する反省という事情に繋がるため,治療に専念しているということですと,罪を軽くする事情になります。

今回のAさんの所持していたグミの違法な成分が,THCといった大麻取締法によって規制される成分の場合には,大麻取締法違反の罪が成立し、HHCHなどの薬機法で指定薬物として指定される成分が検出された場合には,薬機法違反の罪が成立します。

今回のAさんは,大麻グミを一袋と少量所持しており,初犯で,所持の態様もポケットに入れていたに過ぎないなどの巧妙に隠匿するような態様ではありません。
そのため,大麻取締法違反になるにしても,薬機法違反になるにしても,重くとも執行猶予付きの懲役刑判決になると考えられます。

退去強制となるか

それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。ただ、Aさんは留学ですので、在留資格としては別表第1の資格となります。
同条4号の2には「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの」という定めがあり、この条文に該当する場合には仮に執行猶予判決であったとしても退去強制となります。
しかし,大麻取締法であったり,薬機法であったりという犯罪は,ここに列挙されていないため,この条文を根拠として退去強制を命じることは出来ません。

一方,同条4号チには,「昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法,大麻取締法,アヘン法,覚せい剤取締法,国際的な協力の下に規制薬物にかかる不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法の特例等に関する法律又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」については,退去強制の対象になることが規定されています。
大麻取締法違反の罪は,入管法24条4号チに規定される犯罪ですので,有罪となったら,退去強制の対象となります。
一方,薬機法違反の罪については,入管法24条4号チに規定されていませんので,執行猶予付きの判決で留まり1年を超える実刑とならなければ,退去強制の対象となりません。

一般的に,薬物事件の方が退去強制(強制送還)の対象になりやすいといえます。一般的な刑法犯であれば罰金刑であれば強制送還にならないものであっても,薬物事件の場合には有罪判決というだけで強制送還の対象となり得るのです。

退去強制(強制送還)手続きについてはこちらでも解説しています。

退去強制(強制送還)について

弁護活動

既に述べた通り、本件で,大麻取締法違反を理由として有罪の判決を受けてしまうと退去強制となってしまう可能性が極めて高いという事案です。
何とか退去強制を回避するためには2通りの方向性での弁護活動が考えられます。

①検出された成分を争う
検出された成分がTHCでないとか,検出された成分をTHCと判断した捜査機関の鑑定が誤っているという方向で争うことが考えられます。
しかし,捜査機関の鑑定は大抵適切に行われていますので,検出された成分について争い別の成分であると認めさせるのは困難が伴います。

②故意を否認する方向性
有罪となるためには、犯罪が成立しなければならないところですが、犯罪の成立のためには客観的に犯罪が成立しているだけではなく、犯人に「故意」が必要となります。
故意の内容については様々な見解があるところですが、今回のようなケースでいえば「自分が行っていることが、違法な成分を含有するグミを所持していることである」という認識があるかどうかというところになります。
しかし,今回は,普通の店舗ではなく,個人から買っていますので,情況的な事実から,違法な成分を含有していると認識していたと推認される可能性があります。
検察官が故意の証明が困難であると考えた場合には、不起訴(嫌疑不十分)となる可能性があります。
どちらの方針であれ,初動が大切です。
また,②の場合、一番最初に作成される弁解録取書の内容がどのようなものになるかが大切です。最初に罪を認めてしまった場合、後からこれを覆すためには相当大変です。
ですので、最初からきっちりと取調べへ対応し、不用意に供述したり調書を作成することの内容にする必要があります。

退去強制を回避するためには、少なくとも不起訴になることが最低条件です(なお、不起訴になったとしても在留資格の更新に影響が生じる場合があります)。ですので、ご家族や知人が逮捕されてしまった場合には、速やかに経験のある弁護士に依頼をすることが必要です。

「経営・管理」で交通事故を起こした場合、在留期間の更新ができるか

2024-05-14

「経営、管理」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周りの景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんの在留期間の更新時に影響があるか、若しくは退去強制処分となるか

以上の点について解説していきたいと思います。

⑴過失運転致傷の刑事罰

Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。

Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度②事故を起こした側の過失の程度③被害者の側の過失の程度④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。

①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。

Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。

⑵「経営、管理」の在留資格について

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。

このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。

このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
まず、「経営・管理」の在留資格は、入管法上別表第1の2の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
この上陸許可基準は公表されていますが、概ね業務に関する事項や報酬についての定めが記載されています。ですので、仮に過失運転致傷によって処罰されたからといって上陸許可基準に該当しないというものではありません。

今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず、入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。過失運転致傷罪で実刑の判決となるのは余程被害が大きい(被害者が亡くなる)とか、過失の程度が大きい場合だけですので、典型的な交通事故ではこれに該当しない可能性の方が高いと思われます。

次に、24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている過失運転致傷は、この列挙された犯罪に含まれていませんから、これには該当しません。

最後に、次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。

この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、過失運転致傷は明示的に挙げられていません。
 そのため、過失運転致傷罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性高い一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。
だからといってこの事故のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。

⑶示談交渉

さて、先述の通り、過失運転致傷罪で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、怪我の程度がそれほど大きいものでなければ、検察官が最終的な刑事処分を決定してしまうより前に被害者の方と示談を行い、被害者の方からお許しいただければ
起訴猶予処分となる可能性があります。
ただ、任意保険や自賠責保険では、ここまでの示談交渉は行ってくれない可能性が極めて高いです。
保険会社が行うのはあくまでも損害の賠償のみであり、被害者の方から許してもらうような示談交渉までは話をしないことが通常です。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、交通事故の被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。もちろん交通事故の場合には相手方の連絡先などを警察官から知らされる場合が多いですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で交通事故を起こしてしまった場合には、期間の更新のためにも、いち早く弁護士にご相談ください。

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建造物侵入罪によって逮捕,会社経営者が強制送還になるリスク

2024-05-08

日本で会社経営活動を行う際には「経営・管理」のビザが認められます。
経営・管理のビザで日本に在留しているAさんが建造物侵入罪によって逮捕されてしまったという事案を基に,強制送還の可能性について解説します。

事例

Aさんは日本で会社を経営している外国籍の30代男性です。
ある日,Aさんは取引先との食事会に行き,普段よりもたくさんのお酒を飲んで酔っ払ってしまいました。
Aさんは歩いて自宅に帰る途中,自分が住んでいるマンションと間違えて,別のアパートの中に入ってしまい,鍵がかかっていない部屋に入ってしまい,そのまま床に寝転んで寝てしまいました。

家人がAさんを見つけ,Aさんは建造物侵入罪の現行犯として警視庁戸塚警察署で逮捕されてしまいました。
Aさんの会社の従業員はこれから先どうしたらいいか分からず,弁護士に相談することにしました。

建造物侵入によって逮捕された場合の弁護

建造物侵入罪に対しては3年以下の懲役又は10万円以下の罰金という刑罰が定められています。
具体的にどのような刑になるかは,どのような目的で侵入したのか,侵入した時の態様,前科や前歴によって変わってきます。
Aさんの事例では酔っぱらって誤って立ち入ってしまったということですから,空き巣やわいせつ目的で立ち入ったというものと違い,行為自体としては軽微な事案となるでしょう。
早急に被害者との間で示談をすることができれば,不起訴となることもある事案です。

一方,「酔っぱらっていた」という点から不合理な弁解・否認をしていると捉えられてしまうと,裁判になってしまったり,被害者との示談が難しくなってしまう場合があります。

後述の通り,建造物侵入罪で起訴されてしまうと,退去強制事由に該当してしまう可能性があります。
建造物侵入罪によって逮捕されてしまったという場合には,刑事事件の手続きの中で速やかに,適切な対応をする必要があります。

以下では,退去強制について詳しく解説をします。

退去強制とは

日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。

退去強制手続きは主に

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。

退去強制の理由となる理由が発生した場合,そのことを入国管理局が知ることで調査が実施されます。調査の結果は全て,入国審査官へ引き継がれて「強制送還をすることが適法かどうか」の審査がなされます。審査の結果を踏まえて,強制送還が最終的に決定されることになります。

強制送還をする,という審査がなされた後,決定に不服がある場合には異議を申し出て口頭審理,法務大臣の裁決へと手続きが進みます。

口頭審理,法務大臣の裁決を踏まえて,最終的に強制送還をするか,在留特別許可をするか,それとも強制送還をしないか,といった決定が下されることになるのです。

刑事事件を起こしてしまった外国人の方が強制送還されるかどうかという点や,審査手続きの流れについて細かく解説します。

退去強制の理由になる事実

入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。

    • 住居侵入罪/建造物侵入
    • 窃盗罪,強盗罪
    • 詐欺罪,恐喝罪

これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています

在留資格の一覧についてはこちらです。

在留資格の種類

何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。

Aさんは「経営管理」のビザですから,別表1のビザに該当しています。
そのため,建造物侵入罪によって起訴されると,たとえ執行猶予が付いたとしても強制送還の対象となってしまう可能性があるのです。

入国警備官による調査

刑事事件を起こしてしまったことが強制送還の理由となってしまった場合,刑事手続きが終了した後,近くの各地方出入国在留管理局に呼び出された上で,入国警備官による調査を受けることになります。

この時の調査の内容は,「退去強制をするべき事実が発生したかどうか」ということに限られます。そのため,調査での一番の調査事項は,

  • 一定の入管法によって処罰されたかどうか
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決が確定したかどうか
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けたかどうか

という点になります。そして,これらの事実のほとんどは,刑事裁判の結果を基に認定がなされます。

裁判で事実を争っていない場合にはそのまま「強制送還の理由あり」という認定になってしまうでしょう。

裁判で争っていた場合,または入管の手続きになってから初めて事実を争うという場合,改めて証拠を提出したり詳細な主張を行ったりする必要があります。

入国審査官による審査

入国警備官が調査した内容は,そのまま入国審査官へと引き継がれていきます。そして入国審査官が対象となる外国人の方と面談(interview)を行い,審査を実施します。

審査の対象となるのも上に書かれた調査事項と同様です。

なお,強制送還の理由となる事実に加えて,日本での生活や仕事のこと,家族のこと,財産のこと等も一緒に質問されることがあります。

これは,強制送還の理由になる事実があったとしても,在留特別許可をするかどうか,という判断で考慮される事情になります。

審査が終わると強制送還の理由になる事実があったか/なかったか,という点についての判断がなされ,「事実があった」と認定されると一時的に入管の施設に収容されてしまいます。

元々オーバーステイだった場合には,そのまま収容が続いてしまうことが多くあります。

一方で,審査が終わるまでは一応在留資格をもって日本に在留していたという方の場合,一時的に収容の手続きがなされたとしても,すぐに「仮放免」といって,保証金を払うことで釈放される場合もあります。仮放免の解説はこちらです。

入管に収容されたらどうすればいいか

入国審査官による審査が不服であった場合,強制送還の理由になる事実があったとしても,さらに日本での在留を希望する場合には,その後の口頭審理という手続きを行うことになります。

口頭審理とは何か?

口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。

退去強制になるまでには,

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この3と4のちょうど間にある手続です。

口頭審理では,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。

そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。ですが,口頭審理でのインタビューは,法務大臣の裁決という手続きに進む前の,最後のインタビュー手続きです。

そのため,口頭審理の場では,違反審査に関する事だけでなく,在留特別許可を認めるかどうかの判断で重要となる部分の『聞き取り』も行われることになっています。

ただ,あくまで「聞き取り」を行うだけですので,事実に間違いがない限りは,口頭審理の結果については,「元の審査に誤りはなかった」と判断されることになります。

口頭審理の後も,引き続き日本での在留を希望するという場合には,異議の申立てをして,法務大臣の裁決を求めることになります。

口頭審理のポイントとなるのは,『法務大臣による裁決前の最後のインタビューである』という点です。

法務大臣の裁決

入国警備官による調査から始まって,強制送還に関する最後の手続きが法務大臣の裁決という手続きです。

この手続では面談などはなく,口頭審理の結果を踏まえて在留特別許可をするかどうかについて,書面による審査が実施されます。

法務大臣の裁決では,それまでの手続きにおける間違いがないかどうかという点の審査に加えて,在留特別許可をするかどうかという最も重要な点についての審査が行われます。

在留特別許可をするかどうかについては,入管における判断の透明性を確保するという観点から,ガイドラインが公開されています。

そのガイドラインの大枠は,次のようなものになります。

参考URL ガイドラインの全文

  • 積極要素

日本人の子か特別永住者の子である

日本人か特別永住者との間に生まれた未成年の子を育てていて親権を持っていること等

日本人化特別永住者との間に法律上有効な婚姻が成立している

⇒日本と外国人とが,家族関係を持つレベルで接着していること

  • 消極要素

重大犯罪によって刑に処せられた

出入国管理行政の根幹を犯す違反をした

反社会性の高い違反をした

⇒日本に在留させることが日本にとって不利益が特に大きい場合

最終的には様々な事情を総合して判断することにはなりますが,これらの積極要素/消極要素を中心にして,過去の事例なども参考にしながら,在留特別許可をするかどうかの判断がなされます。

Aさんの事例の,日本で会社経営をしているという事情のみでは在留特別許可を獲得することはやや困難です。
Aさんの事例の場合,退去強制事由に該当しないための早めの対策を取ることが重要です。

まとめ

Aさんの事例では建造物侵入によって執行猶予付きの判決を受けた場合に強制送還の対象となり,Aさんの事情を考慮すると,在留特別許可をもらえる可能性は高くありません

日本に残って生活を続けたいと希望する場合には,逮捕されてから起訴されるまでの間の手続の中で不起訴処分を獲得することが重要です。

強制送還に関する手続きについて,弁護士等に一度ご相談された方が良いでしょう。

特別永住者に対する強制送還の手続きとは

2024-05-01

事例

特別永住者であるAさんは、スーパーで買い物をしている際、ふと魔が差してしまい、商品を万引きしてしまいました。
しかし、Aさんがスーパーを出ようとした瞬間、後ろから保安員の人に声をかけられ、万引きを指摘されたので、Aさんは認めるしかありませんでした。
Aさんは、半年前も同じような万引きをした結果、罰金を支払っています。
Aさんはこの後日本に残ることができるのでしょうか。

解説

1 Aさんに予想される刑罰

窃盗罪は刑法235条に定めがある罪で、その法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
10年以下と極めて重い罪になっていますが、これは被害額によって法定刑の区分がないからです。1000円から1万円位の万引きであれば、10年の懲役等を受けることは通常
考えられません。

窃盗罪の具体的な刑罰を決める際には、①被害額がいくらであるか②どのような目的で盗んだか③被害回復がなされているか④何回目の検挙であるかが大きな考慮要素となります。
①まず被害額ですが、これは単純に多ければ多いほど重くなるということになります。ただ、1000円と1万円で比較すると1万円のほうが10倍悪いという単純なものではありません。
②目的ですが、自分で使用する目的などが通常だと思われますが、転売目的や組織的な窃盗だと重く見られます。
③窃盗罪は財産に関する犯罪です。ですので、財産的な補填が被害者になされているかどうかも重要です。
④最後に、万引きのような事件の場合これが大きな問題となってくるのですが、何回目の検挙であるかも重要です。いくら被害額が少なく、被害回復がなされていたとしても、何度も何度も
検挙されているような状況では、処分を軽減することにも限度が生じます。一般的な感覚の通りですが、通常は1回目より2回目が、2回目より3回目が、3回目より4回目が重い処分となります。
また、前回と今回の間隔(何年程度空いているか)も重要です。これがあまりに近いということになると、常習性が疑われて、より重い処分となります。

そこでAさんの刑事罰ですが、1年前に罰金を支払っているということは、今回は罰金では済まず、裁判を受けることになる可能性が高いと言えます。
ただ、すぐに刑務所に行く実刑判決ではなく、執行猶予付きの判決となることが予想されます。

窃盗罪に対する弁護についてはこちらのページでも解説しています。

事件別:財産:窃盗

2 特別永住者とは

特別永住者とは「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(入管特例法)という法律に基づいて日本に在留する外国人です。
第二次世界大戦中、日本国民として扱われていた在日朝鮮、韓国、台湾人らについて、戦後もその永住を許可するとともに、すでに日本国との関係性が深いことからその子孫らにも永住を許可する制度です。
ただ、単なる永住許可とこの特別永住許可には大きな違いがあります。
たとえば、永住許可には法務大臣の裁量がありますが、特別永住許可は一定の身分に基づき与えられるものですから、出入国在留管理庁長官の許可は必要であるものの、その許可の際に裁量はありません。
また、在留カードの携帯義務などもありません。

通常の永住者についてはこちらで解説をしています。

永住者ビザ(永住許可)

3 退去強制

特別永住者の場合、退去強制事由も限定されています。入管特例法22条に退去強制中が定められていますが
1号 内乱・外患に関する罪で実刑になった者
2号 国交に関する罪で禁錮以上の刑に処せられた者
3号 外国厳守等に対する犯罪行為で禁錮以上の刑に処せられ、日本国の外交上重大な利益が害されたもの
4号 無期又は7年を超える懲役又は禁錮に処せえられ、日本国の外交上重大な利益が害されたもの
このように、特別永住者の退去強制は、日本国の存立や日本の外交に影響を与えるものに限定されています。

Aさんの場合、単なる万引き事件であり、執行猶予事件ですから退去強制事由には該当しません。
ただ、仮にAさんが別表第1の資格に基づいて在留したような場合であれば、窃盗による禁錮以上の判決(執行猶予付きも含む)は退去強制事由に該当してしまいます。

今回のAさんの場合には退去強制されることもありませんし、在留ができなくなることはありません。
ただ、刑事事件としては次に再犯をしてしまうと実刑の判決となりますから、そうならないように今の内から再犯に及ばない具体的な方法を検討しておく必要があります。

在留資格と刑事事件でお困りのこと、心配なことがある方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

お問い合わせ

名誉毀損罪で逮捕された場合,ビザの更新ができなくなる?

2024-04-24

事案

外国籍のAさんは,技術・人文知識・国際業務の在留資格で日本に在留していました。
Aさんはいつも行く飲食店の接客態度に腹が立ってしまい,クチコミサイトでその飲食店の誹謗中傷を書き込んでしまいました。
その結果,Aさんは警視庁麹町警察署名誉毀損罪として逮捕されてしまいました。

Aさんの家族はその後の在留資格がどのようになるか不安に思い,弁護士に相談することにしました。

名誉毀損罪で逮捕されたときの弁護活動

名誉毀損罪は刑法の第34章に定められている犯罪で,刑法230条に該当する犯罪です。
名誉毀損罪に対しては3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が定められています。

Aさんの事例のようにインターネット上で誹謗中傷をする行為は、侮辱罪や名誉毀損罪に該当する可能性があります。また、個人に対してのみならず、店舗や事業者(会社など)に対して誹謗中傷をした場合、例えば「あそこの店では安物の肉をA5ランクと偽って出している」等といったデマを流した場合、信用毀損罪偽計業務妨害罪という犯罪に該当する可能性もあります。

たとえ憂さ晴らし程度のつもりでインターネットに書き込んだとしても、名誉毀損罪や侮辱罪として被害届を出された場合には逮捕されてしまう可能性が十分にあります。
初犯の場合であっても、名誉毀損罪に対しては罰金が科されるかもしれないのみならず、昨今の誹謗中傷が社会問題化していることも考慮すると、いきなり裁判にかけられて懲役刑が科されてしまう可能性もあります。

外国人の方の場合、1年を超える懲役刑が科された場合には、上陸拒否事由に該当してしまいます。つまり、一時帰国したあと、改めて日本に再入国しようとしても再入国を拒否されることがあるのです。

名誉毀損罪で逮捕されてしまったという場合には、速やかに刑事事件、外国人事件に強い弁護士に相談する必要があります。
早期の身柄解放に向けた活動と、被害者がいる場合には示談交渉、取り調べへのアドバイスなど、弁護士からのサポート・助言を受けるべき場面は多岐にわたります。

以下では、名誉毀損罪で逮捕されてしまった場合のビザへの影響も解説します。

在留期間の更新への影響は?

永住許可を受けている人でない限り、日本での在留には期間の制限があります。
Aさんも、技術・人文知識・国際業務の在留資格で在留しているようですから、1年、3年、5年のいずれかの期間を指定されているものと思われます。

名誉毀損罪で逮捕されてしまったあと、さらに日本での生活を続けようと思った場合には、在留期間の更新申請をしなければなりません。そこで、名誉毀損罪による逮捕という事実はどのように影響するでしょうか。

まず、逮捕されたという事実自体では、在留期間の更新に大きな影響を与えることは少ないでしょう。逮捕されただけであれば推定無罪の原則が働きますし、犯罪歴や前科がついているというわけでもありません。

しかし、罰金を払った場合裁判で執行猶予付きの懲役刑を言い渡されたという場合には注意が必要です。これらはどちらも前科であり、日本での犯罪歴となります。

在留期間の更新許可を受けるためには、ビザを更新するのが相当であること、つまり、「この人は日本に居続けてもらっても大丈夫だな/日本にいても問題はないな」と思えなければなりません。
前科があるということは、日本で犯罪歴があるということであり、在留状況が悪い・素行が不良であるという判断をされてしまう可能性が高いです。

一度前科がついてしまうと、日本でそれを取り消すことはできません。ですから、前科がつかないようにするというのは非常に重要になるのです。

在留期間の更新を確実なものにするために、逮捕されたあとすぐに対応をして前科がついてしまわないための活動を依頼する必要があります。

退去強制とは

日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。

退去強制手続きは主に

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。

退去強制の理由になる事実

入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 別表1の在留資格の人が一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています

在留資格の一覧についてはこちらです。

在留資格の種類

Aさんの事例で言うと,名誉毀損で逮捕されたことによって直ちに強制送還されるというわけではありませんが,その後の裁判の結果次第では強制送還の手続きが始まる可能性はあります。

まとめ

Aさんの事例のように名誉毀損で逮捕されてしまった場合のビザの影響としては

・前科がついてしまった場合には在留期間の更新が認められない可能性がある

・1年を超える懲役刑だった場合には強制送還されてしまう可能性がある

というものがあります。

いずれについても、前科がつかないように逮捕後早期に対応することが非常に重要です。

永住者が薬物事件で逮捕された,ビザはどうなる?

2024-04-17

事案

両親が日本に来日し、日本で生まれたAさんは、国籍こそ外国籍であるものの、その国には一度も済んだことはなく、日本の学校を卒業し、日本で会社員として勤務しています。在留資格は永住者です(特別永住者ではありません)。

そんなAさんは、大学生のころから友人と大麻を使用しており、なかなかやめることができませんでした。
ある日車に乗っていたAさんは、不審な動きをしているということで職務質問を受け、持っていたカバンの中から大麻草1gが発見され、鑑定の後逮捕されてしまいました。

以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

大麻所持の刑事罰

Aさんは大麻を所持していました。日本では大麻所持は違法とされていますので、Aさんの行為は大麻取締法違反の大麻所持となります。
大麻所持の罰則は、大麻取締法24条の2に記載があり、「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」とされています。
Aさん自身大麻を所持していた認識はありますので、犯罪が成立することに争いはありませんが、そのような場合、Aさんにどのような処分となるのかが問題となります。
大麻所持の場合、初犯であっても裁判となる可能性が高い類型の犯罪です。ただ、いきなり刑務所に行くのではなく、執行猶予付き判決となることが予想されます。
次はこれを前提として検討していくことにします。

退去強制となるか

それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。Aさんの永住者ですので、在留資格としては別表第2の資格となります。
同条4項チには「昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」という定めがあります。
要するに、薬物に関連する法律で有罪の判決を受けたものについては退去強制事由とするというものです。
まず、有罪の判決ですので、執行猶予付きであるかどうかは問われません。実刑判決でなくても退去強制事由となります。
また、今回は関係ありませんが、たとえ罰金刑であっても有罪の判決に変わりはありませんので退去強制事由となることと、別表第二の資格であっても退去強制事由となることにも注意が必要です。
ですので、このままではAさんは退去強制となりますので、在留特別許可を狙う必要性があります。
ただ、永住者であり日本との結びつきが強いことや、初犯であるなどの理由から、在留特別許可が得られる可能性もある事案だと考えられます。

在留特別許可についてはこちらでも詳しく解説しています。

在留特別許可について

弁護活動

既に述べた通り、本件では有罪の判決を受けてしまうと退去強制となってしまう可能性が極めて高いという事案です。
何とか退去強制を回避するためには2通りの方向性での弁護活動が考えられます。

①起訴猶予を目指す方向
大麻所持を認め、反省の意を示し、再犯防止の具体的な取り組みを行うなどして、何とか起訴猶予処分を得る方法が考えられます。
覚醒剤事件であればこの方向は相当困難ですが、大麻所持の場合には起訴猶予となることもないわけではないようです。ですので、検察官に働きかけを行い、
何とか処分を回避するということが考えられます。

②故意を否認する方向性
有罪となるためには、犯罪が成立しなければならないところですが、犯罪の成立のためには客観的に犯罪が成立しているだけではなく、犯人に「故意」が必要となります。
故意の内容については様々な見解があるところですが、今回のようなケースでいえば「自分が持っているものが何らかの違法薬物である」という認識が
あるかどうかというところになります。
所持に至る経緯や携帯電話の内容などを踏まえて検討されるところですが、故意を否認するためには何よりも黙秘を行うことが大切です。黙秘権を行使しせず何らかの供述をしてしまえば、
否認は困難になっていきます。

①②のいずれの活動を行うにも、初動が大切です。①の場合、再犯防止計画の策定には通常時間を要しますから、いち早く家族などの方に連絡を取れるように働きかけを行い、取り組みの準備をしていくことが必要となります。
②の場合、一番最初に作成される弁解録取書の内容がどのようなものになるかが大切です。最初に罪を認めてしまった場合、後からこれを覆すためには相当大変です。ですので、最初からきっちりと取調べ
へ対応し、不用意に供述したり調書を作成することの内容にする必要があります。

退去強制を回避するためには、少なくとも不起訴になることが最低条件です(なお、不起訴になったとしても在留資格の更新に影響が生じる場合があります)。ですので、ご家族や知人が逮捕されてしまった場合には、
速やかに経験のある弁護士に依頼をすることが必要です。

家出少女を泊めたら逮捕?未成年者誘拐罪で逮捕されたら強制送還になる?

2024-04-10

(事例はフィクションです)

Aさんは定住者の在留資格で,両親と一緒に東京都に在留している会社員(30代・男性)です。

ある日,AさんはSNSで「親と喧嘩をして家出したので泊めてください」という投稿を見つけて,そのアカウントと連絡を取り始めました。

SNSのDMをやり取りする中で,その相手は15歳の女子中学生であることが分かり,Aさんはその子と名古屋市内にあるビジネスホテルで会うことにしました。

Aさんはその時,性交等はしていないのですが,相手の両親が捜索願を出したため警察に見つかり,Aさんは愛知県警察中警察署にて,未成年者誘拐罪で逮捕されてしまいました。

Aさんの家族はAさんのことを心配して弁護士に相談することにしました。

未成年者誘拐罪での逮捕・刑罰

未成年者誘拐罪とは,未成年(18歳未満の人)を,監護者(親,保護者,親族等,面倒を見ている人)の下から外部に連れ出すことで成立します。

未成年者誘拐罪と愛知県青少年保護成条例違反とは

これは未成年者本人の同意があっても成立する犯罪で,有罪になった場合には3月以上7年以下の懲役刑が科せられる可能性があります。

未成年者誘拐罪は,未成年者を対象とした犯罪であることや懲役刑の定めがあることから,逮捕・勾留がなされやすい犯罪の類型です。また,前科がない人であっても有罪となれば実刑判決を受ける可能性も十分にあり得る犯罪です。

未成年者誘拐罪で逮捕されてしまった時にすぐに対応すべきなのは取調べに対する対応と,示談交渉です。

未成年者誘拐罪が成立するためには誘拐」にあたる行為が必要となります。「誘拐」とは,未成年者を監護者の支配下から連れ出すような言動で,無理やり連れて行くような行為ではなくとも「泊めてあげるよ/お金を貸してあげるよ/ご飯を奢ってあげるよ」と言ったような文言であっても「誘拐」に当たるとされています。このような言動があったか無かったかで,未成年者誘拐罪が成立するかどうかが変わってきます。

犯罪が成立しないと思われるような事案に対しては,取調べでその点を重点的に否定する対応が必要になります。

また,犯罪が成立することを争わない事案では起訴されないための弁護活動が重要です。
そのためには,被害者との示談交渉が必要になります。未成年者誘拐罪の場合,示談の相手は親権者・監護権者になります。親としては「子供を危ない目に遭わせた」と考え,峻烈な被害感情を持っている場合が多いですから,示談交渉については弁護士等の代理人が行うべきです。

未成年者誘拐罪で逮捕,取調べを受けているという方は刑事事件に強い弁護士に依頼して,適切なアドバイス,対応を求めましょう。

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特に,外国人の方の場合,未成年者誘拐罪で懲役刑を受けてしまうと,強制送還のリスクが飛躍的に高まります。

退去強制とは

日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。

退去強制手続きは主に

理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
入国警備員による調査
入国審査官による審査
(場合によっては)法務大臣による裁決

という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。

退去強制の理由となる理由が発生した場合,そのことを入国管理局が知ることで調査が実施されます。
調査の結果は全て,入国審査官へ引き継がれて「強制送還をすることが適法かどうか」の審査がなされます。審査の結果を踏まえて,強制送還が最終的に決定されることになります。
強制送還をする,という審査がなされた後,決定に不服がある場合には異議を申し出て口頭審理,法務大臣の裁決へと手続きが進みます。
口頭審理,法務大臣の裁決を踏まえて,最終的に強制送還をするか,在留特別許可をするか,それとも強制送還をしないか,といった決定が下されることになるのです。

刑事事件を起こしてしまった外国人の方が強制送還されるかどうかという点や,審査手続きの流れについて細かく解説します。

退去強制の理由になる事実

入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。

住居侵入罪
公文書/私文書偽造罪
傷害罪,暴行罪
窃盗罪,強盗罪
詐欺罪,恐喝罪

これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています。

何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。

特に,薬物事件や入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。

Aさんの事例では未成年者誘拐罪という罪名で逮捕されています。
この罪名の場合,「別表1」の在留資格の方の場合は執行猶予がついても強制送還の対象となってしまいます。
一方,「別表2」の在留資格の場合には,1年を超える実刑判決の場合には強制送還の対象になります。

いずれにしても,起訴されないための弁護活動が非常に重要になります。

入国警備官による調査

刑事事件を起こしてしまったことが強制送還の理由となってしまった場合,刑事手続きが終了した後,近くの各地方出入国在留管理局に呼び出された上で,入国警備官による調査を受けることになります。

この時の調査の内容は,「退去強制をするべき事実が発生したかどうか」ということに限られます。そのため,刑事裁判等を理由とした強制送還の場合,調査での一番の調査事項は,

一定の入管法によって処罰されたかどうか
一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決が確定したかどうか
一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けたかどうか

という点になります。そして,これらの事実のほとんどは,刑事裁判の結果を基に認定がなされます。

裁判で事実を争っていない場合にはそのまま「強制送還の理由あり」という認定になってしまうでしょう。

裁判で争っていた場合,または入管の手続きになってから初めて事実を争うという場合,改めて証拠を提出したり詳細な主張を行ったりする必要があります。

入国審査官による審査

入国警備官が調査した内容は,そのまま入国審査官へと引き継がれていきます。そして入国審査官が対象となる外国人の方と面談(interview)を行い,審査を実施します。

審査の対象となるのも上に書かれた調査事項と同様です。
なお,強制送還の理由となる事実に加えて,日本での生活や仕事のこと,家族のこと,財産のこと等も一緒に質問されることがあります。
これは,強制送還の理由になる事実があったとしても,在留特別許可をするかどうか,という判断で考慮される事情になります。
審査が終わると強制送還の理由になる事実があったか/なかったか,という点についての判断がなされ,「事実があった」と認定されると一時的に入管の施設に収容されてしまいます。
元々オーバーステイだった場合には,そのまま収容が続いてしまうことが多くあります。
一方で,審査が終わるまでは一応在留資格をもって日本に在留していたという方の場合,一時的に収容の手続きがなされたとしても,すぐに「仮放免」といって,保証金を払うことで釈放される場合もあります。仮放免の解説はこちらです。

入国審査官による審査が不服であった場合,強制送還の理由になる事実があったとしても,さらに日本での在留を希望する場合には,その後の口頭審理という手続きを行うことになります。

口頭審理とは何か?

口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。

退去強制になるまでには,

理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
入国警備員による調査
入国審査官による審査
(場合によっては)法務大臣による裁決

という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この3と4のちょうど間にある手続です。

口頭審理では,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。

そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。ですが,口頭審理でのインタビューは,法務大臣の裁決という手続きに進む前の,最後のインタビュー手続きです。

そのため,口頭審理の場では,違反審査に関する事だけでなく,在留特別許可を認めるかどうかの判断で重要となる部分の『聞き取り』も行われることになっています。

ただ,あくまで「聞き取り」を行うだけですので,事実に間違いがない限りは,口頭審理の結果については,「元の審査に誤りはなかった」と判断されることになります。

口頭審理の後も,引き続き日本での在留を希望するという場合には,異議の申立てをして,法務大臣の裁決を求めることになります。

口頭審理のポイントとなるのは,『法務大臣による裁決前の最後のインタビューである』という点です。

法務大臣の裁決

入国警備官による調査から始まって,強制送還に関する最後の手続きが法務大臣の裁決という手続きです。

この手続では面談などはなく,口頭審理の結果を踏まえて在留特別許可をするかどうかについて,書面による審査が実施されます。

法務大臣の裁決では,それまでの手続きにおける間違いがないかどうかという点の審査に加えて,在留特別許可をするかどうかという最も重要な点についての審査が行われます。

在留特別許可をするかどうかについては,入管における判断の透明性を確保するという観点から,ガイドラインが公開されています。

積極要素

日本人の子か特別永住者の子である

日本人か特別永住者との間に生まれた未成年の子を育てていて親権を持っていること等

日本人化特別永住者との間に法律上有効な婚姻が成立している

⇒日本と外国人とが,家族関係を持つレベルで接着していること

消極要素

重大犯罪によって刑に処せられた

出入国管理行政の根幹を犯す違反をした

反社会性の高い違反をした

⇒日本に在留させることが日本にとって不利益が特に大きい場合

最終的には様々な事情を総合して判断することにはなりますが,これらの積極要素/消極要素を中心にして,過去の事例なども参考にしながら,在留特別許可をするかどうかの判断がなされます。

Aさんの事例では1年を超える実刑判決を受けた場合に,強制送還の対象に該当します。
Aさんは「定住者」の在留資格で,日本に家族もいるという在留状況ですから,この点を適切に主張していくことで,在留特別許可が得られる可能性がある事案です。
退去強制,在留特別許可に関する手続きについても,知識,経験が十分にある弁護士に依頼するのが良いでしょう。

まとめ

日本に残って生活を続けたいと希望する場合には

・刑事事件の手続きで起訴されない事,なるべく軽い処分を獲得すること

・入管での手続きの中で,強制送還の対象とならないこと,在留特別許可を得る可能性を少しでも高めること

が重要です。

いずれかについて少しでも不安なことがある方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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通訳業の人が薬物所持の疑いで逮捕?その後のビザはどうなるのか

2024-04-03

日本で通訳の仕事をしているAさん(在留資格は技術・人文知識・国際業務)は、大学時代に知り合った友人から、ある日、「気分が良くなる薬」を勧められました。
確かにその薬を使用すると、気分が落ち着くのですが、不安になったAさんが内容を尋ねると、いわゆる大麻であることが分かりました。
しかしその心地よさが忘れられなくなったAさんは、何度も大麻を使用し、ある日大麻を持って街を歩いているところを警察官に職務質問され、大麻取締法違反の罪で逮捕されてしまいました。

以上のような事案(フィクションです)を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

大麻所持の刑事罰

Aさんは大麻を単純な自己使用目的で所持していました。
日本では大麻の所持は違法とされていますので、Aさんの行為は大麻取締法違反の大麻所持となります。
大麻所持の罰則は、大麻取締法24条の2に記載があり、

「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」

とされています。
Aさん自身大麻を所持していた認識はありますので、犯罪が成立することに争いはありませんが、そのような場合、Aさんにどのような処分となるのかが問題となります。
大麻所持の場合、初犯であっても裁判となる可能性が高い類型の犯罪です。ただ、いきなり刑務所に行くのではなく、執行猶予付き判決となることが予想されます。
⑵はこれを前提として検討していくことにします。

大麻取締法違反の刑罰,犯罪の成立要件についてはこちらもご覧ください。

大麻で逮捕 大麻取締法違反の刑罰・要件とは?

退去強制となるか

それでは、Aさんの刑事処分により退去強制(強制送還)となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。Aさんの在留資格は技術・人文知識・国際業務ですので、在留資格としては別表第1の資格となります。
同条4項チには「昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」という定めがあります。
要するに、薬物に関連する法律で有罪の判決を受けたものについては退去強制事由とするというものです。
まず、有罪の判決ですので、執行猶予付きであるかどうかは問われません。実刑判決でなくても退去強制事由となります。
また、今回は関係ありませんが、たとえ罰金刑であっても有罪の判決に変わりはありませんので退去強制事由となることと、別表第二の資格であっても退去強制事由となることにも注意が必要です。
ですので、このままではAさんは退去強制となりますので、在留特別許可をもらえない限り、強制送還されてしまうことになります。

退去強制(強制送還)について

強制送還の回避のためには、刑事事件で逮捕されてから入管に事件が移るまで、一貫した対応が可能なあいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
逮捕されてしまった、職務質問で大麻が見つかったという状態であれば0120-631-881までお電話ください。

弁護活動

既に述べた通り、本件では有罪の判決を受けてしまうと退去強制となってしまう可能性が極めて高いという事案です。
何とか退去強制を回避するためには2通りの方向性での弁護活動が考えられます。
①起訴猶予を目指す方向
大麻所持を認め、反省の意を示し、再犯防止の具体的な取り組みを行うなどして、何とか起訴猶予処分を得る方法が考えられます。
覚醒剤事件であればこの方向は相当困難ですが、大麻所持の場合には起訴猶予となることもないわけではないようです。
ですので、可能な限りの方法で検察官に働きかけを行い、何とか処分を回避するということが考えられます。

②故意を否認する方向性
有罪となるためには、犯罪が成立しなければならないところですが、犯罪の成立のためには客観的に犯罪が成立しているだけではなく、犯人に「故意」が必要となります。
故意の内容については様々な見解があるところですが、今回のようなケースでいえば「自分が持っているものが何らかの違法薬物である」という認識が
あるかどうかというところになります。
所持に至る経緯や携帯電話の内容などを踏まえて検討されるところですが、故意を否認するためには何よりも黙秘を行うことが大切です。黙秘権を行使しせず何らかの供述をしてしまえば、否認は困難になっていきます。

①②のいずれの活動を行うにも、初動が大切です。

①の場合、再犯防止計画の策定には通常時間を要しますから、いち早く家族などの方に連絡を取れるように働きかけを行い、取り組みの準備をしていくことが必要となります。
②の場合、一番最初に作成される弁解録取書の内容がどのようなものになるかが大切です。最初に罪を認めてしまった場合、後からこれを覆すためには相当大変です。ですので、最初からきっちりと取調べへ対応し、不用意に供述したり調書を作成することの内容にする必要があります。

退去強制を回避するためには、少なくとも不起訴になることが最低条件です(なお、不起訴になったとしても在留資格の更新に影響が生じる場合があります)。ですので、ご家族や知人が逮捕されてしまった場合には、速やかに経験のある弁護士に依頼をすることが必要です。

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