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在留特別許可を争った裁判例 東京地裁判決その7
このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,平成29年6月16日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,
定住者として来日した外国籍の男性Xさんが,同じ国籍の女性と日本で結婚し,永住許可を受けた後で,日本で刑事事件(殺人未遂)を起こしてしまい懲役8年の実刑判決を受けていたため,退去強制(強制送還)令書が発布されたので,その取り消しを求めて裁判を起こしたというものです。
外国人の方が有罪判決を受けた後に在留特別許可を求めて裁判を起こしたという事例については,前回も紹介したものがありますので,併せてご覧下さい。
偽装結婚かどうかが争われた裁判例 その1
このページでは,偽装結婚かどうかを争った刑事裁判について,判決を解説します。
今回の事例は,平成23年12月27日に静岡地方裁判所浜松支部で判決が言い渡された事例です。 (さらに…)
在留特別許可を争った裁判事例 東京地裁判決その6
このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,令和2年9月25日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,
短期滞在の在留資格で来日した外国人夫婦が,日本で子供二人を設けて生活していたものの,家族4人とも在留資格がなく,または在留期限を超えて不法残留を続けていたという事案です。入国管理局がこの家族を摘発し,家族4人全員について退去強制令書(強制送還)の手続きがなされたため,この家族は退去強制令書(強制送還)の取消しと,在留特別許可を求めて,大阪地方裁判所で裁判を起こしました。
外国人の方が有罪判決を受けた後に在留特別許可を求めて裁判を起こしたという事例については,前回も紹介したものがありますので,併せてご覧下さい。
離婚後に定住者への在留資格の変更が認められた裁判例
日本人と離婚した外国人の方が,「日本人の配偶者等」から「定住者」への在留資格の変更を求めて裁判を起こした結果,裁判所が,在留資格の変更を認める方向の判決を出した事案について紹介します。
「在留資格の変更を認める方向」という,少し遠回しな言い方になっているのは,裁判所が直接「在留資格の変更と認めた」というわけではないからです。
この事案では,外国人の方が一度,在留資格の変更の申請(「日本人の配偶者等」→「定住者」)をしたところ,当時の入管が不許可の処分をしました。外国人の方は,この不許可処分の取り消しを求めて裁判を起こしたのです。
裁判例は,平成14年4月26日東京地方裁判所で判決が言い渡された事件です。それでは詳しく解説します。
不法就労助長罪で逮捕される?
日本で外国人を不正に働かせていたとして,日本人が逮捕されるという事案が,ちらほら見られます。
2021年2月18日 滋賀県の人材派遣業の社長が逮捕された事例
2020年2月19日 愛知県の人材派遣業の社長が逮捕された事例
どのような場合に不法就労助長罪で逮捕されることが多いのでしょうか。 (さらに…)
離婚後に「定住者」へ在留資格を変更できるか
「日本人の配偶者等」の在留資格の間に,日本人と離婚した外国人の方が日本での在留を希望する場合には,在留資格の変更が必要です。
参考 日本人と離婚した場合
離婚後に取得できる在留資格としては,就労系の在留資格の他に,「定住者」の在留資格があります。離婚後の「定住者」としては,大きく分けると「離婚定住」と「日本人実子扶養定住」があります。また,実際に離婚までは至っていなくても,日本人との間の結婚がDVによって破壊されてしまった場合に,「婚姻破綻定住」というものもあります。
いずれの「定住者」の在留資格についても,法律上定めがあるものではなく,「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める」場合とされています。
この3つの「定住者」について解説します。
①「離婚定住」
日本人と結婚して「日本人の配偶者等」の在留資格で日本で生活していた方が,離婚後も日本での在留を希望する場合,一定の条件の下で引き続き在留資格が認められることがあります。
これを「離婚定住」と言ったりします。
離婚定住が認められるのは,次のような場合です。
・日本で3年以上正常な婚姻,家族生活が継続していたこと
・生計を営むために必要な資産や職があること
・社会生活に困難がない程度の日本語能力があること
・日本の公的義務を果たしていること
これらの事情に加えて,離婚するに至った原因や,今後外国人の方が引き続き日本に定着して生活できる可能性を考慮して,在留資格を認めるかどうかについて判断されます。
もしも,日本人と死別した場合には,「1年以上」の婚姻が継続していれば離婚定住の在留資格が認められる可能性があります。死別の場合には不慮の事態であることも多いため,残された外国人家族への配慮がなされていると考えられます。
②「日本人実子扶養定住」
日本人の実子を扶養する親に対して認められている「定住者」の類型です。これは,日本人の子供が両親と安定した生活を送れるようにするために,外国人親の在留を認めるとしたものです。
日本人実子扶養定住が認められるのは,次のような場合です。
・生計を営むために必要な資産や職があること
・日本人との間に生まれた子供を扶養していて,親権者であり,かつ,その子供を相当な期間を監護・養育していること
離婚後に日本人実子扶養定住に在留資格を変更しようとする場合には,子供の親権を持っていて,かつ,今後も子供を養育していくという状況でなければなりません。
仮に子供が18歳以上となって働きだしたり,親元を離れて進学したりしても,子供を扶養しているという状況が認められる場合があります。養育しているかどうかについては,同居しているかどうかだけで判断されるものではありません。
③「婚姻破綻定住」
婚姻破綻定住は,離婚届を出していないけれども結婚生活が失われて今後も修復される見込みがないという場合に認められる「定住者」としての在留資格です。
「婚姻破綻定住」として認められるのは,次のような場合です。
・日本で3年以上正常な婚姻,家族生活が継続していたこと
もしくは,
・正常な婚姻を開始したが一方のDVの被害に遭ったこと
・生計を営むために必要な資産や職があること
・日本の公的義務を果たしていること
これらの場合を満たしても,現に婚姻が破綻していると認められない場合には,日本人の配偶者等としての在留資格が更新されないかどうかについて判断されます。
婚姻が破綻しているのかどうかについては,申請人である外国人の方だけではなく,配偶者である日本人への聞き取りなどによって調査がなされます。
日本人と離婚したら国外退去?
日本人と結婚していたのに,在留資格が取り消されたという裁判例について解説をしました。
この裁判例の前提として,日本人と結婚していた外国人の方が,離婚した場合にはどうなるのかについて解説したいと思います。離婚したらすぐに国外退去となってしまうのでしょうか。
なお,日本人と結婚していたけれども「日本人の配偶者等」の在留資格に変更していないという方は,全く問題がありません。離婚したとしても,在留資格に関わる活動を継続している限りは,在留資格が取り消されるということはありません。
離婚したときの在留資格
在留資格とは,日本国内での活動に応じて付与されるものです。「日本人の配偶者等」という在留資格は,日本人の配偶者,日本人の子として日本で生活する場合に認められる在留資格です。
この「配偶者」とは,日本の法律に従って結婚している場合を指し事実婚や内縁関係の場合には「配偶者」には該当しないことになります。また,離婚届が受理されると,「日本人の配偶者」ではないことになります。
では,離婚するとすぐに在留資格が取り消されるのでしょうか。
実は,法律上はそうなっていないのです。
入管法上は,
『その配偶者としての活動を継続して6か月以上行っていない場合(ただし,当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く)』場合に限って,在留資格を取り消すことがある,としています。
これは,夫婦関係については喧嘩などの理由からしばらく別居したり距離を取ったりすることもあるため,6か月程度は別れるつもりなのかどうか時間をおいてみるべきであることや,日本人と離婚したとしても,その後別の在留資格を取得する可能性があることや,離婚後の手続きなどの関係上,直ちに日本から出国するのが難しい場合があることから,すぐに在留資格を取り消すのは外国人の立場を不安定にしてしまうため,一定の期間を設けていると理解できます。
そして,離婚した時から「配偶者としての活動をしなくなった」となります。
そのため,離婚してから6か月がたつと,「配偶者としての活動を6か月以上行っていない」として,在留資格が取り消される可能性が出て来るのです。
日本人の配偶者としての活動を継続して6か月以上行わず,他の在留資格へ変更しないで在留資格が取り消された場合には,「30日間」の出国準備期間が設けられ,その間に日本から出国しなければなりません。この時の出国は「強制送還(退去強制)」ではありませんので,再入国禁止の期間は特にないことになります。
離婚後に出国準備期間が付与され,一度日本から出国したとしても,すぐに他の在留資格で再度入国するということは可能です。
但し,この出国準備期間の内に日本から出国しなかった場合には,強制送還(退去強制)の対象となってしまいます。強制送還されてしまうと,原則として5年間,日本に入国することが出来なくなってしまいます。離婚後も日本への入国を考えているという方は,出国準備期間を過ぎてしまわないように十分に気を付けましょう。
※親権や養育費をめぐって離婚の調停や裁判が続いている間は?
離婚に関する調停や裁判が続いている間についても,在留期間を6か月として「日本人の配偶者等」の在留資格が認められる場合が多いです。
離婚の調停や裁判が続いている間であっても,その後,夫婦関係が回復する可能性もあるから在留資格がすぐに取り消されるものではありません。
※夫からのDVで逃げている場合
配偶者からの暴力から逃れて一時的に別居しているという場合には,在留資格が取り消されない可能性があります。
但し,DVが原因となり,離婚届けは出していないものの,事実上結婚生活が破壊されているという場合には,そもそも「日本人の配偶者」ではなくなったとして,在留期間の更新が認められない場合があります。そのような場合には,次の「定住者」へ在留資格を変更することを考えましょう。
離婚後の在留資格はどんなものがあるか
離婚したとしても,すぐに在留資格が取り消されて強制送還されるわけではないことが分かりました。
次に,離婚後も引き続き日本での滞在を希望する方の在留資格について解説します。
就労系の在留資格
離婚後,外国人の方のお仕事が就労系の在留資格に該当する仕事であれば,就労の在留資格へ変更することが可能です。例えば,通訳業をしていた方であれば「技術,人文知識・国際業務」,学校の先生であれば「教育」や「技術,人文知識,国際業務」等があり得ます。
もちろん,離婚した後でも転職活動をすることはできますし,離婚後に在留資格が認められるような仕事を探すのでも全く構いません。
技術,人文知識,国際業務の在留資格についてはこちらでも解説しています。
定住者の在留資格
「日本人の配偶者等」の在留資格を持っていた方のうち,一定の条件を満たす場合には,離婚後にも「定住者」へ在留資格することが出来ます。
定住者への変更が認められる場合としては,
1 日本で概ね3年以上正常な婚姻関係,家庭生活が継続していた方(離婚定住)
2 日本人との間に生まれた子どもを監護,養育している方(日本人実子扶養定住)
が該当します。
また,離婚はしていないものの,配偶者からのDVによって事実上婚姻関係が破綻しているという場合には「1」の離婚定住と同様に,定住者への在留資格の変更が認められる場合があります。
定住者の場合には就労の制限がないので違法なものでない限り,日本国内で様々な仕事をすることが出来ます。
離婚後に「日本人の配偶者等」から「定住者」へ変更するという場合には,離婚後も日本で生活を営むだけの資産や技能があることが条件とされています。
まとめ
今回は,離婚後の在留資格がどうなるのかという点について,解説しました。
離婚すると,すぐに在留資格を取り消されるというわけではありませんが,きちんと入国管理局への届け出をしなければなりません。
また,離婚から6か月が過ぎると,「日本人の配偶者等」の在留資格については取り消される可能性が出て来るので,その後も日本での在留を希望する場合には,別の在留資格への変更をしなければなりません。
「定住者」がどのような在留資格なのかについては,また改めて詳しく解説をしたいと思います。
在留資格の取り消し処分を争った裁判例―配偶者としての活動をしてないとされた事例
今回は,在留資格が取り消された処分を更に取り消そうと,裁判で争ったものの,認められなかった事例を紹介します。
令和元年11月13日に東京地方裁判所で判決が宣告された事件です。
今回の裁判を起こした外国人の方は,日本人と結婚し,日本人の配偶者としての在留資格を取得していたものの,あるとき入国管理局から,「正当な理由がないのに日本人の配偶者としての活動を6か月以上していない」として在留資格を取り消されてしまいました。しかし,外国人の方としては,「日本人の配偶者としての活動は継続していたのだ」と主張して,入国管理局の下判断は間違っていた,と裁判を起こしました。
裁判所は,外国人の方の主張を認めず,在留資格は取り消すという判断を認めました。
公表されている事案の概要と,裁判所の判断を解説します。
参考:外国人と日本人との結婚
仮放免を争った裁判 その1
今回は,仮放免を求めて裁判で争った結果,仮放免をしなかった決定が取り消された事例を紹介します。
平成30年8月28日に東京地方裁判所で判決が宣告された事件です。
仮放免は通常,本人や代理人弁護士が,収容している施設長か,主任審査官に対して申請書を提出して判断がなされます。今回紹介する裁判例は,仮放免の申請に対して外国人を収容する施設の施設長が「仮放免をしない」,という決定をした事が違法だとして,その決定の取り消しを裁判所に求めたのです。
裁判所は,結論としては,仮放免をしなかった判断はおかしいとして施設長の決定を取り消しました。その主な理由は,収容されている外国人の方の健康面をみると,収容し続けるべきではないと判断したからです。
公表されている事案の概要と,裁判所の判断を解説します。
参考:仮放免についての解説
東京五輪・パラ,外国人観客の受け入れを断念?
2021年3月21日,東京オリンピックの大会委員会や東京都は,来年開催予定の東京オリンピックの観戦について,外国人の受け入れをしない方向であると報じられました。
⇒NHKの報道 東京五輪・パラ 海外観客を断念 コロナ禍で自由な入国保証困難
オリンピックの観戦のためのビザについては当サイトでも一度ご紹介していましたが,その件の続報となります。
3021年3月21日の報道によって,どのような事態が考えられるのでしょうか。弁護士の視点から今後起きうる対応を予想してみます。
オリンピック観戦のための入国のみ禁止?
報道を見て一番シンプルに思える対応は,「オリンピック観戦のための入国を禁止する」という方法です。
ですが,結論から言って,入国の段階で「オリンピック観戦の入国のみを禁止する」というのは非常に困難であると思われます。そもそも,オリンピックの観戦のための専用のビザというものはなく,多くの人は「短期滞在」というビザ(在留資格)で日本に入国し,各々が好きな競技を観戦することになります。
この短期滞在のビザ(在留資格)は,最大90日の滞在しか認められませんが,滞在期間中の目的には拘束されません。つまり,「なんとなく日本に来たかったので,来ました」という方でも短期滞在の在留資格は認められ得るのです。
そのため,空港や港の上陸審査で短期滞在の外国人の方に対して「オリンピックの観戦ですか?」と訊ねた上で「はい」と答えた人の入国のみを拒絶するというのではあまり意味がありません。「はい」と答えた人の入国だけ禁止する法律上の根拠が乏しいことと,仮に「いいえ違います」と言われた場合にそれ以上の審査のしようがないからです。「オリンピックの観戦ですか」と聞かれても,「いいえ,東京の観光に来ました」と言われれば,その他に上陸を拒否する事情がない限り,在留資格を認めなければならないのです。
短期滞在の在留資格についてはこちらにも解説があります。
一律の入国禁止?
次に,オリンピック開催期間中,日本の出入国を制限するという方法もあります。
法律に従って,一定期間中の出入国を禁止することは可能ですから,先ほどの方法に比べると,実施のハードルは低いようにも思われます。
しかし,実行性という意味では少し疑問が残ります。
まず,いつからいつまでの出入国を禁止するのかという点です。短期滞在は最大90日まで認められますから,仮に4月末に長めの短期滞在ビザで入国が出来れば,外国人の方であっても,オリンピックの開会式ぐらいは観戦できることになります。
また,短期滞在の外国人の方のうちには,オリンピック観戦のみならず,全く関係のない日本の旅行に訪れる人もいます。一律に入国を制限した場合には,旅行業や宿泊業への打撃は避けられないでしょう。
更に,出入国の制限に,本当に意味があるのかどうかについても疑問は残ります。短期滞在ではなく,就労ビザや家族ビザの方の入国までは禁止しないとなると,オリンピックの観戦も兼ねた入国は制限できないことになります。
オリンピック観戦のための外国人の流入を止めるのであれば,時期を見誤らず早期に一律の入国制限をかける必要があるのではないかと思われます。
実際にはどうするのか?
現時点において,大会組織員会は,海外在住者の方が購入した観戦チケットに対して払い戻しをするという方針の様です。そのため,「外国人の日本への流入を止めよう」というよりは,「オリンピック会場に海外在住者が来るのを止めよう」という対策をとっているようです。
このような対応であるため,出入国管理庁としては,オリンピック期間であるからと言って日本への新規入国,上陸を制限しようとしているわけではないように思われます。
もちろん,その時々の国際状況に応じた入国制限,渡航制限などは十分にありうるでしょうから,今年の7月前後に日本からの出国,日本への入国を考えている方は,常に最新の情報に気を配っている方が良いでしょう。
