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強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
(この事例は入管手続き,刑事手続について解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。
「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していたXさん(30代男性)は,東京都新宿区の居酒屋で開かれた飲み会の帰り道,酔いすぎたせいか,好みの見た目をしていた女性に対して,路上で抱き着いてしまい,その場で通行人に現行犯人逮捕されてしまいました。
Xさんと交際していた日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。
「逮捕=強制送還」ではない
Xさんの事例のように,外国籍の方が日本で逮捕されてしまうと,「すぐに強制送還されるのではないか」と不安にある方が多くいらっしゃいます。
ですが,実際に強制送還される場合というのは入管法に規定されており,この規定に当たらない限りは「強制送還できない」ということになります。
入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。
ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。
特に,薬物事件や入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。
逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。
Xさんの事例の,強制わいせつ罪(刑法176条)の場合には「1年を超える実刑判決」を受けた場合に限り,強制送還の対象となります。
そのためXさんの事例では,起訴されないための弁護活動,仮に起訴されたとしても執行猶予を獲得できるような弁護活動に重点を置くことになります。
実刑判決にならなければOK?
それではXさんの事例で,実刑判決を回避できれば万事解決となるでしょうか。
Xさんの場合には,「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していますから,当然「在留期間」というものが決まっています。
短い人は6か月や1年,最長でも5年の在留期間が決まっており,定められた在留期間以降も日本に留まることを希望する場合には,「在留期間の更新」をしなければなりません。
強制送還をされなかったとしても,Xさんが日本での長期的な在留を望む場合,「強制わいせつ罪で逮捕された」という事実が在留期間の更新手続きの中で不利に働くことがあります。
在留期間の更新については
- 在留資格の基礎となる活動が適切なものであるから
- 在留期間を更新するのが相当であるか
という点が審査されます。「逮捕された」という事実は,このうち「更新するのが相当であるか」という点に影響してきます。
日本で逮捕されたことがある,という事実は,日本での生活の素行が悪いという方向の事実であるからです。
刑事事件と在留期間の更新については,やや事案は異なりますが裁判例について解説したものもありますので,併せてご覧下さい。
逮捕されたことで強制送還されるのではないか,在留資格に影響が出るのではないか,とご心配のある方は,一度弁護士にご相談ください。
不法残留(オーバーステイ)で不起訴になると,日本に残れる?
今回は,不法残留(オーバーステイ)について解説をしていきます。
これまでも本HPではオーバーステイに関して解説記事を更新していましたので,併せてごらんください。
在留期間の延長を求めて争った裁判事例 東京地方裁判所その1
このページでは,在留期間の延長を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,令和2年2月27日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例では,「定住者」の在留資格を付与されていた外国籍のAさんが,
①スピード違反により懲役3月,執行猶予2年の有罪判決を受け,さらにその猶予期間中に
②無免許運転により懲役5月の有罪判決を受けて,日本の刑務所で服役することになりました。
Aさんは,服役する直前に,在留期間の更新申請をしていましたが,この申請は不許可となり,Aさんは服役中に不法残留(オーバーステイ)の状態となってしまいました。
Aさんは,在留期間の更新申請の不許可処分に対して取り消しを求めて東京地方裁判所に訴えを起こしました。
不法就労助長罪で逮捕される?
日本で外国人を不正に働かせていたとして,日本人が逮捕されるという事案が,ちらほら見られます。
2021年2月18日 滋賀県の人材派遣業の社長が逮捕された事例
2020年2月19日 愛知県の人材派遣業の社長が逮捕された事例
どのような場合に不法就労助長罪で逮捕されることが多いのでしょうか。 (さらに…)
同居人が不法滞在?逮捕されるのか?
不法滞在の外国人を日本で住まわせていたとして,会社役員の外国人の方が逮捕されるという報道がありました。
2020年11月20日の報道
このケースでは,逮捕された方のシェアハウスに住まわせていたとされていますが,もしも同居する外国人の方が不法残留であった場合,同居している方はどうなるのでしょうか。
この報道の事例を参考に指定解説します。
不法滞在とは?
そもそも,不法滞在とは一般的に使われている用語で,法律上は「不法残留」と言われているものです。「オーバーステイ」と言われていることもあります。
不法残留とは,一旦は適法に日本に上陸して在留していたものの,在留資格を取り消された方,在留期間を更新しないまま在留期間を満了した方が,その他法律上日本に在留するための手続きをとらないで在留している状態のことをいいます。
不法残留に対しては,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されることとされています(出入国管理法70条1項柱書)。
不法残留であることが通報や出入国管理局などを通じて警察に発覚すると,多くの場合に当該外国人の方は逮捕されることがあります。
同居していた人も罪に問われる?
不法残留してしまったご本人は,出入国管理法違反(不法残留)に問われることになります。
では,その周りの方や報道にあるように部屋を提供して住まわせていた方も,共犯として扱われるのでしょうか。
ここで一旦,刑法の基本的な考え方を解説します。
刑法では,他人が実行した犯罪であっても一緒に企てて犯罪を遂行した場合や,他人に犯罪の方法を教えたり道具を提供して容易にしたりすると,共同正犯や教唆犯,幇助犯として刑罰が科される可能性があります。報道からは詳細が分かりませんが,今回逮捕されてしまった会社役員の方は,不法残留の共同正犯,もしくは幇助犯として逮捕されてしまったようです。また,逮捕されてしまった方は「不法滞在とは知らなかった」とお話しされているようです。共同正犯も幇助犯も,故意がなければ犯罪は成立しません。ここでいう「故意」とは,「不法残留であることを知っていたこと」を指します。
それでは,不法残留の共同正犯や幇助犯として扱われる場合や過去の事例を見てみます。
他人の不法残留について一緒に責任を負う場合というのは,共同正犯や幇助犯として罪に問える程度の役割をはたしていなければなりません。具体的に他人の不法残留を容易にしたり,その手助けがなければ日本での不法残留ができなかったと言えるような状況が必要です。例えば,偽造したパスポートや在留カード等の身分証をもたせたり,毎月生活費を渡して扶養していた場合等があります。
知人の外国人が不法残留であることを知っていたが出入国管理庁に通報しなかった場合や,不法残留の外国人と一緒に暮らしているだけという場合には,共同正犯や幇助犯とはならない可能性もあります。
同居人の不法残留を幇助したとして起訴されたものの,東京高等裁判所で無罪判決が言い渡されたという事例があります(東京高等裁判所令和元年7月12日判決)。この事例では,起訴された方は,同居人が不法残留であったことは知っていたとしても,一方的に養っていたわけではないし,同居人が不法残留していることを周りや出入国管理庁に対して隠していたものでもないため,不法残留を「容易にした」とまではいえないとして,無罪とされました。
また,共同正犯や幇助犯というのは,上記の様な「故意」がなければ成立しません。他人を雇い入れる場合とは異なり,単なる同居人であれば他人の在留カードを確認する義務まではありません。日常会話などの中で「○○まで有効な在留資格で日本にいる」と聞いていたとすると,それ以上に「不法残留かもしれないな」と疑うような事情がなければ,「知らなかった」という主張が通る可能性もあります。一方で,持っていた在留カードと名前が違う場合や,在留カードやパスポートを持っていないで再発行もしない場合等には,不法残留であることを疑うべき事情となるかもしれません。
☆賃借人として気を付けた方が良いか?
このような報道が出て来ると,不動産賃貸をしているオーナーの方や客付けをされている方は,「外国人には不動産を貸すとリスクがあるのか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし,結論から申し上げますと不法残留の共同正犯や幇助犯となる可能性については,過度に心配する必要はないように思われます。
大切なのは,通常採るべき確認をしたのかどうかです。
賃貸借契約の時点で在留カードを確認する,契約書とは別途誓約書の提出を求める等,各社対応が異なるところではありますが,「これだけやっておけば安心」というものもありません。
ご不安な点のある方は一度お問い合わせください。
まとめ
不法残留の共犯を疑われて逮捕された事例を通して,不法残留の共同正犯や幇助犯について解説してきました。
ご不明点や心配な点がある方は,お気兼ねなくご相談ください。
不法就労助長罪による逮捕・処罰
このページでは,不法就労助長罪について詳しく解説します。
外国人を雇う事業主の方には必ず知っておいていただきたい内容になります。出入国管理法が定めている不法就労助長罪は「そんな法律は知らなかった」と言っても逃れられない規制ですし,「逮捕されるとは思わなかった」,「前科がつくなんて知らなかった」と思っていると,思わぬ結果になってしまうこともある事件です。
不安な点がある方は早めに弁護士に相談しましょう。
不法就労助長罪はどんな罪か
不法就労助長罪とは,日本で働くことが認められていない外国人を
1 事業のために働かせたり
2 日本で働くように自分の下で支配,管理したり
3 繰り返し(法律上は「業として」)日本での働き先を紹介したり
等した場合に犯罪になるというものです。
出入国管理法73条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
「不法就労活動」とは何か
「不法就労活動」とは,働く内容が違法かどうかという点ではなく,その外国人の方が「日本で適法に働く資格があるかどうか」が問題となります。
不法就労活動の典型例としては次のようなものがあります。
・在留資格がないが日本での生活費のために働く
・在留期間を過ぎてオーバーステイになったが生活費のために働く
・出国準備の在留資格や短期滞在の在留資格で働く
・週28時間のアルバイトが認められているがそれを超過して働く
このような場合には,出入国管理法上は不法就労活動として扱われることになります。
「させた」,「させる」とは何か
不法就労を「させる」とは,事業主として働かせた場合や,監督下で働くことを認めていた場合のことを言います。
「勝手に働いていたので知らない」と主張される方もいますが,外国人が自分の判断で働いていたとしても,その労働に対して給料を払っていた場合や会社に利益があったような場合には監督下で働くことを認めていたと判断され,不法就労をさせていたと見られることがあります。
逮捕されるのか
不法就労助長罪については事業主の方が最初に検挙されたり逮捕されたりするということは多くありません。
というのも,不法就労助長罪が発覚する場合というのは,まずは,労働者である外国人の方が不法残留(オーバーステイ)や資格外活動などにより,外国人の方が検挙され,そこから雇用主である事業主の方に対して捜査が及ぶことが多いようです。また,同業者や取引先からの告発や通報によって発覚するというケースもあるようです。
いずれのきっかけにしても,警察や出入国管理局が不法就労助長罪の疑いがあると判断すれば,他の従業員との口裏合わせや証拠隠滅のおそれがあるとして,逮捕されてしまう可能性があります。
実際に,事業主の方が逮捕される事例も多く発表されています。
↓不法就労助長罪による逮捕の報道例
在留資格のない外国人を工場に派遣していたとされる事件 https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20201118/1000056343.html
中国人留学生を風俗店で働かせていたとされる事件 https://www.sankei.com/west/news/201101/wst2011010008-n1.html
不法就労助長罪の疑いがかかると,逮捕から引き続いて最長20日間勾留されるおそれがあるほか,複数の従業員を別々の機会で働かせていた場合には再逮捕されることもあります。
逮捕されてしまってからでは自分で弁護士を探したり相談に行ったりすることが出来なくなります。少しでも不安な点がある方やこれから外国人を雇って事業を拡大しようと考えている方はあらかじめ専門家に相談しましょう。
前科がつくのか
不法就労助長罪について検挙,逮捕され,捜査された結果,不法就労助長罪の証拠が揃ったと見られると,多くの場合には起訴され,裁判になります。
不法就労助長罪は特定の被害者がいる事件ではありませんので,示談をして不起訴となるという事件ではありません。
不法就労助長罪については,「外国人が働けない状態だったとは知らなかった」と言っても処罰されることがあります。
出入国管理法上は,外国人が不法就労活動をしていることについて知らなかったとしても,事業者,雇用主の側に過失がなかった場合には処罰を免れないことが規定されています。やや難しい規定ですが,
不法就労であるかどうか確認をしていた | 不法就労であるかどうか確認をしなかった | |
不法就労であることを知っていた | 処罰される | 処罰される |
不法就労であることを知らなかった | 処罰されないことがある | 処罰される可能性あり |
上の表にあるように,処罰される場合の方が広くなっています。
不法就労助長罪について有罪となると,不法就労をさせていた規模や利益の程度,不法就労の内容が社会的に非難されるものかどうかという点に応じて,刑の重さが決められます。
不法就労によって大きな利益を得ていたこと(平成29年3月10日前橋地方裁判所太田支部),不法就労の規模が大きいこと(令和元年10月9日札幌地方裁判所),就労内容に売春が含まれていたこと(平成29年4月24日前橋地方裁判所)が刑を重くする事情として見られています。
会社や事業所の代表の方に対しては懲役刑と罰金刑の両方,法人に対しては罰金刑が科されることが多くなっています。これらはいずれも前科として扱われます。前科の内容によっては,会社の役員となることが出来ないことがある,各種許認可の手続ができないことがある,海外への渡航に制限が付くことがある等,種々のデメリットがあります。また,技能実習や特定技能の受け入れ機関となることが出来なくなるというデメリットもあります。
まとめ
不法就労助長罪の内容や逮捕されるのかどうか,前科がつくのかどうかという点について解説しました。
次回のページでは,不法就労助長にならないために気を付けるべき点について解説しますので,併せて読んでいただければと思います。