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大麻取締法違反で強制送還,再入国できるのか

2023-02-24

(解説のための架空の事例です)

X国籍で東京都に住んでいたAさんは,自己使用目的で大麻数グラムを所持していたところ,路上で職務質問を受けて大麻の所持が発覚していしまい,現行犯逮捕されてしまいました。

Aさんは裁判によって,執行猶予付き判決を受けましたが,その後,東京出入国管理局から呼び出されてインタビューを受け,退去強制(強制送還)されてしまいました。

Aさんには婚約関係にあった,日本国籍のBさんという方がいました。Bさんは,Aさんと結婚して日本で生活をしていきたいと思っていますが,Aさんの再入国手続きについて弁護士に相談することにしました。

薬物事件で強制送還された場合

Aさんのように,薬物事件(具体的には,覚醒剤取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反,大麻取締法違反,麻薬特例法違反)によって有罪の判決を受け,その判決が確定してしまうと退去強制の理由(入管法24条4号チ)が生じます。判決が確定した後に強制送還の手続きとなります。

薬物事件で有罪判決を受けたことによって強制送還となると,日本に再上陸できなくなってしまいます。

日本国内で大麻取締法違反による前科(犯罪歴)がある方の場合,刑の内容や刑期に関わらず無期限で再入国できなくなってしまいます。

再入国を求める場合

Aさんのように薬物事件で有罪の判決を受けて国籍国に送還された後,日本への再入国を求める場合には,上陸特別許可を求めることになります。

上陸特別許可とは,本来は再入国できない人(上陸拒否事由がある人)についても,特別に上陸を許可する事情がある場合に,その外国人の上陸を認めるというものです。

強制送還(退去強制)される手続の中における,在留特別許可のようなものです。上陸特別許可を求めて日本へ入国しようとする場合には,大きく分けて二通りの手続きがあります。

  1. 国籍国のパスポートを取得して,出国して,日本の空港や港の入管で上陸審査を受ける。
  2. 出国する前に,在留資格認定証明書の交付を請求する。

1の方法は,言ってみれば「ぶっつけ本番」という形で,ひとまず日本へやってきて,そこから上陸特別許可を得られるかどうかの審査をしてもらうという方法です。この場合,形式的には一度「入国拒否」の処分を受けることになり,そこから改めて上陸審査を受けることになりますから,手続には数日かかることがあります。その間,空港や港から出ることはできません。

ほとんどの方は,2の方法で再上陸できるかどうかについての審査を受けることになるでしょう。

本来,「在留資格認定証明書」というのは,日本での在留資格が認められるかどうかについての事前審査として行われるものです。Aさんの場合,おそらく「日本人の配偶者等」のビザを申請することになりますが,本来であれば「日本人の配偶者等」に該当するかどうかが審査の対象になります。

しかし,上陸拒否事由がある人が在留資格認定証明書の請求をした場合,上陸特別許可をするかどうかについても併せて審査をすることになります。

つまり,AさんやAさんの家族のように,既に強制送還された後の人を呼び寄せたいと思った場合には,先に,上陸特別許可がもらえるのかどうか(在留資格認定証明書がもらえるか)についての審査を受けておいた方が良いでしょう。

1のように,ぶっつけ本番で上陸特別許可を求めても,仮に不許可となった場合には,そのまま国籍国へ帰らなければなりません。費用的にも,時間的にも,身体的にも多大な負担となってしまうでしょう。

一方,2の方法の在留資格認定証明書の請求については,弁護士や行政書士に委任すれば,オンラインでの手続きも可能です。

一度強制送還されてしまった方の再入国については,弁護士等の専門家にご相談ください。

上陸特別許可について

2023-02-14

「上陸特別許可」について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所がご説明します。

日本で暮らす外国人の中で、例えば

  1. オーバーステイで強制送還された
  2. 事件を起こして逮捕され1年以上の実刑に処せられた
  3. 執行猶予を含む1年以上の刑に処せられた
  4. 薬物犯罪で刑に処せられた

などの場合、一定の事情に該当する方は,一度日本を離れてしまうと,再び日本に入国することを拒否される場合があります。

これは「上陸の拒否」とよばれ、出入国管理及び難民認定法第5条1項で「上陸の拒否」に該当する事情と「上陸拒否期間」が定められています。

①の場合、初回のオーバーステイで5年、2回目以降は10年間上陸が拒否されます。

「上陸の拒否」とは日本への入国が認められないという意味です。

②や③,④のように,犯罪歴がついてしまった場合,一度日本から出国すると「無期限上陸拒否」となり、永久に日本に入国することはできず、該当者にとって大変厳しい規定となっています。

しかし入管法5条1項の「上陸の拒否」に該当すると判断された場合でも、人道上の理由等法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるときは、法務大臣の裁量により上陸の許可を与える場合があります。

この法務大臣による上陸許可を「上陸特別許可」と言います。

「上陸拒否」に該当する日本国外にいる外国人が改めて日本に入国したい場合は、法務大臣に対して「上陸特別許可」を求める「在留資格認定証明書」の申請をします。

理由書・嘆願書・SNS・写真等の証拠書類を添付した「在留資格認定証明書」を通して、法務大臣に「上陸を認めるべき特別の事情」を説明して在留許可のお願いをします。

 

オーバーステイ等で強制送還され上陸拒否に該当する場合でも、上陸拒否期間内に日本に戻れる場合があります。上陸拒否にあたる家族や友人を日本に呼び戻したい方はお一人で悩まずに、まずは入管業務を扱う弁護士・行政書士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

喧嘩で被害届が出たら強制送還されるのか?

2023-01-05

2023年1月2日の夜,神奈川県内でベトナム国籍の男性ら2人が刃物で刺されるという事件が起きたことが報じられています。

飲食店でベトナム人ら2人刺され大けが 男が逃走 神奈川 相模原

2023年1月5日時点では,犯人はまだ逮捕されていないようですが,仮に外国人同士の喧嘩だった場合,加害者として検挙される人は暴行,傷害罪の罪に問われる可能性があります。

暴行罪:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

傷害罪:15年以下の懲役又は50万円以下の罰金

事実関係はまだ明らかではないですが,もしも仮に,この事件について被害届が出されて,犯人が検挙され,その犯人が外国籍だった場合には強制送還されることがあるのでしょうか。

刑事事件で検挙された場合

刑事事件の犯人として検挙された場合であっても,直ちに強制送還されるというわけではありません。

刑事事件の手続の中で,強制送還される場合というのは次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

報道にあるような暴行,傷害事件の場合には,4つ目,もしくは5つ目の場合に該当することがあります。

暴行,傷害罪は,刑法のうち第27章に規定されている罪であり,これは入管法で言う「一定の刑法犯」に該当します。そのため,暴行,傷害罪で起訴され,執行猶予付きの判決を受けた場合には強制送還の対象となる可能性があることになります。また,裁判の結果,1年を超える実刑判決となれば,強制送還となる可能性が相当高くなります。

具体的な事実関係は不明ですが,暴行,傷害事件について被害届が出されると,警察としては犯人を特定するための捜査活動を行うことになります。加害者と被害者との人間関係や,被害者の怪我の程度によっては逮捕されてしまう可能性がありますし,怪我が重ければ刑事裁判になる可能性があります。

強制送還となる具体的な場合

実際に暴行,傷害事件で強制送還となる具体的な場合について解説をします。

まず,「一定の刑法犯にあたるとして懲役,禁錮刑に処せられた場合」に該当する場合です。これを理由として強制送還されるのは,入管法の「別表1の在留資格」に該当する場合のことを言います。

「別表1」と言われてもよく分からないかもしれませんが,入管法に定められている在留資格には,大きく分けて二種類があり,別表1と,別表2があります。別表1は,日本での活動内容に応じて認められる在留資格を,別表2は外国人と日本との結びつきそのものに応じて認められる在留資格のことです。別表2には「永住者,永住者の配偶者等,日本人の配偶者等,定住者」をさします。

別表1は「別表2以外の在留資格の全部」をさすものと考えてよいでしょう。というのも,別表1には30種類以上の在留資格があります。その多くはいわゆる就労ビザと呼ばれるものですが,「留学生」や「短期滞在」も,この別表1の在留資格に含まれます。

そのため,「別表1の在留資格」(別表2以外の在留資格)で,暴行,傷害罪で執行猶予付きの判決を受けた場合には,強制送還となる可能性があります。

逆に,別表2の在留資格(永住や日本人の配偶者等)である場合や,罰金刑のみで終わった場合には,強制送還の対象とならないで済むことになります。

ただ注意しなければならないのは,罰金刑で終わったとしても,永住の在留資格でない限りは,次のビザの更新の時の不利益な事情となる場合があります。更新した時の在留期間が短くなったり,最悪の場合だと更新が認められないということがあります。

外国人の方の刑事事件は,罰金/執行猶予/実刑という,処分そのものだけでなく,在留資格への影響まで考えて弁護をしなければなりません。

日本で在留している間に刑事事件を起こしてしまったという方や,刑事事件に関わってしまった,強制送還されたくはない,という方は,是非ご相談ください。

刑事事件から在留資格までワンストップでご相談いただけます。

口頭審理で忘れてはいけないこと,日本で在留を続けるため

2022-12-05

(以下は解説のための架空の事例です)

事例―MDMAの裁判の後・・・・

Bさんは「定住者」の在留資格で18年間,日本で生活をしていました。日本人の交際相手もおり,日本の企業にも就職していて,出来ればずっと日本で生活し続けたいと願っていました。

しかし,Bさんはある時,仕事がうまく行っていなかったことや友達から勧められたこともあり,MDMAを使ってしまい,警察に逮捕されました。

Bさんには懲役1年6月,執行猶予3年の判決が言い渡さた後,今度は入管からの呼出がありました。

Bさんは,インタビューの中でも日本に残りたいことを伝えましたが,口頭審理では「あなたは強制送還になります」と言われました。

Bさんとその交際相手のかたは,弁護士に相談することにしました。

口頭審理とは何か?

口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。

強制送還になるまでには,

  1. 強制送還となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査

という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この「3」の次にある手続ということになります。

口頭審理期日は,入管の審判部門でのインタビューとなります。

東京入管の場合には,6階のエレベーターを降りて,ちょうどその裏にある部屋になります。名古屋入管の場合には3階です。

口頭審理の場では,,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。

そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。

口頭審理で忘れてはいけないこと

もしも日本での在留を続けたい方で,これから口頭審理を受ける方がいれば,覚えておいてほしいことがあります。

それは,口頭審理を受けただけでは在留特別許可は出ないということです。

どんな事案であっても,口頭審理の結果として在留特別許可をするということはできません。これは,法律上,できないからです。

口頭審理の結果というのは,

  1. 入国審査官の判断は間違っていた
  2. 入国審査官の判断は間違っていない

この二つしかありえません。ですから,口頭審理の場で在留特別許可がされなかったことで,パニックになってはいけません。

在留特別許可を望むのであれば,口頭審理の結果出てから3日以内に,法務大臣に異議の申出をしなければいけません。異議の申出があってから初めて,在留特別許可をするかどうかという判断が始まるのです。口頭審理の結果を受けて諦めてしまい,異議の申出をしないでいると,在留特別許可を受けるチャンスをつぶしてしまうことになりかねません。

口頭審理が終わったら必ず異議の申出をする,ということは,忘れてはいけません。

在留特別許可までの流れが複雑すぎる?

現在の法律によると,在留特別許可がされるかどうかの判断には,

  1. 強制送還となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. 特別審査官による口頭審理
  5. 法務大臣(もしくは各地方入管局長)の裁決

という手続きを踏まなければならず,事実を認めて争っていない場合であっても,何度もインタビューを受ける必要がありました。一度廃案になってしまいましたが,入管法の改正案の中には,「在留特別許可についても窓口で申請ができるようにする」というものもありました。これまでは,入管側のアクションを待たなければならなかったものが,自分たちでも申請ができるようになる,という改正案です。

将来的には,在留特別許可についても手続きが大きく変わってくるかもしれません。

在留特別許可に関する手続きや,口頭審理に向けた手続きについてご不安がある方は,弁護士,行政書士といった専門家に早めにご相談ください。

解決事例 在留特別許可(日本人の配偶者等)が認められた事例

2022-11-16

当所の扱った事案について,在留特別許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。

(守秘義務の関係上,事実の詳細を明らかにしない部分があります)

事案

ご依頼者であるXさんは,日本国内にて大麻を所持していたという事案によって,執行猶予付きの懲役刑の判決を受けました。

執行猶予付きの判決ではあったものの,大麻取締法違反の事件でしたので,判決が確定後に,入管から違反調査のための呼出が来ることになりました。

ご依頼の経緯

判決の言い渡し前から,Xさんは,「刑事事件の判決によって自分の在留資格がどのようになるか」という点について不安があり,当所へ相談に来られました。

Xさんは日本で育ち,家族のほとんどが日本で生活しているという状況であるため,違反調査の後,強制送還されてしまうと非常に不利益が大きいという状況でもあり,在留特別許可に向けた活動をご希望でした。

刑事事件の判決が言い渡される前からご相談に来られたことで,事前のリサーチなどを行う時間も十分に確保でき,実際に入管からの違反調査が始まって以降は速やかに正式に代理人として受任し,在留特別許可の獲得に向けた活動を行うことができました。

弁護活動

Xさんに対する違反調査,違反認定については,在宅のままで進められました。Xさんは元々日本で生活していた方で,日本人の家族もいたことから,違反調査があっても在留資格は直ちには影響を受けなかったためです。

違反認定の結果,違反事実があり,口頭審理に進むという段階でも,入管の施設内に収容されてしまうということもなく,身元保証人もいたことから,即日仮放免で出てこられました。

代理人弁護士としては,「Xさんが日本にいなければXさんが困る/Xさん以外にも困る人がいる/Xさんを日本に在留させ続けるのが誰にとっても良い」ということを入管にアピールするために,手続の早い段階から,Xさんが置かれた状況について入管の担当者に対して説明を行いました。

口頭審理が行われる前から,先だって在留特別許可を求める具体的な事情を述べ,また,入管が判断する基準に基づいても「在留特別許可するべきである」という意見と理由をつけた意見書を提出しました。ただ意見を言うだけではなく,Xさんのご家族からも嘆願書をもらう等して,資料を集めました。

実際の口頭審理の場でも,弁護士が立ち会い,Xさんに在留資格が付与されるべきであることの意見を述べ,審理の中でXさんにとって不利な供述がなされてしまわないかどうかを立会確認しました。

口頭審理の結果

口頭審理から約2週間程度という速さで,結果が出て,在留特別許可が認められることになりました。

Xさんはもともと,「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していましたので,在留特別許可(日本人の配偶者等,在留期間1年)という形で認められました。

Xさんは日本で家族との生活を続けられることになり,お仕事についても日本の法律上,何らの問題もなく続けられることとなりました。

ポイント

Xさんの事件では,Xさんが日本に長く在留していたこと日本に家族がいたことが審理において非常に有利な点として考慮してもらう事ができました。また,Xさんの事例では,Xさん自身が日本で仕事をしていたこと,この仕事が日本や地域社会の利益にもつながっていたことも,入管に対して主張していました。

ただ,大麻をはじめとした薬物事件というのは,やはり入管業務においても重たい事案として扱われていることも事実です。

刑事裁判の結果についても触れて,その責任が必ずしも重大なものではないことについても,刑事弁護的な観点から意見を述べています。

よりよい弁護活動や一貫した弁護活動を目指すのであれば,刑事裁判の段階から入管まで見据えた弁護活動が望ましいでしょう。

今後も在留資格や強制送還に関する手続きでお困りの方,そのご家族の力になれるよう,事案に取り組んでいきたいと思っております。

家族や友達の偽装結婚でもビザが取り消される?

2022-11-08

Kさんは日本で「定住者」の在留資格をもって在留している外国人でしたが,Kさんの妹が日本人と結婚して「日本人の配偶者等」の在留資格を取得することになりました。

Kさんは,妹が日本で結婚する証人になることになり,婚姻届の「証人」の欄に署名をしました。その後,Kさんの妹は日本人配偶者等の在留資格で来日しました。

しかし後日,実はKさんの妹がした結婚は偽装結婚であり,来日してからは全く家族としての生活をしていないことが分かりました。

Kさんは,妹の偽装結婚の証人となってしまったことで自分の在留資格も影響が出るのではないかと思い,弁護士に相談することにしました。

偽装結婚は重い罪

事例のように,偽装結婚というのは入管実務上でも非常に悪質な犯罪とされており,刑法上も重たい刑罰が定められています。

「本当は夫婦として結婚生活を送るつもりがないのに,ビザをもらうためだけに婚姻届けを出して結婚したことにする」というのは,公正証書原本不実記録,供用罪という犯罪にあたり,最大で5年の懲役刑が科されることになります。

また,公正証書原本不実記録,供用罪で有罪の判決を受け,懲役の判決を受けた場合(執行猶予付きの判決も含みます)には,在留資格によっては強制送還の対象となってしまいます。

さらに,元々の在留資格を問わず,

・自分が偽装結婚をして在留資格を不正に取得したり,在留資格の変更,更新の許可等を得た場合

・偽装結婚によって他人に在留資格を不正に取得させたり,在留資格を変更,更新の許可を得させた場合

には,在留資格の取消し,強制送還の対象となってしまいます。この場合,仮に有罪の判決を受けていなかったとしても,入管の独自の調査によってビザが取り消されたり,強制送還に向けた手続きが進んでしまうことがあります。

特に,逮捕されて警察で取調べを受けているという状態の場合,それと並行しながらビザの取消しに向けた調査が進んでいるという場合があります。警察の取調べについては国選弁護士でも対応をしてくれますが,ビザの取消しに関しては国選弁護士も任務の範囲外になってしまいます。逮捕されている事件でビザの取消しも防ぎたいという場合には,早急に自分たちで弁護士に依頼しましょう。

Kさんの事例の場合,「他人の偽装結婚の証人になっている」ということですから,Kさん自身の在留資格については何ら不正をしていないとしても,「Kさんの妹の在留資格について不正な手段を用いた」と疑われてしまうと,強制送還に関する違反調査が始まってしまう可能性があります。

強制送還の対象になるのか

Kさんのように他人の偽装結婚に関わってしまった場合,強制送還されてしまうのでしょうか。

まず,強制送還の対象となる可能性のある場合の法律は,次のとおりです。

三 他の外国人に不正に前章第一節若しくは第二節の規定による証明書の交付、上陸許可の証印(第九条第四項の規定による記録を含む。)若しくは許可、同章第四節の規定による上陸の許可又は前二節若しくは次章第三節の規定による許可を受けさせる目的で、文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、若しくは偽造若しくは変造された文書若しくは図画若しくは虚偽の文書若しくは図画を行使し、所持し、若しくは提供し、又はこれらの行為を唆し、若しくはこれを助けた者

難しいことが書かれているように見えるのですが,簡単にまとめると次のようになります。

誰の在留資格についてか

自分以外の外国人

どんな目的だったか

不正に在留資格を得させる目的で

何をした場合か

文書を偽造した,文書に嘘の記載をした,偽造や嘘の文書を提出/所持/提供した,またはこれらの行為の手助けをした

これらにすべて該当するのであれば,強制送還の対象となる可能性があります。

Kさんの場合には,自分で虚偽の婚姻届を作ったり入管への文書を偽造したというものではないと思われます。そのため,証人になったからと言って,直ちに強制送還の対象になってしまうということはないでしょう。

ただそ,仮に「妹の結婚が偽装結婚であることを最初から知って証人となった場合」には,文書に虚偽の記載をする手助けをしたものとして,強制送還の対象になる可能性もあります。

入管当局は,偽装結婚に対しては特に厳しい態度で臨んでいます。「日本人の配偶者等」の在留資格は,比較的日本で安定した生活を送るためのビザですが,ビザの条件が「結婚」というものだけであることから悪用されることも多いのです。

もしも他人の偽装結婚に関わってしまったという場合には,適切に対応しなければご自身の在留資格まで取り消されて,強制送還されてしまう可能性もあります。偽装結婚に関わってしまったという外国人の方は,早めに弁護士までご相談ください。

オーバーステイになった後もビザを取得することができるか?

2022-06-29

(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と事例は必ずしも関係ありません)。

Xさんは留学生として来日し,日本で専門学校を卒業しましたが,留学ビザが切れた後も日本での在留を続け,飲食店でのアルバイトなどをしながら生計を立てていました。

ある時,Xさんは路上て職務質問を受け,警察官に在留カードを確認され,オーバーステイとなっていることが明らかになったため現行犯人逮捕されてしまいました。

Xさんは,改めて日本でビザを取り直して在留を続けたいと思っています。

オーバーステイ後の資格の変更/取得

Xさんのように,ときたま,「元々在留資格をもっていてオーバーステイになってしまったけれども,新しく在留資格を取得することができるか」という相談があります。

これについて結論として,オーバーステイとなった後で在留資格を取得することは原則としてできません

在留資格というのは,日本に上陸しようとする際に,又は,日本国内で外国国籍として生まれた場合に取得するものであり,日本で在留している間に一度ビザが切れてしまうと,日本にいながら再度ビザを取得するという手続きはないのです。

「在留資格認定証明書」を取得するという手続きがありますが,これは,

①まだ日本にいない人が,日本へ上陸する前にビザがあることを証明する

②日本で別の在留資格をもっている人が,在留資格を変更したり転職したりするときにビザがあることを証明する

というために行うものです。

そのため,一度ビザが切れてしまった人は,在留資格認定証明書を取ることもできません。

同様の理由で,在留資格の変更をすることもできません。

「資格の変更」というのは,有効期間内のビザを変更する,というものです。有効期間が切れてしまっているビザでは,それを別のものに変更するということもできないのです。

Xさんのように,一度オーバーステイとなってしまうと,基本的に,在留資格を新しく取得するということはできないのです。

日本での在留が認められる場合

オーバーステイとなってしまった後,日本での適法な在留が認められる場合として,在留特別許可が出た場合があります。

在留特別許可というのは,本来であれば強制送還の対象となる人であっても,法律で定められている場合に該当する人に対しては,特別に在留を認めることがあるというものです。

  • 永住許可を受けているとき。
  • かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
  • 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
  • その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。

以上のような場合には,法務大臣(もしくは各出入国在留管理局長)が在留特別許可をすることができます。

そして在留特別許可が認められた場合の大半は,一番最後の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」として許可がなされています。

どのような場合にこの在留特別許可が認められるのかという点について,はっきりとした基準があるわけではないのですが,日本に家族がいるのかどうか,どのような理由で強制送還の対象になっているのか,といった事情を総合的に考慮して決められることになります。

特に,日本人の配偶者がいる,日本人の子供がいて実際に扶養しなければならない,といった事情は,在留特別許可を認める上で大きなプラスになる事情です。

Xさんの事例のように,単に留学生として在留しており,アルバイトなどで生計を立てていたというだけでは,在留特別許可をもらうことは非常に難しいでしょう。

オーバーステイとなってしまった後も日本での在留を続けたいという場合,どんな理由で日本に残りたいのかという点が非常に重要です。理由次第では在留特別許可が認められやすいという場合もありますし,「およそ無理でしょう」という場合もあります。

オーバーステイ,在留特別許可については弁護士にご相談ください。

解決事例 在留特別許可(日本人の配偶者等)が認められた事例

2022-06-13

当所の弁護士が扱った事案について,在留特別許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。

(解説にあたって,ご依頼者様からご了解を頂きましたが,守秘義務の関係上一部,事情を変えて記載しています)

事案

ご依頼者であるXさんは「日本人の配偶者等」としての在留資格を取得後,日本人家族との生活を続けるために永住者の申請を行い,永住者として認められました。

しかし,Xさんは母国にも家族がおり,永住の申請をするときに,母国の家族については何も申告しないまま永住の申請をしてしまいます。

その後,Xさんは入管から呼び出されて調査を受け,永住申請の時に虚偽の申告を行ったとして永住許可を取り消されてしまいました。

ご依頼の経緯

XさんとXさんのご家族は,Xさんの永住許可が取り消されて強制送還されてしまうかもしれない,というご不安から,当事務所にご相談されました。

当事務所東京支部の弁護士が事情を伺ったところ,果たして永住許可が取り消されるほどの重大な事案なのか,また,Xさんの日本に置ける状況を鑑みると,なおも,日本での在留が認められるべき事案ではないかと思われました。

Xさんから正式にご依頼を受けた弁護士が,入管に対して,Xさんに対しては在留特別許可が認められるべきである,と主張していくことにしました。

具体的な弁護活動

Xさんの事案では,弁護士が依頼を受けた段階で既に永住許可が取り消されており,在留特別許可に関する口頭審理が開かれる前の段階でした。

そのため,まずは,Xさんが在留特別許可を求めている事,その理由となる具体的な事情をまとめ,意見書として入管に対して提出しました。

また,口頭審理までの間に,よりXさんの在留が認められやすくなるように状況を整え,その証拠を集めました。

そして,実際の口頭審理の場では弁護士が立ち会い,Xさんがインタビューの答えに困った時には直ぐにアドバイスができるように助言し,場合によっては弁護士がXさんの代わりに説明を行いました。

審理は長時間にわたって行われましたが,その合間の休憩時間などには,審理の流れについて確認し,その場でXさんとの打ち合わせも行いました。

口頭審理の結果

口頭審理から約1か月後に在留特別許可が認められたとの通知がなされました。

Xさんは日本人の配偶者としての地位がありましたので,在留特別許可(日本人の配偶者等,在留期間1年)という形で認められました。

Xさんは日本で家族との生活を続けられることになり,ご家族の方も大変安心されました。

ポイント

退去強制(強制送還)手続きに伴う在留特別許可の審査においては,日本との結びつき,特に,日本での家族関係があるかどうかが非常に重要です。Xさんのケースでは,「日本人の家族がいる」という事情があり,これは在留特別許可を求めるうえで最も有利になる事情ですから,弁護士からの意見書でもこの点を最も前面に押し出して主張を行いました。

口頭審理に先立って,事前に特別審査官との面談も行っており,その際にも許可が認められる見通しや審理を行う前の心証についても開示を受けていたため,特別審査官の審理でも,この点に注意しつつ質問に応じました。

何よりも,Xさんが日本で家族と生活を続けられることになったということが,弁護士としても非常にうれしく思います。

今後も在留資格や強制送還に関する手続きでお困りの方,そのご家族の力になれるよう,事案に取り組んでいきたいと思っております。

永住権が取り消されることもある?永住権を守るためにどうしたらいいか

2022-06-04

このページでは,永住許可が取り消されることがあるのか,取り消されそうになった時にどのように対応すべきなのかについて解説をします。

永住権は取り消される?

「永住者」(永住権)の在留資格は,日本で生活する外国人の方にとって,最も安定した在留資格であって,長期間日本で生活することを考えている方であれば,「できれば永住許可を受けたい」と思う方が多いのではないでしょうか。

「永住者」のメリットとしては

  1. 在留期間が無期限で更新する必要がない
  2. 仕事の制限がない
  3. 結婚したら配偶者は「永住者の配偶者等」という在留資格となり,ほぼ永住者と同じ扱いを得られる

というものがあります。これらのメリットは,他の在留資格における手間やリスクといったものを覆すようなもので,「永住者」が「最も安定した在留資格」と言われる理由でもあります。

ただ,この「永住者」の在留資格であっても,取り消される場合というのがあります。

「永住者」であっても在留資格を取り消される場合としてありうるのは,大きく分けて次のような場合です。

  • 永住許可申請の時に虚偽の申立てをしたり,偽造した文書を提出して永住許可を受けていた場合
  • 日本で犯罪をした事によって,一定の処分や刑罰を受けた場合

虚偽の申立て等をした場合としては,例えば日本で犯罪歴があったのに申告しなかった場合や,仕事場や住所・家族構成について虚偽の申請をした場合,納税や社会保険料の納付に関して文書を偽造して提出していたという場合があります。

また,日本で犯罪をした事によって処分や刑罰を受けた場合,永住者の方であっても,退去強制(強制送還)の手続きが始まることがあります。

永住者であっても退去強制(強制送還)となってしまう可能性があるものとしては,

  売春に従事しているとされた

  1年以上の実刑判決

  入管法違反,旅券法違反,薬物関係の事件で有罪の判決を受けた

と言ったものがあります。これらの場合には,たとえ永住者であったとしても強制送還されるおそれがあり,そうなると永住者としての在留資格も失ってしまうことになります。

永住権を守るために出来ること

それでは,永住者としての在留資格が取り消されてしまうかもしれない場合において,どのようなことができるでしょうか。

まず,虚偽の申立てや偽造した文書を提出したことを理由として永住許可が取り消されそうになってしまったという場合,申し立ての内容や提出した文書に誤りがないかどうかをよく確認する必要があります。本当に,永住許可が欲しくて嘘をついてしまったのか,それとも勘違いや誤解から真実と異なる申立てをしてしまっただけなのかによって,永住許可が取り消されるかどうかが変わってきます。

永住許可の取り消しについても,入管で事情聴取がありますから,勘違いや誤解があるという場合には説得的にそれを主張しなければなりません。

また,本当に嘘をついてしまったという場合や日本で犯罪をした事によって処分や刑罰を受けたという場合,強制送還に関する手続きの中で,在留特別許可を求めていかなければなりません。

この在留特別許可を求める際に,過去に「永住者」の在留資格を取得していた,ということは,それだけ日本で定着して生活をしていたということですから,在留特別許可をもらいやすくなる事情として働きます。

「永住者だった」というだけでなく,個別の事件における事情や,日本に残らなければならないという事情,日本から出国してしまうと困る事情を広く集めて,入管での事情聴取や口頭審理(インタビュー)手続きの中で強く主張しておかなければなりません。

口頭審理の手続きについて,事前に準備しておくべきことはこちらでも解説しています。

【日本に残るために】口頭審理の前の準備

入管での口頭審理手続きについては,家族とは別で弁護士も立ち会うことができます。

永住許可の取消や強制送還の手続きでお困りのことがある方は,一度弁護士にも相談してみましょう。

強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか

2022-05-04

(この事例は入管手続き,刑事手続について解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。

「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していたXさん(30代男性)は,東京都新宿区の居酒屋で開かれた飲み会の帰り道,酔いすぎたせいか,好みの見た目をしていた女性に対して,路上で抱き着いてしまい,その場で通行人に現行犯人逮捕されてしまいました。

Xさんと交際していた日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。

「逮捕=強制送還」ではない

Xさんの事例のように,外国籍の方が日本で逮捕されてしまうと,「すぐに強制送還されるのではないか」と不安にある方が多くいらっしゃいます。

ですが,実際に強制送還される場合というのは入管法に規定されており,この規定に当たらない限りは「強制送還できない」ということになります。

入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。

ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。

特に,薬物事件や入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。

逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。

Xさんの事例の,強制わいせつ罪(刑法176条)の場合には「1年を超える実刑判決」を受けた場合に限り,強制送還の対象となります。

そのためXさんの事例では,起訴されないための弁護活動,仮に起訴されたとしても執行猶予を獲得できるような弁護活動に重点を置くことになります。

実刑判決にならなければOK?

それではXさんの事例で,実刑判決を回避できれば万事解決となるでしょうか。

Xさんの場合には,「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していますから,当然「在留期間」というものが決まっています。

短い人は6か月や1年,最長でも5年の在留期間が決まっており,定められた在留期間以降も日本に留まることを希望する場合には,「在留期間の更新」をしなければなりません。

強制送還をされなかったとしても,Xさんが日本での長期的な在留を望む場合,「強制わいせつ罪で逮捕された」という事実が在留期間の更新手続きの中で不利に働くことがあります。

在留期間の更新については

  • 在留資格の基礎となる活動が適切なものであるから
  • 在留期間を更新するのが相当であるか

という点が審査されます。「逮捕された」という事実は,このうち「更新するのが相当であるか」という点に影響してきます。

日本で逮捕されたことがある,という事実は,日本での生活の素行が悪いという方向の事実であるからです。

刑事事件と在留期間の更新については,やや事案は異なりますが裁判例について解説したものもありますので,併せてご覧下さい。

在留期間の延長を求めて争った裁判事例 東京地方裁判所その1

逮捕されたことで強制送還されるのではないか,在留資格に影響が出るのではないか,とご心配のある方は,一度弁護士にご相談ください。

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