Posts Tagged ‘在留資格’

退去強制事由についての解説

2023-10-11

「退去強制事由」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が紹介します。

退去強制手続とは、外国人が日本国内で法的に許可された在留資格や期間を超えて不法滞在する、または他の法律違反を犯した場合に、その外国人を日本から退去させるための手続きのことをいいます。

また退去強制事由とは、外国人が入国や在留に際して日本の法律や規定に違反した場合に、彼らを日本から退去させることができる理由や事情のことをいいます。

「出入国管理及び難民認定法」の第24条に退去強制事由についての記載があります。

条文では、一号から十号までの事由が列挙されていますが、ここでは代表的なものを以下にてご説明いたします。

① 不法入国者

有効なパスポートなどを持たずに日本に入国した人が該当します。

また、外国人が他人のパスポートを使って入国した場合や偽造パスポートによる入国も不法入国に該当します。

② 不法上陸者

手段や方法は問わずに、上陸の許可などを受けることなく日本に上陸した人が該当します。

不法上陸者には、2つのパターンがあり、1つ目は上陸許可の証印や記録を受けないで日本に上陸した者、二つ目は寄港地上陸や通過上陸などの特例上陸許可を受けなければならない状況であるにも関わらず、これを受けないで入国した者となっています。

③ 偽造・変造文書を作成・提供した人

不正に上陸や在留するために、組織的・専門的に偽物のパスポートや書類を作成したり提供した人を指し、外国人ブローカーなどを日本から退去強制することが目的とされています。

なお、偽造文書の作成や提供だけでなく、それを幇助した者も含まれます。

④ 資格外活動者

「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」などを行い、在留資格で定められた活動以外のことを行なっている人をいいます。

外国人留学生が学校に通うことなく本格的に就労している場合や就労のための在留資格を持つ人が許可を得ることなく、他に深夜にアルバイトをしている場合などには資格外活動に該当することがあります。

⑤ 不法残留者(オーバーステイ)

在留期間の更新又は変更を受けずに、日本に滞在することを許された期間をすぎて滞在している人が該当します。

親族訪問の目的で「短期滞在」で入国後にそのまま在留期限が経過してしまった場合などが代表的な例です。

⑥ 刑罰法令の違反者

住居を犯す罪、通貨偽造の罪、文書偽造の罪、有価証券の偽造の罪、支払い用カードの電磁的記録に関する罪、印象偽造の罪、賭博及び富くじに関する罪、殺人の罪、傷害の罪、逮捕及び監禁の罪、脅迫の罪、略取、誘拐及び人身売買の罪窃盗及び強盗の罪、詐欺及び恐喝の罪、盗品等に関する罪などにより懲役または禁錮に処せられたものが該当します。

⑦ 売春関係業務の従事者

売春関係の業務に従事したという事実があれば該当し、売春防止法などに違反して刑に処せられたかどうかは要件とされませんので、注意が必要です。

⑧ 退去命令違反者

退去命令を受けたにも関わらず日本から退去しない者であり、出向命令制度などにより既に退去命令が出ているにも関わらずそのまま日本から退去しない場合などが該当します。

上記のように、一言で「退去強制事由」といっても、数多くの「退去強制事由」が存在します。

特に、上記⑥については、どれくらいの刑罰を受けることになるのかによっても、「退去強制事由」に該当するか否かが変わりますので、「退去強制事由」でお困りの方はお気軽にお問い合わせください。

強制送還の危機!? 就労ビザの外国人の権利と正しい対応方法

2023-10-08

日本で生活する外国人にとって、法律の遵守は必須です。

しかし、誤って法律を犯してしまった場合、強制送還のリスクが迫ることも。 この記事では、強制送還の手続きとその対応方法について詳しく解説します。

事例紹介: 報道の在留資格のAさんの万引き事件

(解説のためのフィクションです)

2021年、東京都内で「報道」という在留資格を持つAさんが万引き事件を起こしました。

Aさんは、友人との食事後、飲み物を手に入れるためにコンビニへ向かいました。 しかし、金銭的に困窮していたAさんは、飲み物をポケットに忍ばせ、店を出ようとしました。 しかし、店員に見つかり、警察に通報される事態となりました。 この行為により、Aさんは強制送還の危機に直面しました。

法律解説: 強制送還手続きとは

日本における外国人の強制送還手続きは、「退去強制」と正式に称されます。
この手続きは、いくつかの段階を経て進行します。

  1. 事由の発生: これはオーバーステイ、不法就労、虚偽の申請、犯罪歴などが該当します。
    これらの理由が生じたとき、入国管理局は事実を知り、調査を開始します。

  2. 入国警備員による調査: この調査の主な目的は、「退去強制をするべき事実が存在するか」を確認することです。
    事実の確認は、刑事裁判の結果を基に行われます。

  3. 入国審査官による審査: 調査内容は入国審査官に引き継がれ、審査が行われます。
    強制送還の事由とともに、日本での生活、家族、財産などの事情も審査の対象となることがあります。

  4. 法務大臣による裁決: 入国警備員と入国審査官の手続きを経た後、最終的には法務大臣が裁決を行います。
    この段階では、事実関係の再確認のみならず、在留特別許可の可否も決定されます。

強制送還の理由となる犯罪は、入管法や旅券法、薬物関連の法律、一定の刑法犯などが含まれます。
特に薬物事件や入管法違反は厳しく取り締まられ、強制送還の対象となる可能性が高まります。

Aさんの「報道」の在留資格は,いわゆる「就労ビザ」と呼ばれる在留資格の一種です。就労ビザの場合,配偶者ビザや永住者ビザよりも強制送還となる可能性が高くなります。Aさんの事例のような万引きは,刑法の窃盗罪に該当します。就労ビザの人が窃盗罪によって訴追されてしまった場合,仮に刑務所に行くことがなかったとしても,強制送還の対象となり得ることを知っておかなければなりません。

弁護士への相談

強制送還の手続きは複雑で、外国人にとっては非常に難解な場面も多いです。
そんな時、弁護士に相談することで得られるメリットを紹介します。

  1. 専門的知識: 弁護士は法律の専門家であり、退去強制の手続きや法律に関する深い知識を持っています。
    そのため、具体的なアドバイスや最適な対応策を示してくれます。

  2. 手続きのサポート: 強制送還の手続きは煩雑ですが、弁護士がサポートしてくれることで、スムーズに進行することが期待できます。

  3. 権利の保護: 外国人が日本の法律に疎い場合、自分の権利を十分に守れないことがあります。
    弁護士はクライアントの権利を最優先に考え、適切な対応を指南します。

  4. 信頼性: 弁護士は守秘義務を持っており、相談内容が外部に漏れることはありません。
    そのため、安心して悩みや問題を相談することができます。

  5. 強制送還を回避する可能性: 弁護士の適切なアドバイスや対応により、強制送還を回避する道が見えることもあります。

強制送還の危機に直面した際は、1人で悩むのではなく、専門家である弁護士に相談することを強くおすすめします。

弁護士への相談の仕方

弁護士に相談する際の適切なアプローチ方法やポイントを紹介します。正確で迅速な対応を受けるための手順を理解することは非常に重要です。

  1. 弁護士の選び方: 外国人の問題に精通した弁護士や、入管法を得意とする弁護士を選ぶことが望ましいです。
    Aさんの事例のように,刑事事件も関係しているという場合には,外国人問題と刑事事件とどちらも扱える事務所がベターです。刑事事件の処理次第では,強制送還のリスクを最小限まで抑えられる場合があります。

  2. 事前の情報整理: 相談する前に、自分の状況や問題点を明確にしておくことが大切です。
    必要な書類や証拠も整え、弁護士に提示することで、具体的なアドバイスを受けやすくなります。

  3. 具体的な質問: 相談の際は、具体的な質問を持ってアプローチすると効果的です。
    例えば、「この状況での強制送還のリスクは?」や「どのような対応が最適か?」といった質問を準備しておくと良いでしょう。

  4. 費用の確認: 弁護士に相談する際の費用や、今後の手続きにかかる費用を明確に確認しておきましょう。

  5. 信頼関係の構築: 弁護士との信頼関係は非常に大切です。
    隠さず正直に事実を伝え、アドバイスや指示に従うことで、最善の結果を迎えることができるでしょう。

弁護士に相談することで、自身の問題に対する理解を深め、適切なアクションを取るための助けとなります。そのため、相談の際のアプローチや準備は非常に重要です。

まとめ

強制送還手続きは、多くの外国人にとって非常に重要かつ深刻な問題となる可能性があります。この記事では、その手続きの概要から弁護士に相談するメリット、さらに具体的な相談の仕方までを詳しく解説しました。

  1. 退去強制の手続き: 日本の「退去強制」は、外国人が日本から強制送還される正式な手続きです。
    事由の発生から法務大臣の裁決まで、いくつかの段階を経て進行します。

  2. 弁護士の重要性: 強制送還の手続きにおいて、専門家である弁護士の助けは計り知れない価値があります。
    事実の確認、権利の保護、適切な手続きのサポートなど、多岐にわたるメリットが存在します。

  3. 弁護士への相談方法: 適切な弁護士の選び方から、事前の情報整理、具体的な質問の準備、費用の確認、信頼関係の構築まで、相談を成功させるためのポイントを紹介しました。

強制送還の危機に直面することは誰にでも起こりうる事態です。そんな時、正確な知識と専門家のサポートを得ることで、適切な対応を取ることが可能となります。この記事が、その一助となれば幸いです。

企業内転勤ビザの更新手続き:必要なステップと注意点

2023-10-05

企業内転勤ビザは、多くの外国人が日本で働くために必要な在留資格の一つです。

しかし、このビザの有効期限が切れると、不法滞在となり厳しい罰則が科される可能性があります。この記事では、企業内転勤ビザの更新手続きについて詳しく解説します。

1. 企業内転勤ビザとは?

企業内転勤ビザは、特定の企業に所属する外国人が日本で働くために必要な在留資格です。

企業内転勤ビザ(Intra-Company Transferee Visa)は、外国の企業が日本に子会社や関連会社を持っている場合、その企業の外国人従業員が日本で一定期間働くために必要な在留資格です。

このビザの特徴として、日本での労働内容は、外国の母体企業での業務と基本的に同じでなければならないという点があります。 企業内転勤ビザの有効期間は3か月から5年の幅がありますが,通常1年または3年とされることが多いでしょう。この期間が終了する前に更新手続きを行う必要があります。

企業内転勤ビザを取得する際の基本的な条件として、申請者が外国の母体企業で一定期間(通常は1年以上)働いている必要があります。 さらに、日本での業務内容、給与、労働条件なども審査の対象となります。

このビザのメリットとしては、日本での労働が比較的スムーズに始められる点、注意すべき点としては、業務内容が「技術・人文知識・国際業務」のものに制限される点が挙げられます。

このビザは、日本国内での業務遂行を円滑にするために発行されます。 しかし、このビザには有効期限があり、期限が切れると不法滞在となります。 そのため、更新手続きは非常に重要です。

2. 更新手続きのタイミングと流れ

企業内転勤ビザの更新手続きは、有効期限が切れる前に行う必要があります。 一般的に、ビザの有効期限が切れる3ヶ月前から手続きを始めることが推奨されます。

以下は、更新手続きのタイミングと流れについての詳細です。

  1. 3ヶ月前: まず、ビザの有効期限が切れる3ヶ月前に、必要な書類のリストを作成します。この段階で、書類の内容を確認し、不足しているものがあれば、それを揃える時間が確保できます。

  2. 2ヶ月前: この時点で、すべての書類が揃っているか再確認します。また、必要な場合は、弁護士や専門家に相談して、書類の内容を確認してもらいます。

  3. 1ヶ月前: 書類が整ったら、入国管理局に提出するためのアポイントメントを取ります。多くの場合、オンラインで予約が可能です。

  4. 数週間前: アポイントメントの日に、必要な書類を持って入国管理局に行き、更新申請を行います。指定された窓口で書類を提出します。

  5. 申請後: 申請が承認されると、新しい在留カードが発行されます。このカードを受け取るためには、再度入国管理局に行く必要があります。

  6. 有効期限当日: 最後に、新しい在留カードを確実に受け取って、古いカードを返却します。更新が許可された場合には,窓口で手数料(4,000円)を支払います

このように、更新手続きは複数のステップに分かれており、それぞれのステップでしっかりと準備と確認が必要です。 特に、書類が不足していると、更新が拒否される可能性もありますので、注意が必要です。

3. 必要な書類と手続きの流れ

企業内転勤ビザの更新手続きには、いくつかの重要な書類と手続きが必要です。 以下に、その主要なポイントを詳しく説明します。

必要書類

  1. 在留カード: 最も基本的な書類であり、必ず提出する必要があります。

  2. 雇用契約書: 日本の企業との雇用契約書や、外国の母体企業との契約書のコピー。

  3. 給与明細: 最近3ヶ月分の給与明細を用意します。

  4. 納税証明書: 所得税の証明書や、住民税の証明,年金の支払いに関する証明も必要です。

  5. 在職証明書: 企業からの在職証明書が必要とされる場合もあります。

  6. 申請書: 入国管理局からダウンロードできる、ビザ更新の申請書を記入します。

  7. パスポート: 有効なパスポートも提出が必要です。

手続きの流れ

  1. 書類の準備: 上記の書類を全て揃えます。

  2. 書類の確認: 不備がないか、専門家や弁護士に確認してもらった方が良いでしょう。

  3. 申請書の記入: 必要な情報を正確に記入します。

  4. 入国管理局での申請: 予約した日時に、必要な書類を持って入国管理局に行きます。

  5. 申請料の支払い: 申請が認められたら窓口で手数料(4,000円)を支払います。

  6. 在留カードの受取:、新しい在留カードを受け取ります。

このように、書類の準備から申請、そして新しい在留カードの受取まで、一連の流れがあります。 各ステップで注意深く行動することで、スムーズな更新が可能です。

4. オンラインでの更新手続き

近年、オンラインでのビザ更新手続きが可能なケースも増えています。 このセクションでは、オンラインでの手続きのメリットと注意点について詳しく説明します。

オンライン申請によるメリット

  1. 時間節約: 入国管理局に物理的に足を運ぶ必要がないため、時間を節約できます。

  2. 手続きの簡素化: オンラインでの手続きは、通常、書類のアップロードといった簡単なステップで完了します。

  3. 24/7 アクセス: オンラインであれば、時間や場所に縛られずに申請が可能です。

オンライン申請の注意点

  1. 技術的な問題: インターネット接続の不具合やウェブサイトのトラブルが発生する可能性があります。

  2. セキュリティ: 個人情報をオンラインで取り扱うため、セキュリティ対策が必要です。

  3. 書類の確認: オンラインでの申請では、書類の確認が厳しくなる場合があります。そのため、書類は事前にしっかりと確認しておく必要があります。

オンライン手続き利用については,入管当局のHP等をご覧ください。

5. 有効期限が切れた場合の対処法

ビザの有効期限が切れてしまった場合、それは非常に深刻な問題になります。ビザが切れた状態で在留していることは不法残留,オーバーステイと呼ばれ,罰則が科されたり,強制送還されたりしてしまいます。

有効期限が切れた場合の緊急の対処について詳しく説明します。

即時対応が必要

  1. 入国管理局への連絡: まず最初に、できるだけ早く最寄りの入国管理局に連絡を取ります。

  2. 弁護士の相談: 法的な問題が発生する可能性が高いため、速やかに入管法に詳しい弁護士に相談することが推奨されます。手続の状況によっては,更新の申請が間にあったり,在留特別許可が目指せるという場合もあります。

とはいえ,やはり不法残留の状態となってしまわないようにするのがベストです。

日本に在留している以上,常に在留期限は気にしておく必要があります。

外国人を雇用している雇用主としても,従業員の在留期限については気を配っておかなければなりません。外国人本人が不法残留となってしまうだけではなく,雇用主も「不法就労助長罪」として処罰の対象となってしまうおそれがあります。

6. まとめと今後の注意点

ビザの更新手続きは、多くの外国人が日本で生活する上で避けては通れない重要なプロセスです。 この記事では、更新手続きのタイミング、必要な書類、費用、オンラインでの手続き、そして有効期限が切れた場合の対処法について詳しく説明しました。

  1. 早めの準備: 更新手続きは時間がかかる場合がありますので、早めに準備を始めることが重要です。

  2. 書類の確認: 必要な書類はしっかりと確認し、不備がないように注意が必要です。

  3. 法的な相談: 不明点や問題が発生した場合は、専門家や弁護士に相談することが推奨されます。

  4. 有効期限の確認: ビザの有効期限は常に確認し、リマインダーを設定するなどして忘れないようにしましょう。

  5. オンライン手続きの活用: 可能であれば、オンラインでの手続きを活用して、手間と時間を節約することが有用です。


以上が企業内転勤ビザの更新手続きについての全体的なガイドとなります。 この情報が皆さんのビザ更新手続きをスムーズに進める助けとなれば幸いです。 何か質問やフィードバックがありましたら、お知らせください。

薬物所持の疑いで検挙されてしまった!?ビザへの影響を解説

2023-10-02

事例紹介(法律解説のためのフィクションです)

Aさんは,日本で「定住者」として生活していました。 ある時,Aさんは友人のBさんと一緒に東京の渋谷区で過ごしていました。

その夜,警察による一般的なパトロールが行われ,AさんとBさんが職務質問を受けてしまいます。警察はBさんに対して身体検査を行い,その際にポケットから小さな袋が見つかりました。

袋の中身は白い粉で警察はそれを薬物と疑い, Bさんは薬物所持の疑いで警察署に連行されました。

Aさんはその場に居合わせたことを強く主張しましたが,Bさんと一緒に警察署へ連行され,共同所持の疑いで逮捕されてしまいました。Aさんの家族は,すぐに弁護士に相談し,今後の対応を依頼することにしました。

弁護士のアドバイスにより,Aさんは適切な手続きを踏み,最終的には在留資格に影響を受けることなく問題を解決しました。

Aさんの事例では,どのような点から在留資格にリスクが生じていたのでしょうか。

退去強制とは

日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。

退去強制手続きは主に

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。

退去強制の理由となる理由が発生した場合,そのことを入国管理局が知ることで調査が実施されます。調査の結果は全て,入国審査官へ引き継がれて「強制送還をすることが適法かどうか」の審査がなされます。審査の結果を踏まえて,強制送還が最終的に決定されることになります。

強制送還をする,という審査がなされた後,決定に不服がある場合には異議を申し出て口頭審理,法務大臣の裁決へと手続きが進みます。

口頭審理,法務大臣の裁決を踏まえて,最終的に強制送還をするか,在留特別許可をするか,それとも強制送還をしないか,といった決定が下されることになるのです。

刑事事件を起こしてしまった外国人の方が強制送還されるかどうかという点や,審査手続きの流れについて細かく解説します。

退去強制の理由になる事実

入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。

    • 住居侵入罪
    • 公文書/私文書偽造罪
    • 傷害罪,暴行罪
    • 窃盗罪,強盗罪
    • 詐欺罪,恐喝罪

これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています

在留資格の一覧についてはこちらです。

在留資格の種類

何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。

特に,薬物事件入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。

Aさんの事例の場合,「Bさんと一緒に薬物を持っていたという疑い」がかけられています。このような疑いだけであればビザには影響はありませんが,「Bさんと一緒に薬物を持っていた」あるいは「Aさんの薬物をBさんが代わりに持っていた」という疑いのままで正式な裁判で起訴されてしまうと,事態は急転します。

裁判の間は,在留資格の変更が認められにくくなったり,更新の期間が短くなったりするリスクがあります。

また,万が一,有罪の判決を受けてしまうと,薬物事件の場合には強制送還に該当する可能性がとても高くあります。

薬物の共同所持の場合には,起訴されるまでの弁護活動が非常に重要です。薬物の共同所持を疑われてしまったという場合には速やかに弁護士に相談した方が良いでしょう。

入国警備官による調査

刑事事件を起こしてしまったことが強制送還の理由となってしまった場合,刑事手続きが終了した後,近くの各地方出入国在留管理局に呼び出された上で,入国警備官による調査を受けることになります。

この時の調査の内容は,「退去強制をするべき事実が発生したかどうか」ということに限られます。そのため,調査での一番の調査事項は,

  • 一定の入管法によって処罰されたかどうか
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決が確定したかどうか
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けたかどうか

という点になります。そして,これらの事実のほとんどは,刑事裁判の結果を基に認定がなされます。

裁判で事実を争っていない場合にはそのまま「強制送還の理由あり」という認定になってしまうでしょう。

裁判で争っていた場合,または入管の手続きになってから初めて事実を争うという場合,改めて証拠を提出したり詳細な主張を行ったりする必要があります。

入国審査官による審査

入国警備官が調査した内容は,そのまま入国審査官へと引き継がれていきます。そして入国審査官が対象となる外国人の方と面談(interview)を行い,審査を実施します。

審査の対象となるのも上に書かれた調査事項と同様です。

なお,強制送還の理由となる事実に加えて,日本での生活や仕事のこと,家族のこと,財産のこと等も一緒に質問されることがあります。

これは,強制送還の理由になる事実があったとしても,在留特別許可をするかどうか,という判断で考慮される事情になります。

審査が終わると強制送還の理由になる事実があったか/なかったか,という点についての判断がなされ,「事実があった」と認定されると一時的に入管の施設に収容されてしまいます。

元々オーバーステイだった場合には,そのまま収容が続いてしまうことが多くあります。

一方で,審査が終わるまでは一応在留資格をもって日本に在留していたという方の場合,一時的に収容の手続きがなされたとしても,すぐに「仮放免」といって,保証金を払うことで釈放される場合もあります。仮放免の解説はこちらです。

入管に収容されたらどうすればいいか

入国審査官による審査が不服であった場合,強制送還の理由になる事実があったとしても,さらに日本での在留を希望する場合には,その後の口頭審理という手続きを行うことになります。

口頭審理とは何か?

口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。

退去強制になるまでには,

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この3と4のちょうど間にある手続です。

口頭審理では,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。

そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。ですが,口頭審理でのインタビューは,法務大臣の裁決という手続きに進む前の,最後のインタビュー手続きです。

そのため,口頭審理の場では,違反審査に関する事だけでなく,在留特別許可を認めるかどうかの判断で重要となる部分の『聞き取り』も行われることになっています。

ただ,あくまで「聞き取り」を行うだけですので,事実に間違いがない限りは,口頭審理の結果については,「元の審査に誤りはなかった」と判断されることになります。

口頭審理の後も,引き続き日本での在留を希望するという場合には,異議の申立てをして,法務大臣の裁決を求めることになります。

口頭審理のポイントとなるのは,『法務大臣による裁決前の最後のインタビューである』という点です。

法務大臣の裁決

入国警備官による調査から始まって,強制送還に関する最後の手続きが法務大臣の裁決という手続きです。

この手続では面談などはなく,口頭審理の結果を踏まえて在留特別許可をするかどうかについて,書面による審査が実施されます。

法務大臣の裁決では,それまでの手続きにおける間違いがないかどうかという点の審査に加えて,在留特別許可をするかどうかという最も重要な点についての審査が行われます。

在留特別許可をするかどうかについては,入管における判断の透明性を確保するという観点から,ガイドラインが公開されています。

そのガイドラインの大枠は,次のようなものになります。

参考URL ガイドラインの全文

  • 積極要素

日本人の子か特別永住者の子である

日本人か特別永住者との間に生まれた未成年の子を育てていて親権を持っていること等

日本人化特別永住者との間に法律上有効な婚姻が成立している

⇒日本と外国人とが,家族関係を持つレベルで接着していること

  • 消極要素

重大犯罪によって刑に処せられた

出入国管理行政の根幹を犯す違反をした

反社会性の高い違反をした

⇒日本に在留させることが日本にとって不利益が特に大きい場合

最終的には様々な事情を総合して判断することにはなりますが,これらの積極要素/消極要素を中心にして,過去の事例なども参考にしながら,在留特別許可をするかどうかの判断がなされます。

まとめ

Aさんの事例では「薬物事件で有罪判決を受けてしまった場合」には強制送還の手続きが開始されてしまう可能性があり,その内容に照らすと,在留特別許可がもらえない可能性もあります。日本に残って生活を続けたいと希望する場合には刑事事件の手続の中で不起訴・無罪を勝ち取ること,有罪の判決を受けた場合には在留特別許可の獲得に向けた活動が必須です。

強制送還に関する手続きについて,弁護士等に一度ご相談された方が良いでしょう。

技能の在留資格とその更新手続き:必知のポイント

2023-09-26

日本で働く外国人労働者にとって、在留資格は非常に重要なテーマです。 特に「技能」の在留資格は多くの職種で利用されています。

この記事では、技能の在留資格の基本から、その更新手続きまでを詳しく解説します。

1.技能の在留資格とは何か

定義と対象職種

技能の在留資格は,日本の公私の機関と契約をして特定の産業における熟練した技術を用いて業務に従事するするために必要な資格の一つです。

この資格は主に、調理師,スポーツ指導者,貴金属の加工のようないわゆる「職人」としての仕事等があります。

重要性と必要性

技能の在留資格を持つことで、日本での就労が法的に認められます。

この資格は「就労ビザ」であり,「技能」の在留資格がないのにスポーツ指導者や調理師としての仕事をして報酬をもらってしまうと、不法就労や資格外活動として、罰則が科される可能性があり,元々のビザが取り消されてしまう恐れもあります。

2. 技能の在留資格を取得するための基本条件

必要な書類

技能の在留資格を取得するためには、以下の書類が一般的に必要です。

  • 在留資格認定証明書申請書
  • パスポートと写真
  • 雇用契約書
  • 職務経歴書などの資格を証明する書類。

条件を満たすためのポイント

在留資格を取得するためには、いくつかの基本条件をクリアする必要があります。

  • 資格に応じた職務経験が必要。
  • 日本での雇用が確保されていること。
  • 犯罪歴がないこと。

3.在留期間とは

在留期間の長さとその決定要因

在留期間は、在留資格を取得した後に日本で過ごせる期間を指します。 この期間は、通常1年、3年、または5年となります。1年未満の短期間の在留期間になることもありますが,その場合,申請内容について「虚偽である/活動内容とビザが合致していない」と疑われている可能性もあります。

在留期間の長さを決める時には、以下のような点が考慮されます。

  • 職種やスキルレベル
  • 雇用契約の期間
  • 過去の在留履歴

在留カードについて

在留期間は、在留カードに明記されます。 このカードは、日本に滞在する外国人が必ず持つべき身分証明書です。 在留カードには、他にも重要な情報が記載されています。

  • 在留資格の種類
  • 在留期間の終了日
  • 住所などの個人情報

5. 在留期間の更新手続きの基本

更新手続きのタイミング

在留期間の更新は、期間が切れる前に行う必要があります。 一般的には、期限の約2ヶ月前には申請しておきましょう。 遅れてしまうと、オーバーステイとなってしまい,不法滞在となる可能性があります。

必要な書類と手数料

在留期間の更新には、以下の書類と手数料が必要です。

  • 在留期間更新許可申請書
  • 在留カード
  • 雇用契約書または在職証明書
  • 手数料(通常4,000円)

手続きは、入国管理局またはその出張所で行います。

申請をしてから概ね1か月ほどで結果が通知されます。

6. 在留期間の更新を成功させるためのポイント

更新が難しいケースとその対処法

在留期間の更新が難しいケースも存在します。

  • 雇用が不安定な場合
  • 犯罪歴が発覚した場合
  • 前回の在留期間中に就労以外の活動をしていた場合

これらのケースでは、事前に対策を講じることが重要です。

更新成功のための具体的なアクション

在留期間の更新を確実に行うためには、以下のポイントが有用です。

  • 早めに申請手続きを始める
  • 必要な書類は事前に整えておく
  • 雇用状況や収入が安定していることを証明できる資料を用意する

7. まとめと今後の注意点

在留資格と更新手続きの重要性

この記事を通じて、技能の在留資格とその更新手続きの重要性が理解できたでしょう。 適切な手続きを行うことで、日本での安定した生活と就労が可能です。

今後の法改正や新しい制度に備える

法律は常に変わる可能性があります。 新しい制度が導入された場合や法改正があった場合に備え、定期的に情報をチェックすることが重要です。

建造物侵入罪で強制送還される可能性は?弁護士が解説

2023-09-23

9月22日の報道の中に,大阪府市内の建設現場に無断で立ち入ったとされる米国籍の男性が逮捕された,という事案がありました。

毎日新聞

NHKWEB

報道では具体的な事実までは分かりませんが,このような事案において,当該外国人の方の在留資格はどのように処理されるのでしょうか。

また,退去強制(強制送還)される可能性はあるのでしょうか。日本の入管法における強制送還の手続きから解説をします。

退去強制とは

日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。

退去強制手続きは主に

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。

退去強制の理由となる理由が発生した場合,そのことを入国管理局が知ることで調査が実施されます。調査の結果は全て,入国審査官へ引き継がれて「強制送還をすることが適法かどうか」の審査がなされます。審査の結果を踏まえて,強制送還が最終的に決定されることになります。

強制送還をする,という審査がなされた後,決定に不服がある場合には異議を申し出て口頭審理,法務大臣の裁決へと手続きが進みます。

口頭審理,法務大臣の裁決を踏まえて,最終的に強制送還をするか,在留特別許可をするか,それとも強制送還をしないか,といった決定が下されることになるのです。

刑事事件を起こしてしまった外国人の方が強制送還されるかどうかという点や,審査手続きの流れについて細かく解説します。

退去強制の理由になる事実

入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。

    • 住居侵入罪
    • 公文書/私文書偽造罪
    • 傷害罪,暴行罪
    • 窃盗罪,強盗罪
    • 詐欺罪,恐喝罪

これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています

在留資格の一覧についてはこちらです。

在留資格の種類

何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。

特に,薬物事件入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。また,刑法犯の一部,特に,他人の法益を直接侵害したという犯罪や,公共の秩序そのものを害した犯罪については,執行猶予付きの判決が出たとしても強制送還の対象としています。

報道の事案では,「建造物侵入罪」で逮捕ということですが,建造物侵入罪は住居侵入罪と同じ刑法130条に該当する犯罪です。そのため,今後,建造物侵入罪によって起訴されて有罪の判決になってしまうと,強制送還の対象となる可能性があります。

建造物侵入罪に対する刑は,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金とされています。罰金処分となる可能性も0ではありませんが,そもそも罰金の上限が10万円と低いため,建造物侵入の事案の場合,よほど軽微なものでなければ罰金で終わるというよりも,正式な裁判で起訴されてしまう可能性が高いでしょう。

入国警備官による調査

刑事事件を起こしてしまったことが強制送還の理由となってしまった場合,刑事手続きが終了した後,近くの各地方出入国在留管理局に呼び出された上で,入国警備官による調査を受けることになります。

この時の調査の内容は,「退去強制をするべき事実が発生したかどうか」ということに限られます。そのため,調査での一番の調査事項は,

  • 一定の入管法によって処罰されたかどうか
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決が確定したかどうか
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けたかどうか

という点になります。そして,これらの事実のほとんどは,刑事裁判の結果を基に認定がなされます。

裁判で事実を争っていない場合にはそのまま「強制送還の理由あり」という認定になってしまうでしょう。

裁判で争っていた場合,または入管の手続きになってから初めて事実を争うという場合,改めて証拠を提出したり詳細な主張を行ったりする必要があります。

入国審査官による審査

入国警備官が調査した内容は,そのまま入国審査官へと引き継がれていきます。そして入国審査官が対象となる外国人の方と面談(interview)を行い,審査を実施します。

審査の対象となるのも上に書かれた調査事項と同様です。

なお,強制送還の理由となる事実に加えて,日本での生活や仕事のこと,家族のこと,財産のこと等も一緒に質問されることがあります。

これは,強制送還の理由になる事実があったとしても,在留特別許可をするかどうか,という判断で考慮される事情になります。

審査が終わると強制送還の理由になる事実があったか/なかったか,という点についての判断がなされ,「事実があった」と認定されると一時的に入管の施設に収容されてしまいます。

元々オーバーステイだった場合には,そのまま収容が続いてしまうことが多くあります。

一方で,審査が終わるまでは一応在留資格をもって日本に在留していたという方の場合,一時的に収容の手続きがなされたとしても,すぐに「仮放免」といって,保証金を払うことで釈放される場合もあります。仮放免の解説はこちらです。

入管に収容されたらどうすればいいか

入国審査官による審査が不服であった場合,強制送還の理由になる事実があったとしても,さらに日本での在留を希望する場合には,その後の口頭審理という手続きを行うことになります。

口頭審理とは何か?

口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。

退去強制になるまでには,

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この3と4のちょうど間にある手続です。

口頭審理では,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。

そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。ですが,口頭審理でのインタビューは,法務大臣の裁決という手続きに進む前の,最後のインタビュー手続きです。

そのため,口頭審理の場では,違反審査に関する事だけでなく,在留特別許可を認めるかどうかの判断で重要となる部分の『聞き取り』も行われることになっています。

ただ,あくまで「聞き取り」を行うだけですので,事実に間違いがない限りは,口頭審理の結果については,「元の審査に誤りはなかった」と判断されることになります。

口頭審理の後も,引き続き日本での在留を希望するという場合には,異議の申立てをして,法務大臣の裁決を求めることになります。

口頭審理のポイントとなるのは,『法務大臣による裁決前の最後のインタビューである』という点です。

法務大臣の裁決

入国警備官による調査から始まって,強制送還に関する最後の手続きが法務大臣の裁決という手続きです。

この手続では面談などはなく,口頭審理の結果を踏まえて在留特別許可をするかどうかについて,書面による審査が実施されます。

法務大臣の裁決では,それまでの手続きにおける間違いがないかどうかという点の審査に加えて,在留特別許可をするかどうかという最も重要な点についての審査が行われます。

在留特別許可をするかどうかについては,入管における判断の透明性を確保するという観点から,ガイドラインが公開されています。

そのガイドラインの大枠は,次のようなものになります。

参考URL ガイドラインの全文

  • 積極要素

日本人の子か特別永住者の子である

日本人か特別永住者との間に生まれた未成年の子を育てていて親権を持っていること等

日本人化特別永住者との間に法律上有効な婚姻が成立している

⇒日本と外国人とが,家族関係を持つレベルで接着していること

  • 消極要素

重大犯罪によって刑に処せられた

出入国管理行政の根幹を犯す違反をした

反社会性の高い違反をした

⇒日本に在留させることが日本にとって不利益が特に大きい場合

最終的には様々な事情を総合して判断することにはなりますが,これらの積極要素/消極要素を中心にして,過去の事例なども参考にしながら,在留特別許可をするかどうかの判断がなされます。

報道の事例の場合,今後,建造物侵入罪によって起訴され,執行猶予付きの有罪判決となってしまった場合,元々の在留資格の種類によっては退去強制の対象となります。

仮に日本での在留の継続を希望するのであれば,在留特別許可を受ける必要があります。

まとめ

報道の事例では「建造物侵入罪」で今後起訴され,有罪の判決を受けた場合には①判決の重さ,②その時の在留資格の種類によっては,退去強制(強制送還)の手続きが開始されることになります。

本記事では報道を基に,建造物侵入罪によって逮捕された外国籍の人の手続きについて解説をしました。

日本での芸術活動!「芸術」在留資格の詳細と取得ポイント

2023-09-22

在留資格「芸術」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が紹介します。

この「芸術」の在留資格に該当する活動としては、収入を伴う音楽、美術、文学その他の芸術上の活動(在留資格「興行」に係るものを除く。)などです。

「芸術」の該当例としては、作曲家・作詞家・画家・彫刻家・工芸家・著述家・写真家・音楽、美術、文学、写真、演劇、舞踊、映画などの指導を行う者などです。

「芸術」の在留期間は、5年、3年、1年又は3月です。

「芸術」の在留資格を取得するためには、以下の要件を充足する必要があります。

1.学歴、職歴、活動履歴について

「芸術」の在留資格は「芸術活動」又は「芸術に関する指導」を行うことが主な目的とされるので、過去に相当の業績があり、芸術活動に従事することにより安定した生活を営むことができるかどうか。または人に指導できるだけの知識や実力があるかどうかが重要なポイントになります。

「5年以上の指導を行っていること」などの具体的な定めはありませんが、母国における指導経験があったり、世界的に有名な大会での受賞暦があったり、何かを指導するに足りるだけの芸術上の活動歴を証明する必要があります。

2.芸術活動による報酬(収入)があること

「芸術」の在留資格は就労の在留資格と同種なので、芸術活動を行う上で安定した収入が得られることが必要です。

なお、「芸術活動を行う上で安定した収入」が具体的にいくらなのかについては明確な定めはありませんが、少なくとも自身が日本で生活をする上で困ることのない金額を安定的に得ることが必要です。

この点において、「文化活動」の在留資格とは明確に区別されています。

3.除外される活動について

「芸術」の在留資格の活動内容と近い関係にあるのが、「教授」や「興行」の在留資格です。

仮に、芸術関係の指導であったとしても、大学等において研究の指導または教育をする活動は、「教授」の在留資格に該当するため、「芸術」の在留資格を取得することはできません。

また、興行形態で行われる芸術上の活動を主業務とする場合においても、「芸術」の在留資格を取得することはできません。

上記のように、「芸術」の在留資格は、日本で安定的に収入を得られることを前提に、「教授」や「興行」の在留資格に該当しない活動をすることを十分に立証することができるか否かによって在留資格が認められるか否かに大きな影響を与えるため、「芸術」の在留資格のことでお困りの方はお気軽にお問い合わせください。

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を解説!取得の条件と具体例

2023-09-20

日本での就労を希望する外国人には様々な在留資格が存在します。

その中でも「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、多くの外国人が関心を持つカテゴリーの一つです。この記事では、この在留資格の取得条件と具体例を詳しく解説します。

1. 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格とは?

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、日本での専門的な業務を行うための資格の一つです。
この資格は、技術的な知識やスキル、人文科学や社会科学の知識、また国際的な業務の経験を持つ外国人が、日本の企業や団体でその専門性を活かして働くことを目的としています。
例えば、外国の企業との取引をサポートする業務や、特定の技術を持つエンジニアとしての就労、外国文化や言語の専門家としての活動などが該当します。
この資格を取得することで、日本での就労の幅が広がり、多くのチャンスが生まれるでしょう。

2. 取得の基本条件

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得するための基本条件は以下の通りです。

  1. 学歴や経験:
    日本の大学を卒業、または日本国外の大学で人文科学、社会科学、自然科学に関する学士号以上の学位を取得していること。
    または、該当する業務に関する10年以上の実務経験を有すること。

  2. 雇用契約:
    日本国内の企業や団体との雇用契約が必要です。
    この契約は、該当する業務に関連するものであることが求められます。

  3. 報酬:
    報酬は、日本国内の同等の職種や業務内容を持つ者と同等またはそれ以上であることが求められます。

  4. その他:
    申請者の過去の在留履歴や犯罪歴など、その他の条件も考慮される場合があります。

3. 「技術」の具体例

「技術」のカテゴリーにおける在留資格は、専門的な技術や知識を持つ外国人が日本での就労を目指す際のものです。以下は、具体的な例として考えられる業務内容です。

  1. ITエンジニア:
    日本のIT企業でのソフトウェア開発やシステム構築などの業務。
    例: 外国での経験を活かして、日本の企業向けに特定のソフトウェアの開発を行う。

  2. 建築・土木技術者:
    建築設計や土木工事の監督、プロジェクト管理などの業務。
    例: 海外の大型プロジェクトでの経験を活かして、日本のインフラ整備に関与する。

  3. 医療技術者:
    医療機器の開発や医薬品の研究、臨床試験などの業務。
    例: 外国での新薬開発の経験を持ち、日本の医薬品企業で研究を行う。

  4. 製造技術者:
    工場での生産ラインの最適化や新しい製造技術の導入などの業務。
    例: 海外の先進的な製造技術を日本の工場に導入するための業務。

4. 「人文知識」の具体例

「人文知識」のカテゴリーは、人文科学や社会科学に関する専門的な知識や技術を持つ外国人が日本での就労を目指す際のものです。以下は、具体的な例として考えられる業務内容です。

  1. 言語教育:
    外国語の教師として、学校や教育機関での授業や研修を行う業務。
    例: ネイティブスピーカーとして、日本の大学で英語の授業を担当する。

  2. 文化交流:
    外国の文化や歴史を紹介するイベントやセミナーの企画・運営。
    例: 自国の伝統的な文化や芸術を日本の市民に紹介するための展示会を開催する。

  3. 国際関係:
    国際的なNGOやNPOでのプロジェクト管理やコーディネーション業務。
    例: 国際的な子どもの権利を守る活動を行う団体で、日本と他国との連携を担当する。

  4. 研究・学術:
    日本の研究機関や大学での研究活動や学術的な業務。
    例: 外国の歴史や文化に関する研究を行い、日本の大学で教授として活動する。

5. 「国際業務」の具体例

「国際業務」のカテゴリーは、国際的なビジネスや取引に関する専門的な知識や経験を持つ外国人が日本での就労を目指す際のものです。以下は、具体的な例として考えられる業務内容です。

  1. 国際取引:
    日本の企業と外国の企業との間での商品やサービスの輸出入に関する業務。
    例: 日本の製品を外国市場に導入するためのマーケティングや営業活動を行う。

  2. 通訳・翻訳:
    ビジネス会議や公的なイベントでの通訳、文書や契約書の翻訳業務。
    例: 日本と外国の首脳会談や国際会議での同時通訳を担当する。

  3. 国際コンサルティング:
    外国市場の調査や戦略策定、ビジネスモデルの提案などのコンサルティング業務。
    例: 日本の企業が外国進出を検討する際の市場分析や戦略策定をサポートする。

  4. 国際プロジェクト管理:
    複数の国にまたがるプロジェクトの管理やコーディネーション業務。
    例: アジア各国でのインフラ整備プロジェクトの進行管理や各国との調整を行う。

6. 申請時の注意点

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を申請する際には、以下の点に注意が必要です。

  1. 必要書類の確認:
    申請には、雇用契約書や学歴証明書、経歴書などの書類が必要です。
    事前に必要な書類を確認し、不足がないように準備しましょう。

  2. 申請期限の確認:
    在留資格の変更や更新を希望する場合、期限内に申請を行う必要があります。
    過去の在留資格の有効期限や変更のタイミングを確認し、適切な時期に申請を行うよう心掛けましょう。

  3. 申請内容の正確性:
    申請書類に記載する内容は、正確で事実に基づいている必要があります。
    虚偽の内容を記載すると、在留資格の取得が難しくなるだけでなく、将来的な在留資格の取得も困難になる可能性があります。

  4. 申請後の手続き:
    在留資格の申請後、追加の書類提出や面接などの手続きが求められる場合があります。
    申請後も、関連する情報や通知を確認し、必要な手続きを迅速に行うよう心掛けましょう。

7. まとめ:在留資格を取得しよう

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、日本での専門的な業務を行いたい外国人にとって、大きなチャンスとなる資格です。
この記事を通じて、その取得条件や具体的な業務例、申請時の注意点などを学ぶことができました。

  1. 資格取得のメリット:
    この資格を持つことで、日本の多様な業界や分野での就労が可能となります。
    また、専門的な知識や経験を活かして、日本の企業や団体でのキャリアアップを目指すことができます。

  2. 正確な情報の収集:
    在留資格の取得や更新に関する最新の情報や手続きは、入国管理局の公式サイトなどで確認することができます。
    正確かつ最新の情報を基に、適切な手続きを行うことが重要です。

  3. 前向きな取り組み:
    在留資格の取得は、多くの手続きや準備が必要ですが、それを乗り越えることで、日本での新しい生活やキャリアが広がります。
    前向きな気持ちで、資格取得に向けた取り組みを進めていきましょう。

日本での宗教活動!在留資格を解説

2023-09-13

在留資格「宗教」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が紹介します。

この「宗教」の在留資格に該当する活動としては、外国の宗教団体により本邦に派遣された宗教家の行う布教その他の宗教上の活動などです。

具体的には、外国の宗教団体により派遣された僧侶司教司祭伝道師牧師修道士神官等が日本で宗教活動を行う場合に、この「宗教」の在留資格が必要になります。

「宗教」の該当例としては、外国の宗教団体から派遣される宣教師などです。

「宗教」の在留期間は、5年、3年、1年又は3月です。

1.「宗教」の在留資格の要件について

外国の宗教団体は、必ずしも特定の宗派の本部であることは必要ではありません。

日本に本部のある宗教団体に招聘された場合でも、申請人が国外の宗教団体(日本にある宗教団体と直接の関係があるかどうかは関係なし)に現に所属しており、かつ該当団体からの派遣状又は推薦状を受けていれば、外国の宗教団体から派遣された者に該当します。

宗教活動に関連したものであれば、祭事に必要な物品の販売などを行う「宗教団体の職員」を兼務することも可能ですが、雑務のみを行う場合は、「宗教」の在留資格は付与されません。

また、単なる信者としての活動を行う場合も、「宗教」の在留資格は付与されません。

日本で継続的に「宗教上の活動」を行うための拠点が確保されている必要があります。

さらに、派遣元(外国)・派遣先(日本)から受ける報酬額が、日本で安定的に生活をおくることができる十分な金額である必要があります。

宣教活動をしつつ、語学教育や医療、社会事業の活動を行う場合であっても、これらが所属宗教団体の指示に基づいて宣教活動等の一環として行われるものであり、かつ無報酬で行われる場合は、宗教上の活動として認められます。

なお、報酬を受けて行う場合には、別途、資格外活動許可の申請が必要になります。

当然ですが、宗教上の活動であっても、その内容が国内法令に違反するもの又は公共の福祉を害するものであってはいけません。

2.「宗教」の在留資格の申請上の注意点について

「宗教」の在留資格を取得するためには、前述の要件を有していることを書面において十分に立証することが必要です。

例えば、派遣先が発行する文書で、宗教家としての「地位・職歴」を証明し、また、派遣・受入機関の概要を説明する文書を提出して、「宗教上の活動」を日本で行う予定であることを合理的に説明します。

また、派遣元・派遣先が発行する文書で、「宗教上の活動」から十分な収入が得られることを証明します。

日本に在留する外国人の方は、原則として本人自らが地方入国管理局に出向き、申請等の書類を提出しなければなりませんが、弁護士や行政書士が取次ぎを行って申請をすることもできます。

上記のように、「宗教」の在留資格は、要件の該当性を十分に立証することができるか否かによって在留資格が認められるか否かに大きな影響を与えるため、「宗教」の在留資格のことでお困りの方はお気軽にお問い合わせください。

強制わいせつで逮捕!強制送還のリスクと対策

2023-09-09

日本での生活は多くの外国人にとって魅力的ですが,日本の法律に違反した場合,その夢は一瞬で崩れ去る可能性があります。特に強制わいせつなどの犯罪行為は強制送還の対象となる可能性が高くあります。この記事では,強制わいせつで逮捕された架空のAさんの事例を通じて,強制送還手続きとその対策について詳しく解説します。

事例紹介

Aさんは,30歳のX国籍で,日本でエンジニアとして働いていました。2023年の夏,東京の夜の街で酒に酔ってしまい,見知らぬ女性に対して強制わいせつ行為をしてしまいます。この行為が目撃され,警察に逮捕されました。Aさんはその後,起訴され,懲役2年の有罪判決を受けました。この事件により,Aさんの在留資格が危うくなり,強制送還の手続きが始まりました。

退去強制とは

日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。

退去強制手続きは主に

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。

退去強制の理由となる理由が発生した場合,そのことを入国管理局が知ることで調査が実施されます。調査の結果は全て,入国審査官へ引き継がれて「強制送還をすることが適法かどうか」の審査がなされます。審査の結果を踏まえて,強制送還が最終的に決定されることになります。

強制送還をする,という審査がなされた後,決定に不服がある場合には異議を申し出て口頭審理,法務大臣の裁決へと手続きが進みます。

口頭審理,法務大臣の裁決を踏まえて,最終的に強制送還をするか,在留特別許可をするか,それとも強制送還をしないか,といった決定が下されることになるのです。

刑事事件を起こしてしまった外国人の方が強制送還されるかどうかという点や,審査手続きの流れについて細かく解説します。

退去強制の理由になる事実

入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。

    • 住居侵入罪
    • 公文書/私文書偽造罪
    • 傷害罪,暴行罪
    • 窃盗罪,強盗罪
    • 詐欺罪,恐喝罪

これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています

在留資格の一覧についてはこちらです。

在留資格の種類

何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。

特に,薬物事件入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。

また,刑法犯の中でも傷害罪のような粗暴犯と呼ばれるような犯罪,窃盗罪や横領罪・詐欺罪のような財産犯と呼ばれるような犯罪については「他人の利益を直接侵害する犯罪」についても重く捉えられており,強制送還の可能性があります。

Aさんの事例における「強制わいせつ罪」は,直ちに強制送還の対象となるものではありませんが,「懲役2年」の判決となると強制送還の対象となります。

強制わいせつ罪の場合,執行猶予付きの判決になった場合と1年を超える懲役刑の判決となった場合とで,在留資格の手続きが大きく変わることになります。

入国警備官による調査

刑事事件を起こしてしまったことが強制送還の理由となってしまった場合,刑事手続きが終了した後,近くの各地方出入国在留管理局に呼び出された上で,入国警備官による調査を受けることになります。

この時の調査の内容は,「退去強制をするべき事実が発生したかどうか」ということに限られます。そのため,調査での一番の調査事項は,

  • 一定の入管法によって処罰されたかどうか
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決が確定したかどうか
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けたかどうか

という点になります。そして,これらの事実のほとんどは,刑事裁判の結果を基に認定がなされます。

裁判で事実を争っていない場合にはそのまま「強制送還の理由あり」という認定になってしまうでしょう。

裁判で争っていた場合,または入管の手続きになってから初めて事実を争うという場合,改めて証拠を提出したり詳細な主張を行ったりする必要があります。

入国審査官による審査

入国警備官が調査した内容は,そのまま入国審査官へと引き継がれていきます。そして入国審査官が対象となる外国人の方と面談(interview)を行い,審査を実施します。

審査の対象となるのも上に書かれた調査事項と同様です。

なお,強制送還の理由となる事実に加えて,日本での生活や仕事のこと,家族のこと,財産のこと等も一緒に質問されることがあります。

これは,強制送還の理由になる事実があったとしても,在留特別許可をするかどうか,という判断で考慮される事情になります。

審査が終わると強制送還の理由になる事実があったか/なかったか,という点についての判断がなされ,「事実があった」と認定されると一時的に入管の施設に収容されてしまいます。

元々オーバーステイだった場合には,そのまま収容が続いてしまうことが多くあります。

一方で,審査が終わるまでは一応在留資格をもって日本に在留していたという方の場合,一時的に収容の手続きがなされたとしても,すぐに「仮放免」といって,保証金を払うことで釈放される場合もあります。仮放免の解説はこちらです。

入管に収容されたらどうすればいいか

入国審査官による審査が不服であった場合,強制送還の理由になる事実があったとしても,さらに日本での在留を希望する場合には,その後の口頭審理という手続きを行うことになります。

口頭審理とは何か?

口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。

退去強制になるまでには,

  1. 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. (場合によっては)法務大臣による裁決

という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この3と4のちょうど間にある手続です。

口頭審理では,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。

そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。ですが,口頭審理でのインタビューは,法務大臣の裁決という手続きに進む前の,最後のインタビュー手続きです。

そのため,口頭審理の場では,違反審査に関する事だけでなく,在留特別許可を認めるかどうかの判断で重要となる部分の『聞き取り』も行われることになっています。

ただ,あくまで「聞き取り」を行うだけですので,事実に間違いがない限りは,口頭審理の結果については,「元の審査に誤りはなかった」と判断されることになります。

口頭審理の後も,引き続き日本での在留を希望するという場合には,異議の申立てをして,法務大臣の裁決を求めることになります。

口頭審理のポイントとなるのは,『法務大臣による裁決前の最後のインタビューである』という点です。

法務大臣の裁決

入国警備官による調査から始まって,強制送還に関する最後の手続きが法務大臣の裁決という手続きです。

この手続では面談などはなく,口頭審理の結果を踏まえて在留特別許可をするかどうかについて,書面による審査が実施されます。

法務大臣の裁決では,それまでの手続きにおける間違いがないかどうかという点の審査に加えて,在留特別許可をするかどうかという最も重要な点についての審査が行われます。

在留特別許可をするかどうかについては,入管における判断の透明性を確保するという観点から,ガイドラインが公開されています。

そのガイドラインの大枠は,次のようなものになります。

参考URL ガイドラインの全文

  • 積極要素

日本人の子か特別永住者の子である

日本人か特別永住者との間に生まれた未成年の子を育てていて親権を持っていること等

日本人化特別永住者との間に法律上有効な婚姻が成立している

⇒日本と外国人とが,家族関係を持つレベルで接着していること

  • 消極要素

重大犯罪によって刑に処せられた

出入国管理行政の根幹を犯す違反をした

反社会性の高い違反をした

⇒日本に在留させることが日本にとって不利益が特に大きい場合

最終的には様々な事情を総合して判断することにはなりますが,これらの積極要素/消極要素を中心にして,過去の事例なども参考にしながら,在留特別許可をするかどうかの判断がなされます。

まとめ

Aさんの事例では「懲役2年の判決」という点が強制送還の理由となり,事例にあるAさんの事情だけでは,在留特別許可をもらえる可能性は低いでしょう。

それまでAさんが適法な在留資格をもっていたのであれば仮放免が認められる可能性もありますが,懲役刑を受けている間にオーバーステイとなってしまう可能性もあります。

日本に残って生活を続けたいと希望する場合には

①刑事事件の手続の中で強制送還の理由になってしまわないように対応する

②入管手続の中で在留特別許可が得られる可能性を模索することが重要です。

強制送還に関する手続きについて,弁護士等に一度ご相談された方が良いでしょう。

« Older Entries Newer Entries »

トップへ戻る

03-5989-0843電話番号リンク 問い合わせバナー