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上陸特別許可について

2023-02-14

「上陸特別許可」について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所がご説明します。

日本で暮らす外国人の中で、例えば

  1. オーバーステイで強制送還された
  2. 事件を起こして逮捕され1年以上の実刑に処せられた
  3. 執行猶予を含む1年以上の刑に処せられた
  4. 薬物犯罪で刑に処せられた

などの場合、一定の事情に該当する方は,一度日本を離れてしまうと,再び日本に入国することを拒否される場合があります。

これは「上陸の拒否」とよばれ、出入国管理及び難民認定法第5条1項で「上陸の拒否」に該当する事情と「上陸拒否期間」が定められています。

①の場合、初回のオーバーステイで5年、2回目以降は10年間上陸が拒否されます。

「上陸の拒否」とは日本への入国が認められないという意味です。

②や③,④のように,犯罪歴がついてしまった場合,一度日本から出国すると「無期限上陸拒否」となり、永久に日本に入国することはできず、該当者にとって大変厳しい規定となっています。

しかし入管法5条1項の「上陸の拒否」に該当すると判断された場合でも、人道上の理由等法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるときは、法務大臣の裁量により上陸の許可を与える場合があります。

この法務大臣による上陸許可を「上陸特別許可」と言います。

「上陸拒否」に該当する日本国外にいる外国人が改めて日本に入国したい場合は、法務大臣に対して「上陸特別許可」を求める「在留資格認定証明書」の申請をします。

理由書・嘆願書・SNS・写真等の証拠書類を添付した「在留資格認定証明書」を通して、法務大臣に「上陸を認めるべき特別の事情」を説明して在留許可のお願いをします。

 

オーバーステイ等で強制送還され上陸拒否に該当する場合でも、上陸拒否期間内に日本に戻れる場合があります。上陸拒否にあたる家族や友人を日本に呼び戻したい方はお一人で悩まずに、まずは入管業務を扱う弁護士・行政書士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

喧嘩で被害届が出たら強制送還されるのか?

2023-01-05

2023年1月2日の夜,神奈川県内でベトナム国籍の男性ら2人が刃物で刺されるという事件が起きたことが報じられています。

飲食店でベトナム人ら2人刺され大けが 男が逃走 神奈川 相模原

2023年1月5日時点では,犯人はまだ逮捕されていないようですが,仮に外国人同士の喧嘩だった場合,加害者として検挙される人は暴行,傷害罪の罪に問われる可能性があります。

暴行罪:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

傷害罪:15年以下の懲役又は50万円以下の罰金

事実関係はまだ明らかではないですが,もしも仮に,この事件について被害届が出されて,犯人が検挙され,その犯人が外国籍だった場合には強制送還されることがあるのでしょうか。

刑事事件で検挙された場合

刑事事件の犯人として検挙された場合であっても,直ちに強制送還されるというわけではありません。

刑事事件の手続の中で,強制送還される場合というのは次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

報道にあるような暴行,傷害事件の場合には,4つ目,もしくは5つ目の場合に該当することがあります。

暴行,傷害罪は,刑法のうち第27章に規定されている罪であり,これは入管法で言う「一定の刑法犯」に該当します。そのため,暴行,傷害罪で起訴され,執行猶予付きの判決を受けた場合には強制送還の対象となる可能性があることになります。また,裁判の結果,1年を超える実刑判決となれば,強制送還となる可能性が相当高くなります。

具体的な事実関係は不明ですが,暴行,傷害事件について被害届が出されると,警察としては犯人を特定するための捜査活動を行うことになります。加害者と被害者との人間関係や,被害者の怪我の程度によっては逮捕されてしまう可能性がありますし,怪我が重ければ刑事裁判になる可能性があります。

強制送還となる具体的な場合

実際に暴行,傷害事件で強制送還となる具体的な場合について解説をします。

まず,「一定の刑法犯にあたるとして懲役,禁錮刑に処せられた場合」に該当する場合です。これを理由として強制送還されるのは,入管法の「別表1の在留資格」に該当する場合のことを言います。

「別表1」と言われてもよく分からないかもしれませんが,入管法に定められている在留資格には,大きく分けて二種類があり,別表1と,別表2があります。別表1は,日本での活動内容に応じて認められる在留資格を,別表2は外国人と日本との結びつきそのものに応じて認められる在留資格のことです。別表2には「永住者,永住者の配偶者等,日本人の配偶者等,定住者」をさします。

別表1は「別表2以外の在留資格の全部」をさすものと考えてよいでしょう。というのも,別表1には30種類以上の在留資格があります。その多くはいわゆる就労ビザと呼ばれるものですが,「留学生」や「短期滞在」も,この別表1の在留資格に含まれます。

そのため,「別表1の在留資格」(別表2以外の在留資格)で,暴行,傷害罪で執行猶予付きの判決を受けた場合には,強制送還となる可能性があります。

逆に,別表2の在留資格(永住や日本人の配偶者等)である場合や,罰金刑のみで終わった場合には,強制送還の対象とならないで済むことになります。

ただ注意しなければならないのは,罰金刑で終わったとしても,永住の在留資格でない限りは,次のビザの更新の時の不利益な事情となる場合があります。更新した時の在留期間が短くなったり,最悪の場合だと更新が認められないということがあります。

外国人の方の刑事事件は,罰金/執行猶予/実刑という,処分そのものだけでなく,在留資格への影響まで考えて弁護をしなければなりません。

日本で在留している間に刑事事件を起こしてしまったという方や,刑事事件に関わってしまった,強制送還されたくはない,という方は,是非ご相談ください。

刑事事件から在留資格までワンストップでご相談いただけます。

口頭審理で忘れてはいけないこと,日本で在留を続けるため

2022-12-05

(以下は解説のための架空の事例です)

事例―MDMAの裁判の後・・・・

Bさんは「定住者」の在留資格で18年間,日本で生活をしていました。日本人の交際相手もおり,日本の企業にも就職していて,出来ればずっと日本で生活し続けたいと願っていました。

しかし,Bさんはある時,仕事がうまく行っていなかったことや友達から勧められたこともあり,MDMAを使ってしまい,警察に逮捕されました。

Bさんには懲役1年6月,執行猶予3年の判決が言い渡さた後,今度は入管からの呼出がありました。

Bさんは,インタビューの中でも日本に残りたいことを伝えましたが,口頭審理では「あなたは強制送還になります」と言われました。

Bさんとその交際相手のかたは,弁護士に相談することにしました。

口頭審理とは何か?

口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。

強制送還になるまでには,

  1. 強制送還となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査

という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この「3」の次にある手続ということになります。

口頭審理期日は,入管の審判部門でのインタビューとなります。

東京入管の場合には,6階のエレベーターを降りて,ちょうどその裏にある部屋になります。名古屋入管の場合には3階です。

口頭審理の場では,,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。

そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。

口頭審理で忘れてはいけないこと

もしも日本での在留を続けたい方で,これから口頭審理を受ける方がいれば,覚えておいてほしいことがあります。

それは,口頭審理を受けただけでは在留特別許可は出ないということです。

どんな事案であっても,口頭審理の結果として在留特別許可をするということはできません。これは,法律上,できないからです。

口頭審理の結果というのは,

  1. 入国審査官の判断は間違っていた
  2. 入国審査官の判断は間違っていない

この二つしかありえません。ですから,口頭審理の場で在留特別許可がされなかったことで,パニックになってはいけません。

在留特別許可を望むのであれば,口頭審理の結果出てから3日以内に,法務大臣に異議の申出をしなければいけません。異議の申出があってから初めて,在留特別許可をするかどうかという判断が始まるのです。口頭審理の結果を受けて諦めてしまい,異議の申出をしないでいると,在留特別許可を受けるチャンスをつぶしてしまうことになりかねません。

口頭審理が終わったら必ず異議の申出をする,ということは,忘れてはいけません。

在留特別許可までの流れが複雑すぎる?

現在の法律によると,在留特別許可がされるかどうかの判断には,

  1. 強制送還となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
  2. 入国警備員による調査
  3. 入国審査官による審査
  4. 特別審査官による口頭審理
  5. 法務大臣(もしくは各地方入管局長)の裁決

という手続きを踏まなければならず,事実を認めて争っていない場合であっても,何度もインタビューを受ける必要がありました。一度廃案になってしまいましたが,入管法の改正案の中には,「在留特別許可についても窓口で申請ができるようにする」というものもありました。これまでは,入管側のアクションを待たなければならなかったものが,自分たちでも申請ができるようになる,という改正案です。

将来的には,在留特別許可についても手続きが大きく変わってくるかもしれません。

在留特別許可に関する手続きや,口頭審理に向けた手続きについてご不安がある方は,弁護士,行政書士といった専門家に早めにご相談ください。

解決事例 在留特別許可(日本人の配偶者等)が認められた事例

2022-11-16

当所の扱った事案について,在留特別許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。

(守秘義務の関係上,事実の詳細を明らかにしない部分があります)

事案

ご依頼者であるXさんは,日本国内にて大麻を所持していたという事案によって,執行猶予付きの懲役刑の判決を受けました。

執行猶予付きの判決ではあったものの,大麻取締法違反の事件でしたので,判決が確定後に,入管から違反調査のための呼出が来ることになりました。

ご依頼の経緯

判決の言い渡し前から,Xさんは,「刑事事件の判決によって自分の在留資格がどのようになるか」という点について不安があり,当所へ相談に来られました。

Xさんは日本で育ち,家族のほとんどが日本で生活しているという状況であるため,違反調査の後,強制送還されてしまうと非常に不利益が大きいという状況でもあり,在留特別許可に向けた活動をご希望でした。

刑事事件の判決が言い渡される前からご相談に来られたことで,事前のリサーチなどを行う時間も十分に確保でき,実際に入管からの違反調査が始まって以降は速やかに正式に代理人として受任し,在留特別許可の獲得に向けた活動を行うことができました。

弁護活動

Xさんに対する違反調査,違反認定については,在宅のままで進められました。Xさんは元々日本で生活していた方で,日本人の家族もいたことから,違反調査があっても在留資格は直ちには影響を受けなかったためです。

違反認定の結果,違反事実があり,口頭審理に進むという段階でも,入管の施設内に収容されてしまうということもなく,身元保証人もいたことから,即日仮放免で出てこられました。

代理人弁護士としては,「Xさんが日本にいなければXさんが困る/Xさん以外にも困る人がいる/Xさんを日本に在留させ続けるのが誰にとっても良い」ということを入管にアピールするために,手続の早い段階から,Xさんが置かれた状況について入管の担当者に対して説明を行いました。

口頭審理が行われる前から,先だって在留特別許可を求める具体的な事情を述べ,また,入管が判断する基準に基づいても「在留特別許可するべきである」という意見と理由をつけた意見書を提出しました。ただ意見を言うだけではなく,Xさんのご家族からも嘆願書をもらう等して,資料を集めました。

実際の口頭審理の場でも,弁護士が立ち会い,Xさんに在留資格が付与されるべきであることの意見を述べ,審理の中でXさんにとって不利な供述がなされてしまわないかどうかを立会確認しました。

口頭審理の結果

口頭審理から約2週間程度という速さで,結果が出て,在留特別許可が認められることになりました。

Xさんはもともと,「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していましたので,在留特別許可(日本人の配偶者等,在留期間1年)という形で認められました。

Xさんは日本で家族との生活を続けられることになり,お仕事についても日本の法律上,何らの問題もなく続けられることとなりました。

ポイント

Xさんの事件では,Xさんが日本に長く在留していたこと日本に家族がいたことが審理において非常に有利な点として考慮してもらう事ができました。また,Xさんの事例では,Xさん自身が日本で仕事をしていたこと,この仕事が日本や地域社会の利益にもつながっていたことも,入管に対して主張していました。

ただ,大麻をはじめとした薬物事件というのは,やはり入管業務においても重たい事案として扱われていることも事実です。

刑事裁判の結果についても触れて,その責任が必ずしも重大なものではないことについても,刑事弁護的な観点から意見を述べています。

よりよい弁護活動や一貫した弁護活動を目指すのであれば,刑事裁判の段階から入管まで見据えた弁護活動が望ましいでしょう。

今後も在留資格や強制送還に関する手続きでお困りの方,そのご家族の力になれるよう,事案に取り組んでいきたいと思っております。

無免許運転で逮捕された外国人は強制送還されるのか

2022-11-02

(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。

「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していたYさん(30代男性)は,東京都内の首都高速道路で自家用車を運転していたところ,スピード違反で検挙されてしまいました。警察官から運転免許証の提示を求められたYさんは,実は日本での運転免許を持っておらず,無免許運転をしていたことが発覚し,現行犯逮捕されてしまいました。

Yさんの会社の友人は心配になり,弁護士に相談することにしました。

無免許運転で強制送還になることはあるのか

これまで当サイトにて解説している通り,入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

交通違反の場合,そもそも反則金制度の対象となる違反なのか,罰金刑以上が課される刑事罰の対象なのかという点が,区別として非常に重要です。

無免許運転の場合,反則金の対象とはならず,全て刑事事件として扱われることになります。

無免許運転は,道路交通法違反として3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金が定められています。そのため,無免許運転として検挙されて有罪の判決を受ける場合には,最大で懲役3年の刑が科されることになります。

無免許運転を含んだ道路交通法違反の事件は,上記の「一定の刑法犯」には含まれませんので,「1年を超える実刑判決」とならなければ強制送還の対象とはなりません。

これは,どの在留資格であったとしても同じです。永住者,日本人の配偶者等の在留資格の方であっても,留学や短期滞在(旅行者)の在留資格であっても,1年を超える実刑判決を受けない限り,無免許運転をしたことによって強制送還されるということは原則としてありません。

また,「逮捕された」,「勾留された」というだけでは,強制送還や在留資格の取消事由ともなりません。

Yさんのように,逮捕されただけでは,直ちに強制送還までされるということはありません。無免許運転について事実を争わない(間違いがない)ということであれば,刑事事件として有罪ん判決を受けることになりますが,この時,「1年」を超える実刑判決を受けなければ,強制送還されず,日本での生活を続けることができます。そのため,刑事裁判において,いかに軽い処分を受けられるかという点が非常に重要です。

交通違反と在留資格

強制送還の対象とはならない刑事事件であっても,ビザに影響することはあります。

Yさんのように,逮捕された後に,略式罰金によって罰金の支払いを命じられたり,正式な裁判によって執行猶予付きの懲役刑判決を受けたりした場合には,日本での素行が良くないという事情が生じてしまいます。

そのため,次回の在留期間の更新や在留資格の変更申請をした際に,「素行が不良である」として,申請が不許可となってしまう可能性があります。また,長年日本で生活してきた方が永住許可申請をするときにも,前科があるということは非常に大きなマイナスポイントになってしまいます。

無免許運転のように,強制送還とはならない事件であっても,今後の在留資格に影響する可能性があることを忘れないできちんと対応する必要があります。

交通違反,無免許運転について,ご自身・家族・友人の在留資格について不安なことがある方は,是非一度,専門家にご相談ください。

オーバーステイになった後もビザを取得することができるか?

2022-06-29

(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と事例は必ずしも関係ありません)。

Xさんは留学生として来日し,日本で専門学校を卒業しましたが,留学ビザが切れた後も日本での在留を続け,飲食店でのアルバイトなどをしながら生計を立てていました。

ある時,Xさんは路上て職務質問を受け,警察官に在留カードを確認され,オーバーステイとなっていることが明らかになったため現行犯人逮捕されてしまいました。

Xさんは,改めて日本でビザを取り直して在留を続けたいと思っています。

オーバーステイ後の資格の変更/取得

Xさんのように,ときたま,「元々在留資格をもっていてオーバーステイになってしまったけれども,新しく在留資格を取得することができるか」という相談があります。

これについて結論として,オーバーステイとなった後で在留資格を取得することは原則としてできません

在留資格というのは,日本に上陸しようとする際に,又は,日本国内で外国国籍として生まれた場合に取得するものであり,日本で在留している間に一度ビザが切れてしまうと,日本にいながら再度ビザを取得するという手続きはないのです。

「在留資格認定証明書」を取得するという手続きがありますが,これは,

①まだ日本にいない人が,日本へ上陸する前にビザがあることを証明する

②日本で別の在留資格をもっている人が,在留資格を変更したり転職したりするときにビザがあることを証明する

というために行うものです。

そのため,一度ビザが切れてしまった人は,在留資格認定証明書を取ることもできません。

同様の理由で,在留資格の変更をすることもできません。

「資格の変更」というのは,有効期間内のビザを変更する,というものです。有効期間が切れてしまっているビザでは,それを別のものに変更するということもできないのです。

Xさんのように,一度オーバーステイとなってしまうと,基本的に,在留資格を新しく取得するということはできないのです。

日本での在留が認められる場合

オーバーステイとなってしまった後,日本での適法な在留が認められる場合として,在留特別許可が出た場合があります。

在留特別許可というのは,本来であれば強制送還の対象となる人であっても,法律で定められている場合に該当する人に対しては,特別に在留を認めることがあるというものです。

  • 永住許可を受けているとき。
  • かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
  • 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
  • その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。

以上のような場合には,法務大臣(もしくは各出入国在留管理局長)が在留特別許可をすることができます。

そして在留特別許可が認められた場合の大半は,一番最後の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」として許可がなされています。

どのような場合にこの在留特別許可が認められるのかという点について,はっきりとした基準があるわけではないのですが,日本に家族がいるのかどうか,どのような理由で強制送還の対象になっているのか,といった事情を総合的に考慮して決められることになります。

特に,日本人の配偶者がいる,日本人の子供がいて実際に扶養しなければならない,といった事情は,在留特別許可を認める上で大きなプラスになる事情です。

Xさんの事例のように,単に留学生として在留しており,アルバイトなどで生計を立てていたというだけでは,在留特別許可をもらうことは非常に難しいでしょう。

オーバーステイとなってしまった後も日本での在留を続けたいという場合,どんな理由で日本に残りたいのかという点が非常に重要です。理由次第では在留特別許可が認められやすいという場合もありますし,「およそ無理でしょう」という場合もあります。

オーバーステイ,在留特別許可については弁護士にご相談ください。

解決事例 在留特別許可(日本人の配偶者等)が認められた事例

2022-06-13

当所の弁護士が扱った事案について,在留特別許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。

(解説にあたって,ご依頼者様からご了解を頂きましたが,守秘義務の関係上一部,事情を変えて記載しています)

事案

ご依頼者であるXさんは「日本人の配偶者等」としての在留資格を取得後,日本人家族との生活を続けるために永住者の申請を行い,永住者として認められました。

しかし,Xさんは母国にも家族がおり,永住の申請をするときに,母国の家族については何も申告しないまま永住の申請をしてしまいます。

その後,Xさんは入管から呼び出されて調査を受け,永住申請の時に虚偽の申告を行ったとして永住許可を取り消されてしまいました。

ご依頼の経緯

XさんとXさんのご家族は,Xさんの永住許可が取り消されて強制送還されてしまうかもしれない,というご不安から,当事務所にご相談されました。

当事務所東京支部の弁護士が事情を伺ったところ,果たして永住許可が取り消されるほどの重大な事案なのか,また,Xさんの日本に置ける状況を鑑みると,なおも,日本での在留が認められるべき事案ではないかと思われました。

Xさんから正式にご依頼を受けた弁護士が,入管に対して,Xさんに対しては在留特別許可が認められるべきである,と主張していくことにしました。

具体的な弁護活動

Xさんの事案では,弁護士が依頼を受けた段階で既に永住許可が取り消されており,在留特別許可に関する口頭審理が開かれる前の段階でした。

そのため,まずは,Xさんが在留特別許可を求めている事,その理由となる具体的な事情をまとめ,意見書として入管に対して提出しました。

また,口頭審理までの間に,よりXさんの在留が認められやすくなるように状況を整え,その証拠を集めました。

そして,実際の口頭審理の場では弁護士が立ち会い,Xさんがインタビューの答えに困った時には直ぐにアドバイスができるように助言し,場合によっては弁護士がXさんの代わりに説明を行いました。

審理は長時間にわたって行われましたが,その合間の休憩時間などには,審理の流れについて確認し,その場でXさんとの打ち合わせも行いました。

口頭審理の結果

口頭審理から約1か月後に在留特別許可が認められたとの通知がなされました。

Xさんは日本人の配偶者としての地位がありましたので,在留特別許可(日本人の配偶者等,在留期間1年)という形で認められました。

Xさんは日本で家族との生活を続けられることになり,ご家族の方も大変安心されました。

ポイント

退去強制(強制送還)手続きに伴う在留特別許可の審査においては,日本との結びつき,特に,日本での家族関係があるかどうかが非常に重要です。Xさんのケースでは,「日本人の家族がいる」という事情があり,これは在留特別許可を求めるうえで最も有利になる事情ですから,弁護士からの意見書でもこの点を最も前面に押し出して主張を行いました。

口頭審理に先立って,事前に特別審査官との面談も行っており,その際にも許可が認められる見通しや審理を行う前の心証についても開示を受けていたため,特別審査官の審理でも,この点に注意しつつ質問に応じました。

何よりも,Xさんが日本で家族と生活を続けられることになったということが,弁護士としても非常にうれしく思います。

今後も在留資格や強制送還に関する手続きでお困りの方,そのご家族の力になれるよう,事案に取り組んでいきたいと思っております。

永住権が取り消されることもある?永住権を守るためにどうしたらいいか

2022-06-04

このページでは,永住許可が取り消されることがあるのか,取り消されそうになった時にどのように対応すべきなのかについて解説をします。

永住権は取り消される?

「永住者」(永住権)の在留資格は,日本で生活する外国人の方にとって,最も安定した在留資格であって,長期間日本で生活することを考えている方であれば,「できれば永住許可を受けたい」と思う方が多いのではないでしょうか。

「永住者」のメリットとしては

  1. 在留期間が無期限で更新する必要がない
  2. 仕事の制限がない
  3. 結婚したら配偶者は「永住者の配偶者等」という在留資格となり,ほぼ永住者と同じ扱いを得られる

というものがあります。これらのメリットは,他の在留資格における手間やリスクといったものを覆すようなもので,「永住者」が「最も安定した在留資格」と言われる理由でもあります。

ただ,この「永住者」の在留資格であっても,取り消される場合というのがあります。

「永住者」であっても在留資格を取り消される場合としてありうるのは,大きく分けて次のような場合です。

  • 永住許可申請の時に虚偽の申立てをしたり,偽造した文書を提出して永住許可を受けていた場合
  • 日本で犯罪をした事によって,一定の処分や刑罰を受けた場合

虚偽の申立て等をした場合としては,例えば日本で犯罪歴があったのに申告しなかった場合や,仕事場や住所・家族構成について虚偽の申請をした場合,納税や社会保険料の納付に関して文書を偽造して提出していたという場合があります。

また,日本で犯罪をした事によって処分や刑罰を受けた場合,永住者の方であっても,退去強制(強制送還)の手続きが始まることがあります。

永住者であっても退去強制(強制送還)となってしまう可能性があるものとしては,

  売春に従事しているとされた

  1年以上の実刑判決

  入管法違反,旅券法違反,薬物関係の事件で有罪の判決を受けた

と言ったものがあります。これらの場合には,たとえ永住者であったとしても強制送還されるおそれがあり,そうなると永住者としての在留資格も失ってしまうことになります。

永住権を守るために出来ること

それでは,永住者としての在留資格が取り消されてしまうかもしれない場合において,どのようなことができるでしょうか。

まず,虚偽の申立てや偽造した文書を提出したことを理由として永住許可が取り消されそうになってしまったという場合,申し立ての内容や提出した文書に誤りがないかどうかをよく確認する必要があります。本当に,永住許可が欲しくて嘘をついてしまったのか,それとも勘違いや誤解から真実と異なる申立てをしてしまっただけなのかによって,永住許可が取り消されるかどうかが変わってきます。

永住許可の取り消しについても,入管で事情聴取がありますから,勘違いや誤解があるという場合には説得的にそれを主張しなければなりません。

また,本当に嘘をついてしまったという場合や日本で犯罪をした事によって処分や刑罰を受けたという場合,強制送還に関する手続きの中で,在留特別許可を求めていかなければなりません。

この在留特別許可を求める際に,過去に「永住者」の在留資格を取得していた,ということは,それだけ日本で定着して生活をしていたということですから,在留特別許可をもらいやすくなる事情として働きます。

「永住者だった」というだけでなく,個別の事件における事情や,日本に残らなければならないという事情,日本から出国してしまうと困る事情を広く集めて,入管での事情聴取や口頭審理(インタビュー)手続きの中で強く主張しておかなければなりません。

口頭審理の手続きについて,事前に準備しておくべきことはこちらでも解説しています。

【日本に残るために】口頭審理の前の準備

入管での口頭審理手続きについては,家族とは別で弁護士も立ち会うことができます。

永住許可の取消や強制送還の手続きでお困りのことがある方は,一度弁護士にも相談してみましょう。

オーバーステイだと必ず入管に収容されてしまうのか

2022-05-24

(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と事例は必ずしも関係ありません)。

Xさんはコロナ禍になる2018年に母国の家族に仕送りをするために日本に働きに来ました。

はじめは就労ビザを持っていたのですが,コロナ禍になってしまい会社をクビになり,ビザの更新ができないまま在留期限を過ぎてしまいました。

ビザがなくなっても家族に仕送りをしなければならないため,Xさんは日本でアルバイトを続けていたのですが,そうした中で日本人のYさんと出会い,結婚することにしました。

Xさんは日本でYさんと正式に暮らし続けたいと思い,入管へ連絡しようとしています。

入管への出頭

事例のXさんのように,在留資格をもっていない方(=オーバーステイになってしまった人)が自分から入管へ行くという場合には,大きく二通りのパターンがあります。

  1. 自国へ帰国するために名乗り出るというパターン
  2. 日本で生活する理由があるため新たにビザを求めるというパターン

1のパターンは,出国命令制度を利用したもので,早期に帰国ができたり,日本へ再入国する時の有利な事情となります。

退去強制されないためにはどうしたらよいか

本来であれば,「違反調査」⇒「審理」⇒「送還」と言った手続きを踏むことになりますが,出国命令制度によると,オーバーステイであることを確認した後,ある程度の期間を指定されます。その期間内に日本から出国すればよい,という制度です。

2のパターン,上記の事例のようなパターンですが,これは「出頭申告」とも言われるもので,在留資格を認めてもらうためにあえてオーバーステイであることを入管に出頭して申告する(言う)というものです。オーバーステイも,出入国管理法違反になりますので,例えば警察官の職務質問などでオーバーステイが発覚すると,その場で逮捕されてしまうことになります。

そのように,いつ逮捕されるか分からないという状態を解消するためにも,日本で生活し続けることについて何かしら正当な理由がある場合には,むしろ,こちらから入管へ行って説明し,在留資格を認めてもらうための手続きを進めることが必要になります。

待っていても,在留資格はもらえないということです。

オーバーステイだと収容されるのか

Xさんの事例のように,すでにオーバーステイになった状態で入管へ出頭する時,その場で入管に収容されてしまうのではないかと恐れる人も多くいるでしょう。

ですが,自分から出頭しているという事情は,収容を回避したり,仮放免を認めてもらうためにも重要な事情になります。

確かに,オーバーステイの状態になっているということは,入管法上,「収容」(逮捕のようなもの)が出来る状態です。ですが入管当局の運用として,

収容と同時に仮放免をする

ということがたまにあります。

どういうことかというと,「本来であれば入管に収容する事案なのだけれども,いろいろな事情を考慮して,その日のうちにすぐ釈放してあげます。ただし,最終的なビザについての処分が決まるまでの間,1か月~2か月に1回,入管にちゃんと来てください」というものです。

このような「収容と同時に仮放免」がなされるような事案だと,事前に入管から,身元保証人と一緒に来てくださいとか,保証金として10万円を持ってきてください等と言われることがあります。そのような事前の指示があった場合には,仮放免が認められる可能性が相当高く,その日のうちに収容される可能性は低いということですから,指示に従って準備をしましょう。

さて,Xさんの事例のように,オーバーステイとなった後に日本人Yさんと結婚したという場合だとどうでしょうか。

個別の事情によって異なりますが,日本人Yさんとの結婚がビザ目的のものではなくて,Yさんも仕事をしていて収入がきちんとあるという場合や,一緒に生活をしていてXさんが逃げてしまわないようにYさんがきちんと様子を見ることができそうだ,と判断してもらえれば,オーバーステイの中で入管へ出頭したとしても直ちに収容されることなく,拘束されないままで在留特別許可について審理を受けられる場合があります。

特にXさんのような事例の場合,真摯な結婚で,ビザを目的として偽装結婚等ではないと判断してもらえれば,在留特別許可が認められやすい事案です。

オーバーステイというのは,確かに逮捕されてしまったり入管施設に収容されてしまったりする可能性がありますが,状況によっては収容そのものを回避したり,なるべく早い段階で仮放免認めてもらえたりするという場合もあります。

今現在でもオーバーステイの状態で悩んでいる方や,恋人・婚約者がオーバーステイになってしまっているという方は,一度弁護士までご相談ください。

窃盗罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか

2022-05-12

(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。

「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していたXさん(40代女性)は,東京都板橋区のスーパーマーケットで「お金を払うのが勿体ない」と思ってしまい,食料品等を約1000円分を万引きし,その様子を見ていた私服警備員に現行犯人逮捕されてしまいました。

Xさんの夫である日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。

窃盗罪の場合には,強制送還があり得る

これまで当サイトにて解説している通り,入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。

参考記事 強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか

  • 一定の入管法によって処罰された場合
  • 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
  • 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
  • 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
  • どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合

Xさんの事例のように,万引きの場合だと,窃盗罪が成立します。窃盗罪に対しては「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられています。

そして,「窃盗罪」というのは,上記の「一定の刑法犯」に含まれています。

執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。

    • 住居侵入罪
    • 公文書/私文書偽造罪
    • 傷害罪,暴行罪
    • 窃盗罪,強盗罪
    • 詐欺罪,恐喝罪

これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。

外国人の方が万引きによって逮捕されてしまった場合には

  • 不起訴になる
  • 無罪を獲得する
  • 罰金刑で済ませる

ことができないと,強制送還される可能性があるのです。

有罪になったら必ず強制送還か

それでは,Xさんの事例で,起訴されて有罪の判決を受けたら必ず強制送還になるのでしょうか。

実は,「一定の刑法犯」で強制送還になる人というのは,その時の在留資格によって変わります。

一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。

入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページでも列挙されています

Xさんのように,「日本人の配偶者等」,「永住者」,「永住者の配偶者等」,「定住者」の在留資格であれば入管法の別表2ですから,執行猶予付きの有罪判決を受けたとしても強制送還にはなりません。

ただし,強制送還にならないからと言って全く不利益がないわけではなく,在留期間の更新の時に認められる在留期間が短くなったり,永住許可申請の時に不利な事情として扱われたりします。

強制送還にはならないとしても,その後の日本での在留に関して不利益にならないよう,刑事事件の段階でなるべく軽い処分が得られるように早期に対応しておくことが重要です。

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