日本人の配偶者等と不法残留の在留影響 退去強制・在留特別許可への影響を解説

空港絶望

想定事例

Aさんは、日本人の夫と日本で暮らす外国人で、在留資格は「日本人の配偶者等」でした。Aさんは、家庭の事情で在留期間の更新を後回しにしてしまい、気づいた時には期限が過ぎていました。その後、警察や入管から事情を聞かれることになり、「不起訴なら日本に残れるのか」「夫と一緒に暮らし続けられるのか」「強制送還になるのか」と強い不安を抱えており、弁護士に相談に来ました。

刑事手続と入管手続は別です

結論からいうと、日本人と結婚していても、不法残留であれば退去強制の対象となります。もっとも、日本人配偶者がいることは「在留特別許可」で重要な有利事情となるため、必ず退去になるわけではありません。

「日本人の配偶者等」は、入管法上の身分・地位に基づく在留資格であり、日本人の配偶者、特別養子、日本人の子として出生した人などが対象です。一般には「配偶者ビザ」「結婚ビザ」と呼ばれます。

不法残留(いわゆるオーバーステイ・不法滞在)は、在留期間の更新や在留資格変更を受けないまま在留期間を過ぎて日本に残ることを指し、退去強制事由になります。しかも、不法残留は、刑事罰の対象(三年以下の拘禁刑または三百万円以下の罰金)でもあります。

不法残留はこの刑事責任と、退去強制という入管手続が別々に問題になります。つまり、「不起訴なら必ず残れる」「罰金だけなら入管は関係ない」とは言えません。

また、在留期間は、在留期限までに更新の申請をするのが原則です。したがって、すでに期間が切れている在留期限切れの事案では、通常の在留期間更新許可申請の対象とはなりません。事案に応じて、退去強制手続の中で在留特別許可を得られるか、あるいは出国命令の対象となるかが中心的な課題となります。

不法残留と退去強制の基本

不法残留は、入管法24条4号ロの退去強制事由です。日本人と結婚していても退去強制手続の対象になります。配偶者ビザだから自動的に守られるわけではありません。ここが、最も誤解されやすい点です。

もっとも、退去強制手続に入ったから直ちに必ず送還、という意味でもありません。「在留特別許可」という例外的・恩恵的な措置があります。

「在留特別許可」は、個々の事案ごとに在留を希望する理由、家族関係、素行、在留期間、その間の法的地位などを総合考慮し、退去強制対象者にも例外的に在留許可を与える制度です。日本人と法律上有効な婚姻があり、実態のある夫婦共同生活があることはプラス要素です。もっとも、偽装婚姻や形式だけの婚姻はむしろ逆効果であるのが一般的です。

また、退去強制手続や在留申請で虚偽説明をしたこと、不法残留を継続していること、出身国との結び付きが強いことなどはマイナス要素として扱われます。要するに、配偶者ビザであることは有利な事情ですが、それだけで覆るわけではなく、婚姻と生活の実態、違反後の対応の誠実さが非常に重要なのです。

不法残留で不起訴・罰金・執行猶予・実刑になると在留資格はどうなる?

まず押さえたいのは、不法残留では「刑事処分の軽重」だけで結論が決まらないということです。

不法残留そのものが退去強制事由なので、刑事処分が軽くても入管では厳しい判断が残ります。他方で、刑事処分が軽いほど、在留特別許可や将来の在留審査で不利が小さくなるのも事実です。以下では、刑事処分の結果による入管手続での結論について解説します。

不起訴の場合

不起訴でも退去強制になることがあります。

不起訴は、有罪判決がないという点で重要なプラス事情です。特に、前科が付かないため、在留特別許可の審査では有罪事件より有利に働きやすいです。

ただし、不法残留の事実自体は消えません。そのため、不起訴だから「普通に配偶者ビザを更新すればよい」という話にはならず、やはり在留特別許可を得られるかが問題になります。

また、在留特別許可が得られた場合でも、永住許可への影響があります。配偶者ビザの人は、実態ある婚姻生活が三年以上続き、かつ引き続き一年以上日本に在留していれば、永住許可要件の、いわゆる「十年要件」は緩和されます。しかし、永住許可では「素行が善良」であることが必要です。不法残留歴はこの素行面で大きなマイナスですから、永住許可は一般的に通り難くなります。

罰金の場合

罰金は不起訴より不利です。有罪であるため、更新や永住の審査では「法令違反があった」という評価が明確に残ります。永住許可や更新期限上も、素行不良は-要素であり、退去強制事由にあたるような刑事処分を受けた点は重く見られます。特に、不法残留は入管上の制度に対する違反ですから、罰金前科が付くと「うっかりしていました」という説明だけでは弱くなります。

もっとも、罰金判決でも直ちに確実に退去となるとは限りません。日本人配偶者との実態ある婚姻、同居、扶養関係、子どもの生活への影響、早期出頭、虚偽説明をしていないことなどがそろえば、在留特別許可の余地は残ります。ただし、永住は不起訴よりさらに遠のきやすく、再入国も、退去強制なら原則五年、出国命令なら原則一年という、日本へ一定期間入国できなくなる制度(上陸拒否)の期間の違いが大きく響きます。

執行猶予付き判決の場合

執行猶予が付いて、実刑は免れても、「裁判所が有罪判決をした」「罰金以上の刑罰となった」事実は重く見られます。そのため、「執行猶予だから日本に残れるはず」とは考えない方が安全です。更新や永住許可では、罰金以上に素行面のマイナスが強くなり、在留特別許可でも審査はかなり厳しくなります。

実刑判決の場合

実刑は最も重いケースです。刑事事件としても重大で、入管側でも在留継続を認める事情はかなり乏しくなります。不法残留という入管法違反そのものに加えて、実刑という有罪結果まで重なるため、日本人配偶者がいる事案でも、在留特別許可のハードルは大きく上がります。

仮に在留特別許可が得られても、永住申請は現実的に非常に難しく、仮に将来再挑戦するとしても、相当の時間経過と生活の安定が必要です。

再入国については、退去強制による原則五年の上陸拒否に加え、実刑の長さによっては刑罰歴そのものが別の上陸拒否事由になります。とくに一年を超える拘禁刑の実刑は、将来の再来日審査で極めて重い障害です。日本人との婚姻が続いていても、日本に簡単に戻れるとは考えない方がよいです。

退去強制を避ける実務ポイント

配偶者ビザの人の不法残留の事案でまず大切なのは、婚姻の実態を丁寧に示すことです。日本人との法的婚姻があり、実際に夫婦として生活していることは、在留特別許可で重要な+要素です。反対に、偽装婚や形式だけの婚姻、入管での虚偽説明は強いマイナスです。同居の状況、家計の実態、夫婦の経緯、子どもの監護状況、日本人である配偶者側が受ける生活上の不利益などを、刑事弁護と入管対応で矛盾なく整理することが非常に大切です。

さらに、不法残留は「期限管理を守れなかった違反」なので、実務では、違反後の態度が特に見られます。呼出しを無視しない、新たな違反を重ねない、嘘をつかない、今後の在留継続又は帰国に関する方針を早めに固める、といった対応は結果を左右します。不法残留の事案では、刑事側での反省文や事情説明と、入管側での上申書や疎明資料の内容が食い違うと信用を落としやすいため、早い段階で一本化しておくべきです。

仮に在留特別許可が得られない見込みの場合、日本では、出国意思を持って自ら出頭した一定の不法残留者について、出国命令制度を設けています。近年の法改正により、入管による調査開始後でも、退去強制事由に該当すると正式に認定される前に速やかな出国意思を表明した場合でも出国命令制度が適用可能となりました。

出国命令で出国できれば、上陸拒否期間は原則一年です。退去強制の原則五年より大きな差があります。

退去後の再来日と再取得

退去強制となった場合、原則として五年間は上陸拒否されます。再度の退去強制歴など一定の場合は十年になります。他方、出国命令で出国した場合の上陸拒否期間は原則一年です。この差は大きく、不法残留の事案では「いま日本に残れるか」だけでなく、「もし出国するなら、どの手続で出るか」も将来設計に直結します。

上陸拒否期間が過ぎれば、日本人との婚姻が真実で継続していることを前提に、海外から配偶者ビザの在留資格認定証明書(海外から配偶者ビザを取得する際に用いる書面)を申請し、あらためて来日を目指す余地はあります。ただし、過去の不法残留や刑事処分は審査で見られます。つまり、ビザの再取得の可能性はありますが、簡単に許可されるわけではありません。婚姻の実態、生活基盤、違反に至った事情、再発防止の説明が重要になります。

なお、上陸拒否期間中でも、法務大臣の裁量で「上陸特別許可」が認められる制度はあります。しかし、これは個別事情を総合考慮する例外的な仕組みで、簡単に認められるものではありません。日本人配偶者がいることはプラス事情になり得ますが、過去の違反が重いほどハードルは高くなります。

早期相談が重要な理由

不法残留は、刑事事件としては比較的迅速かつ軽く終わることがあっても、入管では退去強制事由という重大な類型です。他方で、配偶者ビザは家族関係が強く考慮される在留資格でもあるため、刑事の見通しだけでも、入管の見通しだけでも足りません。両方を同時に設計する必要があります。

とくに重要なのは、早い段階で、在留特別許可を目指すのか、将来の再来日を前提に手続を整えるのかを見極めることです。日本人である配偶者の陳述、婚姻実態の資料、刑事処分の結果や見通し、入管への説明内容は、最初の動き方で大きく変わります。不法残留の事案では、「あとで説明すればよい」と考えるほど不利になりやすいので、日本人であるご家族も一緒に、刑事事件と入管実務の両方に強い弁護士へ早めに相談することが重要です。

同じ「不法残留」でも、在留期間超過の長さ、出頭前後の事情、婚姻の実態、同居の有無、子どもの有無、前科前歴の有無などで結論が大きく変わります。

特に配偶者ビザの人の不法残留の場合、日本に残れる可能性がまったくないわけではありませんが、放置すると不利になりやすい類型です。早めに方針を立てることが、在留継続や再来日など、将来の設計にもつながります。

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