日本人の配偶者等が業務上横領した場合の在留資格への影響

弁護士と依頼者

たとえば、日本人と結婚し、「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に暮らすAさんが、勤務先の売上金を私的に流用したとして、業務上横領の捜査を受けたとします。会社は被害届を出し、Aさんは取調べを受けます。しかも、在留期間の満了も近づいています。
Aさんと家族には、すぐに大きな不安が生まれます。
「不起訴なら日本に残れるのか」「執行猶予でも更新できるのか」「強制送還になれば家族はどうなるのか」という不安です。結論は一つではなく、刑事処分の重さと、その後の対応で変わり得ます。

この記事では、日本人の配偶者等で在留する人が業務上横領の事件を起こしたときに、在留更新、永住、再入国、強制送還のリスクがどう動くのかを、できるだけ分かりやすく整理します。

刑事手続と入管手続の全体像

結論からいうと、刑事手続と入管手続は別です。
警察・検察・裁判所で進むのが刑事手続です。これとは別に、入管では、違反調査、違反審査、口頭審理、異議の申出、法務大臣の裁決という流れで、退去強制や在留の可否が判断されます。法務省資料も、退去強制手続は刑事手続とは別個の行政手続だと説明しています。

そのため、不起訴や無罪でも自動的に安心とはいえません。
在留期間の更新は、法務大臣が「相当の理由がある」と認める場合に限って許可され、入管は、在留の状況、在留の必要性、素行、生活状況、納税などを総合的に見ます。つまり、刑事事件の結論だけでなく、今の生活が安定しているか、説明に矛盾がないかも確認されます。

また、日本人の配偶者等は、仕事の種類ではなく、日本人の配偶者としての身分に基づく在留資格です。ですから、業務上横領の後は、仕事を失ったかどうかだけでなく、婚姻の実体、同居の状況、家計の安定、日本での生活基盤がより重要になります。

強制送還と在留特別許可

強制送還、正確には退去強制とは、ひとことでいえば、入管が日本からの出国を命じる行政手続です。出入国在留管理庁も、退去強制は、法律で定められた手続に従って国外に退去させる措置だと説明しています。刑事裁判で刑を決めることと、入管が日本に残れるかを決めることは、同じではありません。

退去強制(強制送還)について

退去強制の分岐点

日本人の配偶者等で在留する人にとって、業務上横領で退去強制が現実化するかどうかの大きな分岐点は、判決の重さです。業務上横領は、刑法253条で10年以下の拘禁刑とされています。他方、入管法上は、一般に、無期または1年を超える拘禁刑で、執行猶予が付かない判決が退去強制事由になります。つまり、不起訴はもちろん、執行猶予付き判決はこの一般条項の直接の対象外で、実刑でも1年を超えるかどうかが重要な境目になります。

なお、ここで一つ大事な点があります。業務上横領は法定刑に罰金刑がありません。

そのため、業務上横領のみで罰金刑となることはありません。

在留特別許可について

退去強制事由に当たれば、必ず出国になるわけではありません。
在留特別許可とは、本来は退去強制の対象であっても、例外として日本での在留を認める制度です。もっとも、出入国在留管理庁は、在留特別許可を例外的・恩恵的な措置と位置付け、退去強制事由に当たるなら、原則は退去強制だと説明しています。つまり、在留特別許可は必ず認められる制度ではありません。

在留特別許可では、在留を希望する理由、家族関係、生活状況、素行、退去強制の理由となった事実の反社会性などが個別に見られます。日本人との家族関係は有力なプラス事情になりますが、出入国在留管理庁のQ&Aも、日本人と結婚しているだけで必ず在留特別許可になるわけではないと明示しています。

在留特別許可について

処分別の在留影響

ここでは、読者が最も気になる在留更新・永住・再入国に絞って整理します。
在留更新では、素行や生活基盤が総合評価されます。永住では、日本人の配偶者等には年数面の特例がある一方で、永住ガイドラインは「罰金刑や拘禁刑などを受けていないこと」を重い要件として見ています。再入国でも、判決内容によっては、出国後に戻れなくなることがあります。なお、再入国許可は在留期間の範囲内で最長5年、みなし再入国許可は1年ですが、許可があるだけで安心とはいえません。

不起訴から実刑までの整理

不起訴

不起訴なら、有罪判決がないため、業務上横領を理由とする退去強制や上陸拒否は通常問題になりにくいです。もっとも、更新では、事件の経緯をどう説明するか、日本での婚姻生活が安定しているか、納税や家計に問題がないかが見られます。永住も直ちに不可能ではありませんが、申請時には、生活の安定と再発防止への取組を丁寧に示す必要があります。再入国は比較的維持しやすいですが、説明不足のまま出国するのは避けたいところです。

罰金

業務上横領では、罰金は通常想定しにくいです。理由は、刑法253条が罰金刑を置いていないからです。ですから、「罰金で軽く終わるはず」と見込んで、更新や渡航予定を組むのは危険です。この事件では、むしろ不起訴、執行猶予、実刑のどこに着地するかを前提に考えるべきです。

執行猶予付き判決

執行猶予が付けば、一般の退去強制事由に直ちに当たるわけではありません。
しかし、更新では素行不良のマイナス評価を受けやすく、永住ではかなり不利です。さらに、判決で言い渡された拘禁刑が1年以上であれば、出国後の再入国で上陸拒否事由が問題になります。再入国許可を持っていても、上陸審査が残るため、海外渡航は特に慎重に判断すべきです。

実刑判決

実刑は最も重い局面です。日本人の配偶者等であっても、一般に、1年を超える実刑になると退去強制事由が現実化しやすくなります。更新は当然厳しくなり、永住は大きく遠のきます。再入国も厳しくなります。というのも、退去強制後の5年または10年の上陸拒否期間に加え、1年以上の拘禁刑判決そのものが別の上陸拒否事由になり得るからです。実刑では、今の在留だけでなく、将来の来日可能性まで強く制約されます。

在留を守る実務対応

在留特別許可を目指す場面では、個別事情の積み上げが決定的です。
日本人の配偶者等では、婚姻の実体、同居の継続、在留年数、日本での生活基盤、家族への具体的な影響が、強いプラス事情になりやすいです。出入国在留管理庁も、日本人との家族関係や家族とともに生活する事情を考慮要素として挙げています。

そのうえで、業務上横領の特性に合わせた説明が必要です。業務上横領は、仕事上預かった財産を横領する犯罪です。つまり、信頼を裏切った点が重く見られます。だからこそ、入管実務では、反省の中身、被害回復の有無、返済計画、犯行に至った事情、家計管理の見直し、再発防止策が説得力を持ちやすいと考えられます。ガイドラインも、退去強制の理由となった事実の反社会性を評価するとしています。

大切なのは、刑事手続と入管手続を同時に見ることです。
被害回復の資料、家族の陳述書、同居や家計を示す資料、納税資料、今後の生活計画は、後から慌てて集めるより、早い段階でそろえた方が筋の通った説明になります。弁護士が関与すると、刑事事件での防御と、入管へ出す事情説明を矛盾なく整理しやすくなります。

再取得と早期相談の重要性

退去強制の後に問題になるのが、上陸拒否期間です。
これは、一定期間、日本に新たに入国できない期間のことです。初めて退去強制された場合は原則5年、過去にも退去強制歴がある場合は10年とされています。したがって、退去強制後でも、将来の再来日が絶対に不可能という意味ではありません。ただし、その期間が過ぎても、あらためて新しい上陸審査と在留審査を受け直す必要があります。

もっとも、業務上横領で1年以上の拘禁刑判決を受けた場合は、退去強制による5年・10年の問題とは別に、判決自体が上陸拒否事由になります。ここが、在留特別許可との大きな違いです。在留特別許可は、「今、日本での在留を続けられるか」をみる制度です。これに対し、退去後の再取得は、「いったん日本を離れた後、あらためて日本に入れるか」をみる手続です。似ているようで、まったく別の問題です。

日本人の配偶者等と業務上横領の組み合わせでは、執行猶予を確保できるか、被害回復をどこまで進められるか、そして出国のタイミングをどう判断するかで、結論がかなり変わります。対応を誤ると、更新不許可、永住の断念、出国後の再入国困難が重なります。だからこそ、不安を感じた段階で、外国人事件に強い弁護士へ早めに相談することが大切です。個別事情が大きい分、正しい対応で状況を動かせる余地もあります。

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