「経営・管理」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日お店で飲酒をした後、繁華街で通行人とトラブルとなりました。
お酒を飲んで酔っていたAさんは、つい手が出てしまい、通行人に対して数発殴る暴行を加えてしまい、通行人に全治3週間のけがを負わせて
しまいました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんの在留期間の更新時に影響があるか、若しくは退去強制処分となるか
以上の点について解説していきたいと思います。
このページの目次
傷害罪の刑事罰
Aさんは、暴行を加え、人に対してけがをさせてしまいました。
このような場合には刑法第204条の傷害罪が成立します。なお、暴行を加えたものの、被害者がけがをしなかったような場合が暴行罪となります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
ただ、「けが」といってもその程度は様々です。
暴行を加え、結果として人を死亡させてしまったような場合には傷害致死罪というより重い罪が成立しますが、死亡するに至らない場合は傷害罪となります。
そのため、意識が戻らず、植物人間のような状態であったとしても傷害の罪に問われます。
反対にかすり傷くらいの極めて軽微なけがであったとしても、けがはけがですので傷害罪となります。
そのため、傷害事件を起こしてどのような刑事罰を受けるかは、被害者に生じたけがの重さが大きな考慮要素となります。
おおよその目安ですが、被害者が骨折以上のけがをしたような場合には、正式な裁判となり、懲役刑となる可能性が出てきます。
診断書上1ヶ月以内のけがであれば、罰金刑で済むということも十分考えられます。
今回のAさんの場合は、全治3週間のけがということですので、Aさんが初犯であれば罰金刑となるものと思われます。
「経営・管理」の在留資格について
在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
まず、「経営・管理」の在留資格は、入管法上別表第1の2の表に記載がある在留資格です。
「経営・管理」の在留資格についてはこちらでも解説をしています。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
この上陸許可基準は公表されていますが、概ね事業所が存在することや資本金等の額についての定めが記載されています。ですので、仮に傷害罪によって処罰されたからといって上陸許可基準に該当しないというものではありません。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。
そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず、入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。傷害罪で実刑の判決となるのは余程被害が大きい(被害者が植物人間となるなど)場合がほとんどですので、今回はこれには該当しません。
次に、24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。
24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。Aさんが問われる「傷害罪」は、刑法の第27章「傷害の罪」の中に含まれています。
そのため、Aさんが傷害罪で懲役刑を受けた場合、たとえ執行猶予がついた判決であったとしても退去強制事由となってしまいます。
この点、初犯であり、全治3週間程度であれば懲役刑が選択されることは多くないと思われますので、ひとまずこの点もクリアできると思われます。
最後に、次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、窓外は明示的に挙げられていません。ただ、交通事故のような過失により人にけがをさせた事案と比べて、傷害罪は故意にけがをさせる罪ですから、より慎重な判断がなされると思われます。
そのため、傷害罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性高まる一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。だからといってこの事件のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。
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示談交渉
さて、先述の通り、傷害罪で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、怪我の程度がそれほど大きいものでなければ、検察官が最終的な刑事処分を決定してしまうより前に被害者の方と示談を行い、被害者の方からお許しいただければ
起訴猶予処分となる可能性があります。
ただ、傷害保険などの保険に加入していたとしても、被害者からお許しを得るような示談交渉は通常行われません。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。傷害事件の場合には、警察も
被害者の名前や連絡先を開示してくれないことがほとんどですし、仮に知ることができたとしても、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で傷害事件を起こしてしまった場合には、期間の更新のためいち早く弁護士にご相談ください。