不法就労助長罪となった裁判例 その1

今回は,不法就労助長罪が成立するかどうかについて争われた裁判例について紹介・解説します。

解説する裁判例は,平成31年4月15日に札幌地方裁判所で判決が言い渡された事例です。

争われた事実は何か

この裁判で起訴され,裁判所も認めた事実は次のようなものでした。

(罪となるべき事実)
 被告人は,本邦で就労することを望んでいたベトナム社会主義共和国の国籍を有する外国人であるAほか2名に対し,「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得させて本邦に入国させた上,入国後,仙台市a区b町c番d号e所在の株式会社Bにおいて,土木作業員として在留資格に応じた活動に属しない報酬を伴う活動をさせる就業のあっせんをすることを考え,分離前の相被告人Cと共謀の上,業として,前記Cが,同社従業員をして,平成30年2月15日頃,前記Aらが同社において「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に応じた業務内容で就労するかのように装った雇用契約書を作成させ,同月20日頃,仙台市宮城野区五輪1丁目3番20号所在の仙台入国管理局において前記雇用契約書を提出させるなどして,同入国管理局から前記Aらに対する在留資格認定証明書の交付を受けさせた上,前記Cが,同年4月上旬頃,東京都f区gh丁目i番j号株式会社Dにおいて,前記証明書をベトナム社会主義共和国に所在する査証の代理申請機関に郵送し,同機関を通して査証の代理申請をさせて,前記Aらに対する「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得させ,さらに,同月27日頃,本邦に入国した前記Aらを,前記Bの土木作業員として雇い入れさせ,もって業として外国人に不法就労活動をさせる行為に関しあっせんした。

 

登場人物が多いので整理しますが,

被告人:裁判で罪を問われた人,Iさんに外国人労働者を何人か紹介している。

そのうちのAさん他2人を日本で不法就労させたのではないかと疑われたが,不法就労させるつもりはなかったと裁判で争った

B:日本の建設会社

Iさん:B社の社長さんで,被告人に現場の作業員が足りないから人を多く紹介してほしいと頼んでいた

C:被告人と一緒に不法就労助長罪に問われていた人

となり,簡単にまとめると,被告人とCさんが,一緒になって外国人労働者をB社のIさんに紹介したところ,実は不法就労だった,というものです。

 

被告人とCさんとの関係についても少しふれておきます。

もともと,被告人は,日本で働きたい外国人労働者に対して,日本での働き先を紹介したり,あっせんしたりしていました。その中でCさんと知り合いました。その後,Cさんは,外国人向けにビザの申請代行会社を設立しました。

そして,被告人は「外国人労働者を受け入れたい」という企業に対してCさんの会社を紹介し,Cさんに対して「日本で働きたい」という外国人を紹介するようになりました。

ところで,ある日,被告人がCさんに対して紹介した外国人がB社で働くためのビザの申請手続きを進める途中で,Cさんから被告人に対してあるメールが送られました。その内容は,

『入国管理局に対して提出する契約書に書いてある業務の内容と,実際に行う業務の内容は違うけれども,そのことは社長のIさんにも説明しておいてほしい』

というものでした。

 

裁判所の判断

被告人は,裁判でCさんに紹介した外国人が在留資格で認められないような不法就労をするとは思わなかった,在留資格で認められない単純作業をすることがあってもあくまで研修の一環に過ぎないものだと思っていた,と主張していましたが,裁判所は,次のように判断して,その主張を認めませんでした。

(中略)そうすると,在留資格申請の際に実態を隠して虚偽の業務内容を記載しているのは,そうしないと在留資格が認められないからであると考えるほかなく,被告人もBで就労する外国人が実際に申請する在留資格では認められない業務に従事すること,言い換えれば不法就労するものであることを認識していたと推認され,この推認力は強いといえる。そして,このことからすると,被告人がベトナム人が建設現場で現場作業をするとしても,それが単純作業には当たらず,不法就労にはならないと考えていた可能性や,研修の一環として現場作業にも従事するが将来的には専門性を活かした業務に従事する予定であると考えていた可能性など,不法就労の認識がなかった可能性は排斥される。

判決では,懲役1年,罰金100万円の有罪が言い渡されました。

 

コメント

不法就労助長罪として,外国人と日本企業の間を仲介したブローカー的な役割,仲介役のような役割の人が罪に問われたという事例です。この事例では,被告人とCさん(ビザの申請代行会社の人)との間のメールから,被告人も外国人労働者が不法就労することが分かっていたと認められました。

もちろん,外国人に対して在留資格で認められていない職業活動を行うことを紹介してはいけませんし,それをあっせんしてもいけません。

この裁判例を通して,人材派遣等に関わる方々が外国人労働者に仕事を紹介するときに気を付けなければならないのは,外国人の在留資格が何かということと,実際の業務内容が何かということです。

今回開設した裁判例では,メールの存在などから不法就労が疑われる事案ではありますが,「気づかないうちに紹介先の会社が不法就労をしていた」ということがないように,外国人の実際の業務内容をよく確認しておくことは必要です。

また,紹介先の会社の業種や求める人材自体から「不法就労助長の気配」は感じ取ることができます。例えば,今回解説した事例のような建設会社の場合,建設工事自体は「単純労働」とされるため,就労ビザの外国人が建設工事の人夫として働くことはできないはずです。このように,業種から想定される仕事と,在留資格とがマッチしないときには,「不法就労ではないか」と考えることもできます。

繰り返しになりますが,「不法就労助長をすることは犯罪であって,絶対にいけません」。

しかし,なかには,「知らないうちに犯罪の片棒を担がされていた」という方も少なくないのです。不法就労助長など,外国人の雇用でお困りのこと,ご不安なことのある方は一度ご相談ください。

不法就労,不法就労助長罪について当サイトでも解説しています。

⇒不法就労,不法就労助長罪とは何か

また,法務省も下記のようなパンフレットで,不法就労助長について注意を促しています。

⇒外国人を雇う事業主の皆様へ

外国人の雇入れや管理について,ご不安なことがある方は,有事となる前にご相談ください。

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