不法就労助長罪となった裁判例 その2

今回は,不法就労助長罪として起訴されたものの,「在留カードの記載を見落としていた」として不法就労助長罪の故意がないと主張した裁判例について解説します。人事の担当などの方でも,外国人の雇入れの際には在留カードを確認するという実務が定着しているかと思いますが,「うっかり見落とした」という事態も,いつか,どこかで起きえる事態です。「見落としていた」という主張は,どこまで認められるのでしょうか。

解説する裁判例は,平成30年12月11日に札幌地方裁判所小樽支部が言い渡したものです。

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事案の概要

裁判所が認定した事実は,次のとおりでした。


 被告人は,平成29年6月13日から平成30年3月31日までの間,労働者派遣事業等を営む株式会社Aから業務委託を受けて同社における従業員の雇用等の業務を担当した者であり,平成29年12月21日以降,労働者派遣事業等を営むB株式会社の代表取締役として,その業務全般を統括していた者であるが,別表記載のとおり,同年7月10日から平成30年5月24日までの間,いずれもベトナム社会主義共和国の国籍を有する外国人であり,不法に就労活動をする者であるCほか6名を前記株式会社A又は前記B株式会社の派遣労働者として雇い入れた上,北海道虻田郡a町字bc番地d所在のDに派遣して稼働させて報酬を受ける活動に従事させ,もって事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせたものである。


本件の被告人は,日本で外国人労働者の派遣事業を行っていた人で,外国人の雇入れに携わる立場でしたが,その際,日本で働く在留資格のない外国人を雇入れて,派遣して働かせたとして,不法就労助長罪に問われていました。

 

裁判所の判断

本件の被告人の主張は,

①外国人の内の一人については偽造した在留カードを提示されたので不法就労とは知らなかった

②別の外国人一人については在留カードの在留資格の記載欄を見落としていた

というものでした。

これらの主張に対して,裁判所は,まず,こう述べています。


被告人は,外国人を雇い入れるに当たり,在留カードの提示を求めてその就労資格の有無を確認していたと認められるところ,この方法で就労資格の有無を確認することができるのは,当然ながら当該外国人に係る真正な在留カードを確認した場合に限られ,そうでない場合には,雇い入れた者において,当該外国人について就労資格の有無を確認できておらず,就労資格がないかもしれないことを認識しながら雇い入れたというべきである。

(中略)前記の在留カード確認の目的に照らして同欄の記載を見落とすとはにわかに考え難い


つまり,本物の在留カードでないと外国人の在留資格は確認できないはずであり,偽造された在留カードであるかもしれないと思ったのであれば,それは「不法就労かもしれない」と疑うべき事情である,ということです。また,在留カードで在留資格を確認し日本で働けるかどうかを確認するのが本来の目的なのですから,その在留資格の記載欄を見落とすということは考え難い,ということです。

この裁判例では,①の主張について,外国人の呼び名とパスポートや在留カードに記載された名前が違っており,他人のパスポートや在留カードが提示されたかもしれないと疑うような事情がありました。

結果として,裁判所は①,②の主張についてはいずれも認めず,不法就労助長罪の故意(外国人に在留資格がないことを分かっていた)があったと認定しました。

 

コメント

「在留資格の記載や就労の可否について見落としていた」というのは,実務上でもありえそうな話ですが,これに対して裁判所はとても厳しい姿勢を示したと言えます。

「そもそも在留資格や就労の可否を確認するために在留カードを確認する義務があるのだから,それを見落としたというのは義務の違反である」というロジックが窺えます。

たしかに,在留カードの提示,確認義務がある理由についてはもっともなのですが,その義務の違反から更に刑事罰まで負うことになるというのは,やや重いような気もします。

とにかく,裁判所は「見落としたなんて主張は認めない」という姿勢であることが分かりますから,在留カードの記載は「絶対に見落とさない」ような体制を作らなければなりません。

採用や人事に関わる方は,外国人の在留カードについては,二人以上で確認する,コピーを取る,複数人の外国人を採用している場合には在留資格と在留期限,就労の可否などについて別途データベース化して管理する等,複数のチェックの目を通すように心がける必要があります。

 

なお,不法就労助長罪については「故意」がなくとも「過失(注意義務違反≒うっかり)」があれば犯罪が成立するとされており,本件の被告人も「過失(記載を見落としていた)」があったことは認めています。

過失はあったけれども故意がなかった,といっても,不法就労助長罪の裁判では「無罪」とはなりませんので,このような主張をしなくてもよいのでは?とも考える見方もあります。

過失犯であっても故意犯であっても「有罪」であることには変わりありませんが,「刑の重さ(量刑)」を決めるうえで,過失か故意かというのは重要な事情なのです。市民感覚から考えても,うっかりした犯罪と,あえてやった犯罪だと,後者の方が刑が重くなると思いませんか。

この裁判での主張の真意は分かりませんが,有罪になることは争っていなくても,一部事実を争う主張をすることがありうるのです。

ちなみに,本件の判決は「懲役1年6月執行猶予3年,これとあわせて罰金200万円」というものでした。

不法就労助長罪については当サイトのこちらでも詳しく解説しています。

⇒不法就労,不法就労助長罪とは何か

また,法務省も下記のようなパンフレットで,不法就労助長について注意を促しています。

⇒外国人を雇う事業主の皆様へ

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