【法改正】入管に収容されなくなる?在特が出にくくなる?

令和3年2月19日,政府は出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法案を閣議決定したとの報道がありました。

⇒時事ドットコムニュース 難民申請3回目から送還可能 入管法改正案を閣議決定―外国人長期収容問題に対応

報道などによると,今回の改正は,外国人の長期収容の問題を解決することを目的としているようですが,法律案などをみると,改正される部分は,それだけではないようです。

今回は,国会に提出された法律案を見つつ,独自の観点から「これは!」と思われる改正部分について解説したいと思います。

なお,国会に提出された法案は,こちらのページから誰でも見ることが出来ます。

⇒ 出入国在留管理庁 国会提出法案

主に,こちらのページにある「法律案要綱」を参照しつつ解説します。

※令和3年5月27日補記

令和3年の国会では入管法の改正案については廃案となるため,令和3年中の法改正はなし,になりました。

 

任意の出国の制度が変わる?

「二 上陸拒否事由に関する規定の整備」(1ページ目)という項があり,何らかの理由で日本から退去強制(強制送還)された外国人の方について,再度の入国できない期間について規定があります。

こちらには,「1 本邦から退去を強制された者で,十三の1の決定を受け~」と書かれていますが,こちらは,自費で日本から出国する許可を受けた人についての規定です。

現行法でも自費による出国の規定はありました。こちらのページでも解説しています。

 

自費出国とは

 

改正法では,自費出国した人については,再度の入国拒否の期間を「5年」から「1年」に短縮することが出来る,とするものです。

これまでの法律では,自費で出国しても「手続きが早い」というだけでしたが,改正後の法律だと「自費で出国すれば近いうちにまたすぐ日本に戻ることが出来るかもしれない」という期待を抱かせるものです。

似たように,再度の入国拒否の期間を短縮するものとしては,出国命令制度というものもありますが,これは「出国する意思を持って入管に出頭する」という条件がありましたが,今回の改正後の法律によれば,出頭時の条件はありません。

確かに,「強制送還を免れないことは分かっているけれども,改めて日本に戻ってきたい」という人にとってはこの規定は良いかもしれません。

しかし,結局この規定は,「日本からの出国を促す」というもので,「日本に残れるかもしれない」という期待のある方にとっては「悪魔のささやき」のように聞こえるかもしれません。『裁判まで頑張っていれば日本で在留が続けれら他かもしれないけれども,これ以上手続きをするのは大変だし,どうせ一年たてば戻ってこられるのだから今は大人しく帰国しよう』という方が増えて来るのではないかと危惧しています。

「入国を拒否する期間を短くする」のであって,「再度の入国や再度の在留資格の取得を認めやすくした/保証した」ものではないのです。あくまで強制送還の対象となった記録は残り続けることになりますし,一旦出国してしまうことには変わりがないのです。

新しくできる「監理措置」,「補完的保護対象」

新しくできる制度として「監理措置」と「補完的保護対象」というものが創設される予定です。

・「監理措置」とは,外国人を容疑者として収容する前に,300万円以下の額の保証金を納付させて,住居の制限や入管からの呼び出しには応じること等の条件を付けた上で,収容しないで退去強制(強制送還)の手続を進めることを認める,という制度です。

法律案要綱の「十 退去強制令書の発付前の収容に代わる監理措置に関する規定の整備」に記載があります。

現在の法律では,退去強制(強制送還)の手続きが始まってしまうと原則としては入管の施設に収容され,そこから出るためには仮放免が認められなければなりませんでした。

仮放免についての解説はこちら⇒ 入管に収容されたらどうすればいいか

これまでの仮放免では法律上は身元引受人などは必要とされていませんでしたが,監理措置の制度では,監理人という人若しくは機関が必要となり,監理人の管理の下で生活することになります。

また,仮放免の場合には就労が認められていませんでしたが,監理措置の期間中は,入管の担当者から許可を受ければ生計を維持するために必要な限りで,日本国内で働くことが出来ます。

・「補完的保護対象」とは,難民認定されないものの,難民に準じた立場の方の立場を法律で明確にしようとするものです。

実際の難民認定の基準に当てはめると「難民」とまでは言えないものの,祖国が紛争状態にあったり,帰国すると政治犯として弾圧の対象とされてしまうおそれがあったりする場合を想定しているものかと思われます。

「監理措置」,「補完的保護対象」の制度のいずれについても,退去強制の対象となる人の在留について規定を置くものになります。

特に,日本は諸外国と比べると難民の認定率が非常に低く,難民に対して厳しい態度であるという指摘があったため,「補完的保護対象」というものを新たに設けたとされています。

しかし,実際にこれを活用して積極的に難民に準じた地位の外国人の在留を認めようとしているわけでもなく,今後の運用や認定の手続を注視していく必要があります。

在留特別許可の要件,手続が申請制になる?

在留特別許可の条件について,日本で実刑判決を受けてしまった場合や,特に悪質とされる強制送還の場合には,日本での在留を認めないことが「人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」が追加されることになりました。

法律案要綱の「十二 在留特別許可に関する規定の整備」に記載があります。

これまでは,実刑判決を受けていた場合でも在留特別許可が認められるケースもありましたが(当HPでも☆こちらの裁判例☆をご紹介したことがあります),実刑判決を受けた場合にはこれまで以上に在留特別許可をうけるハードルが上がったことになります。

また,退去強制(強制送還)の対象となった場合には,在留特別許可の申請ができることになり,入管の職員も外国人に対してその手続を説明しなければならないとされました。

法律案要綱「十一 在留特別許可と退去強制手続との関係に関する規定の整備」に記載があります。

在留特別許可の申請制については,以前解説したものもあります。

 

⇒ 在留特別許可手続きが変わります

 

入管の施設内での生活について

これまでの入管法では,施設に収容した外国人の方の扱いに関する規定がなく,施設への収容の問題がたびたび指摘され,ハンスト等の抗議活動も起きていました。

 

⇒ アムネスティーインターナショナル 日本:入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人

 

そこで,入管施設内での処遇に関する規定が新たに設けられることになりました。

具体的には,金品や自弁(施設内で自分のお金で物を買うこと)についての規定,保健衛生についての規定,外部交通(面会)についての規定,施設内での処遇に関する不服申し立ての規定等があります。

 

法律の改正はどう見るべきか?

大きく分けると,以上の4つの観点が改正のポイントであると考えられます。

全体を通してみた時に,外国人に対して「優しくなった」とはいえないように感じられました。

任意での出国を促そうとする規定や,あくまで難民の認定をしたくないという意図の感じられる規定もあり,今後の入管実務においてどのように規定が使われることになるのかは,慎重に見ていく必要があるように思われます。

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