このページでは,日本で薬物事件を犯してしまったことにより強制送還となる場合について解説します。
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外国人の薬物事件は多いのか?
平成31年に日本国内で検挙された外国人の方の事件は,約2万3千件で,そのうち起訴されたのは約8800件でした。その内細かい統計を見てみると,薬物事件(大麻取締法違反,麻薬取締法違反,覚せい剤取締法違反)で検挙されたのは約1600件,起訴されたのは約1000件でした。
統計を確認すると,外国人の方の事件として薬物事件が特別多いというわけではないことが分かります。
しかし,文化などの違いや偏見,密輸事件については外国人被疑者であることも多いため,いまだに外国人と薬物とのかかわりが疑われることがあります。
出入国管理法も,薬物事件に対しては厳しい態度で臨んでおり,薬物事件について有罪となり刑が確定すると強制送還の対象になってしまいます。
強制送還手続きがどう始まっていくのか
薬物事件について執行猶予付きの懲役刑の判決が出た場合を想定して手続きを考えます。
執行猶予付きの判決が出た場合,勾留中であっても判決の言い渡しが終わると釈放されます。保釈中の方も同様に,判決の言い渡しによって,勾留が終了し,原則として保釈保証金の還付が行われます。
執行猶予付きの判決で会っても有罪の判決ですから,判決言い渡しの日を含めて「15日以内に」控訴を申立てることができます。控訴を申立てないままで「15日」が経過すると,有罪の判決が確定することになります。
薬物事件について有罪の判決が確定して初めて,強制送還(退去強制)の対象となります。退去強制の対象となると,入国警備官による調査の対象となり,入管の施設へ収容される可能性が出てきます。
逆に言うと,判決が出たとしても,判決が確定するまでの間は,入管の施設に収容されないということになります。
刑が確定したからと言って,すぐに入管の職員が来て収容されてしまう,というわけでもありません。
多くの場合,出国の手続きの時や,在留期間の延長の手続きのために出入国管理局を訪れた際に,刑が確定していたことが判明するという流れになるようです。
薬物事件により有罪となり判決を受けたことが,調査の結果明らかになれば,退去強制令書が発布され,日本から強制的に退去させる手続きが進むことになります。
なお,有罪の判決を言い渡される時点で在留資格がなくなっていたり,在留期間を過ぎてしまっている場合には,不法残留(オーバーステイ)という扱いになります。その場合,判決言い渡しの際に入国警備員が裁判所に来て,そのまま入管に収容されてしまうことが多くあります。
強制送還の手続きの中で出来ること
薬物事件について有罪の判決を受け,強制送還(退去強制)の手続きが始まってしまったとしても,取るべき手段があります。
在留特別許可を求める
日本から在留し続けようと思った場合,在留特別許可を得る必要があります。
在留特別許可とは,強制送還(退去強制)の対象になっているとしても,それでも日本での在留を認める必要がある場合に限り認められるものです。
薬物事件で執行猶予付きの判決を受けた場合であっても,事件の内容や生活の状況,家族の状況によっては在留特別許可が得られる場合があります。
日本に残りたいと思うのであれば,諦めずに在留特別許可を求めることも必要です。
仮放免を求める
強制送還(退去強制)の手続き中に,入管の施設に収容されてしまった場合には,仮放免を申立てて,いったん釈放してもらう必要があります。
日本から退去するにしても準備が必要ですし,日本に残るために在留特別許可を求めるのであればその準備もしなければなりません。特に,薬物事件の場合,事情によっては,他の事件と比べて在留特別許可が得られる見込みがある,ということもあります。弁護士などの専門家とよく相談して手続きを進めるためにも,仮放免を獲得することがまずは重要です。
まとめ
先に述べた通り,入管法は薬物事件に対しては厳しい態度をとっており,他の犯罪よりも強制送還されやすくなっています。
一方で,薬物事件で有罪となっても在留特別許可が得られる場合が広がっているという面もあります。
日本で薬物事件について有罪の判決を受けた方やそのご家族の方等,強制送還の手続きについて不安がある方は,一度弁護士と相談してみることをお勧めします。
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