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外国人が傷害事件で逮捕?刑事処分と強制送還リスク・弁護士ができる対応とは

2025-11-21

事例紹介:介護現場で起きた傷害事件

介護施設で働く外国人技能実習生Aさんは、日々利用者の介護業務に従事していました。ある日、ベッド上で介護中の利用者が突然暴れ出し、Aさんは驚いて利用者の顔を平手打ちしてしまいました。その結果、利用者は口の中を切る軽傷(全治1週間程度の出血を伴う怪我)を負い、同僚の目撃もあって数日後にAさんは傷害の容疑で逮捕されてしまいます。このようなケースでは、どのような刑事処分を受ける可能性があるのでしょうか? そして、技能実習生であるAさんは強制送還(退去強制)の対象となってしまうのでしょうか? 以下で詳しく解説していきます。

傷害罪で問われる可能性のある刑事処分

まずAさんが疑われている傷害罪(刑法204条)についてです。法律上、「傷害」とは人の生理機能に障害を与えることであり、出血を伴う怪我を負わせた場合などはこれに該当します。傷害罪が成立すると15年以下の懲役または50万円以下の罰金という重い刑罰が科され得ます。実際にどのような刑事処分となるかは様々な事情を考慮して判断されます。

傷害事件の量刑(処分の重さ)は、以下のようなポイントによって決まります。

  • 怪我の程度:被害者の負った怪我が重ければ重いほど、科される刑も重くなります。

  • 被害者との関係性:加害者が被害者を保護すべき立場(例えば介護職員と利用者)の場合、犯行は悪質と判断され厳しく見られます。

  • 前科の有無:前科・前歴があると不利な事情となり、刑が重くなる傾向があります。

  • 被害弁償:被害者への謝罪や示談による賠償が行われていれば、情状酌量され刑事処分が軽減される可能性があります。

今回のAさんの事例に照らすと、怪我の程度は比較的軽微であり、Aさん自身も前科はありません。しかし一方で、本来利用者を守るべき介護職員が利用者に怪我を負わせた点は重く受け止められます。

総合的に考えると、罰金刑では済まず執行猶予付きの懲役刑(拘禁刑)が言い渡される可能性が高いと言えるでしょう。つまり、裁判で有罪判決が下りるものの一定の期間刑務所に行くことは猶予される(執行猶予が付く)ケースが予想されます。

傷害事件の刑事弁護についてはこちらに詳しく解説しています

傷害罪と示談

有罪判決による強制送還のリスク



Aさんのような技能実習生が傷害罪で有罪判決を受けると、たとえ執行猶予付きでも母国への強制送還につながるリスクがあります。日本で築いた生活やキャリアが突然断たれてしまう可能性もあるのです。

次に、在留資格への影響(退去強制=強制送還のリスク)について説明します。日本の入国管理法では、一定の犯罪で有罪となり懲役刑・禁錮刑(執行猶予付きも含む)を言い渡された外国人は、その在留資格によっては退去強制(強制送還)の対象になります。特に技能実習生を含む「別表第一」に分類される就労系の在留資格で日本にいる外国人が傷害罪などの罪で有罪判決を受けた場合、執行猶予付きであっても退去強制事由に該当してしまうのです。これは入管法24条4号の2に定められた規定で、傷害罪がその対象犯罪に含まれているためです。

以上の法律の仕組みから、今回のAさんのケースでは執行猶予付きの懲役刑になれば在留資格の取消し・収容を経て強制送還となる可能性が高いです。せっかく日本で働いてきたAさんは、有罪判決が確定すると日本にとどまれなくなり、家族や職場とも離ればなれになってしまう恐れがあります。強制送還となれば、再入国も長期間禁止されることが一般的です。このように刑事処分だけでなく、その後の強制送還という重大な結果が待ち受けている点で、外国人にとって日本で事件を起こすことは日本人以上に大きなリスクを伴います。

刑事処分・強制送還を避けるために専門家に相談を

このように、技能実習生のAさんには懲役刑(執行猶予付き)による前科強制送還という二重の危機が迫っています。しかし、適切な対応を取ることで刑事処分を軽減し、退去強制処分を回避できる可能性があります。そのためには一刻も早く弁護士などの専門家に相談・依頼することが極めて重要です。

弁護人(弁護士)として考えられる対策・サポートには、主に次のようなものがあります。

  1. 被害者との示談交渉:早期に被害者と示談を成立させることで、不起訴処分(起訴されない)や罰金刑にとどめてもらえる可能性があります。不起訴や罰金刑であれば有罪判決による懲役刑を避けられるため、退去強制の事由に該当しなくなり、日本に残れる可能性が大いに高まります。特に起訴前に示談がまとまれば検察官が起訴猶予とするケースもあり得るため、時間との勝負です。専門家である弁護士は示談交渉の進め方や必要な謝罪・補償の方法について的確なアドバイスと交渉代行を行ってくれます。

  2. 退去強制処分への対抗策準備:万一有罪判決(執行猶予付き懲役刑)が避けられず退去強制事由に該当してしまった場合でも、すぐに諦める必要はありません。弁護士は入管当局の手続において在留特別許可が認められるよう、退去強制処分をすべきでない事情を収集・主張することができます。例えば、日本での雇用実績や社会貢献、本人の反省状況、被害者から許されていること、さらには日本に生活基盤や家族がある場合の情状などを丁寧に示すことで、例外的に在留が許可されるよう働きかけます。また、入国者収容所での仮放免手続や異議申立てなど、退去強制のプロセスにおける対応についても専門的なサポートを受けることができます。

これらの対応は専門的な知識と経験が不可欠であり、自分一人や周囲だけでは適切な判断・交渉を行うのは難しいでしょう。だからこそ、Aさんのような状況に置かれた場合には、できるだけ早く刑事事件・入管案件に強い弁護士に相談することを強くお勧めします。早期に専門家へ依頼することで、将来の日本での生活とキャリアを守れる可能性が大きく高まります。

雇用主や家族ができるサポートも重要

技能実習生など外国人の方が事件に巻き込まれた際には、本人だけでなく雇用主や家族の協力・サポートも非常に重要です。雇用主やご家族ができる具体的な支援として、次のようなものが挙げられます。

  • 早期の専門家相談を後押しする: 本人が逮捕・勾留されて動けない場合、雇用先の上司や家族が率先して弁護士を探し依頼することが大切です。雇用主にとっても貴重な技能実習生が強制送還されてしまえば人手を失うことになり、事業にも支障が出ます。家族にとっても大切な家族が国外退去となれば生活設計が狂ってしまいます。周囲の迅速な働きかけで、弁護活動のスタートを1日でも早めることができます。

  • 情状証人・嘆願書の協力: 雇用主は「引き続き雇用したい」「更生を手助けする」といった内容の嘆願書を作成したり、裁判で情状証人として出廷して被告人(本人)の人柄や今後の監督を約束する証言をしたりすることが考えられます。家族も同様に、本人が反省し更生できるよう支える意思を示す嘆願書を提出することで裁判官の心証に良い影響を与えられるでしょう。

このように、周囲の支援体制が整っていること自体も「日本で更生できる環境がある」ことのアピールとなり、在留特別許可を求める上でも有利に働く場合があります。雇用主や家族は単なる傍観者にならず、積極的に専門家と連携して支えていくことが重要です。

まとめ:迅速な専門家への相談で将来を守る

外国人技能実習生による傷害事件のケースについて、刑事処分と強制送還のリスク、および取るべき対応策を解説しました。Aさんの事例からも明らかなように、日本人であれば罰金や執行猶予で済むようなケースでも、在留外国人にとっては本国送還という重大な結果につながりかねません。しかし、適切かつ迅速な対応によって刑事処分を軽減し、退去強制を回避できる可能性があります。

鍵となるのは、事件発生後できるだけ早く専門家である弁護士に相談することです。弁護士の力を借りて示談交渉や入管対応を進めれば、前科をつけずに済んだり、日本に引き続き在留できる道が開けるかもしれません。本人はもちろん、雇用主やご家族も一丸となってサポートし、専門家と協力して事態の打開を図りましょう。早めの相談・依頼が、外国人であるあなたの日本での未来を守る大きな一歩となるのです。

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弊所の弁護士前田真一が取材を受けました

2025-07-25

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弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に所属している神戸支部長弁護士前田真一が取材を受け,令和7年7月24日付週刊文春に掲載されました。
本邦における外国人の在留資格と,資格外活動による在留資格の取消し,刑事罰のリスクについて弁護士の立場からコメントしています。
本邦における資格外活動についてお困りのことがある方や,外国人の雇い入れ・就労についてご不安なことがある方は,一度ご相談ください。

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日本人の配偶者が傷害事件を起こしてしまった場合

2025-02-18

Aさんは、20年前、B国から日本に来ました。
そして日本国内で、日本国籍保有者と結婚し、それ以降日本人の配偶者資格で在留していました。

ある日、Aさんは仕事上のトラブルから、同僚を殴り、けがをさせ、逮捕されてしまいました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により退去強制処分となるか

以上の点について解説していきたいと思います。

⑴傷害罪の刑事罰

Aさんは、暴行を加え、人に対してけがをさせてしまいました。
このような場合には刑法第204条の傷害罪が成立します。なお、暴行を加えたものの、被害者がけがをしなかったような場合が暴行罪となります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
ただ、「けが」といってもその程度は様々です。
暴行を加え、結果として人を死亡させてしまったような場合には傷害致死罪というより重い罪が成立しますが、死亡するに至らない場合は傷害罪となります。
そのため、意識が戻らず、植物人間のような状態であったとしても傷害の罪に問われます。
反対にかすり傷くらいの極めて軽微なけがであったとしても、けがはけがですので傷害罪となります。
そのため、傷害事件を起こしてどのような刑事罰を受けるかは、被害者に生じたけがの重さが大きな考慮要素となります。
おおよその目安ですが、被害者が骨折以上のけがをしたような場合には、正式な裁判となり、懲役刑となる可能性が出てきます。
診断書上1ヶ月以内のけがであれば、罰金刑で済むということも十分考えられます。
今回のAさんの場合は、全治3週間のけがということですので、Aさんが初犯であれば罰金刑となるものと思われます。

⑵退去強制となるのか

Aさんの在留資格は「日本人の配偶者等」となります。
「日本人の配偶者等」は、入管法で「別表第二」に定められた在留資格となっています。
定そのため、入管法24条4号の2の適用はありませんから、執行猶予により退去強制となるわけではありません。
しかし、別表第2に記載された資格であっても、入管法24条4号リの適用はありますから、無期又は1年以上の懲役(実刑判決)に処せられた場合には退去強制となります。
今回の場合には、余程重いけがをさせない限り、刑事事件の判決を理由として退去強制となる可能性は高くないと言えます。

⑶在留資格の更新

ただ、在留資格の更新時には、素行が善良であるかどうかを問われます。傷害の前科がある場合には、在留資格の更新が認められず、帰国することになる可能性があります。
在留資格の更新ができないまま日本に滞留し続けるとオーバーステイとなってしまい,強制送還の対象になります。

⑷弁護活動

さて、先述の通り、傷害罪で刑事罰を受けてしまうと、退去強制とならなくても、在留資格の更新ができず、日本国内に留まれない可能性があることを指摘しました。
このような場合、何とか日本国内に留まりたいというようなときは、被害者との示談が重要です。
検察庁は、全ての刑事事件について起訴をし、刑事処分を求めるのではなく、被害者の意向等の事情を踏まえ、一定の事件を起訴猶予(不起訴)としています。
最終的な処分を決定する際、被害者の方がどの程度処罰意向を持っておられるか、被害回復がなされたかどうかは大きな考慮要素となります。
出来る限り刑事処分を軽減するためにも、被害者の方との示談交渉は不可欠です。

ご不安なことがある方や刑事事件でお困りのことがある方,ビザや在留資格について心配な方は早期にご相談ください

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定住者が傷害事件を起こしてしまったら?!ビザはどうなる?

2024-08-07

Aさんは、20年前、B国から日本に来ました。
Aさんの祖父が日本国籍を持っていたため、Aさんは日本で仕事をしようと考えました。
Aさんは、日系三世に当たるため、「定住者」の在留資格で入国し、仕事をしていました。

ある日、Aさんは仕事上のトラブルから、同僚を殴り、けがをさせ、逮捕されてしまいました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により退去強制処分となるか

以上の点について解説していきたいと思います。

⑴傷害罪の刑事罰

Aさんは、暴行を加え、人に対してけがをさせてしまいました。
このような場合には刑法第204条の傷害罪が成立します。なお、暴行を加えたものの、被害者がけがをしなかったような場合が暴行罪となります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
ただ、「けが」といってもその程度は様々です。
暴行を加え、結果として人を死亡させてしまったような場合には傷害致死罪というより重い罪が成立しますが、死亡するに至らない場合は傷害罪となります。
そのため、意識が戻らず、植物人間のような状態であったとしても傷害の罪に問われます。
反対にかすり傷くらいの極めて軽微なけがであったとしても、怪我は怪我ですので、傷害罪となります。
そのため、傷害事件を起こしてどのような刑事罰を受けるかは、被害者に生じたけがの重さが大きな考慮要素となります。
おおよその目安ですが、被害者が骨折以上のけがをしたような場合には、正式な裁判となり、懲役刑となる可能性が出てきます。
診断書上1ヶ月以内のけがであれば、罰金刑で済むということも十分考えられます。
今回のAさんの場合は、全治3週間のけがということですので、Aさんが初犯であれば罰金刑となるものと思われます。

⑵退去強制となるのか

日系三世のAさんは、定住者の在留資格を持っています。
定住者は、入管法で「別表第二」に定められた在留資格となっています。
定住者の資格は、入管法の別表第2に記載されている資格です。そのため、入管法24条4号の2の適用はありませんから、執行猶予により退去強制となるわけではありません。
しかし、別表第2に記載された資格であっても、入管法24条4号リの適用はありますから、無期又は1年以上の懲役(実刑判決)に処せられた場合には退去強制となります。
今回の場合には、余程重いけがをさせない限り、退去強制となる可能性は高くないと言えます。

⑶在留資格の更新

ただ、在留資格の更新時には、素行が善良であるかどうかを問われます。傷害の前科がある場合には、在留資格の更新が認められず、帰国することになる可能性があります。

⑷弁護活動

さて、先述の通り、傷害罪で刑事罰を受けてしまうと、退去強制とならなくても、在留資格の更新ができず、日本国内に留まれない可能性があることを指摘しました。
このような場合、何とか日本国内に留まりたいというようなときは、被害者との示談が重要です。
検察庁は、全ての刑事事件について起訴をし、刑事処分を求めるのではなく、被害者の意向等の事情を踏まえ、一定の事件を起訴猶予(不起訴)としています。
最終的な処分を決定する際、被害者の方がどの程度処罰意向を持っておられるか、被害回復がなされたかどうかは大きな考慮要素となります。
出来る限り刑事処分を軽減するためにも、被害者の方との示談交渉は不可欠です。

傷害罪で逮捕された,取調べを受けているという外国人の方は,早急に弁護士までご相談ください。
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「外交」在留資格の全て:活動範囲から注意点まで

2023-10-22

在留資格「外交」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が紹介します。

「外交」の在留資格とは

この「外交」の在留資格で本邦において行うことができる活動としては、日本国政府が接受する外国政府の外交使節団若しくは領事機関の構成員,条約若しくは国際慣行により外交使節と同様の特権及び免除を受ける者又はこれらの者と同一の世帯に属する家族の構成員としての活動などです。

上記の「接受」とは受け入れるという意味ですが、外交使節団の長の場合は事前の同意が与えらます。

外交使節団の長とは大使、公使及び代理公使を意味し、外交使節団の構成員とは外交使節団の長及び外交使節団の職員を意味します。

上記の「外交使節団の構成員」とは、外交使節団の長及び外交官の身分を有する者、外交職員、その他事務及び技術職員並びに役務職員を意味します。

また、「領事機関の構成員」とは、領事機関の長及び職員、領事官、その他事務及び技術職員並びに役務職員を意味します。

この「外交」の在留資格の該当例は、外国政府の大使,公使,総領事,代表団構成員等及びその家族などです。

「外交」の在留期間は、外交活動の期間です。

「外交」ビザのポイント

「外交」の在留資格のポイントを以下にてご紹介します。

①「外交」の在留資格を保有する外国人は、その外国人の家族も「外交」の在留資格を保有することになります。

そのため、外国人の家族が仕事をしたいという場合は、別途、「資格外活動許可」の申請をする必要があります。

この資格外活動許可の申請をしないで就労してしまうと、「外交」の在留資格が取り消される可能性もありますのでご注意ください。

②外交としての活動が終了した後に、引き続き日本に在住したいという場合、他の在留資格へ変更しなければ、そのまま滞在することはできませんのでご注意ください。

③仮に、「外交」の在留資格を保有する外国人が扶養者である場合、当該扶養者が日本国外に転勤となり、家族は引き続き日本に在住したいという場合、「外交」の在留資格のままでは日本での滞在は認められません。

この場合、扶養者と帯同するか、日本で他の在留資格への変更申請が必要となります。

④「外交」の在留資格の対象となる子どもについては、実子ではなくても長期間共に生活していた内縁の子や甥や姪であっても認められることがあります。

ただし、子どもの年齢は22歳以下が対象となり、それ以上の年齢の子は原則として許可されませんのでご注意ください。

⑤この「外交」の在留資格は他の在留資格のように申請者が入国管理局で手続きを行うのではなく、法務省を通じて入国管理局へ申請することになりますのでご注意ください。

「外交」の在留資格のことでお困りの方はお気軽にお問い合わせください。

「日本人の配偶者」の在留資格はどんな場合に認められる?結婚すれば必ずもらえるのか?

2023-07-25

「日本人の配偶者等」の在留資格について、あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

いわゆる「配偶者ビザ」は,日本に住んでいる外国人の方にとって,最も手堅く安全な在留資格と言えます。

ビザによる就労の制限はなく,在留期間についても更新が容易であり,何よりも永住者の在留資格を取得しやすいという点が魅力的です。

在留資格「日本人の配偶者」としてどのような要件が必要かについて、まず第一に「日本人の配偶者としての身分を有する者」であることが必要です。     
「日本人の配偶者」における「配偶者」とは、現に婚姻中の者をいい、相手方の配偶者が死亡した者又は離婚した者は含まれないとされています(審査要領)。
では、ここでの「婚姻」は、法律上の結婚で足りるのか?あるいは他に何らかの要件が必要なのでしょうか?
この「日本人の配偶者等」における「婚姻」の判断について、最高裁まで争われた事件がありました。
争いとなった事件の概要は、およそ以下のようなものでした。

出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)別表第一の三の表所定の「短期滞在」の在留資格で本邦(日本)に在留していたタイ王国の国籍を有する被上告人が、上告人(国・出入国在留管理局)に対し、法別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格への変更申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、上告人がこれを不許可とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため、被上告人が本件処分の取消しを求めたもので、日本人と婚姻関係にある外国人(タイ王国の国籍者)が、日本上陸後約1年3か月の同居生活の後、約4年8か月間別居生活を続け、その間、婚姻関係修復に向けた実質的、実効的な交渉等はなく、独立して生計を営んでいたなどの事情の下において、当該外国人の日本における活動は、日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当するといえるか、「日本人の配偶者等」の在留資格該当性が争点となりました。

最高裁(平成14年10月17日)は、「日本人の配偶者等」の「配偶者」としての在留資格該当性について、およそ以下のような判断を下しました。

1.「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦に在留するためには、単にその日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係があるだけでは足りない。
2.日本人配偶者との間に、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真しな意思をもって共同生活を営むことを本質とする婚姻という
  特別な身分関係を有する者として日本活動しようとすることに基づくものと解される。
3.婚姻関係が法律上存続している場合であっても、夫婦の一方又は双方が既に婚姻継続の意思を確定的に喪失しているとともに、夫婦としての共同生活
  の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至ったときは、当該婚姻はもはや社会生活上の実質的基礎を失っている者というべきである。

本判決は、「配偶者としての活動を行う者」とする者の在留資格が付与されるべき者について、日本人との婚姻が法律上有効なものであれば足りるものとする(平成6年5月26日東京地方裁判所判決)の考えを否定して、在留資格「日本人の配偶者等」での「婚姻」といえるためには「単なる法律上の婚姻だけでは足りない。」とする国側(出入国在留管理局)の主張を採用しました。
今となっては当たり前のように見える判断ですが、下級審で判決のあった平成8年当時は、決して当たり前の判断基準ではなかったということです。
この最高裁判決が、在留資格「日本人の配偶者等」の在留資格該当性における現在の判断基準となっています。
参考:最高裁判所判例,出入国在留管理局審査要領

偽装結婚,解消するための法的手段2つ!

2021-10-06

偽装結婚をしてしまったら,どうやって解消したらよいのでしょうか。

また,家族や婚約者が過去に偽装結婚していることが分かった時,どう対応していったらよいのでしょうか。

多くの方は,「離婚をしたらいいのでは」と思うかもしれませんが,実はそうでもないのです。

偽装結婚状態の解消方法について,解説します。 (さらに…)

結婚相手に強制送還歴があるとどうなる?

2021-07-27

日本人と外国人との国際結婚は年々増加しています。

日本人と外国人の国際結婚の手続きについてはこちらでも解説しています。

ただ,結婚しようと思っている外国人の方が,過去に日本から強制送還(退去強制)されたことがある人だった,ということも珍しくはありません。

このページでは,過去に日本から強制送還されたことのある人と結婚して,日本で結婚生活を営むことが出来るのかどうかについて解説します。

この問題を考える時に,大きなポイントになるのは,「現に結婚相手が日本にいるのかどうか」です。

(さらに…)

外国人のベビーシッター・お手伝いさんを雇う時の注意点

2021-06-16

日本では1990年以降,共働き世帯が増加していき,専業主婦世帯の数を大きく上回っています。

家事代行サービスの広がりもあり,単発,短時間であっても,家事代行のお手伝いさんやベビーシッターを利用したことがある,という方も多いのではないでしょうか。

中には,幼少期からの外国語教育のために,外国人のベビーシッターや家事代行サービスを利用する人もいるかもしれません。

外国人の在留資格の審査などをきちんと行っている企業を通じて,家事代行サービスを利用している分には不安は少ないのですが,個人的に外国人の方をお手伝いさんとして雇う場合には,気を付けなければならないポイントがあります。

(さらに…)

東京五輪・パラ,外国人観客の受け入れを断念?

2021-03-24

2021年3月21日,東京オリンピックの大会委員会や東京都は,来年開催予定の東京オリンピックの観戦について,外国人の受け入れをしない方向であると報じられました。

NHKの報道 東京五輪・パラ 海外観客を断念 コロナ禍で自由な入国保証困難

オリンピックの観戦のためのビザについては当サイトでも一度ご紹介していましたが,その件の続報となります。

過去の当サイトでの解説記事

3021年3月21日の報道によって,どのような事態が考えられるのでしょうか。弁護士の視点から今後起きうる対応を予想してみます。

オリンピック観戦のための入国のみ禁止?

報道を見て一番シンプルに思える対応は,「オリンピック観戦のための入国を禁止する」という方法です。

ですが,結論から言って,入国の段階で「オリンピック観戦の入国のみを禁止する」というのは非常に困難であると思われます。そもそも,オリンピックの観戦のための専用のビザというものはなく,多くの人は「短期滞在」というビザ(在留資格)で日本に入国し,各々が好きな競技を観戦することになります。

この短期滞在のビザ(在留資格)は,最大90日の滞在しか認められませんが,滞在期間中の目的には拘束されません。つまり,「なんとなく日本に来たかったので,来ました」という方でも短期滞在の在留資格は認められ得るのです。

そのため,空港や港の上陸審査で短期滞在の外国人の方に対して「オリンピックの観戦ですか?」と訊ねた上で「はい」と答えた人の入国のみを拒絶するというのではあまり意味がありません。「はい」と答えた人の入国だけ禁止する法律上の根拠が乏しいことと,仮に「いいえ違います」と言われた場合にそれ以上の審査のしようがないからです。「オリンピックの観戦ですか」と聞かれても,「いいえ,東京の観光に来ました」と言われれば,その他に上陸を拒否する事情がない限り,在留資格を認めなければならないのです。

短期滞在の在留資格についてはこちらにも解説があります。

「短期滞在」の在留資格について

一律の入国禁止?

次に,オリンピック開催期間中,日本の出入国を制限するという方法もあります。

法律に従って,一定期間中の出入国を禁止することは可能ですから,先ほどの方法に比べると,実施のハードルは低いようにも思われます。

しかし,実行性という意味では少し疑問が残ります。

まず,いつからいつまでの出入国を禁止するのかという点です。短期滞在は最大90日まで認められますから,仮に4月末に長めの短期滞在ビザで入国が出来れば,外国人の方であっても,オリンピックの開会式ぐらいは観戦できることになります。

また,短期滞在の外国人の方のうちには,オリンピック観戦のみならず,全く関係のない日本の旅行に訪れる人もいます。一律に入国を制限した場合には,旅行業や宿泊業への打撃は避けられないでしょう。

更に,出入国の制限に,本当に意味があるのかどうかについても疑問は残ります。短期滞在ではなく,就労ビザや家族ビザの方の入国までは禁止しないとなると,オリンピックの観戦も兼ねた入国は制限できないことになります。

オリンピック観戦のための外国人の流入を止めるのであれば,時期を見誤らず早期に一律の入国制限をかける必要があるのではないかと思われます。

実際にはどうするのか?

現時点において,大会組織員会は,海外在住者の方が購入した観戦チケットに対して払い戻しをするという方針の様です。そのため,「外国人の日本への流入を止めよう」というよりは,「オリンピック会場に海外在住者が来るのを止めよう」という対策をとっているようです。

このような対応であるため,出入国管理庁としては,オリンピック期間であるからと言って日本への新規入国,上陸を制限しようとしているわけではないように思われます。

もちろん,その時々の国際状況に応じた入国制限,渡航制限などは十分にありうるでしょうから,今年の7月前後に日本からの出国,日本への入国を考えている方は,常に最新の情報に気を配っている方が良いでしょう。

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