
Aさん(40歳、フランス国籍)は日本人の妻と結婚し、2018年から日本で暮らしています。ある日、SNS上の書き込みをめぐって知人から名誉毀損の告訴を受け、警察の捜査対象となりました。初めての刑事事件に戸惑うAさんは、「このまま日本にいられるのか」「退去強制になるのでは」と不安に感じています。
そこで本記事では、名誉毀損事件が在留に与える影響や対応方法について解説します。
1. 外国人が刑事事件を起こした場合に必ず問題になる2つの手続(刑事手続と入管手続の関係)
刑事手続と入管手続の2つが並行して問題になります。
刑事手続とは警察の捜査や裁判など犯罪に対する手続きで、入管手続とは在留資格(ビザ)に関する手続きです。これらは別個に進行し、互いに影響します。
刑事手続では逮捕・起訴・裁判を経て刑事処分が決まります。
一方、入管手続では刑事処分の結果に応じて退去強制(強制送還)が検討されます。退去強制とは、日本が法令や社会秩序の観点から在留を認めないと判断した外国人を、行政手続によって日本国外へ強制的に送還することです。
日本で正式な在留資格を持つ外国人は、逮捕・勾留された段階では在留資格自体を直ちに失うことはありません。しかし、有罪になり一定の条件に該当すると入管手続が動き、在留資格を失い強制送還される可能性があります。
つまり「刑事罰を受けるか」と「日本に住み続けられるか」は別の問題であり、両面に注意が必要です。
2. 強制送還(退去強制)とは何か(定義、処分別のリスク、在留特別許可)
退去強制(強制送還)とは、入管法に定められた手続きで、一定の条件下で外国人を強制的に本国へ送り返す処分のことです。
名誉毀損の場合、刑の重さ次第で退去強制手続の対象になるかが決まります。
処分別のリスク
一般に、刑事処分が重いほど退去強制のリスクが高まります。たとえば長期の拘禁刑などは退去強制事由に該当しやすく、入管当局が送還手続きを開始する可能性が高いです。一方、刑が軽微であれば直ちに強制送還とはならないケースもあります。
名誉毀損は比較的軽い犯罪類型であり、科される刑も軽い傾向があります。そのため軽微な刑罰(罰金刑や短い執行猶予付き判決など)の場合は、必ずしも強制送還の対象になるとは限りません。
逆に重い刑罰になった場合(例えば実刑で長期の拘禁刑など)は、退去強制手続開始のリスクが高まります。特に1年を超える拘禁刑が科された場合は、入管法上退去強制事由に該当しうるため注意が必要です。
在留特別許可
退去強制の条件に該当しても、一定の場合には在留特別許可が認められることがあります。在留特別許可とは、本来は退去すべき立場の外国人について、法務大臣の裁量で日本への在留を特別に許可する制度です。
例えば日本人の配偶者であったり日本に生活の本拠があったりする場合、人道的配慮から在留が許可されるケースがあります。
日本人の配偶者等のビザを持つ人は身分関係に基づく在留資格であるため、家族関係や生活実態が考慮され、在留特別許可が与えられる可能性が高まります。
もっとも、在留特別許可がもらえるかどうかは個別事情の総合判断ですので、「日本人と結婚しているから大丈夫」と安心せず、適切な対応が必要です。
3. 刑事処分別に見る在留資格への影響(不起訴、略式罰金、執行猶予、実刑)
不起訴(起訴猶予・嫌疑不十分など)
検察が起訴しなかった場合は、刑事上の前科がつかないため在留資格への直接の影響は基本的にありません。名誉毀損は被害者の告訴が必要な親告罪なので、被害者が告訴を取り下げれば不起訴となります。不起訴になれば退去強制事由には該当せず、現在の在留資格のまま日本に滞在できます。
略式罰金(罰金刑)
略式手続により罰金刑となった場合(例えば名誉毀損で罰金○○万円)は、有罪判決ではありますが比較的軽い処分です。
入管法24条の列挙する重大事由には該当せず、原則として直ちに退去強制とはなりません。在留資格はその時点では維持され、次回の在留期間更新まで継続します。ただし、更新審査の際に前科が考慮され、「素行に問題がある」と判断されると更新が不許可となる可能性があります。
罰金刑1回程度であれば直ちに在留資格取消とはなりにくいものの、今後の生活態度には十分注意が必要です。
執行猶予付き判決
名誉毀損事件が裁判にかかり、拘禁刑の判決が下っても執行猶予(一定期間刑の執行を猶予する措置)が付けば、刑務所に入らずに済みます。この場合も刑法上は有罪ですが、刑期の全部が猶予されているため、刑の重さとしては比較的軽微な扱いです。
執行猶予付き判決(刑期が1年以下の場合)であれば基本的に直ちに退去強制とはなりません。ただし有罪判決である以上、在留期間更新時には厳格に審査され、特に刑期が長め(例:拘禁刑2年執行猶予4年など)の執行猶予判決だと「素行不良」と見なされ更新許可が下りにくくなります。執行猶予中に再犯せず更生することが何より重要です。
実刑判決(拘禁刑など執行猶予なし)
執行猶予が付かず実刑となった場合は、刑務所に服役しなければなりません。刑期が終わると日本人と同様に刑務所から出られますが、その時点で在留資格が残っていなければ不法滞在となるため、通常は出所後すぐに入管施設に移送され、退去強制の手続きが進みます。
特に1年を超える拘禁刑が確定した場合は入管法上の退去強制事由に該当しやすく、服役中から入管による退去手続が進行することがあります。
名誉毀損で実刑判決が科されるのは非常に稀ですが、もし実刑となれば在留継続は極めて厳しい状況になるでしょう。
4. 退去強制を回避・軽減するために重要なポイント(生活実態、反省、示談、再犯可能性など)
日本での生活実態
日本人配偶者との安定した生活実態を示すことが何より重要です。夫婦が同居し円満に生活していること、日本で生計を立て社会に根ざしていることを証明できれば、入管当局に「日本での生活基盤」を強くアピールできます。
特に日本で生まれ育った子どもがいる場合や、長年日本に居住して母国での生活基盤を失っている場合は、人道的配慮の材料となり得ます。
深い反省と更生の意欲
名誉毀損をはじめ刑事事件を起こした後は、自身の行為に対する深い反省を示すことが大切です。反省文を書いたり被害者に謝罪したりして、更生への意欲を伝えましょう。本人が真摯に悔い改めている姿勢は、裁判所にも入管当局にも好印象を与えます。再犯の可能性が低い(二度と同じ過ちを犯さない)ことを客観的に示せれば、在留継続の望みは高まります。
被害者との示談
名誉毀損は被害者の意思が起訴に影響する犯罪(親告罪)です。被害者と早期に示談が成立し、許してもらえれば告訴取り下げや処罰感情の解消につながります。示談によって不起訴になったり、起訴されても処分が軽くなったりすれば、結果的に退去強制のリスクも大きく下がります。示談書には被害者の許しを得たことや再発防止を約束する内容を盛り込み、捜査機関や裁判所に提出できるようにします。
家族・周囲のサポート
日本人の配偶者や家族からのサポートも重要なポイントです。配偶者が嘆願書を書いてくれたり、裁判に情状証人として出廷してくれたりすれば、家庭環境の安定や更生への後押しを示せます。地域コミュニティでの評判や職場からの信頼なども含め、周囲の支援が厚いほど「社会的に更生できる」と判断されやすくなり、在留特別許可が認められる可能性も高まります。
5. 刑事事件後に在留資格は再取得できるのか(上陸拒否期間、将来の可能性、在留特別許可との違い)
上陸拒否期間
仮に退去強制となり強制送還された場合、その後一定期間は日本に再入国できません。この再入国禁止期間を上陸拒否期間といいます。
通常は5年間が基本ですが、過去に退去強制を受けていたり、犯罪の内容によっては10年またはそれ以上再入国が認められないケースもあります(麻薬など重大犯罪の場合は上陸拒否期間が延びる傾向があります)。名誉毀損のような比較的軽微な犯罪であれば、多くの場合は標準的な5年程度の上陸拒否期間となるでしょう。
将来の再取得の可能性
上陸拒否期間が経過すれば、再度日本人配偶者等の在留資格を取得できる可能性があります。例えば5年後に改めて在留資格認定証明書を申請し、日本に入国し直す道もゼロではありません。ただし、一度退去強制歴があると入管当局の審査は非常に厳しくなります。過去の前科や退去歴は記録に残るため、「なぜ再び日本で暮らす必要があるのか」「再度問題を起こさない保証はあるのか」といった点を厳格にチェックされます。再取得は可能でも容易ではないことを念頭に置きましょう。
在留特別許可との違い
在留特別許可は退去強制を免れて引き続き日本に残れる特例措置です。一方、再取得は一度国外退去した後に改めてビザを取り直すことです。
在留特別許可を得られれば退去そのものを回避でき、日本での生活を中断せずに済みます。これに対し退去強制となれば一旦国外退去するため、日本で築いた生活基盤(仕事や住居、家族との生活)が途切れてしまいます。さらに再入国後も過去の経緯から入管の監視が厳しくなる可能性があります。
つまり、可能であれば在留特別許可を得て退去強制を避ける方が、その後の生活再建も容易と言えます。
6. 外国人事件に強い弁護士へ早期に相談すべき理由
刑事処分と在留資格の専門的アドバイス
名誉毀損で捜査を受けた段階で、できるだけ早く弁護士に相談することが肝心です。特に外国人事件に強い弁護士であれば、刑事手続と入管手続の両面から適切なアドバイスができます。早期に相談すれば、今後の見通し(起訴の可能性や処分内容、それに伴う在留資格への影響)について具体的な説明を受けられ、不安を和らげることができます。
不起訴や処分軽減のための弁護活動
弁護士は依頼者が不起訴になるよう働きかけたり、起訴された場合でも罰金刑や執行猶予になるような弁護活動を行います。
名誉毀損事件では被害者との示談成立が極めて重要であり、弁護士が間に入ることでスムーズに交渉できるでしょう。刑事処分が軽く済めば退去強制のリスクも格段に減ります。「逮捕されたらすぐ弁護士」が鉄則です。
早期の適切な弁護によって在留資格を失わずに済んだ例も多くあります。
入管対応への知見
外国人事件に精通した弁護士は、入管への対応にも慣れています。必要に応じて弁護士が入管と連絡を取り、在留期間の更新手続きを代理申請(申請取次)したり、仮放免や在留特別許可の申請準備を進めたりできます。
たとえば捜査中に在留期限が来そうな場合、弁護士が代理で迅速に更新申請することでオーバーステイ(不法残留)を防ぎ、退去強制事由に該当しないようにすることも可能です。このように刑事弁護と入管実務の両面に対応できる弁護士に依頼することが、安全に日本にとどまる近道となります。
言語・文化面でのサポート
日本の刑事手続や法律用語は外国人本人やその家族には難解です。外国人事件に慣れた弁護士であれば、平易な言葉で手続きの流れを説明し、必要に応じて通訳や多言語のサポートも手配できます。文化の違いによる誤解が生じないよう配慮しながら、依頼者の主張や事情を日本の捜査機関・裁判所に適切に伝えてくれます。外国人だからこそ陥りやすい問題点を理解している弁護士に任せることで、安心感が得られるでしょう。
7. 事務所紹介(弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の特徴)
刑事事件専門の法律事務所
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、その名の通り刑事事件に特化した法律事務所です。刑事弁護を専門に扱っているため、どんな刑事事件でも豊富な知識と経験があります。とりわけ外国人の刑事事件に力を入れており、外国人特有の問題にも精通しています。
在留資格に関する知識と実績
当事務所では入管手続にも詳しい弁護士が在籍し、「刑事事件×在留資格」の問題にワンストップで対応できる体制を整えています。実際に、外国人の依頼者が在留資格を失わずに済むよう全力を尽くす方針で日々取り組んでいます。刑事事件後の在留特別許可の取得や、オーバーステイ防止のための手続き代理など、数多くのサポート実績があります。
全国対応と相談のしやすさ
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は全国に支部を持ち、どこからでも相談しやすい体制です。土日祝日も相談受付を行っており、緊急の連絡にも迅速に対応します。初回の法律相談は無料で受け付けているため、「名誉毀損で捜査中だがどうすればいいか」といった不安をお持ちの方も気軽に問い合わせできます。
外国人の依頼者への配慮
当事務所では外国籍の依頼者やそのご家族にも安心してご相談いただけるよう、丁寧でわかりやすい説明を心がけています。必要に応じて通訳を手配し、英語対応なども可能です(※対応言語については事前にお問い合わせください)。文化や慣習の違いによるギャップにも配慮しながら、依頼者の権利と在留生活を守るため尽力いたします。
日本人の配偶者等のビザを持つ外国人が名誉毀損で捜査・処分を受けても、適切に対処すれば日本での生活を続けられる可能性があります。刑事手続と入管手続の双方に目を配り、早期に専門の弁護士へ相談して対応策を講じることが肝心です。大切なご家族と日本での暮らしを守るために、慌てず正しく行動しましょう。

