定住者がひき逃げ事件を起こしたらどうなるのか

【事例】

Aさんは,日本で定住資格を持つ外国人です。日本での運転免許は取得しています。
ある日,住宅街で車を運転させていたところ,歩行者とすれ違い,ドアミラーを歩行者に当ててしまいました。
そのさいに,音もなく自動車も揺れた感じがしなかったので,そのまま自動車を走らせていたのですが,コンビニに立ち寄った際に,ドアミラーが折りたたまれていることに気付き,ひき逃げの事実を認識しました。

その後,被害者がナンバープレートを覚えていたことから,Aさんが犯人だと分かり,警察がAさんの下に来て事情聴取を行うことになりました。
なお,被害者が怪我しているのかは分かりません。また,Aさんに前科前歴はありません。

このような場合に,①どのような刑事処分を受けるのか,②入管法上の処分はどうなるのかについて解説していきます。

(1)ひき逃げの刑事罰

道路交通法72条1項によれば,交通事故(物損,人身事故どちらの場合でも)があった場合,被害者に対する救護義務と警察に対する報告義務が発生します。
特に,人が怪我をして,被害者に対する救護を行わなかったという場合には,道路交通法117条2項に基づき,5年以下の懲役又は,100万円以下の罰金が科されます。
ただし,被害者に怪我等が無いことを確認して,警察に対する報告義務を怠ったというだけだった場合,道路交通法119条1項17号に基づき,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科せられます。

なお,被害者が実はけがをしていたという場合,ひき逃げに加えて,自動車運転過失致傷罪などが成立することになります。
そのため,ひき逃げ事件の量刑としては,①どのような義務を怠ったのか,②どのようにぶつかったのか,③被害者は怪我をしているのか,④保険等は契約しているのかが重要になります。
①については,被害者に対する救護義務を怠ったといえる場合には,道路交通法上重く見られます。
②については,ひき逃げまでにぶつかる態様が明らかに事故を起こしているといえる場合,重く見られます。
③については,被害者が怪我をしていた場合,自動車運転過失致傷が成立する関係から,重く見られます。
④については,保険等の契約があり,被害者に対する示談や被害弁償が見込まれる場合,有利に判断されます。
量刑傾向としては,被害者に怪我がなく,単なる救護義務違反,報告義務違反であれば,罰金になる可能性が高いです。しかし,被害者が怪我をしており,ひき逃げをしたということになった場合,執行猶予付きの有罪判決となる可能性が高いです。

ただし,事故を起こしたと認識していなかったため,ひき逃げの故意が無いとして,無罪になる可能性もあります。
特に,低速でぶつかり,人に当たったのか当たっていないのかその場では分からないような事件については,故意が無いとして不起訴や無罪になる例もあります。

参考記事 ひき逃げ事件を起こした場合の刑事弁護

ひき逃げ・当て逃げ

 

(2)入管法上の処分

退去強制になるかについては,入管法24条リにおいて,一年以上の実刑判決となった場合に,退去強制処分となることが規定されています。
そのため,前科のない人が,ひき逃げ事件を起こしたときに,交通死亡事故でも起こさない限りは,実刑判決となることは考えられません。
また,定住者の場合,在留資格更新の際に,「素行不良者でないか」という点が考慮されるため,ひき逃げ事件を起こしたという前科やどのような刑罰を受けたのかという前科が考慮されます。そのため,場合によっては,在留期限更新を拒絶される可能性があります。

(3)弁護人として出来ること

このような刑罰や,入管法上の処分が予定されるため,弁護人としては,①事故を起こした事実に気付かなかったため,故意が無いと主張すること,②このようなひき逃げの前科前歴があっても,在留期限の更新は認められるべきであると主張することが考えられます。

①については,ぶつかるまでの運転の態様,ぶつかった際に揺れたとか,音が出たかという事実について主張することによって,事故に気付かなかったこと,気付きようも無かったことを主張し不起訴,無罪をねらうことができます。
②については,在留期間更新の際に,ひき逃げの事実があっても,在留資格の更新が認められるべきであると主張することが考えられます。

このように,ひき逃げの事件であったとしても,有利な事情を主張することによって,より有利な刑罰を目指したり,入管法上も有利な判断がされる可能性がありますので,迅速に弁護士に依頼されることをお勧めします。

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