通訳人が日本で不法就労助長行為をしてしまった場合

日本で通訳の仕事をしているAさん(在留資格は 技術・人文知識・国際業務)は、自身の通訳業務が増えてきたことから、外国人留学生をアルバイトとして雇うことを計画した。
留学生のビザで日本に入国している場合、そもそも就労は資格外の活動となり、資格外活動許可を受けなければ行うことができないものとされている。
また、仮に許可を受けたとしても、許可された時間の範囲内で行う必要もある。
このように、留学生は自由にアルバイトをすることはできないのだが、Aさんはこのようなルールがあることを知りつつ、特に手続きをしたり、学生に尋ねることなく留学生をアルバイトとして雇っていた。

以上を前提として
①Aさんの行為にはどのような問題があるか
②Aさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

参考報道:茨城県内 おととし不法就労と認定された外国人 全国最多

不法就労助長に対する罪

入管法24条の3号の4ロで「外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置くこと」が退去強制事由とされているほか、同様73条の2第2号で「外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者」は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科と定められています。
一般的に「不法就労助長」と呼ばれている類型です。「不法就労活動」の定義は、24条3号の4イにあり、資格外活動許可を得ないで行う就労活動などがこれに該当しています。今回のようなアルバイトは、当然就労活動に当たりますので、資格外活動許可を得なければ留学生は行うことはできません。

次に資格外活動を「させた」と言いうるのは、外国人との間で対人関係上優位な立場にある者が、その立場を利用して、その外国人に対して不法就労活動を行うべく指示等の働きかけを行い、その外国人が不法就労活動に従事していることを意味します。

雇用主であるAさんは、留学生よりも優位な立場にあると言えますし、仕事の指示も行っていることが通常ですから、この部分も認められます。
最後に「自己の支配下に置く」ですが、外国人に対して心理的ないし経済的に影響を及ぼし、その意思を左右しうる状態に置くこと等を指しています。雇用主であるAさんの場合、留学生の経済状態を左右していますから、このような要件も認められる可能性が高いです。
そのため、資格外活動となることを知りながら、外国人をアルバイトとして雇っていた場合、不法就労助長と指摘される可能性はそれなりに高いと言えます。

不法就労,不法就労助長罪とはなにか

退去強制となるか

それでは、Aさんの行為により退去強制となるかについて検討します。
不法就労助長については、上記の通り退去強制事由となっています。
そして、不法就労助長自体は刑事罰もあるものであり、実際刑事事件として摘発されている例があるものの、条文上有罪となることが要件となっていません。

つまり、24条の3号の4ロは「次のイからハまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者」が退去強制になると定めているのであって、たとえば4号のチのように「麻薬及び向精神薬取締法・・・・の規程に違反して有罪の判決を受けた者」のような、刑事裁判での有罪判決は必要ありません。
そのため、警察が介入しなかったとしても、入管当局が不法就労助長を認定したような場合には、それだけで退去強制事由が認められるということになります。ただ、実際には刑事事件の対象となるような行為であるため、入管だけではなく警察による捜査も行われるケースが多いと思われます。

Aさんには退去強制事由が認められることとなりますが、その場合在留特別許可を得ることは可能でしょうか。
たとえば、出入国在留管理庁が公表している事例によれば、令和4年分の⑴許可事例5番などは、不法就労助長で罰金20万円となっていますが、在留特別許可を得ています。
令和3年⑴許可事例5番なども同様です。

これに対し、令和4年分の⑴不許可事例2番や⑷不許可事例2番などは、同じ不法就労助長でも、懲役の刑の宣告を受けており、こちらは在留特別許可を得られていません。
その他の事情が明らかではないので必ずしも明確なことは判断し難いですが、罰金刑であれば在留特別許可を得られる可能性がある一方、懲役刑が選択されると、仮に執行猶予付き判決であったとしても許可されないように思われます。

弁護活動

以上のような事由からすると、不法就労助長が成立する場合、仮に事実関係が間違いなかったとしても、略式罰金を目指していかなければ、在留できなくなる可能性が高いと言えます。
そのためには、刑事事件の弁護活動の段階から、不法就労助長の認識や、その期間、収入額など、できる限り有利な情状を検察官に伝え、略式起訴するよう交渉することが必要です。
また、不法就労助長について、故意がない場合、たとえば資格を有していたと考えていた場合や在留カード等を確認していた場合等には、犯罪の成立を争うことも必要です。
このときは、早期に黙秘権を行使し、不利な供述調書を作成されないようにするなどの対策が必要です。
いずれにせよ、不法就労助長を犯している疑いがある場合には、直ぐに弁護士に相談していただき、今後の在留のためにとれる策を検討することが必要です。

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