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交通事故を起こした後の在留期間の延長は認められるのか,「技術・人文知識・国際業務」ビザについて解説
(事例はフィクションです)
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周囲の景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により事故の対応が行われました。
このとき
- Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
- 刑事罰は、Aさんの在留期間の更新時に影響があるか、若しくは退去強制処分となるか
以上の点について解説していきたいと思います。
過失運転致傷の刑事罰
Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合には、より重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度②事故を起こした側の過失の程度③被害者の側の過失の程度④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。
①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。
Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格について
在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用、労働条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
まず、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、入管法上別表第1の2の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
この上陸許可基準は公表されていますが、概ね業務に関する事項や報酬についての定めが記載されています。
ですので、仮に過失運転致傷によって処罰されたからといって上陸許可基準に該当しないというものではありません。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。
別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず、入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。
この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。過失運転致傷罪で実刑の判決となるのは余程被害が大きい(被害者が亡くなる)とか、過失の程度が大きい場合だけですので、典型的な交通事故ではこれに該当しない可能性の方が高いと思われます。
次に、24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている過失運転致傷は、この列挙された犯罪に含まれていませんから、これには該当しません。
最後に、次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、過失運転致傷は明示的に挙げられていません。
そのため、過失運転致傷罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性が高い一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。
だからといってこの事故のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。
技術・人文知識・国際業務の在留申請について必要な書類はこちらのページにまとめられています。
交通事故に関しては「日本人の配偶者等」の在留資格の場合についても解説をしています。
示談交渉について
先述の通り、過失運転致傷罪で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、怪我の程度がそれほど大きいものでなければ、検察官が最終的な刑事処分を決定してしまうより前に被害者の方と示談を行い、被害者の方からお許しいただければ
起訴猶予処分となる可能性があります。
ただ、任意保険や自賠責保険では、ここまでの示談交渉は行ってくれない可能性が極めて高いです。保険会社が行うのはあくまでも損害の賠償のみであり、被害者の方から許してもらうような示談交渉までは話をしないことが通常です。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、交通事故の被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。もちろん交通事故の場合には相手方の連絡先などを警察官から知らされる場合が多いですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で交通事故を起こしてしまった場合には、期間の更新のためいち早く弁護士にご相談ください。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
飲酒運転をしてしまうと「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に影響が出るのか・延長申請ができない?強制送還になる?
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、友人宅で飲酒をした後、そのまま自家用車で帰宅したところ、帰宅途中の道路で警察官に呼び止められ、そのまま呼気アルコール濃度の検査を受けることになりました。
検査の結果、Aさんの呼気からは1リットル当たり0.2mgのアルコールが検知され、Aさんは酒気帯び運転で検挙されてしまいました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんの在留期間の更新時に影響があるか、若しくは退去強制処分となるか
以上の点について解説していきたいと思います。
酒気帯び運転の刑事罰
道路交通法第65条1項により、何人も酒気を帯びて車両等を運転してはならないこととされています。この「酒気を帯びた」かどうかの判断は、呼気アルコール濃度によって行われ、呼気1リットル当たり0.15mg以上のアルコールが含まれていた場合には、酒気帯び運転として刑事罰の対象とされます。
酒気帯び運転の罪の法定刑は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています(道路交通法117条の2の2第3号)。
酒気帯び運転の罪の場合、初めて刑事罰を受けるような場合であれば、略式起訴という簡単な手続きにより罰金刑となることが多いです。
ここから先は、Aさんが罰金30万円の刑となったことを前提として解説していきます。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格について
在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
今回Aさんは、道路交通法違反により刑事処分を受けています。
まず、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、入管法上別表第1の2の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
この上陸許可基準は公表されていますが、概ね業務に関する事項や報酬についての定めが記載されています。ですので、道路交通法違反の罰金前科があるからと言って上陸許可基準に該当しないというものではありません。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず、入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。Aさんは罰金刑を受けており、これは懲役や禁錮よりも軽い刑ですから、この条文には該当しません。
次に、24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている道路交通法違反は、この列挙された犯罪に含まれていませんし、罰金刑は執行猶予付き判決よりも軽いものですから、これには該当しません。
最後に、次に、Aさんの罰金が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで言えるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんの場合には、道路交通法違反による罰金刑を受けているだけですから、かっこ書きの中にある「道路交通法違反による罰金」に該当しますので、素行不良要件には該当しないと考えられます。
以上のような事情からすれば、Aさんの在留期間の更新は認められる可能性が高いと思われます。ただし,永住申請する際には別途検討が必要です。永住に関するガイドラインについては出入国管理局がHPじょうでも公開しており,こちらから確認ができます。
偽ブランドの販売で強制送還になる?!強制送還手続きについて解説
日本への滞在にはさまざまな在留資格が存在し、外国人にとって法律遵守は非常に重要です。
今回は、商標法違反により逮捕され、罰金刑を受けた外国人Aさんの事例を通じて、ビザに関する法的な側面を探求しましょう。
Aさんのケースを通じて、外国人が日本で法的トラブルに巻き込まれた場合、在留資格にどのような影響が及ぶのか、そしてどのように対処すべきかを考察します。
事例紹介
Aさんは、日本への技術・人文知識・国際業務のビザを持つ外国人です。Aさんは日本国内で偽ブランド品の売買という商標法に違反する行為を行い、その結果、逮捕されてしまいました。
商標法は、知的財産権に関する重要な法律であり、知識が不足していたためにAさんは法に触れる行為を行ってしまったのです。
逮捕後、Aさんは裁判にかけられ、罰金刑を受けることになりました。しかし、彼の心配事は罰金刑だけではありませんでした。Aさんは、この法的トラブルが彼の在留資格にどのような影響を及ぼすのか、そして今後のビザがどうなるのか,強制送還されてしまうのかについても不安でいっぱいでした。
退去強制とは
日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。
退去強制手続きは主に
- 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
- 入国警備員による調査
- 入国審査官による審査
- (場合によっては)法務大臣による裁決
という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。
退去強制の理由となる理由が発生した場合,そのことを入国管理局が知ることで調査が実施されます。調査の結果は全て,入国審査官へ引き継がれて「強制送還をすることが適法かどうか」の審査がなされます。審査の結果を踏まえて,強制送還が最終的に決定されることになります。
強制送還をする,という審査がなされた後,決定に不服がある場合には異議を申し出て口頭審理,法務大臣の裁決へと手続きが進みます。
口頭審理,法務大臣の裁決を踏まえて,最終的に強制送還をするか,在留特別許可をするか,それとも強制送還をしないか,といった決定が下されることになるのです。
刑事事件を起こしてしまった外国人の方が強制送還されるかどうかという点や,審査手続きの流れについて細かく解説します。
退去強制の理由になる事実
入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。
-
- 住居侵入罪
- 公文書/私文書偽造罪
- 傷害罪,暴行罪
- 窃盗罪,強盗罪
- 詐欺罪,恐喝罪
これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています。
在留資格の一覧についてはこちらです。
何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。
特に,薬物事件や入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。
Aさんの事例では裁判で罰金刑を受けただけということですから,直ちに強制送還の対象とはなりません。
ただし,Aさんが逮捕されている間に在留期限を過ぎてしまった場合にはオーバーステイとなります。また,次回の在留期間の更新で「罰金刑を受けたこと」が不利な事情となって更新が認められなくなってしまう可能性があります。在留期間の更新が認められないままで日本に残り続けた場合にも,同じようにオーバーステイとなってしまいます。オーバーステイは強制送還の理由として最たるものとなります。
入国警備官による調査
刑事事件を起こしてしまったことが強制送還の理由となってしまった場合,刑事手続きが終了した後,近くの各地方出入国在留管理局に呼び出された上で,入国警備官による調査を受けることになります。
この時の調査の内容は,「退去強制をするべき事実が発生したかどうか」ということに限られます。そのため,調査での一番の調査事項は,
- 一定の入管法によって処罰されたかどうか
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決が確定したかどうか
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けたかどうか
という点になります。そして,これらの事実のほとんどは,刑事裁判の結果を基に認定がなされます。
裁判で事実を争っていない場合にはそのまま「強制送還の理由あり」という認定になってしまうでしょう。
裁判で争っていた場合,または入管の手続きになってから初めて事実を争うという場合,改めて証拠を提出したり詳細な主張を行ったりする必要があります。
入国審査官による審査
入国警備官が調査した内容は,そのまま入国審査官へと引き継がれていきます。そして入国審査官が対象となる外国人の方と面談(interview)を行い,審査を実施します。
審査の対象となるのも上に書かれた調査事項と同様です。
なお,強制送還の理由となる事実に加えて,日本での生活や仕事のこと,家族のこと,財産のこと等も一緒に質問されることがあります。
これは,強制送還の理由になる事実があったとしても,在留特別許可をするかどうか,という判断で考慮される事情になります。
審査が終わると強制送還の理由になる事実があったか/なかったか,という点についての判断がなされ,「事実があった」と認定されると一時的に入管の施設に収容されてしまいます。
元々オーバーステイだった場合には,そのまま収容が続いてしまうことが多くあります。
一方で,審査が終わるまでは一応在留資格をもって日本に在留していたという方の場合,一時的に収容の手続きがなされたとしても,すぐに「仮放免」といって,保証金を払うことで釈放される場合もあります。仮放免の解説はこちらです。
入国審査官による審査が不服であった場合,強制送還の理由になる事実があったとしても,さらに日本での在留を希望する場合には,その後の口頭審理という手続きを行うことになります。
口頭審理とは何か?
口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。
退去強制になるまでには,
- 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
- 入国警備員による調査
- 入国審査官による審査
- (場合によっては)法務大臣による裁決
という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この3と4のちょうど間にある手続です。
口頭審理では,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。
そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。ですが,口頭審理でのインタビューは,法務大臣の裁決という手続きに進む前の,最後のインタビュー手続きです。
そのため,口頭審理の場では,違反審査に関する事だけでなく,在留特別許可を認めるかどうかの判断で重要となる部分の『聞き取り』も行われることになっています。
ただ,あくまで「聞き取り」を行うだけですので,事実に間違いがない限りは,口頭審理の結果については,「元の審査に誤りはなかった」と判断されることになります。
口頭審理の後も,引き続き日本での在留を希望するという場合には,異議の申立てをして,法務大臣の裁決を求めることになります。
口頭審理のポイントとなるのは,『法務大臣による裁決前の最後のインタビューである』という点です。
法務大臣の裁決
入国警備官による調査から始まって,強制送還に関する最後の手続きが法務大臣の裁決という手続きです。
この手続では面談などはなく,口頭審理の結果を踏まえて在留特別許可をするかどうかについて,書面による審査が実施されます。
法務大臣の裁決では,それまでの手続きにおける間違いがないかどうかという点の審査に加えて,在留特別許可をするかどうかという最も重要な点についての審査が行われます。
在留特別許可をするかどうかについては,入管における判断の透明性を確保するという観点から,ガイドラインが公開されています。
そのガイドラインの大枠は,次のようなものになります。
- 積極要素
日本人の子か特別永住者の子である
日本人か特別永住者との間に生まれた未成年の子を育てていて親権を持っていること等
日本人化特別永住者との間に法律上有効な婚姻が成立している
⇒日本と外国人とが,家族関係を持つレベルで接着していること
- 消極要素
重大犯罪によって刑に処せられた
出入国管理行政の根幹を犯す違反をした
反社会性の高い違反をした
⇒日本に在留させることが日本にとって不利益が特に大きい場合
最終的には様々な事情を総合して判断することにはなりますが,これらの積極要素/消極要素を中心にして,過去の事例なども参考にしながら,在留特別許可をするかどうかの判断がなされます。
まとめ
Aさんの事例では商標法違反で逮捕されたこと,罰金刑を受けたこと自体は強制送還の理由にはなりません。
しかし,その後の手続によっては,強制送還の手続きが始まってしまう可能性があります。
Aさんの事情を考慮すると,きちんと日本での生活が安定していれば在留特別許可をもらえる可能性はありますが,偽ブランドの販売を長期間行っていた場合や多額の利益を得ていたという場合には,「日本で違法は商売を営んでいた」として在留特別許可がなされないということもありえます。
オーバーステイが強制送還の理由となっていた場合には,そのまま入管に収容されてしまう可能性も高くなります。
日本に残って生活を続けたいと希望する場合には違反調査から口頭審理までの手続の中で日本と良く定着していること,これから先の日本での生活が法律に適して安定したものになること主張することが重要です。
強制送還に関する手続きについて,弁護士等に一度ご相談された方が良いでしょう。
在留期間を超えて日本に残れることがある?在留特例期間を解説
国内に滞在する外国人が3か月以上継続して日本に滞在する場合は、在留の活動に伴う在留資格が与えられ、在留活動の内容を表示するものとして在留カードが発行されます。
在留カードには在留資格に伴う活動の有効期限として在留期間の満了日が記載されており、在留期間の満了日が経過すると当該在留カードは無効となり、カードの所持者は日本に在留する資格がなくなります。
在留期間の満了日後も日本に滞在したい場合は、在留期間の満了日前に在留資格の変更・更新の申請手続きを行います。在留変更・更新申請が出入国在留管理局(以後入管)で許可されれば新しい在留カードが発行され、引き続き日本で在留資格に基づく在留活動が可能となります。通常、在留期間の満了日の3か月前から在留申請手続きが可能です。
申請の結果がいつ自分のもとに通知されるのかについては、申請した側にとってみれば大変気がかりなことですが、今のところ明確なルールは定められていません。しかしながら一応の基準は設けられており、在留審査の標準処理期間が出入国在留管理庁から毎年四半期毎に公表されていて、自分が申請した在留許可の判断がおよそいつくらいまでに出されるのかを知ることができます。
逆に自分が行った在留申請の結果通知の最終期限がいつまでかについては、「在留期間の特例」という制度によって事前に知ることができます。
在留期間の特例とは、「在留カードを所持している方が、在留期間更新許可申請又は在留資格変更許可申請(以下「在留期間更新許可申請等」という。)を行った場合において、当該申請に係わる処分が在留期間の満了日までになされないときは、当該処分がされる時又は在留期間の満了の時から二月が経過する日が終了するときのいずれか早いときまでの間は、引き続き従前の在留資格をもって我が国に在留できます」とする制度です。:出典 出入国在留管理庁HP
例えば、6月30日が在留期間の満了日の方の場合、どんなにおそくとも8月30日までには入管から結果通知が来ます。
入管側で在留許可の判断が出ている場合、在留期限から2か月を経過しても申請人が在留カードの交付申請手続きをしなければ申請人は在留資格を失い、オーバーステイとなります。
なお、在留申請時に渡される受付票には、「在留期間の満了日から2か月を経過する日の10日前までに「通知書」が届かない場合は、お手数ですが当局(所)までお問い合わせください。と記載されています。
在留期間の満了日から50日経過してもいまだに入管から通知が来ないときは明らかにイレギュラーな状況なので、すぐに申請をした入管に連絡しましょう。
入管側は個別具体的に「在留期限の特例」について申請者に教えてくれません。
「在留期限の特例」については、申請者本人が受け取る受付票にも通知書にもきちんと書かれているので、申請側が知ってて当たり前と判断されます。
「在留期間の特例」を知らないことで生じた不利益(オーバーステイ等)は、申請人側が受けることになります。
ご自分の在留期間の満了日には常に意識をして、在留手続きを忘れ在留資格が失効しないよう普段から注意しましょう。
この「在留期限の特例」は,在留期間のギリギリに申請をした方が,特に対象になる制度です。在留期間ギリギリに更新の申請をした/変更の申請をした,という方で,ご不安なことがある方は是非一度専門家にご相談ください。
在留期間の延長が認められなくなる!? 特別措置の終了について
「新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による帰国困難者に対する 在留資格上の特例措置の終了」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
コロナ禍の拡大により、在留期限が経過した後も帰国できない等の事情に鑑みて、新型コロナウイルス感染症による帰国困難者に対する特例措置が取られてきました。
出国者が増加している状況等を踏まえ、特例的な在留を認めている外国人の方について、現に有する在留資格の在留期限に応じ、以下のとおり帰国に向けた措置がなされてきましたが、令和4年11月1日を持って、コロナウイルス感染症の影響によるすべての特例措置が全て終了しましたので、ここで在留期限ごとに特例措置終了について解説いたします。
① 在留期限が令和4年6月29日までの方
以下のとおり在留期間の更新を許可します。 a)「特定活動(6か月)」等で在留している方:「特定活動(4か月)」 b)「短期滞在(90日)」で在留している方 :「短期滞在(90日)」 注1)現在許可されている範囲において引き続き就労できます。 注2)次回更新時には「特定活動(4か月)」又は「短期滞在(90日)」を「今回限り」として許可します。
現在、この在留期限における特例措置は全て終了し、特例による在留更新に該当する方はいません。
② 在留期限が令和6月30日以降の方
「今回限り」として、以下のとおり在留期間の更新を許可します。 a)「特定活動(6か月)」等で在留している方:「特定活動(4か月)」 b)「短期滞在(90日)」で在留している方 :「短期滞在(90日)」 注1)現在許可されている範囲において引き続き就労できます。 注2)帰国困難を理由とする在留許可は今回限りとなります。今回許可された期間内に帰国準備を進めてください。 注3)上記の許可に係る在留期間を満了した場合には、在留期間の更新は認められません。
現在、この在留期限における特例措置は全て終了し、特例による在留更新に該当する方はいません。
③ 新たに帰国困難を理由として在留を希望する方
令和4年11月1日までに現に有する在留資格の在留期限が満了する場合に限り、上記②の「今回限り」の措置 を認めます。 注)「特定活動(雇用維持支援)」については最大1年(※「今回限り」)を許可します。
現在、この在留期限における特例措置は全て終了し、特例措置による在留更新に該当する方はいません。
④ 在留期限が令和4年11月2日以降の方
コロナ帰国困難を理由とした「特定活動」又は「短期滞在」への変更は認められません。
(令和4年11月2日以降に在留期限を迎える方はコロナ特例措置の対象外です)
①~④に該当するすべての在留期限において、新型コロナによる特例措置が終了したことで、
これらの期限以後の新型コロナウイルスの影響による在留期限の延長は認められません。
在留期間更新の際は、オーバーステイにならないよう注意しましょう。
参考;「新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による帰国困難者に対する在留資格上の特例措置の終了について」 (出入国在留管理局HP)
偽装結婚で有罪となった,その後はどうしたらいいか?
(以下は解説のための架空の事例です)
事例-偽装結婚についての判決後
Cさんは日本国籍の男性ですが,ある時,「戸籍を貸してくれたら毎月10万円振り込む」といわれて,外国籍女性のEさんと偽装結婚をしてしまいました。
その後,CさんはEさんとは何も関係することなく生活していましたが,ある日池袋警察署の警察官がCさんの自宅に捜索差し押さえを行い,Cさんは公正証書原本不実記録罪によって逮捕されてしまいました。
Cさんは起訴され,刑事裁判で有罪の判決を受けました。幸いにして執行猶予判決となりましたが,Cさんは「Eさんとの戸籍はどうなるのだろう」と思い,外国人事件,入管事件に詳しい弁護士に相談しようと思いました。
偽装結婚の罪
一般的に偽装結婚と呼ばれるものの中には,公正証書原本不実記録,同供用罪という犯罪に該当するものがあります。
これは,公務員(市役所職員など)に対して,嘘の申立てや届出を行い,登記簿や戸籍簿と呼ばれる公正証書の原本に虚偽の記載をさせた,またはその原本を供え置かせるというものです。
難しいように聞こえるかもしれませんが,結婚するつもりがないのに婚姻届けを提出して,戸籍上も婚姻したことにした場合には,犯罪が成立することになります。
偽装結婚というと,「結婚するつもりがないのに結婚したことにして婚姻届けを出す」という意味が一般的ですが,まさにこれが犯罪です。
一方,婚姻届けを出したときは幸せいっぱいの夫婦だったけれども結婚生活の中ですれ違い,今はただ「夫婦」という体を保っているだけという,いわゆる「仮面夫婦」のような状態だけでは犯罪とは言えません。あくまで,虚偽の届出を出して,戸籍に虚偽の記載をさせるというのが犯罪なのです。
Cさんのように,当初から婚姻生活を送るつもりがなく,また金銭を得るだけ(もしくは外国人に在留資格を得させるだけ)の目的でした婚姻届の提出なのであれば,公正証書原本不実記録罪に該当するでしょう。
同罪は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
有罪の判決が出た後はどうなるのか
Cさんのように日本人の立場からすると,偽装結婚がばれた後に自分の戸籍がどうなるのかという点が気になる方もいるかもしれません。
というのも,刑事裁判では「有罪(刑の重さ)/無罪」を決めるだけで,戸籍そのものについては何も訂正をしてくれないからです。
刑事裁判の後,Cさんはある困った問題に直面します。それは再婚ができないというものです。
戸籍が元に戻る(CさんとEさんの結婚が虚偽のものだからという理由で訂正される)までは,Cさんは戸籍上既婚者という立場が続くことになります。一方,Eさんと離婚に向けた手続きを行おうとしても,刑事裁判が確定すればEさんのような人は,ほとんど強制送還されるため,そもそもCさんはEさんと連絡を取る事すら難しくなってしまいます。
このような場合に,Cさんの戸籍を訂正して,再婚できるようにするためには次のような手続きが必要です。
まず一つ目は,役所内部での処理を待つというものです。
偽装結婚であることの刑事裁判が確定すると,検察庁から市区町村役場に対して,「あの婚姻届けは虚偽のものでしたよ」という通報がなされます。この通報を受けて,役所が内部の処理として,戸籍を自分たちで訂正するというものです。この手続には時間が掛かり,判決が確定した後,少なくとも数か月かかることになります。
次の手段としては,Cさんのような本人が裁判所に申立てをする場合です。
刑事裁判の中で偽装結婚であることが認められているのであれば,その裁判資料を使って家庭裁判所に対して「戸籍を直すことを許可してください」という申立てをすることができます。この場合には自分たちである程度資料を集めて手続きを行う必要がありますが,役所が自分たちで戸籍を訂正するよりも早く手続きが進むことが期待できます。
戸籍の訂正など,裁判所での手続きについては専門家へ依頼することを検討された方が良いでしょう。
もしも刑事裁判になっていなかったら?
Cさんのように,刑事裁判が確定していればよいですが,もしも刑事裁判になっていないという場合に戸籍を訂正しようと思ったら,どうしたらよいでしょう。
その場合には,そもそも婚姻届の提出自体が無効だったのだということを確定させるために,婚姻無効確認訴訟を起こして,裁判所に「結婚が無効である」ことの判決をもらわなくてはなりません。
また,刑事裁判になっていないという場合には,偽装結婚の相手となった外国籍の人が今どこで何をしているのかということの調査まで行わなければなりません。
加えて,警察には何も知られていない状態で,裁判で「偽装結婚をしていました」と話すことのリスクについても考えなければなりません。
もしも,過去に偽装結婚をしたまま戸籍を放置してしまっているという方,偽装結婚でお悩み・お困りの方がいれば,早めに弁護士などの専門家にご相談ください。
裁判中に在留期間が切れそうになったらどうしたらいいのか
(次の事例はフィクションです)
Aさんは,日本の企業に勤める外国籍の人で,「技術,人文知識・国際業務」の在留資格で「5年」の在留期間をもらっていました。
ある日,Aさんは会社のお金を横領した疑いをもたれ,警察の取調べを受けました。
Aさんは身に覚えがなかったため否認していましたが,検察官はAさんを「業務上横領罪」で在宅起訴しました。
この裁判期間中に,Aさんの在留期間の更新の期限が迫ってきたため,Aさんは在留期間について弁護士と相談することにしました。
在留期間の更新申請
Aさんのように,「永住者」の在留資格以外の外国人の人が,在留期間の後も日本で生活することを希望する場合,在留期間の更新申請をしなければなりません。
在留期間の更新申請は,最寄りの入管(出張所でも手続きができる場合があります)に,「在留期間更新許可申請書」を提出して,審査を受けます。
最新の統計によると,在留期間更新申請については,申請をしてから審査が終わるまでにかかる期間は,平均して約20日程度です(2022年1月1日~2022年3月31日までに処理された申請に関する統計001371836.pdf (moj.go.jp))。
在留期間の更新申請の時に審査の対象となるのは,
- 在留資格に適合した活動をしているか
- 在留期間を延長(更新)することが適当か(ふさわしいか)
という点になります。
冒頭の事例にあったAさんのような場面でも,日本での在留を引き続き希望するのであれば,
- 「技術,人文知識・国際業務」の在留資格に適合する活動(仕事)を続けているか
- 在留期間を延長するにふさわしい人物か(具体的には,納税をしているか,社会保険料を支払っているか,素行不良でないか,入管法で必要とされる手続きをきちんと果たしているか)
といった点が審査の対象となります。
裁判中でも在留期間を延長できるのか
通常,日本の刑事裁判は始まってから第一審の判決が出るまでに2か月程度かかります。
Aさんの事件のように「身に覚えがない事件だ」として否認して争っている場合だと,さらに審理のために時間がかかり,判決が出るまでに6か月,場合によっては1年以上の期間がかかることもあります。
そうなると,Aさんのように,裁判をしている間に在留期間を迎えてしまうという方もいるかもしれません。
裁判期間中であっても在留期間の更新,延長は認められるのでしょうか。
まず,多くの方が「裁判になってしまったら在留資格も取り消されたり強制送還されてしまうのではないか」と不安に思われるかもしれません。
しかし,入管法上,逮捕されたり起訴されたりしただけで,在留資格が取り消されたり強制送還の対象となることは極めて例外的です。Aさんの事例のような業務上横領罪といった財産犯では,判決が確定しない限りは強制送還の対象になりません。第一審の判決が出るまでの間は,無罪の推定がありますから,裁判を受けているというだけで素行が悪いと判断することもできないのです。
在留資格が取り消されたり強制送還の対象となるのではないかと不安に感じている方は,早めに弁護士などの専門家に相談しましょう。
Aさんも,業務上横領罪が疑われている裁判が終わるまでは,在留資格が取り消されたり強制送還の対象とはなりませんから,在留期間の更新が認められる可能性も十分にあります。
ただし,このような事例で注意しなければならないのは,
- 在留資格に適合した活動を続けているかどうか
という点です。
Aさんの事例のように,職場内で疑われた事件だと,刑事裁判の判決が出る前に懲戒免職となったり,雇用契約が解除されてしまったりしている可能性もあります。職を失ってしまった場合,在留資格に適合した活動を続けていないとして,在留期間の更新が認められなくなってしまいます。
そのような場合には,元の在留資格のままで期間の更新申請をするのではなく,裁判を受けることや転職活動をすることを目的とした,「特定活動」の在留資格へ資格を変更することを考えなければなりません。
在留期間内に裁判を受けるとして,裁判を受けること自体は更新申請手続きに影響するものではありませんが,元々の在留資格の内容や事件の内容によっては,単に期間の更新申請するのではなく,資格の変更申請をした方が良いという場合があります。
在留期間内であっても裁判との関係で,在留資格が取り消されたり更新が不許可になるのではないかとご不安な方は,一度弁護士などの専門家に相談しておくとよいでしょう。
解決事例 永住許可が認められた事例
当所の扱った事案について,永住許可が認められましたので,その事例を紹介,解説します。
事案・ご依頼の経緯
ご依頼者であるXさんは「定住者」の在留資格を取得して日本で生活していました。
日本での生活が10年以上にわたり,より安定してた生活を送り,長期間にわたって日本で在留し続けたいと考えたXさんは,「永住許可」を申請しました。
しかし10年以上日本で生活していた実績があるにもかかわらず,Xさんの永住許可申請は「不許可」となってしまいました。
「定住者」としての在留資格は維持できていたものの,在留期間の更新手続きを行わなければならないこと点や日本でのローンが組みにくい点など,日本での生活に不便さがありました。
そこで,Xさんは再度,永住許可申請をしようと考え,申請の際には弁護士に手続きを依頼することにしました。
永住許可に向けた活動
永住許可申請は法律上,外国人本人でも行える手続きです。しかし,実際にはどんな場合に永住許可がもらえるのか,永住許可のためにはどんな事情や書類が必要なのかということについては,あまり理解されていないことが多くあります。
永住が認められる場合というのは,
の全てを満たしている場合です。
詳しくはこちらでも解説しています。
Xさんの事例でもそうだったのですが,永住許可申請のためには大量の書類を整理して入管に提出しなければなりません。
そのうち一部の書類が欠けているだけで,永住が不許可となってしまいます。実際,きちんと書類を全部出していれば「永住者」になれたはずなのに,書類がなかったからという理由で永住申請が「不許可」となることはとても多いのです。
Xさんの依頼を受けた弁護士も,ご本人や入管から書類を取り寄せて,永住申請のために必要な書類を整理して寄り分けて,申請書を作成しました。
提出する書類が大量にあるということは,そのすべてに矛盾しないような申請書を作成しなければいけません。書類同士で記載が違っていたり,提出した書類と申請書とで食い違いがあると,入管からは「虚偽の申請をしているのではないか」という疑いをかけられることになり,申請が不許可となってしまう可能性があります。
また,申請書を提出した後も,入管から資料の追加や理由書の提出を求められることがあります。入管がこのように求めて来るということは「今の申請書や書類だけでは永住許可することが難しい」と考えているということです。追加提出資料についてもきちんと対応する必要があります。
Xさんの事例でも,申請書類,提出資料を整えて提出し,入管から追加提出の指示があった資料に関しても適切に対応したところ,申請から約3か月ほどで永住許可が認められました。
ご自身で在留資格の変更申請,永住許可申請をしたものの不許可だったという方は,一度弁護士にもご相談ください。
【日本に残るために】口頭審理の前の準備
強制送還の手続きの中では,必ず口頭審理というものが開かれます。
口頭審理は,日本で入管法上の違反があったと疑われる外国人を,強制送還するかどうかを判断する上でとても重要な手続きです。
口頭審理の前に必要な準備について解説をします。
ビザをもらうにはお金がかかる?入管で必要になる手数料
在留資格(ビザ)の手続の中には「手数料」が必要になるものがあることをご存知でしょうか。
この「手数料」とは,弁護士や行政書士を頼む費用のことではなく,申請者が直接入管の窓口で払うことになるものです。
在留資格(ビザ)のうち,どの手続には手数料がかかるのか,いくらなのか,手数料が返してもらえることがあるのかについて解説します。
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