仮放免を争った裁判 その1

今回は,仮放免を求めて裁判で争った結果,仮放免をしなかった決定が取り消された事例を紹介します。

平成30年8月28日に東京地方裁判所で判決が宣告された事件です。

仮放免は通常,本人や代理人弁護士が,収容している施設長か,主任審査官に対して申請書を提出して判断がなされます。今回紹介する裁判例は,仮放免の申請に対して外国人を収容する施設の施設長が「仮放免をしない」,という決定をした事が違法だとして,その決定の取り消しを裁判所に求めたのです。

裁判所は,結論としては,仮放免をしなかった判断はおかしいとして施設長の決定を取り消しました。その主な理由は,収容されている外国人の方の健康面をみると,収容し続けるべきではないと判断したからです。

公表されている事案の概要と,裁判所の判断を解説します。

参考:仮放免についての解説

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事案の概要

Xさんは1966年生まれの外国籍の方で,1991年に「短期滞在」の在留資格,在留期間を「90日」として日本に上陸しました。

Xさんは在留期間を過ぎて日本に在留していましたが,1993年に日本人の方と結婚し,1996年に当時の入国管理局で「日本人の配偶者等」として在留特別許可を得て,引き続き日本に在留していました。

その後,2005年にXさんは刑事事件で執行猶予付きの判決を,2007年には実刑判決を受け,2008年には実刑判決が確定したことで,日本の刑務所で服役することになりました。

なお,2007年に受けた実刑判決は薬物事件による有罪判決であるため,これが確定したことは強制送還(退去強制)の事情となります。

Xさんが日本の刑務所から仮釈放される数か月前から入管の調査が始まり,薬物事件について有罪の判決を受けて確定していることが確認されたため,2015年に,Xさんが実際に仮釈放されると同時に,入管の収容場に収容されました。

入管に収容されてから判決まで,XさんとXさんの代理人弁護士は,何度も仮放免を請求しましたが,全て認められませんでした。裁判で争われたのはいくつかの請求のうち,一番最近の申立てについて,認められなかったのがおかしいとして取消訴訟が提起されました。

裁判所の判断

まず,裁判所は,「仮放免を認めるかどうかは収容施設長が判断することであって,その判断が前提にした事実を間違っているとか,事実に対する評価が著しく妥当性を欠いているという場合でなければ違法とまでは言えない」としたうえで,仮放免を認めるのは「身体を解放した方が円滑な出国につながる場合や,病気等によって収容に耐えられないという事情があり人道的な配慮の観点から解放するべきである場合」に例外的な場合であるという判断基準を示しました。

Xさんの事件では,Xさんが日本で2回の有罪判決を受けており,刑務所で長期間服役していたということは不利な事情として考慮されました。

一方で,Xさんは入管の施設に収容されて以降,施設内にて自殺未遂をしてしまったり,臨床心理士や精神科医による診察を受けて,長期間の身体拘束を受けていたために拘禁性うつ病と診断されたりしました。

心理的な面飲みだけでなく,視力の低下や手足のしびれ,頭痛など,身体的な症状も現れ,医師からも心理的な原因による身体症状であると診断されていました。

Xさんに対しては入管の施設内で投薬治療がなされていましたが,収容されてから裁判に至るまで,服薬によってXさんの症状が改善しているとは見られない状況でした。

裁判所は,Xさんの心理的な状況からは仮放免を認めなかったという判断は,人道的配慮の観点からの判断を誤ったものであるとしました。

コメント

退去強制(強制送還)されるという方で,在留特別許可を求めて裁判をすることはありますが,強制送還されるか,在留特別許可が認められるかどうかの手続き期間中の「仮放免」について裁判がなされることは,あまり多くはありません。

裁判所も,仮放免するかどうかについては収容施設の長に広い権限が認められているため,裁判所がその判断を覆すのは限定的にすべきという判断をしています。

しかし,紹介したXさんの事案のように,刑務所から引き続いて,相当長期間収容されて精神的な疾患をかかるにまで至った場合には,さすがに人道的な配慮から仮放免を認めるべきだと判断したものもあります。

国側は,収容されている施設内でXさんは他の収容者と変わらない生活をしていたし,平穏に生活していたことも主張していましたが,医学的な根拠に基づかないとして一蹴されています。

仮放免は,あくまで「強制送還するかどうかの判断期間中」だけ日本社会での生活を認めるものであって,将来にわたって在留を認めるものではありません。ですが,Xさんのように収容されていることで身体的にも精神的にも健康を害しているという方の場合には,裁判まで争って,仮放免を獲得することも考えた方が良いでしょう。

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