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強盗罪で逮捕されたら強制送還されるのか?
(解説のための架空の事例です)
Bさんは外国籍の「定住者」(日系三世,在留期間3年)の在留資格を持っています。
ある日,Bさんは同胞の友人たちと居酒屋でお酒を飲み,自宅へ帰るためにタクシーに乗り込みました。Bさんはお酒に酔っぱらっていたこともあり,些細なことからタクシー運転手と口論になってしまい,タクシー運転手の腕を殴って,タクシー代を払わずにタクシーを降りてしまいました。
被害者であるタクシー運転手が110番通報したところ,Bさんは現行犯逮捕されてしまいました。
Bさんの家族は,Bさんが強制送還されてしまうのではないかと心配で,法律事務所に相談することにしました。
タクシー運転手との口論から「強盗」に
タクシー運転手と口論になって暴力をふるい,強盗罪として逮捕されるというケースは少なくありません。
Bさんの事例のように,「暴力」をふるって,「払うべきお金を払わなかった」という場合,強盗罪として逮捕されてしまう場合があります。
強盗罪に対する刑罰は極めて重く,「5年以上の懲役」と定められています。つまり,逮捕されて,起訴されて,刑事裁判で有罪の判決を受けてしまった場合には,特別な事情が認められない限りは5年以上の期間,刑務所に入らなければならないということになります。
強盗罪で強制送還される場合
Bさんは強盗罪によって強制送還されてしまうのでしょうか。
まず,強盗罪によって「5年以上の懲役刑」を受けてしまった場合には,「1年を超える懲役」を受けた場合に該当しますから,例え在留資格が何であったとしても強制送還の対象となってきます。
また,仮に裁判で執行猶予判決がついたとしても,強盗罪の場合だと,身分関係の在留資格(永住者,日本人の配偶者,定住者,特別永住者)以外の在留資格の人については,強制送還の対象となってしまいます。
Bさんの場合には,定住者の在留資格ですから身分関係の在留資格に該当することになり,執行猶予付きの判決に留まった場合には,強制送還の対象にはならないことになります。
逮捕だけで強制送還されるのか
それでは,Bさんの家族としてはどうするべきなのでしょうか。
Bさんの場合,1年を超える実刑判決を受けなければ強制送還の対象にはなりません。つまり,逮捕されただけで,すぐに強制送還の対象となるわけではありません。
ただし,それでも早めに在留資格についても併せて対応できる,弁護士に相談すべきでしょう。
Bさんのように,逮捕された直後では,次のような点に気を付けなければなりません。
・逮捕,勾留されている間に在留期間が切れてしまう場合
・起訴されるのか,示談したら不起訴になる可能性があるのか
・不起訴になったとしても,次回の在留期間の更新申請が認められないのではないか
逮捕された直後から,「これから先,この事件がどのように進んでいくのか」について,きちんと分かったうえで,日本での在留を続けられるように対応していくことが非常に重要です。
「警察から大丈夫だと言われた」,「国選弁護士から『自分はよく分からないから』と言われた」という方が相談に来られることが非常に多くありますが,既に手遅れになっているという場合すらありますし,もっと早く相談に来てくれていればよかったのに・・・と思うことも多くあります。
外国人の方は,逮捕された直後の段階で,在留資格についてもきちんとケアしておかなければなりません。
ご不安なことがある方や,逮捕されたご家族の在留について心配なことがあるという方は,いち早く専門家にお問い合わせください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では,これまで数多くの刑事事件について弁護を行ってきた実績があります。その中には当然,外国人の方が当事者となっていた事件も含まれています。在留資格の問題をはじめとした入管業務について,弁護士や行政書士がチームを編成して事件に対応していきます。
外国人に対する判決期日での手続
日本に在留する外国人の方が日本国内で刑事裁判を受ける場合,判決の結果によって在留資格が影響を受けたり,退去強制に関する手続きが開始されたりします。
2021年の統計資料によると,2021年のうちに日本で起訴された外国人は7932人になります(検察統計調査2021年罪名別 起訴又は起訴猶予の処分に付した外国人被疑事件の国籍別人員)。
この人数は,有罪となった人,無罪となった人の両方を含みますが,大半の人が何らかの罪名で有罪の判決を受けたであろうと推測されます。
起訴された方の罪名として,特に数が多いのが,窃盗罪(1716人),出入国管理及び難民認定法違反(2270人)です。
これらの罪名について,判決の言い渡しがあり,有罪判決となった後の手続はどのようになるのでしょう。
一般的な手続きの流れ
外国人の方が刑事事件の被告人となった場合,多くの場合では勾留されたまま裁判を受けることになります。日本に在留している外国人の方の場合,「裁判期間中に母国へ出国してそのまま帰ってこないかもしれない」という疑いをもたれ,逮捕される事案が多いからです。
事実関係について認めている事件であれば,結審すると,次回期日が判決の言い渡しとなります。
判決の言い渡し期日では有罪の判決が言い渡されると,有罪の起訴となった罪名とその人の在留資格に応じて退去強制(強制送還)の手続きが開始されることがあります。
具体的には,判決言渡し期日に入管職員が傍聴に来ており,期日が終結すると,そのまま入管職員が被告人(外国籍の方)を連れて最寄りの入管へ行きます。そこで退去強制手続きに伴う収容状が発布され,今度は入管の収容場に収容されることとなります。
ただし,その後の手続の見通しや日本に身元引受人がいるかどうかといった点を考慮して,収容状が発付されたとしても当日中に仮放免が認められる場合が多くあります。
「有罪判決の言い渡しを受けた後,入管へ行ったけれども,一旦かえって良いと言われた」という方もいますが,その場合のほとんどは当日中に仮放免を受けているということになります。
単純なオーバーステイであるとか,退去強制事由に該当するとしても在留特別許可が認められる可能性があるという事案であれば,当日中に仮放免になるということもあります。
入管の施設に収容された場合であっても,一時仮放免が認められた場合であっても,その後の「違反調査」は進められることになります。
特に,入管に収容されたままで退去強制に関する手続きが進んでしまった場合,判決から60日以内に「口頭審理」という手続きまで進むことになります。仮に,有罪判決後も日本での在留を希望する場合には,この「口頭審理」での手続きが非常に重要になります。
すぐに入管へ行く場合/後日呼び出される場合
判決言い渡し期日に入管職員が控えている場合と,そうでない場合とがあります。
この違いは,判決の言い渡し後すぐに退去強制手続きがスタートするかどうかという点です。
では,退去強制手続きがいつスタートするかというと,それは在留資格や有罪となった罪名によって異なります。
外国人で刑事事件となるケースの中で特に多い,出入国管理及び難民認定法違反(いわゆる,入管法違反)や窃盗罪で有罪となった場合,判決言い渡し後直ちに退去強制手続きがスタートするというわけではありません。有罪の判決によって退去強制の理由となるには,判決が確定する必要があります。この判決が確定するまでは,控訴を申し立てないまま,判決言い渡し日を含めて15日が経過することで確定します。
一定の入管法違反の場合には在留資格を問わず,窃盗罪の場合には就労系の在留資格や留学等の在留資格の場合,判決の確定によって退去強制手続きがスタートすることになります。
「判決の確定」が退去強制の理由となる場合には,後日入管から呼び出されて,退去強制に関する手続きがスタートすることになります。
一方,入管法違反,特に,オーバーステイの場合には,刑事裁判が始まる前から,警察署や拘置所の中で入管職員が外国人の方から事情聴取を行っています。その場合,刑事裁判の確定を待たず,「オーバーステイをしていた」こと自体が退去強制を行う理由となるのです。そのため,判決の言い渡し期日にも入管職員が控えており,刑事裁判が終わったら直ちに入管での手続きが進むことになるため,そのまま入管へ連れていかれる,ということになるのです。
同じ外国人の方であっても,刑事裁判の後すぐに入管へ行くのか,後日呼び出しがあるのか,退去強制に関する手続きがどのように進んでいくのか,というのは,その人が置かれた状況によって異なります。
日本で刑事裁判の判決を控えているという方,特に,判決後も日本での在留を希望するという方は,早めに弁護士などの専門家に相談しておいた方が良いでしょう。
窃盗罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
(この事例は入管手続きについて解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。
「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に在留していたXさん(40代女性)は,東京都板橋区のスーパーマーケットで「お金を払うのが勿体ない」と思ってしまい,食料品等を約1000円分を万引きし,その様子を見ていた私服警備員に現行犯人逮捕されてしまいました。
Xさんの夫である日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。
窃盗罪の場合には,強制送還があり得る
これまで当サイトにて解説している通り,入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
参考記事 強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
Xさんの事例のように,万引きの場合だと,窃盗罪が成立します。窃盗罪に対しては「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられています。
そして,「窃盗罪」というのは,上記の「一定の刑法犯」に含まれています。
執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。
-
- 住居侵入罪
- 公文書/私文書偽造罪
- 傷害罪,暴行罪
- 窃盗罪,強盗罪
- 詐欺罪,恐喝罪
これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。
外国人の方が万引きによって逮捕されてしまった場合には
- 不起訴になる
- 無罪を獲得する
- 罰金刑で済ませる
ことができないと,強制送還される可能性があるのです。
有罪になったら必ず強制送還か
それでは,Xさんの事例で,起訴されて有罪の判決を受けたら必ず強制送還になるのでしょうか。
実は,「一定の刑法犯」で強制送還になる人というのは,その時の在留資格によって変わります。
一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。
入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページでも列挙されています。
Xさんのように,「日本人の配偶者等」,「永住者」,「永住者の配偶者等」,「定住者」の在留資格であれば入管法の別表2ですから,執行猶予付きの有罪判決を受けたとしても強制送還にはなりません。
ただし,強制送還にならないからと言って全く不利益がないわけではなく,在留期間の更新の時に認められる在留期間が短くなったり,永住許可申請の時に不利な事情として扱われたりします。
強制送還にはならないとしても,その後の日本での在留に関して不利益にならないよう,刑事事件の段階でなるべく軽い処分が得られるように早期に対応しておくことが重要です。
強制わいせつ罪で逮捕された外国人は強制送還されるのか
(この事例は入管手続き,刑事手続について解説をするための架空のものであり,実在する地名と設例は必ずしも関係ありません)。
「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していたXさん(30代男性)は,東京都新宿区の居酒屋で開かれた飲み会の帰り道,酔いすぎたせいか,好みの見た目をしていた女性に対して,路上で抱き着いてしまい,その場で通行人に現行犯人逮捕されてしまいました。
Xさんと交際していた日本人のYさんは,「Xさんが母国に強制送還されるのではないか」と不安になって弁護士に相談することにしました。
「逮捕=強制送還」ではない
Xさんの事例のように,外国籍の方が日本で逮捕されてしまうと,「すぐに強制送還されるのではないか」と不安にある方が多くいらっしゃいます。
ですが,実際に強制送還される場合というのは入管法に規定されており,この規定に当たらない限りは「強制送還できない」ということになります。
入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。
ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。
特に,薬物事件や入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。
逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。
Xさんの事例の,強制わいせつ罪(刑法176条)の場合には「1年を超える実刑判決」を受けた場合に限り,強制送還の対象となります。
そのためXさんの事例では,起訴されないための弁護活動,仮に起訴されたとしても執行猶予を獲得できるような弁護活動に重点を置くことになります。
実刑判決にならなければOK?
それではXさんの事例で,実刑判決を回避できれば万事解決となるでしょうか。
Xさんの場合には,「技術,人文知識,国際業務」の在留資格で日本に在留していますから,当然「在留期間」というものが決まっています。
短い人は6か月や1年,最長でも5年の在留期間が決まっており,定められた在留期間以降も日本に留まることを希望する場合には,「在留期間の更新」をしなければなりません。
強制送還をされなかったとしても,Xさんが日本での長期的な在留を望む場合,「強制わいせつ罪で逮捕された」という事実が在留期間の更新手続きの中で不利に働くことがあります。
在留期間の更新については
- 在留資格の基礎となる活動が適切なものであるから
- 在留期間を更新するのが相当であるか
という点が審査されます。「逮捕された」という事実は,このうち「更新するのが相当であるか」という点に影響してきます。
日本で逮捕されたことがある,という事実は,日本での生活の素行が悪いという方向の事実であるからです。
刑事事件と在留期間の更新については,やや事案は異なりますが裁判例について解説したものもありますので,併せてご覧下さい。
逮捕されたことで強制送還されるのではないか,在留資格に影響が出るのではないか,とご心配のある方は,一度弁護士にご相談ください。
不法就労助長の会社の責任と個人の責任,どう違う?
不法就労助長罪には,雇っていた法人や事業主に対する責任と,雇い入れをした個人に対する責任の両方が定められています。
このような規定を「両罰規定」と言って,「法人」や「会社」に対しても刑罰を科すという規定です(入管法76条の2)。
もちろん,会社に対して「懲役刑」を科すことはできません(会社は目に見えないものですし,実際の肉体もありません)。法人に対する両罰規定としては,罰金が科されることになります。
不法残留(オーバーステイ)で不起訴になると,日本に残れる?
今回は,不法残留(オーバーステイ)について解説をしていきます。
これまでも本HPではオーバーステイに関して解説記事を更新していましたので,併せてごらんください。
マッチングアプリで偽装結婚?処罰される事案とは
「マッチングアプリで妻を募集した」として日本人と外国人の男性が逮捕されるという報道がありました。
マッチングアプリで日本人女性を募り、外国人男性と偽装結婚させたとして、愛知県警は27日・・・・・・を電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で逮捕した。
月5万円の「妻」マッチングアプリで募集 偽装結婚容疑(愛知県)
このような事例のうち,具体的にどのような点が処罰の対象となるのでしょう。また,どうしてこのような偽装結婚は起きるのでしょうか。
何罪だと強制送還になる?強制送還になる罪名まとめ
刑事事件で有罪の判決を受けて,日本から強制送還されてしまうという方が,一定数います。
また,相談に来られる方の中には,「国選弁護士からは大丈夫だと言われていた」のに,強制送還の手続きに乗せられてしまっているという方もいます。
刑事事件で,特に国選弁護士となると,人によっては,入管法にも刑事事件にも,両方ともあまり詳しくない弁護士が担当してしまうことがあります。
外国人の方の刑事事件については,入管法も刑事事件も精通した弁護士が担当するのが望ましいでしょう。
今回は,「この罪名で,この判決を受けると強制送還になります」というまとめをしていきます。
自分,もしくは知人が強制送還になるのかどうか分からない,という方は是非確認して頂いて,今後の手続きについては弁護士にご相談ください。
罰金の上限が300万円を超える?不法就労助長罪で送検,これからどうなる
弁護士の足立です。
各種の報道などによると,ウーバーイーツを運営する日本の法人とその代表が,東京地方検察庁へ送致されたとの報道がありました。
ウーバージャパン幹部らを書類送検不法就労助長の疑い 朝日新聞
個人としての「人」ではなく,「法人」という会社全体も送致されているようですが,どういうことでしょうか。
また,送検された後はどのような流れになるのでしょうか。
外国人従業員が「勝手に」不法就労をした?不法就労助長罪の成立要素
不法就労助長罪は,「事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた」場合に成立する犯罪です。
出入国管理法73条の2第1号の違反となり,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が定められています。
この,①事業活動に「関して」外国人を働かせていたかどうか,また,②事業主が外国人に仕事を「させた」かどうかが争われた裁判例があります。
参照する裁判例は,東京高等裁判所が平成6年11月14日に判決を言い渡した不法就労助長罪の事件です。
この事件は,スナックを経営していた日本人がスナック店内で外国人に売春をさせていたという事件です。被告人は,あくまでスナック従業員として雇っていた外国人が勝手に売春をしていた,従業員に対して不法就労を命令していない,として無罪を主張していましたが,東京高等裁判所はこれを認めず,被告人を有罪とした一審判決を維持しました。
①事業に「関して」いるかどうか
「事業に関し」とは,運営・従事している事業のために必要な活動でなければ犯罪にならないとされています。
そのため,実際に雇い主が営んでいる事業と関係しない活動を,外国人が行ったとしても不法就労助長罪にはなりません。裁判例の被告人も,あくまで事業は「スナック」であったことを,外国人を雇っていたのも「スナックの従業員として」であることを主張していたようです。
ですが,この裁判例のスナックでは,
①外国人がスナック従業員として勤務しつつ,客との間で売春の合意ができた時には売春の対価のうち一部をスナックに支払っていたこと,
②売春のために店の外に出る時には店の了解が必要で店に断りなく売春をした場合には罰金が徴収されることになっていたこと
等の事実が認定され,看板としては「スナック」として経営されていたとしても,その実態は「売春スナック」であったから,事業に関して外国人を雇っていると判断されました。
この裁判例が「本件スナックが,正規の営業目的いかんにかかわらず」と述べているように,外国人を働かせている名目よりも,実質的にどんな業務に従事していたのかが判断の対象になります。
不法就労助長にあたらないように名目だけ適法な事業をさせていたとしても,従事していた業務の実質が判断されることになるので,外国人の雇い入れ時には注意しましょう。
②不法就労を「させた」かどうか
不法就労を「させた」といえるには,外国人を監督下において働かせたことを言うとされています。
そのため,外国人が全くの自由な判断で仕事をした場合には,不法就労助長罪とはなりません。
「外国人が『勝手に』働いていたのでは給料も支払われないのだから,そんな事態になるのはあり得ないのでは?」と思われる方がいるかもしれません。
しかし,ある事業主の下で外国人が働き,事業主からは給料が支払われなくとも,客から直接報酬が支払われるという業務であれば,そのような事態もあり得るのです。
先の裁判例においては,被告人が経営していたスナックで,外国人が売春行為をしたときに,客からの売春対価の一部が店舗に,残りが外国人の手元に残る形となっていました。そして東京高等裁判所は,不法就労をした外国人に対して,不法就労をさせた人が直接対価を支払っていなくても,犯罪は成立するとしています。
報酬を支払っていなくても,不法就労助長罪は成立するのです。
また,外国人従業員に対して不法就労することを業務として指示はしていないとしても,雇い主と従業員という上下関係があり,不法就労にあたる行為についての指導をしていたと証拠上認められたことから,不法就労を「させたといえる」と判断されました。
裁判例でみるべきポイント
具体的な事案での結論はそれぞれ異なる可能性があるので,「売春スナックだと不法就労助長になる」というロジックは正確ではありません。
一番重要なのは,「どのような要素から不法就労助長に該当すると判断されているか」という点です。
この裁判例からいえることは,不法就労助長罪が成立するかの判断で
①外国人が行った業務が,事業主が実質的に営んでいる業務なのかどうか
②「外国人に報酬を払っていない」というだけでは無罪にはならない,外国人の業務をどこまで是認していたか
が重要であるということです。
特に②については,事業主として作業場の管理が徹底していれば起きえない問題です。
管理が徹底していても,それでも外国人が不法就労をしていたということなのであれば(それだけ外国人が,巧妙に隠れて働いていた),『不法就労助長罪は成立しない』と争いやすくもなります。
外国人の雇用と不法就労助長罪について不安のある方は是非一度ご相談ください。
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