このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,平成25年12月20日に大阪高等裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,短期滞在の在留資格で来日した外国人夫婦が,日本で子供二人を設けて生活していたものの,家族4人とも在留資格がなく,または在留期限を超えて不法残留を続けていたという事案です。入国管理局がこの家族を摘発し,家族4人全員について退去強制令書(強制送還)の手続きがなされたため,この家族は退去強制令書(強制送還)の取消しと,在留特別許可を求めて,大阪地方裁判所で裁判を起こしました。
一審では,
①家族4人に対する退去強制令書(強制送還)の手続きは適法であり
②在留特別許可をする事案ではない
と判断されたため,家族4人は全員で控訴しました。
控訴審では,一審の判決が覆り,家族全員について在留特別許可を与えるのが相当であるとされて,退去強制令書(強制送還)の手続きが取り消されました。
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事案の概要
上記のとおり,本件の家族(原告側)は全員外国籍で,お父さん,お母さんは短期滞在の在留資格で来日しています。
実はこの夫婦の間にはもともと一人子供がいましたが,祖国では仕事ができなくなり,途方に暮れていたところ,知人から「日本に来れば仕事があるよ」と教えられたため,家族を養うためにお父さんが一人にで日本に出稼ぎに来て,日本で得たお金を祖国の家族に送金していました。その後,家族の病気などもありお父さんの送金だけでも足りなくなってしまったため,子供を祖国の親戚に預け,お母さんも日本に出稼ぎにきたのでした。
摘発された当時,お父さんは日本に17年,お母さんは日本に15年滞在していたようです。
この二人は日本に来てからは同居して生活していましたが,日本で更に子供が二人産まれたため,外国人登録などの手続きを行いました。
日本で生まれた子供たちは,日本の幼稚園や学校に通い,摘発された時にはそれぞれ約7年半,約1年半,日本で生活していました。
そしてあるとき,出入国管理局(国,被告側)は本件の家族全員について,不法残留として摘発し,強制送還のための手続を始めたというものです。
なお,この夫婦は不法残留をしていたという以外に日本での法律違反はなく,日本での納税もきちんと行っていました。
裁判所の判断・重要とされた要素
裁判所は,家族4人(原告)側について,一人一人について在留特別許可をすべきかどうか判断するのではなく,家族一体として判断すべきだとしました。つまり,お母さんとお父さんは強制送還するけれども,子供だけは強制送還しない,という判断は不合理なのであって,子供にとってもよくないと判断したのです。
そのうえで,子供らについては日本に順応している一方で,祖国に帰って教育を受けたりすることについては言語能力などの面から見ても馴染まないこと,親については長期間日本で生活してきているのであって摘発を逃れようとしていたわけでもなく,平穏に日本で生活してきているのだから日本への定着も認められる,としました。
家族全員について,日本で生活するだけのそれなりの理由があり,かつ,家族をバラバラにすることなく一団として日本で生活するのが望ましい,という方針がうかがわれます。
国(被告)側は,「長期間日本に滞在していたというのはそれだけ長い間不法残留を続けてきたことになるのだから,悪質な不法残留の事案だ」とも主張しましたが,在留特別許可という制度が不法残留の状態で生活してきた人も含んでいる制度であることも踏まえて,このような国側の主張を退けました。
コメント
一般的に,勝訴率の低いと言われる行政訴訟のなかでも,更に珍しく控訴審で結論が覆ったという事件をご紹介しました。
この裁判の一審判決は,お父さん,お母さん,子供たち,と,それぞれについて在留特別許可を与えるかどうかという視点からも判断していたため,結局全員に在留特別許可をしないという判断になったようです。
ですが,同じ財布で,同じ家で生活している家族のうち,しかも子供たちは7歳と1歳であるのに,判断がバラバラになるというのはあまりにもおかしな視点です。家族を一体として判断するという控訴審の判断は極めて妥当なものではないかと考えられます。
また,不法残留期間が長いことが在留特別許可を与えるかどうかの点でマイナスにならないと判断した点もポイントです。確かに刑事裁判においては,不法残留の期間が長いほど悪質な事案だとされます。しかし,在留特別許可の判断においては,日本に定着しているかどうかという点が重要です。となると,不法残留状態とはいえ,10年以上の長期間にわたって日本で生活し続けてきたという事情はマイナスに評価されることは少ないでしょう。
もちろん,その間の在留状況の中で,売春行為や不法就労の助長,密入国の手引きなど,他の外国人の日本での法律違反を手助けするようなことがあれば,不法残留の期間の長さもマイナスと評価されることがあるかもしれません。
裁判で在留特別許可が認められた事案で,しかも,一審では敗訴したものの控訴審では逆転勝訴したという珍しい事案についてご紹介しました。