このページでは,在留特別許可を求めて裁判まで争われた事例について,判決文を見ながら解説をします。
今回解説する事例は,令和元年12月24日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,日本で生まれた外国籍の男性Xさんが在留特別不許可となったため裁判を起こしたところ,裁判所は法務大臣の判断を肯定したものです。
既に紹介している東京地方裁判所民事第2部令和2年2月18日判決の事案と似ている部分もありますが,裁判所の判断としては在留特別許可は不許可のままとなりました。
このページの目次
事案の概要
この事案は,不法残留の外国人の夫婦に生まれた子供であるXさんが在留特別許可を求めて裁判を起こしたというものです。
Xさんの両親は,それぞれ不法残留の状態で日本に在留していましたが,その間に日本国内でXさんは生まれました。
日本で生まれた子供は親の国籍や在留資格を問わず,60日の在留資格が認められています。その60日を過ぎてXさんは日本に残留し,かつ別の在留資格を取得しなかったというために不法残留状態となっていました。
Xさんとその両親に対しては一度不法残留であるとして強制送還の手続が取られましたが,Xさんの両親はそれに異議を申し立て,法務大臣に在留特別許可を求めました。その時点では在留特別許可は認められませんでした。なお,Xさんはその時生後9か月でした。
裁判所の判断,重要なポイント
裁判で問題となったのは,①Xさんの日本での生活の状況,②本国で生活できるかどうかという状況,③両親がXさんと一緒に入管に対してオーバーステイであることを申告していることを,どう評価するかという点でした。
①Xさんの不法残留状態については,生まれて間もない子供が自分の在留資格について手続などできるはずもありませんので,裁判所も,Xさん(子供)に落ち度があったとは認めませんでしたが,両親らが適切な手続を採るべきであったとも述べました。
②本国での生活について,Xさん以外の家族については,既に強制送還の手続が確定していた上に,本国にもXさんの両親の家族が生活している等,本国でも生活が十分生活することが出来ると判断されました。この点について,Xさん側は,両親や日本にいる家族に病気があって本国に帰ることが出来ないとも主張していました。しかし,裁判所は,本国でも日本と同程度の医療を受けられると判断し,逆に本国では十分な医療を受けられないという決定打もないと判断しました。そのうえで,Xさんの年齢を考えれば本国に帰ったとしても新しい社会や文化に十分になじむことが出来る,としています。
③両親がXさんと一緒に入管に申告をしていることについては,確かに有利な事情になるとはしましたが,申告していることからすぐに在留特別許可をすることにもならない,と判断しました。
以上の点を踏まえて,Xさんの在留特別許可を認めなかった判断は間違いがない,と判決しました。
コメント
以前紹介した事例では6歳の子供を収容するという異常事態がありましたが,今回の件では1歳に満たない赤ちゃんを日本から強制送還するというものでした。
先の事例と一番に異なったのは,日本という国にどの程度定着しているのかという点でした。裁判所としても,1歳に満たない子供であれば,まだ社会や文化どころか,言葉も覚えていないような状態であるので,本国に帰すことに問題は無いし,さらに日本での生活を認める理由もないと判断したものだと思われます。
ただし,在留資格がなくてもとにかく日本に長く居続ければ在留特別許可が認められる可能性が出て来るのに,日本で生まれたての子供の在留特別許可は認めないというのも,やや不自然な判断であるようにも思われます。
二つの事例は,いずれも子供の在留特別許可を認めるかどうかが争われたものですが,判断は異なるものになりました。
いずれにしても,在留特別許可は,法務大臣や入国管理局長の裁量(自由判断)の範囲にあるかどうかが問題となります。この裁量も,全くの自由ではなく,ある程度のガイドラインに沿った判断でなければなりません。そのガイドラインに沿って,有利な事情,不利な事情を併せて総合判断がなされることになります。
何が有利で何が不利になるのか,判断することは簡単ではありません。
在留特別許可について手続に不安がある方や,実際に在留特別許可を受けたいと考えている方は,早めに専門家に相談された方が良いでしょう。