このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,平成26年1月10日に東京地方裁判所で退去強制(強制送還)令書の発布について取消しが言い渡された事例です。
この事例では,不法入国をした外国籍の男性Aさんが,日本国内で永住者であるBさんと内縁関係になり,2人の子供を一緒に養育していましたところ,入管に不法入国を摘発されたため,強制送還の手続きに付されました。
Aさんは,内縁関係やその家族と日本に引き続き在留することを求めて,退去強制(強制送還)令書の取消を求めて裁判を起こしました。
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事案の概要
Aさんは平成9年ころに日本へ不法入国をして,Bさんと出会い,平成17年頃には内縁の関係になっていました。
なお,BさんはAさんと出会う前に日本人と結婚しており,日本人の元配偶者との間には男の子1人,女の子2人の,合計3人の子供がいました。
Bさんは離婚後,Aさんと出会い,平成17年頃から,長男と一緒にAさんと同居するようになりました。そして,平成21年には,AさんとBさんの間にも子供が産まれます。
AさんとBさんの間に産まれた子供は,出生直後からダウン症候群と診断されており,乳幼児期の間は2~3ヶ月に一回通院して検査を受けなければならず,小学校に入る学童期以降も毎年検査を受けなければならない状況でした。また,中度の知的障害も認められたため,幼稚園や小学校でも特別な支援が必要であることが分かっていました。
①原告であるAさんは,
AさんとBさんが真摯な内縁関係を形成していること
ダウン症と診断された子供をAさんと一緒に日本で養育しなければならない(本国では養育が出来る環境にない)
から,在留特別許可が認められるべき事案であると主張しました。
②これに対して被告の国は,
Aさんの入国,在留の状況が悪質であること
AさんとBさんの関係は法律上の婚姻ではないこと
AさんとBさんの間に産まれた子供の養育も本国で行われるべきであること
から,在留特別許可が認められるべき事案ではないと主張しました。
裁判で重要になったポイント,裁判所の判断
裁判所は,入管の局長が在留特別許可を認めないで強制送還の手続きを進めた点について,重要視するべき事実を見逃しており,判断は違法であって取り消すべきであると判断しました。
まず裁判所は,AさんとBさんの内縁関係について,共同生活を送っていて二人の間に産まれた子供も協力して育てていること,法律上の結婚ができなかったのは必要な書類を整えられなかったにすぎないという事実を認めて,AさんとBさんの内縁関係は,婚姻の本質を備えた成熟かつ安定したものであると判断しました。
そして,AさんとBさんの内縁関係には疑問があると判断した入管の判断には誤りがあるとも認めました。
次に,AさんとBさんの間に産まれた子供について,ダウン症候群と診断されており医療的な検査が必要であった一方,AさんやBさんの母国ではダウン症候群の治療のための環境や教育が不十分であるとも認めました。また,Aさんが送還されてしまうと,残されたBさんは元日本人との間の子供や,Aさんとの間の子供を一人で養育しなけばならず,生活にも困難が生じるとも認めています。
このような,Aさんが送還されたときの不利益について,当初の入管の局長は重視していませんでしたが,裁判所は,「Aさんが送還されたときに残された家族の生活についても考慮すべきである」として,入管の判断が誤っていると認めています。
そして,裁判所が「重視すべきである」として認めた事実を考慮すると,Aさんに在留特別許可をすべきであったとの判断がなされ,Aさんに対する退去強制(強制送還)令書の発布を取り消しました。
コメント(強制送還の手続きが取り消された理由)
この事案では,Aさんと,永住者であるBさんが婚姻はしておらず,「内縁関係」にとどまっているという事案でした。
内縁関係については,法律上の婚姻と比べてやや保護に劣るともされており,かつ,Aさんの入国の経緯が不法入国というものであるため,退去強制(強制送還)も充分にあり得るような事案に見えます。
この事案では,内縁関係が法律上の結婚と同様といえるほど成熟して安定していること,AさんとBさんとの間に産まれた子供の養育に特別な事情があったことから,退去強制令書の発布が取り消された,思われます。
決して,「内縁でも在留特別許可が認められる」というわけではありませんが,個別の事情を注意深く見た結果,裁判所が在留特別許可の可能性を認めたという事案でした。