
想定事例(※フィクション)
日本人の配偶者として日本で生活している外国人のAさんが、勤務先の取引で会社の利益よりも知人の利益を優先したのではないかと疑われ、背任で捜査を受けることになりました。Aさんは家族と日本で暮らしており、「不起訴でも在留は大丈夫なのか」「もし有罪になれば強制送還されるのではないか」と強く不安を感じています。結論はまだ決まっておらず、刑事手続と入管対応をどう進めるかで結果が変わる余地があります。
本記事では、日本人と婚姻して「日本人の配偶者等」で在留している方を前提に、背任事件が在留に与える影響を整理します。
刑事手続と入管手続は別
刑事手続と入管手続は別々に進みます。
刑事手続は、捜査、起訴又は不起訴、起訴されたら判決といった流れで、犯罪の嫌疑にどのような刑事処分をするかを決める手続です。
これに対し入管手続は、退去強制の対象になるか、日本に在留を続けられるかを判断する行政手続です。
入管法63条は、刑事手続が進んでいる場面でも、退去強制の手続を進められることを予定しています。そのため、不起訴や無罪でも「それで完全に安心」とは限りません。
在留期間更新は、法務大臣が「相当の理由」があるかを総合判断する仕組みで、在留の必要性、在留状況、素行などが見られます。さらに、日本人の配偶者等としての更新では、婚姻関係を示す戸籍謄本や、日本での滞在費用を証明する資料の提出が求められており、家族関係と生活基盤の説明も重要です。
強制送還の仕組み
強制送還とは、入管の退去強制手続によって、日本からの退去を命じることです。これは刑事裁判とは別に行われる行政手続で、入管法24条に当たるかどうかを軸に判断されます。実際の手続は、違反調査、違反審査、口頭審理、異議申出などを経て進みます。
背任は、他人のために事務を処理する立場の人が、任務に反する行為で本人に財産上の損害を与える犯罪で、現行法上の法定刑は5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
入管で大きな分かれ目になるのは、無期または1年を超える拘禁刑かどうかです。入管法24条は、無期または1年を超える拘禁刑に処せられたことを退去強制事由としています。一方で、全部執行猶予など一定の場合を除外しています。
したがって、背任の刑事手続が不起訴、罰金、執行猶予で終わる場合は、退去強制事由にはあたりませんが、1年を超える実刑なら退去強制の危険は一気に高まります。
もっとも、退去強制の対象になっても、必ず出国で終わるとは限りません。
入管法50条には在留特別許可があり、法務大臣は、在留を希望する理由、家族関係、素行、在留歴などを見て、例外的に日本での在留を認めることがあります。ただし、この許可は当然にもらえる制度ではありません。特に、1年を超える実刑など重い事案では、在留特別許可のハードルも高くなります。
処分別にみる在留への影響
不起訴の場合
退去強制事由にはならず、その後の在留期間更新への影響も比較的小さいです。
ただし、更新は総合判断ですので、刑事事件の前歴が問題にされた場合、背任の疑いが生じてから不起訴までの経緯をどう説明するかなどは重要です。永住許可も直ちに不可能とはいえませんが、事件直後の申請は許可のハードルが高くなるかもしれません。
罰金の場合
罰金は背任であり得る処分ですが、退去強制事由の「1年を超える実刑」には当たりません。
その後の在留期間更新は直ちに不可能とは限りませんが、更新審査ではマイナスとなってしまう可能性はあります。永住許可については、ガイドラインが「罰金刑や拘禁刑などを受けていないこと」を挙げているため、少なくとも直後の申請はかなり厳しくなります。
執行猶予付き判決の場合
執行猶予であれば、退去強制事由の「1年を超える実刑」には当たりません。
ただし、有罪判決そのものは重く見られます。その後の在留期間更新では罰金よりも不利になり、永住許可は当面厳しいと考えるべきです。
また、1年以上の拘禁刑であれば、執行猶予が付いたとしても上陸拒否事由に当たります。特例が適用されれば上陸できることもありますが、出国する場合、その後日本に戻って来られるか注意しなければいけません。
実刑判決の場合
実刑でも、1年を超えるかどうかで法的な位置づけが大きく変わります。1年を超える実刑なら退去強制事由に当たり、在留特別許可が得られなければ強制送還です。1年以下の実刑でも安全とはいえず、在留期間更新や永住許可の場面では非常に厳しい評価になりやすいです。
実刑レベルでは、在留特別許可を視野に入れた対応が中心になります。
在留特別許可で見られる事情
在留特別許可は、個別事情の総合考慮で決まります。日本人の配偶者等では、婚姻歴が長いこと、養育する子がいること、その他日本での生活基盤が安定していることが特に大切です。家族関係と生活の安定を資料で示せるかが重要になります。
背任事件では、被害の回復、示談、勤務先との関係修復、金銭管理の改善、再発防止策も重要です。背任は、任された立場で信頼を裏切ったことが問題になる犯罪だからです。反省を述べるだけでは足りず、被害者への対応状況、家族の支援、就労継続の見通しなどに関する資料をそろえて、「もう同じことをしない」と具体的に示す必要があります。刑事手続と入管手続は別々に動くため、弁護士が早期に入れば、供述や資料を両手続で矛盾なく整理しやすくなります。
退去強制後に再び日本に来られるか
退去強制の後に、すぐ日本へ戻れるわけではありません。上陸拒否期間という、一定期間、日本への上陸が認められないルールがあるからです。
退去強制が初回なら原則5年、過去にも退去強制歴があれば10年です。
上陸拒否期間が過ぎれば、法律上は再度の申請余地が生まれます。これは、いま日本に残るための在留特別許可とは別の話です。在留特別許可は現在の退去強制手続の中で日本に残れるかを判断する制度ですが、退去強制後の再上陸は、いったん出国した後に、上陸拒否期間の経過後、あらためて「日本人の配偶者等」などの在留資格で日本への上陸・在留を求める流れになります。
その際は、婚姻の実体、生活の安定、背任事件後にどう立て直したかなどが厳しく見られると考えるべきです。
早めに弁護士へ相談すべき理由
日本人の配偶者等と背任の組み合わせでは、見落としかねない分岐が多くあります。不起訴、罰金、執行猶予、実刑では退去強制事由となるかの位置づけが違いますし、在留期間更新、永住許可などへの影響の大きさも変わります。さらに、婚姻の実体、生活費の裏付け、税や保険の履行、被害回復の状況等に関する資料まで一体で整理しなければなりません。
対応を誤ると、不利な説明が固定される、必要資料が足りないなどといった不利益につながりかねません。逆に、外国人事件に強い弁護士が早く関与すれば、刑事処分の軽減を目指しつつ、入管で重視される家族事情や生活基盤関係の資料も整理し、結果が変わる余地を残せます。背任事件で日本に残れるか不安があるなら、早期相談がとても重要です。

