
【事例】
Aさんは日本で永住権を取得し、家族と同居しながら会社員として働いていました。
ある日、同僚との飲み会でビールや焼酎を飲んだ後、「家が近いから大丈夫」と考えて自家用車を運転しました。
帰宅途中、信号待ちでふらつくような動きを不審に思った警察官に呼び止められ、呼気検査を受けました。
その結果、呼気1リットル中0.25ミリグラムのアルコールが検出され、酒気帯び運転として現行犯逮捕されました。
Aさんは「永住だから国外退去にはならないはず」と考えていましたが、会社への連絡や家族への影響に加え、今後の在留への影響も心配になりました。
飲酒運転
飲酒運転は、道路交通法65条で禁止され、酒酔い運転は「5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」、酒気帯び運転は「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」とされています。
酒気帯び運転は、呼気1リットル中0.15mg以上(0.25mg未満/以上で行政処分が分かれる)といった数値基準があり、酒酔い運転は数値に限らず「正常な運転ができないおそれがある状態」を指す整理が一般的です。
ただし、外国人の場合は「刑事の結末」だけでなく、在留に関する行政判断(入管手続)が別途進む可能性があるため、家族の生活設計に直結する不安が生じやすい領域です。
本記事では、在留資格「永住者」の方とご家族を主対象に、①刑事手続と入管手続の関係、②退去強制(強制送還)リスク、③不起訴・罰金・執行猶予・実刑ごとの見通し、④事件後の在留や再入国の可能性を、実務で使われる判断枠組みに沿って弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
刑事手続と入管手続は別の手続
外国人が犯罪に関わると、原則として「刑事手続(警察・検察・裁判所)」と「入管手続(在留管理・退去強制)」という二つの手続が並走します。
入管手続は、出入国在留管理庁が担う行政手続で、刑事裁判の有罪・無罪とは別に、入管法が定める「退去強制事由」に当たるかを審査する構造になっています。
そのため、たとえば不起訴になった場合でも、在留関連の審査(将来の永住申請、在留資格変更、再入国時の審査など)で「素行」や生活状況が見られる余地は残り得ます。
一方で、退去強制は法律上の要件(退去強制事由)が必要で、単に「検挙された」「逮捕された」というだけで直ちに退去強制が確定するわけではありません。
手続の流れ(概念図)
【刑事】
検問・事故 → 捜査 → 送致 → 起訴/不起訴 → 裁判 → 判決確定
【入管】
情報把握 → 違反調査 → 違反審査 → 口頭審理(請求があれば) → 異議申出(不服があれば) → 裁決 → 退去強制令書の執行/在留特別許可
両者の接点になりやすいのは、「刑の確定」や「在留特別許可を目指す局面」で、刑事側の対応(示談、反省、再犯防止)が入管側の評価材料にもなり得ます。
退去強制と退去強制令書の基本
退去強制(いわゆる強制送還)は、入管法が定める退去強制事由に該当すると認定された場合に、退去強制令書によって日本からの退去を強制する行政処分です。
飲酒運転(道路交通法違反)との関係で確認すべきポイントは、「退去強制事由(刑罰法令違反)のどれに当たり得るか」です。
永住者の飲酒運転で典型的に問題になるのは、入管法24条の「無期又は一年を超える拘禁刑」を受けた場合などの類型であり、さらに「刑の全部の執行猶予」や「一部執行猶予で実刑部分が1年以下」は除外されます。
ここでいう「拘禁刑」は、従来の「懲役・禁錮」に相当する刑の呼び方として用いられています。
つまり、永住者の飲酒運転は「罰金」や「執行猶予」で終わる限り、条文上は直ちに“自動的に退去強制”となる場面は一般には多くありませんが、実刑で1年超になると退去強制事由に該当してしまいます。
刑事処分別にみる永住者の在留リスク
下記の表は、飲酒運転(道路交通法違反)で想定される代表的な刑事処分と、永住者の在留への影響を「法定リスク」と「実務上の見通し」に分けて整理したものです。
| 刑事上の結論(例) | 退去強制の法定リスク(永住者) | 実務上の留意点(在留・再入国・将来申請) |
| 不起訴 (嫌疑不十分・起訴猶予など) |
直ちに退去強制事由になりにくい | 事故状況・前歴次第で、将来の審査(永住申請・帰化等)で「素行」説明が必要になることがある |
| 略式罰金(罰金刑) | 原則として、罰金のみで直ちに退去強制事由になりにくい | 「前科」が残るため、将来の審査で不利要素として扱われ得る (交通違反の累積も含め説明が重要) |
| 執行猶予付き拘禁刑 (全部執行猶予等) |
入管法24条の一般類型では除外される構造 | 永住者でも、生活態度・再犯防止の具体策が乏しいと、その後の行政判断で厳しく評価され得る |
| 実刑(拘禁刑)で1年超 | 退去強制事由に該当し得る | 退去強制手続に入る場合があり、在留特別許可を目指す局面になり得る |
また、退去強制事由に該当しない場合でも、更新・変更などの許可判断が厳しくなることがあるので、注意が必要です。
永住者だからこその注意点
永住者は在留期間が無期限で、一般的な就労ビザのような「在留期間更新」を定期的に行う仕組みではありません。
ただし、在留カードには有効期間があり、永住者(16歳以上)は「交付日から7年」とされています。
誤解されやすい点ではありますが、「永住=何があっても在留が絶対に守られる」という意味ではなく、一定の場合には退去強制の対象になり得ます。
近年の制度改正との関係では、「永住許可の取消し」の議論が注目されましたが、法務省・入管庁のQ&Aでは、取消しの対象となる刑罰法令違反は一定の重大な故意犯に限られ、道路交通法はその対象に含まれないこと、また罰金は要件(拘禁刑)を満たさないことが明示されています。
その一方で、同Q&Aは「永住者であっても、1年を超える実刑に処せられた場合は、罪名等にかかわらず退去強制事由に該当して退去強制される場合がある」とも述べており、重い実刑は別ルートでリスクが残ります。
再入国については、「みなし再入国許可」で出国した場合の有効期限は原則1年であり、期限切れによる搭乗拒否等のトラブルが起き得るため、在留カード・再入国の期限管理も重要です。
退去強制を避けるための現実的なポイント
飲酒運転が在留問題に発展するかどうかは、「刑事処分の重さ」と「入管が評価する事情(家族・生活・再犯防止)」の組合せで動くことが多いです。
特に永住者の場合、在留特別許可(日本に残るための例外的許可)の検討場面で、永住者であること自体が考慮対象として位置付けられています。
在留特別許可の判断では、在留希望理由、家族関係、素行、入国経緯、在留期間・法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性、内外の諸情勢等を考慮する枠組みが示されています。したがって「早い段階からの弁護活動」が、入管対応にも直結しやすいです。
典型的には、被害がある事件なら謝罪と賠償(可能なら示談)、家族の生活実態(扶養・同居・子の養育)、職場での再発防止策、アルコール依存が疑われる場合の治療・通院、免許返納や運転禁止の誓約などが、資料として積み上がるほど評価材料になり得ます。
事件後の在留資格の再取得と再入国の見通し
万一、退去強制となった場合は「日本に再入国できない期間(上陸拒否期間)」が問題になります。
日本法令外国語訳DBの条文(入管法5条関連)では、退去強制で出国した場合に「5年」または「10年」、出国命令で出国した場合に「1年」といった整理が示されています。
ここに加えて、入管法5条には「日本国又は日本国以外の法令に違反して、一年以上の拘禁刑(等)に処せられたことのある者」は上陸できない、という類型もあり、こちらは期間限定とは書かれていません。
そのため、飲酒運転が重い判決(たとえば1年以上の拘禁刑)に至った場合は、退去強制の有無とは別に、再入国自体のハードルが上がり得る点は要注意です。
他方で、まだ日本にいる段階で退去強制手続に入った場合は、「在留特別許可」を目指す余地が残ることがあります。
在留特別許可は、例外的な制度である一方、退去強制事由がある人でも許可により退去強制されない場合があります。
外国人事件に強い弁護士へ早期相談する意義
外国人の飲酒運転は、「刑事事件としての最適解」と「在留を守るための最適解」が必ずしも一致しないことがあります。
入管手続には、口頭審理の請求期限が原則「通知を受けた日から3日以内」とされるなど、短い期限が存在し、初動の遅れが取り返しにくい場面があります。
また、在留特別許可で重視され得る事情(家族関係、生活実態、素行、再犯防止)を「刑事の段階から」整えておくほど、後段の入管判断に耐える記録になりやすいです。
逆に、反省や再発防止の説明が弱いまま刑事手続が終わると、退去強制事由に当たらない場合でも、その後の在留関連の許可判断で厳しい評価を受ける実例もあります。
「正しい順番で、必要な資料を、必要なタイミングで出す」ことが結果を左右し得る分野だからこそ、外国人事件の経験がある弁護士にできるだけ早く相談する価値があります。

