(事例はフィクションです)
Aさん(外国籍,日本人の配偶者等・3年)はある時,日本に在留している外国人コミュニティー内でお金の貸し借りからトラブルになってしまいました。
Aさんは知人に,お金を返してもらおうと思ってつい強い口調になってしまい,これに怯えた被害者の方が警察に相談したところ,Aさんは脅迫の犯人として原宿警察署で逮捕されてしまいました。
Aさんの家族は,これからどうなるのか不安に思い刑事事件に強い弁護士事務所に相談することにしました。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では逮捕された方の下へ弁護士を派遣する初回接見サービスを行っています。
弊所の東京支部から原宿警察署までの初回接見費用は3万5530円(接見日当3万3000円,交通費2530円)です。
原宿警察署で逮捕されてしまったという外国人の方,そのご家族やご友人の方は「無料相談・出張相談」までお問い合わせください。
このページの目次
脅迫罪による逮捕
脅迫罪は刑法222条1項に定められている犯罪です。
脅迫罪
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する。
人を「脅迫した」場合に成立する犯罪です。Aさんのように「お金を貸した/返済してほしい」という立場であっても,言動があまりに強すぎた場合,脅迫に該当する可能性があります。
上記の事例のように,知人同士での間柄の事件の場合,事件の蒸し返しや不当な働きかけをすることを疑われるため,逮捕されてしまうという事例が多くあります。
また,事件を起こしてしまったことを争わなかった場合,被害者と示談ができなければ起訴されてしまい,有罪の判決を受けてしまいます。
脅迫罪で起訴されてしまった場合,前科がなかったとしても懲役刑が科されてしまう可能性もあります。懲役刑が科されると,外国籍の方の場合,在留資格に大きな影響があります。
在留資格への不利益を一番に避けるためには,起訴されないための弁護活動,すなわち被害者との示談交渉が重要です。
不起訴処分となれば,脅迫罪の場合,直ちに強制送還となる可能性を最小限まで引き下げることができます。
脅迫罪の示談交渉についてお困りの方は,「無料相談・出張相談」までお問い合わせください。
退去強制とは
日本から外国人の方を強制送還する手続きのことを,正式には「退去強制」と言います。
退去強制手続きは主に
- 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
- 入国警備員による調査
- 入国審査官による審査
- (場合によっては)法務大臣による裁決
という4つの段階を踏まえて進められていくことになります。
退去強制の理由となる理由が発生した場合,そのことを入国管理局が知ることで調査が実施されます。調査の結果は全て,入国審査官へ引き継がれて「強制送還をすることが適法かどうか」の審査がなされます。審査の結果を踏まえて,強制送還が最終的に決定されることになります。
強制送還をする,という審査がなされた後,決定に不服がある場合には異議を申し出て口頭審理,法務大臣の裁決へと手続きが進みます。
口頭審理,法務大臣の裁決を踏まえて,最終的に強制送還をするか,在留特別許可をするか,それとも強制送還をしないか,といった決定が下されることになるのです。
刑事事件を起こしてしまった外国人の方が強制送還されるかどうかという点や,審査手続きの流れについて細かく解説します。
退去強制の理由になる事実
入管法上,刑事事件と関連して強制送還される場合というのは,次のような場合です。
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
執行猶予が付いたとしても強制送還になってしまう刑法犯は,代表的には次のようなものです。
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- 住居侵入罪
- 公文書/私文書偽造罪
- 傷害罪,暴行罪
- 窃盗罪,強盗罪
- 詐欺罪,恐喝罪
これらの罪の場合,たとえ執行猶予付きの判決であったとしても,裁判が確定すると強制送還の対象となります。一定の刑法犯で懲役刑,禁錮刑に処せられたとして強制送還されるのは,入管法の別表1に該当する在留資格をもって日本に滞在している外国人の方です。入管法の別表1に該当する在留資格とは,こちらのページで列挙されています。
在留資格の一覧についてはこちらです。
何かしらの犯罪で逮捕されてしまった,というだけでは強制送還の対象とはなっていません。ですが,逮捕,勾留に引き続いて「公判請求」,つまり,「起訴」がなされてしまうと有罪の判決が言い渡される可能性が極めて高く,有罪の判決を受けると内容によっては強制送還されてしまう可能性があるということです。
特に,薬物事件や入管法違反については,「悪質な事案」として入管法でも厳しく扱われており,強制送還されやすくなっています。逆に,一般刑法の違反の場合には,「その罪名や言い渡された刑の内容によっては強制送還される」という定め方になっています。
Aさんの事例の場合,日本人の配偶者のビザであり,かつ,脅迫罪による懲役刑ということであれば直ちに強制送還とまでなる可能性は高くありません。
Aさんの立場でいうと,「1年を超える懲役刑」を科された場合に,強制送還となります。
入国警備官による調査
刑事事件を起こしてしまったことが強制送還の理由となってしまった場合,刑事手続きが終了した後,近くの各地方出入国在留管理局に呼び出された上で,入国警備官による調査を受けることになります。
この時の調査の内容は,「退去強制をするべき事実が発生したかどうか」ということに限られます。そのため,調査での一番の調査事項は,
- 一定の入管法によって処罰されたかどうか
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決が確定したかどうか
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられたかどうか
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けたかどうか
という点になります。そして,これらの事実のほとんどは,刑事裁判の結果を基に認定がなされます。
裁判で事実を争っていない場合にはそのまま「強制送還の理由あり」という認定になってしまうでしょう。
裁判で争っていた場合,または入管の手続きになってから初めて事実を争うという場合,改めて証拠を提出したり詳細な主張を行ったりする必要があります。
入国審査官による審査
入国警備官が調査した内容は,そのまま入国審査官へと引き継がれていきます。そして入国審査官が対象となる外国人の方と面談(interview)を行い,審査を実施します。
審査の対象となるのも上に書かれた調査事項と同様です。
なお,強制送還の理由となる事実に加えて,日本での生活や仕事のこと,家族のこと,財産のこと等も一緒に質問されることがあります。
これは,強制送還の理由になる事実があったとしても,在留特別許可をするかどうか,という判断で考慮される事情になります。
審査が終わると強制送還の理由になる事実があったか/なかったか,という点についての判断がなされ,「事実があった」と認定されると一時的に入管の施設に収容されてしまいます。
元々オーバーステイだった場合には,そのまま収容が続いてしまうことが多くあります。
一方で,審査が終わるまでは一応在留資格をもって日本に在留していたという方の場合,一時的に収容の手続きがなされたとしても,すぐに「仮放免」といって,保証金を払うことで釈放される場合もあります。仮放免の解説はこちらです。
入国審査官による審査が不服であった場合,強制送還の理由になる事実があったとしても,さらに日本での在留を希望する場合には,その後の口頭審理という手続きを行うことになります。
口頭審理とは何か?
口頭審理とは,入国審査官が「退去強制事由がある」と判断をしたことに対して,特別審査官が再度審査をするという手続きのことです。
退去強制になるまでには,
- 理由となる事実の発生(例:オーバーステイ,不法就労,虚偽の申請,犯罪歴などなど)
- 入国警備員による調査
- 入国審査官による審査
- (場合によっては)法務大臣による裁決
という段階がありますが,「口頭審理」という手続きは,この3と4のちょうど間にある手続です。
口頭審理では,入国審査官の判断が間違っていたかどうか,が審理の対象になります。
そのためまずは,強制送還の理由となった事情について再度細かく質問を受け,その後,日本での在留に関する質問をされます。ですが,口頭審理でのインタビューは,法務大臣の裁決という手続きに進む前の,最後のインタビュー手続きです。
そのため,口頭審理の場では,違反審査に関する事だけでなく,在留特別許可を認めるかどうかの判断で重要となる部分の『聞き取り』も行われることになっています。
ただ,あくまで「聞き取り」を行うだけですので,事実に間違いがない限りは,口頭審理の結果については,「元の審査に誤りはなかった」と判断されることになります。
口頭審理の後も,引き続き日本での在留を希望するという場合には,異議の申立てをして,法務大臣の裁決を求めることになります。
口頭審理のポイントとなるのは,『法務大臣による裁決前の最後のインタビューである』という点です。
法務大臣の裁決
入国警備官による調査から始まって,強制送還に関する最後の手続きが法務大臣の裁決という手続きです。
この手続では面談などはなく,口頭審理の結果を踏まえて在留特別許可をするかどうかについて,書面による審査が実施されます。
法務大臣の裁決では,それまでの手続きにおける間違いがないかどうかという点の審査に加えて,在留特別許可をするかどうかという最も重要な点についての審査が行われます。
在留特別許可をするかどうかについては,入管における判断の透明性を確保するという観点から,ガイドラインが公開されています。
そのガイドラインの大枠は,次のようなものになります。
- 積極要素
日本人の子か特別永住者の子である
日本人か特別永住者との間に生まれた未成年の子を育てていて親権を持っていること等
日本人化特別永住者との間に法律上有効な婚姻が成立している
⇒日本と外国人とが,家族関係を持つレベルで接着していること
- 消極要素
重大犯罪によって刑に処せられた
出入国管理行政の根幹を犯す違反をした
反社会性の高い違反をした
⇒日本に在留させることが日本にとって不利益が特に大きい場合
最終的には様々な事情を総合して判断することにはなりますが,これらの積極要素/消極要素を中心にして,過去の事例なども参考にしながら,在留特別許可をするかどうかの判断がなされます。
まとめ
Aさんの事例では「1年を超える懲役刑」となった場合には強制送還になってしまう可能性が高くありますが,Aさんの事情を考慮すると,在留特別許可をもらえる可能性もあります。
また,すぐに強制送還にならないとしても,次回の在留期間の更新の際に不利な事情となってしまいます。日本に残って生活を続けたいと希望する場合には刑事の手続の中で早急に示談をして不起訴処分を獲得することが重要です。
強制送還に関する手続きについて,弁護士等に一度ご相談された方が良いでしょう。