(以下の事例はフィクションです)
外国籍のAさんは,留学生として来日し,日本の企業に就職して「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得して日本に在留しています。
Aさんは日本の会社に勤めており,日本での生活は5年程度です。ある日Aさんは,会社の飲み会へ車で行ってしまい,「少しくらい平気だろう」という気持ちから,飲酒運転をしてしまいました。その結果,Aさんは前を走っていた車に追突して,人身事故を起こしてしまいました。Aさんは警視庁大塚警察署に逮捕され,道路交通法違反,過失運転致傷罪で起訴されてしまいました。
Aさんは,今後も日本に残ることができるのでしょうか。
飲酒運転での逮捕,起訴
飲酒運転は,通常の運転と比べて重大な事故を起こしてしまう危険がある運転です。
統計上,通常の運転による事故で死亡事故となってしまうのは「0.78%」ですが,飲酒運転の場合はその7倍の「5.54%」が死亡事故になってしまうのです。
参考:警視庁HP
そのため,飲酒運転で事故を起こしてしまった場合には,逮捕されるケースが多く,死亡事故にはならなかったとしても,起訴される可能性が高い事件になります。
Aさんのように,「少しくらい平気だろう」というという甘い認識が,重大な事故につながってしまうのです。
在留資格・ビザは取り消されるのか
Aさんのように,「技術・人文知識・国際業務」の在留資格にて日本に在留している方が,飲酒による人身事故を起こして,起訴されてしまった場合,ビザが取り消されたり強制送還されたりすることはないのでしょうか。
まず,Aさんの「技術・人文知識・国際業務」のビザのように就労系のビザの場合,強制送還される可能性があるのは次のような場合です。
- 一定の入管法によって処罰された場合
- 一定の旅券法に違反して懲役,禁錮刑に処せられた場合(資格外活動の場合,罰金だけでもアウト!)
- 麻薬取締法,覚醒剤取締法,大麻取締法などの薬物事件で有罪判決を受けた場合
- 一定の刑法犯で懲役,禁錮刑に処せられた場合(執行猶予がついてもアウト!)
- どの法律違反であっても,「1年を超える実刑判決」を受けた場合
Aさんの事件は,道路交通法違反,自動車運転過失致傷ですから,4つめの「一定の刑法犯」には該当しません。そのため,1年以上の実刑判決を受けることがなければ,強制送還にはならずに済むかもしれません。
しかし,「在留資格の取消し」に注意しなければなりません。
在留資格の取消しとは,一度ビザが認められた後の事情によって,ビザが取り消されてしまうことです。
ビザが取り消されてしまうのは,次のような場合です。
- ビザの手続きで嘘の記載をしたり,不正な手段を用いた場合
- ビザの手続きにおいて虚偽の書類を提示した場合
- 正当な理由なく在留資格に応じた活動を3か月以上行っていない場合(配偶者ビザの場合には6か月)
- 住所地に関する届け出をきちんとしなかった場合
細かく言うとさらに別れるのですが,概ね上記のような場合にビザが取り消されることがあります。
Aさんの場合,「3」が問題になってしまいます。Aさんは飲酒運転,人身事故によって,会社を解雇されてしまう可能性があるのです。解雇された後,転職先が見つからなければ「在留資格に応じた活動を行っていない」として,ビザの取消の対象となってしまうことがあります。
日本の企業において,「逮捕された」ことや「飲酒運転をしていた」というのは,とても責任が重いことで,懲戒解雇となる可能性も高い違反です。
日本で逮捕されてしまった,起訴されてしまった,という外国人の方は,ビザのことを含めて専門家に相談した方が良いでしょう。