このページでは,在留特別許可を求めて争った裁判事例について,判決文を解説します。
今回の事例は,令和元年12月19日に東京地方裁判所で判決が言い渡された事例です。
この事例は,刑事事件について有罪判決を受けて一度在留特別許可を受けていたXさんが,再度別の事件について有罪判決(懲役刑の実刑判決)を受けたため退去強制(強制送還)の手続きが進められましたが,Xさんは再度在留特別許可を求めて裁判を起こしたというものです。
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事案の概要
外国籍であるXさんは「定住者」として日本に上陸し,日本で同じ外国人の方と結婚して二人の子供をもうけました。
その後,Xさんは窃盗や窃盗幇助の罪により,執行猶予付き判決を受けた後,さらに懲役刑の有罪判決を受け,刑務所に収容されました。刑務所内で刑を受けている間に,Xさんの在留期限が過ぎてしまい,オーバーステイとなってしまいました。しかし,Xさんは受刑中にこれまでと同じ「定住者」として在留特別許可を受けました。
Xさんは仮釈放により刑務所から出所しましたが,その後,更に窃盗により懲役刑の実刑判決を受けました。一度在留特別許可を受けてから二度目の実刑判決を受けるまでの間に在留期間の更新許可を受けていましたが,二度目の実刑判決の後は在留期間の更新が不許可となり,再度オーバーステイとなってしまいました。そしてXさんに対しては,2度目の在留特別許可がなされました。
二度の実刑判決を受けた後,さらにXさんは別の罪により逮捕され,起訴されてしまいました。この裁判期間中に3度目のオーバーステイ状態となってしまい,その後3度目の懲役刑の実刑判決を受けました。3度目の実刑判決の刑を受け終わり刑務所から出てきた後,強制送還の手続きが進められたため,Xさんは3度目の在留特別許可を求めて裁判を起こしました。
なお,3度目のオーバーステイ状態となった後,Xさんは家庭裁判所にて離婚し,子供たちの親権も失うこととなりました
裁判で重要となった要素,裁判所の判断
裁判所はXさんの訴えに対して,今回Xさんに在留特別許可をしなかったことには違法な点はないとしました。その中では,①Xさんの日本国内での在留の状況②日本への定着の程度③Xさんの子供との関係④Xさんが本国に送還されることによる支障という点が判断のポイントとなりました。
①の点について,強制送還を受ける原因となった刑事事件の内容は悪質なものであって,実刑判決を受けていること自体,Xさんの在留状況が悪質であるとされました。また,2回も実刑判決を受けていることやその度に在留特別許可がなされてきたことからも,日本国内で更生する機会があったのに再度罪を犯したことが大きなマイナスポイントになりました。
②の点について,Xさんは23歳の時に来日して18年以上日本で生活してきましたが,Xさんが日本で逮捕されたり受刑していたりした期間の合計が日本での生活の半分以上でした。
18年日本で生活しているという事情は,通常,長期間日本に滞在していたとして在留特別許可を受けるプラスポイントですが,Xさんの場合,実際には社会内で生活していたわけではないとして,プラスポイントとはなりませんでした。
③の点について,3度目の在留特別許可をするかどうか判断する時点では,Xさんは離婚して子供とも別居して親権を行っておらず,実際には子供たちとの関係も希薄になってしまっていたこともあり,この点もプラスのポイントになりませんでした。
④の点について,Xさんは23歳までは本国で生活してきていて,本国の言語や文化を習得しているので,強制送還されたとしても本国で生活することが可能であるとされました。
以上の点を総合して,裁判所は,Xさんに在留特別許可を与えなかったという判断は誤った点はないと判断して,Xさんの訴えを棄却しました。
コメント
この事例のXさんは日本で2度実刑判決を受けており,そのたびに在留特別許可を受けてきた,というやや特殊な事情がありました。
その後,更に実刑判決を受けた際,3度目の在留特別許可を求めたものの,認められなかったという事例です。
2回目の実刑判決の際には在留特別許可が受けられたのに,3回目の実刑判決の際には受けられなかったというのは,
・何度も日本で実刑判決を受けていたということ
・離婚をして日本で生まれた子供と別居して親権者で無くなったこと
が大きな事情であると思われます。
入管実務上,実刑判決を受けたとしても在留特別許可を受けられることはありますし,日本でお世話をする人がいる事,例えば子供がいることや介護が必要な家族がいる事は在留特別許可を認めるためのプラスポイントであると言えます。