退去強制されないためにはどうしたらよいか

1 退去強制されないために考えるべきこと

退去強制は日本での在留を認めず外国人を強制的に本邦外へと送還する手続です。

後述するように任意で日本から出ていくのではなく,日本での滞在を続けたいと思った場合に検討すべき手段についてご紹介します。

  • 違反調査で事実を争う
  • 在留特別許可を求める
  • 行政訴訟を提起する(出国命令制度で出国する)

 

2 違反調査で事実を争う

退去強制は入管法に列挙されている事情がなければ行うことが出来ません。これらの事情がない場合には,退去強制事由の有無を争うことが考えられます。

例えば,偽装結婚によって日本人の配偶者となり,日本に上陸したとして不法上陸したとされているが本当の結婚であったことを主張する場合,専ら資格外活動を行っていたとみられているが正当な在留活動を続けていた場合等があります。

違反調査は,基本的には収容令書が出して始められ,入管でのインタビューを行いながら進められます。このインタビューへの対応の仕方によって,退去強制事由があったか,なかったかの認定に影響してきます。また,退去強制事由がないことの証拠,上の例の場合であれば,本当の結婚であったことの証拠(夫婦での写真や陳述書)や,正当な在留活動をしていたことの証拠(留学生であれば学校への出席状況等)を集めて提出します。

このような主張と証拠収集活動は,違反調査が始まった早い段階から弁護士に依頼して代理人として活動してもらうのが良いでしょう。違反調査が始まって収容されているようであれば,仮放免を申請し,ご本人からもよく話を聞く必要があります。

加えて,単に事実を主張するだけではなく,退去強制事由がないことについて弁護士の意見書も併せて提出します。特に,資格外活動について「専ら」行っていたと言えるかどうかについては,明確な基準はありません。一日に何時間であれぱ「専ら」か,とか,一週間に何日行っていれば「専らか」といった基準がないのです。

退去強制事由がないという主張は,個々の外国人の方の事情に応じて入国審査官に対して説得的に主張していかなければなりません。

 

3 在留特別許可を求める

違反調査で退去強制事由があることは認定され,事実に間違いはないけれども,日本に在留し続けなければならない理由がある場合には,在留特別許可を求めることになります。

在留特別許可は,「違反調査→(口頭審理の請求)→口頭審理→(異議申し立て)→法務大臣(または委任を受けた地方出入国管理局長)の裁決」のいずれかの後に判断される事項です。
在留特別許可を求める人は,収容令書が出された後,もしくは監理措置が取られた後に書面で申し立てなければなりません。口頭だけで「在留特別許可してほしいです」というだけでは足りません。
また,在留特別許可が受けられるかどうかは,個々の外国人の方の日本での生活状況によって異なります。
その中でも,「特別に在留を許可すべき」事情があるかどうかが一番の焦点になります。

 

4 行政訴訟を提起する

在留特別許可を受けられないまま退去強制令書が発布されてしまい,退去強制が執行される恐れも出てきてしまった場合で,それでも日本に在留することを希望する場合には,国を相手取って訴訟を提起することも考えられます。

その場合,退去強制令書が出されたことが違法であるから取り消すのと,在留特別許可をするように義務付けることを目的とした,行政訴訟という訴訟を起こします。

訴訟を起こす場合には,退去強制令書が出されてから6か月以内に提訴しなければならないという,提訴期間が定められています。

行政訴訟は一般的な民事事件(お金を払え,返せ,という事件や離婚や認知などに関する訴訟)とは違い,国を相手にして争うという点と,退去強制と在留特別許可という極めて政策的な事柄を扱うため,外国人の方やそのご家族たちのような法律に詳しくない方ではとても扱えない訴訟です(もちろん,法律上不可能ではありませんが,手続や書面は極めて難しいものです)。

退去強制の処分が出てしまっても何とか争いたい,という方は,可能な限り早く,弁護士に相談されてください。行政訴訟は「法律事務」といって,他の士業の方(行政書士等)では取り扱えない内容です。

 

☆出国命令制度で出国する

ややニュアンスは異なりますが,退去強制事由を争えず,在留特別許可も難しそうであり訴訟もできそうにない,というとき,出国命令制度についても一考に値します。

退去強制手続きでは向こう5年間は日本に入国できませんが,出国命令に基づいて出国した場合には,再上陸拒否期間が1年間と短く済みます。

出国命令制度を使える方についてはこちらでも解説しています(「日本から出国する流れ」について)。

注意しなければならないのは,出国命令に基づいて出国しようとした場合,上記の退去強制を争う手段を取れなくなるという点です。一度出国命令を出されていたにもかかわらず,その命令の期間内に出国しなかった場合,出国しなかったこと自体が退去強制事由になってしまいます。 退去強制事由に該当し一度出国命令を出され出国の猶予が与えられたにもかかわらず,これを無視したという点で,在留状況としても不利に取り扱われるおそれがあります。

出国命令制度に基づいて出国しようとする場合には,一度は日本から出国することについてよく理解してから行動しなければなりません。

 

☆退去強制されないために

なお,本筋とそれてしまいますが,退去強制されないためにも,「退去強制事由にあたらないこと」が何よりも重要です。

ですが,残念ながら退去強制事由に該当してしまってから(法律の違反になってしまってから)ご相談に来られるという方もいます。もちろん,入管法上の規定が複雑で,何をしてよく,何をしてはいけないのかが分からないというのも問題です。

転ばぬ先の杖として,日本から退去強制されないためにも,これだけはよく確認しておいてください。

 

☆ 在留期限が近づいていませんか?

資格の延長や変更には1か月程度余裕をもって手続きをするのが安全です。

ご自身の在留カードだけではなく,ご家族(特に子供)の在留カードもよく見て不法残留にならないようにしましょう。

 

☆ 在留期限を過ぎたまま放置していませんか?

在留期限を過ぎても,やるべきことはあります。やむを得ず延長の手続が出来なかったのであれば,延長の手続ができることもあります。一番やってはいけないのは,「放置」です。

入管に行くのが怖くても,まずは弁護士などの専門家と相談してください。

 

☆ 就労の制限がついていませんか?

資格外活動は在留資格の更新・延長の時に不利になりますし,「専ら」資格外活動をしているとみられると退去強制事由になります。在留資格が認められる範囲外の活動を行う場合には,正式な資格外活動許可を得ましょう。

※雇用主の方も,外国人の方を雇い入れるときには在留資格と就労の制限についてはよく確認しましょう。

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