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交通事故を起こした後の在留期間の延長は認められるのか,「技術・人文知識・国際業務」ビザについて解説
(事例はフィクションです)
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周囲の景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により事故の対応が行われました。
このとき
- Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
- 刑事罰は、Aさんの在留期間の更新時に影響があるか、若しくは退去強制処分となるか
以上の点について解説していきたいと思います。
過失運転致傷の刑事罰
Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合には、より重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度②事故を起こした側の過失の程度③被害者の側の過失の程度④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。
①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。
Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格について
在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用、労働条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
まず、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、入管法上別表第1の2の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
この上陸許可基準は公表されていますが、概ね業務に関する事項や報酬についての定めが記載されています。
ですので、仮に過失運転致傷によって処罰されたからといって上陸許可基準に該当しないというものではありません。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。
別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず、入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。
この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。過失運転致傷罪で実刑の判決となるのは余程被害が大きい(被害者が亡くなる)とか、過失の程度が大きい場合だけですので、典型的な交通事故ではこれに該当しない可能性の方が高いと思われます。
次に、24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている過失運転致傷は、この列挙された犯罪に含まれていませんから、これには該当しません。
最後に、次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、過失運転致傷は明示的に挙げられていません。
そのため、過失運転致傷罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性が高い一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。
だからといってこの事故のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。
技術・人文知識・国際業務の在留申請について必要な書類はこちらのページにまとめられています。
交通事故に関しては「日本人の配偶者等」の在留資格の場合についても解説をしています。
示談交渉について
先述の通り、過失運転致傷罪で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、怪我の程度がそれほど大きいものでなければ、検察官が最終的な刑事処分を決定してしまうより前に被害者の方と示談を行い、被害者の方からお許しいただければ
起訴猶予処分となる可能性があります。
ただ、任意保険や自賠責保険では、ここまでの示談交渉は行ってくれない可能性が極めて高いです。保険会社が行うのはあくまでも損害の賠償のみであり、被害者の方から許してもらうような示談交渉までは話をしないことが通常です。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、交通事故の被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。もちろん交通事故の場合には相手方の連絡先などを警察官から知らされる場合が多いですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で交通事故を起こしてしまった場合には、期間の更新のためいち早く弁護士にご相談ください。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
就労資格証明書の取得手続
このページでは,就労資格証明書について,解説します。
就労資格証明書とは何か
就労資格証明書とは,『既に取得している在留資格の範囲内で日本で働くことができることと,仕事の内容』を証明するものです。
在留資格には,いわゆる「就労ビザ」と呼ばれるものがあり,特定の仕事をするために日本に在留する際に認められるものがあります。
しかし,就労ビザは,「経営管理」や「教授」「教育」など,種類だけ聞いても「この在留資格でこの仕事に就くことはできるのか?」と判断しにくいものもあります。特に,「技術・人文知識・国際業務」は,パッと見ただけではどんな仕事を含むのか判断しづらく,「これは人文知識の在留資格で働ける仕事なのか」と悩むことも多くあります。
せっかく就労の在留資格が取得できても,それを使って日本で働けるのかどうか分からないというのでは,在留資格を申請する意味がありません。
そこで,「就労資格証明書」を取得することによって,取得した在留資格によって働くことが出来る内容を証明することが出来るのです。
どのように申請したらよいか
就労資格証明書の申請には,次の書類を準備します。
・在留カード,旅券を提示(提示できないときは理由書を提出する)
・申請手数料1200円(窓口で払う)
就労資格証明書の申請は,各地方出入国管理局の窓口で,平日・日中の時間帯に申請書を提出します。
申請から証明書が発行されるまでにかかる期間は,通常その日のうちに発行されますが,転職する場合だと1~3か月程度かかることもあります。
特に,転職にあたって就労資格証明書を申請する場合には期間の余裕を持って申請手続きを行いましょう。
どんな時に使えるのか
就労資格証明書を活用すべき場合とは,上記で触れたように,就労ビザで日本に在留している外国人の方が転職しようとする場合です。
日本人の配偶者や永住許可を受けている方は,日本での就労に大きな制限はないので,基本的には就労資格証明書を使うことは少ないかと思います。
日本国内で転職する際,転職後の仕事の内容についての「就労資格証明書」を取得しておくことで,
①転職先に対して適法な在留資格を持っていることを証明できる。
②次回の在留期間の延長の時に手続きが円滑に進む。
というメリットがあります。
もちろん,就労資格証明書がなくても同じ在留資格に適合する範囲内であれば転職するは可能です。
ただ,就労資格証明書を得ておくことによって,在留資格を変更しないままで問題ないことを転職先に示すことで,転職先の会社としても「この人を雇っても不法就労にはならない」と安心することが出来ます。一般の企業でも,仕事の内容が在留資格に適合しているものなのかどうか,判断するのは非常に難しい場合があります(特に,技術・人文知識・国際業務の在留資格。就労系の在留資格として最も取得されているものですが,その範囲については漠然としています)。
また,通常,転職後の在留期間の延長の審査には追加の書類が多数必要になることに加えて,審査にも時間がかかります。在留期間の延長審査をしている間に,在留期間の満了を迎えてしまう,ということも考えられます。
事前に就労資格証明書を取得しておけば,在留期間の延長申請の時に慌てなくてすみます。
更に,万が一,就労資格証明書が交付さなかった場合には,再度転職活動を続けるということもできます。
もしも,転職した後に在留期間の延長申請をして,「転職後の仕事では在留資格が認められない」ということが分かったとすると,延長申請が認められないだけではなく,在留資格が特定活動へと変更され,日本からの出国準備をしなければならなくなります。そうなると,転職先での仕事を続けることはできなくなってしまいますし,仕事を続けると資格外活動として出入国管理法違反の刑罰にも問われかねません。
そうなる前に就労資格証明書を申請して,転職後の仕事も在留資格に適合するかどうか一度審査を受けておくことで,余裕を持った転職活動ができることになります。
まとめ
就労資格証明書は,①のような事業者にとってのメリット,②のような外国人側にとってのメリットの両方のあるものですが,あまり活用されていないようです。
中途採用やヘッドハンティング等で外国人の採用を考えている事業主の方,在留資格を変えないままで転職しようと考えている外国人の方は,就労資格証明書の取得,活用を検討されると良いでしょう。
就労資格証明書の取得にあたって,手続上分からないことがある方や,手続の代理をお願いしたいという方は,事前に弁護士にご相談いただくのが良いでしょう。