日本人の配偶者が万引き在留期間の更新に影響が出るか

日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日スーパーで買い物をしている際、魔が差してしまい、スーパーの商品を数点万引きしてしまいました。
Aさんの行為はスーパーの店員により確認されており、店を出たところですぐに捕まってしまいました。
以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

窃盗罪の刑事罰

窃盗罪は刑法235条に定めがある罪で、その法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
10年以下と極めて重い罪になっていますが、これは被害額によって法定刑の区分がないからです。
1000円から1万円位の万引きであれば、10年の懲役等を受けることは通常考えられません。

窃盗罪の具体的な刑罰を決める際には、①被害額がいくらであるか②どのような目的で盗んだか③被害回復がなされているか④何回目の検挙であるかが大きな考慮要素となります。

①まず被害額ですが、これは単純に多ければ多いほど重くなるということになります。ただ、1000円と1万円で比較すると1万円のほうが10倍悪いという単純なものではありません。
②目的ですが、自分で使用する目的などが通常だと思われますが、転売目的や組織的な窃盗だと重く見られます。
③窃盗罪は財産に関する犯罪です。ですので、財産的な補填が被害者になされているかどうかも重要です。
④最後に、万引きのような事件の場合これが大きな問題となってくるのですが、何回目の検挙であるかも重要です。いくら被害額が少なく、被害回復がなされていたとしても、何度も何度も
検挙されているような状況では、処分を軽減することにも限度が生じます。一般的な感覚の通りですが、通常は1回目より2回目が、2回目より3回目が、3回目より4回目が重い処分となります。

また、前回と今回の間隔(何年程度空いているか)も重要です。これがあまりに近いということになると、常習性が疑われて、より重い処分となります。

そこでAさんの刑事罰ですが、1回目の検挙であれば被害回復を行っていれば起訴猶予となる可能性も十分あります。ただ、2回目であれば罰金、3回目であれば執行猶予付きの判決という形でどんどん重くなってきます。また、たとえ100円の万引きであっても、執行猶予付き判決中や猶予期間満了後すぐにやってしまうと、刑務所に行く実刑判決となる可能性が相当高いと言えます。

窃盗罪で捕まってしまった場合、被害者と早期に示談することが非常に重要になります。

日本人の配偶者の在留資格について

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。

このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは、
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。

このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
今回Aさんは、窃盗という罪を犯しています。処分がどのようなものになるかについては上記の通りです。

そこで、まずこの刑事処分がAさんにとって「退去強制事由」になるかどうかを見てみます。
Aさんは「日本人の配偶者」ですので、入管表別表第2に記載されている在留資格を有しています。
この在留資格の場合には、「無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」(入管法24条4号リ)に該当する場合には、罪名関係なく退去強制を受ける事由となります。

今回のAさんの場合には、起訴猶予処分や罰金の処分となった場合にはこれに該当しません。また、この4号リで問題とされるのは、実刑、つまり刑務所に行かなければならないような判決だけですから、執行猶予付きの禁錮刑であればAさんにとっては退去強制事由には該当しないということになります。

次に、Aさんの処分が罰金であった場合、退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで言えるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっていますが、窃盗罪は道路交通法違反でもありませんし、事件の種類も大きく異なります。

そのため、窃盗罪で罰金となってしまった場合は、退去強制処分とならないしても、素行不良の要件に該当する可能性があります。もっとも、罰金があったからといってそれだけで更新を認めないというわけではないようです。ですので、罰金前科がある場合には、正直に申告をした上で、被害弁償の状況や再犯防止への対策など、具体的な行動を入国管理局に示していく必要があります。

示談交渉

さて、先述の通り、窃盗で刑事罰を受けてしまうと、在留期間の更新ができなくなる可能性を指摘しました。
しかし、この罪の場合、早期に被害弁償を行い、前科がないようであれば起訴猶予処分となる可能性があります。

ただ、警察は示談交渉の仲介をしてくれるわけではありませんし、前科前歴がなければ国選弁護人を選任できるような「勾留」まではされない可能性も高くありません。。
そのため、在留期間の更新を許可してもらう可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼し、被害者との間で示談交渉を行ってもらう必要があります。
もちろん現場が分かっていますので店舗に行くことは可能ですが、当事者同士で話し合うとトラブルになることが多いため、お勧めはできません。
また、検察官が刑事処分を決めてから示談をしても、処分自体が無くなるわけではありませんから、示談は検察官が処分を決めるまでに行う必要があります。
在留資格を持っている状態で窃盗を起こしてしまった場合には、期間の更新のためいち早く弁護士にご相談ください。

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