留学生が危険運転致傷事故を起こしてしまったら

【事例】

Aさんは,「留学」の在留資格で,日本の大学に通っています。また,日本の大学の自動車サークルに加入しています。
Aさんは,自動車サークルのサークル説明会の際に,新入生Bさんを連れて,山道を自動車で走行していました。その際,山道の急カーブを高速でドリフトすることになっていたことから,左方向に曲がるきついカーブ(制限速度30キロ)に時速80キロで侵入し,ドリフト走行しようとしたところ,上手く曲がることができずに,自動車を木にぶつけてしまい,同乗していた新入生Bさんに全治6カ月の骨折をさせてしまいました。
このような事件を起こしたことから,Aさんは警察に逮捕されてしまいました。

以上を前提として,
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものか
②①の刑事罰によって,Aさんは退去強制処分を受けるか
以上の点について解説していきます。

(1)危険運転致傷罪の刑事罰

Aさんの事件については,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条2号の危険運転致傷罪が成立するかどうかが問題となります。
その規定によれば,①その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させたこと,②それによって,人を負傷させたということが言えなければなりません。
一般に,「その進行を制御することが困難な高速度」と認められるかが問題になりますが,これは,制限速度や道路の状況(直進かカーブか乾いているか湿っているかなど),運転者の技能,ブレーキを踏んでいたかなどから判断されます。
そのため,制限速度を超えていたからといって簡単に危険運転と認められるわけではありません。
今回のAさんの事例の場合制限速度が30キロで,カーブもきついカーブであること,カーブに侵入した際の速度も50キロオーバーの時速80キロであることなどから,「その進行を制御することが困難な高速度」と認められる可能性があります。
これによって,Bさんを怪我させていることから,危険運転致傷罪が成立する可能性があります。

参考記事 危険運転致傷罪で逮捕された場合

危険運転致傷罪で逮捕

この場合の刑事罰ですが,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条2号によれば,危険運転致傷罪については,15年以下の懲役刑が予定されています。
このような危険運転致傷罪の具体的な刑罰を決める際には,①被害者はどのようなけがをしたのか,②被害者の人数は何人か,③運転態様が悪質ではないか,④保険に加入していたかや,被害弁償を行ったかが量刑を決めるうえでの考慮要素になります。

①については,ケガが重ければ重いほど,重く見られます。
②については,被害者となる人数が多ければ多いほど,重く見られます。
③については,赤信号無視や制限速度違反の程度,はみだし運転など交通ルールに反していると考えられれば考えられるほど,重く見られます。
④については,被害弁償を行って居たり,保険に入っていれば有利な事情になります。

今回のAさんは,Bさんに全治6カ月のけがを与えていること,制限速度を50キロもオーバーしてカーブに入っていることが不利な事情として存在し,被害者が一人であることが有利な事情として存在します。また,Aさんが自動車保険に入っているかは不明ですが,入っていたり,被害弁償が済んでいれば有利な事情として見られます。
このような危険運転致傷罪の量刑傾向としては,執行猶予付きの有罪判決となるケースが多いです。よほど運転態様が悪質であったり,被害者が多数である場合に実刑が選択される可能性があります。
今回のAさんのようなケースでは,どちらかといえば執行猶予付きの有罪判決が選択されるような事件であると考えられます。

(2)退去強制となるのか

それでは,Aさんが,刑事処分を受けた場合に退去強制になるか解説します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。ただ、Aさんは留学ですので、在留資格としては別表第1の資格となります。

同条4号の2には「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの」という定めがあり、この条文に該当する場合には仮に執行猶予判決であったとしても退去強制となります。

この中に,危険運転致傷罪が挙げられていることから,執行猶予付きの有罪判決となった場合でも退去強制処分を受ける可能性があります。
なお,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条は掲げられていないことから,自動車運転過失致傷罪で執行猶予付きの有罪判決となったとしても,退去強制処分を受けることはありません。

(3)弁護活動

このような処分が予想されることから,弁護士としては,①危険運転致傷罪の成立を争い,過失運転致傷罪としてより軽い罪として認めてもらうか,②被害弁償等を行い,不起訴などにしてもらうよう活動することが考えられます。
①については,例えば,時速80キロでも自動車を制御することができたこと,運転に慣れていたため,事故を起こさずに進行できると考えたことを主張することが考えられます。このような主張をした場合,罪を軽くすることと,退去強制事由に該当しないということを主張することにもつながります。
また,②については,確かに,被害弁償を行って不起訴にするというのは可能性は低いかもしれませんが,不起訴になる可能性があり,不起訴になると,前科が付かず,退去強制事由になることもなく終わるかもしれないというメリットがあります。

どちらの手段を取るとしても,弁護士による迅速な対応が求められますので,このような危険運転致傷罪を疑われている場合には迅速に弁護士に相談されることをお勧めします。

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