【事例】
留学の資格で在留しているAさんは,大学の友人から「いい仕事がある」と誘われて,駐車場に止めてある自動車の自動ロックを解除し,自動車販売会社に運搬し販売する活動をしていました。
しかし,ある日駐車場に止めてある自動車のドアロックを解除し,エンジンをかけ,自動車(中古車販売価格100万円)を運転しようとしていたところ,自動車の持ち主に発見され,警察を呼ばれ,逮捕されてしまいました。
なお,Aさんに前科はありません。
このような事件の場合に,
①Aさんはどのような刑事処分を受けるのか
②退去強制処分となるのか
という以上の二点について解説していきます。
このページの目次
(1)窃盗罪の刑事罰
刑法235条によれば,「他人の財物を窃取」した場合,「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されることが予定されています。
なお,自動車窃盗の場合には,窃盗未遂ではないかということが争われるのですが,自動車に乗り込み,エンジンをかけるなどの容易に持ち出せるような状態にした場合に,窃盗未遂ではなく,窃盗既遂になります。
今回の事例の場合,Aさんは,エンジンをかけ,自動車を運転しようとしている状態にしているため,窃盗未遂にはならず,窃盗既遂罪が成立します。
窃盗罪の刑罰の重さは,①被害金額,②被害点数,③私的空間に立ち入るような態様のものか,④被害弁償は済んでいるかによって判断されます。
①については,被害金額が高ければ高いほど,重く見られます。
②については,被害点数が多ければ多いほど,重く見られます。
③については,カバンの中や車の中に侵入するなどの事情があれば,重く見られます。
④については,被害弁償が行われれば,事件について軽く見られます。
今回のAさんについては,被害金額100万円,被害点数1点,自動車に立ち入る形態の犯行であることが,Aさんの事件を重く見る事情になります。一方,Aさんが被害弁償を行った場合には,Aさんに有利な事情になります。
しかし,被害金額が100万円を超え,自動車内に入っての犯行であることから,Aさんに前科が無くても,執行猶予付きの有罪判決になる可能性があります。
(2)入管関係でどのような処分がされるのか
退去強制事由に当たるかどうかは,入管法24条に規定されています。
「留学」での在留資格の関係については,入管法24条4号の2に特別な規定があります。入管法24条4号の2によれば,別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者で,刑法第36章の罪により懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由に該当するとされています。
そのため,たとえ,執行猶予付きの有罪判決になったとしても,退去強制事由に該当します。
今回のAさんの事件は,自動車窃盗で,執行猶予付きの有罪判決になる可能性が高いことから,退去強制処分を受けることが予想されます。
(3)弁護士として出来ること
このような刑罰や退去強制処分が予想されることから,弁護士としては,①有利な事情があることから,不起訴処分を求めること,②退去強制処分を避けるよう主張することが考えられます。
例えば,①については,起訴前に被害者と示談し,被害届の取下げなどを認めてもらい,検察官と交渉し不起訴処分を求めることが考えられます。
②の主張はなかなか難しいのですが,自動車を盗むよう脅されていたなどの事情があれば,退去強制処分を免れる主張につながる可能性があります。
このように,留学の在留資格で窃盗事件を起こしてしまった場合,迅速に弁護士に依頼することが適切です。