「留学生」が器物損壊罪で逮捕された,強制送還される?

「留学」の在留資格で日本に滞在しているAさんは,大学の学園祭の打ち上げでサークルの仲間と集まり,飲酒し,気分が高揚していたことから,帰り道の駐車場に止められていた高級車のボンネットに乗り,フロントワイパー1本を手でつかみ,折ってしまいました。
近所の人がその様子を見ていたことから,通報され,Aさんは警察官に現行犯逮捕されてしまいます。
駐車場に止められていた高級車の中古車販売価格としては1000万円でしたが,ワイパーは取り替えることができるため,警察官は,被害金額を10万円と見積もって「10万円のワイパーを壊した器物損壊事件」として立件しました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるのか
②①の刑事罰は,Aさんの在留期間の更新時に影響があるか,若しくは退去強制処分となるか

以上の点について解説していきたいと思います。

器物損壊罪の刑事罰

Aさんは,他人の自動車のワイパーを折ってしまいました。
このように,他人の物を損壊した場合には,刑法261条の器物損壊罪が成立します。
他人の自動車のワイパーを折ってしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は,「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」とされています。
一般的に,器物損壊罪の場合には①被害金額,②修理の難易,③被害弁償の有無,④告訴状の取下げなどを考慮して処分が決められます。
①については,被害金額が大きいほど罪が重くなります。
②については,修理が難しい態様での物の損壊であると,罪が重くなります。
③については,被害弁償が済んでいる場合については,罪が軽くなる傾向にあります。
④については,告訴状が起訴前に取り下げられた場合,そもそも起訴が出来なくなります。
Aさんの事件について考えると,被害金額は,10万円と被害金額としては大きいということはありますが,ワイパーは取り換え可能であることから修理が困難で罪が重く見られるということはなさそうです。
そのため,Aさんの刑事罰は被害弁償が済んだかということや,告訴状が取り下げられたかによって判断されます。

仮に早期に示談が成立し,被害者が被害届を取り下げたという場合や,告訴まではしないという意思を示してもらえれば,起訴猶予の処分を獲得できる場合もあります。
早期の刑事事件での対応が今後の明暗を分けることになりますから,ご不安な方・ご心配な方は早めに弁護士にご相談ください。

「留学」の在留資格について

在留期間の更新に関しては,出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち,刑事事件で逮捕されてしまった人の場合,特に4「素行の善良性」が問題になります。
この4素行善良性について,「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。

まず、「留学」の在留資格は、入管法上別表第1の4の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。
別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている器物損壊罪は、この列挙された犯罪に含まれていませんから、これには該当しません。

退去強制(強制送還)について

次に,入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。今回の事例のように,器物損壊罪の事件である場合,実刑になる可能性は低いです。ただし,被害弁償が済み,罰金や不起訴処分となった場合などには,退去強制とはならない可能性が高いです。

最後に、次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
そのため,器物損壊罪についても,執行猶予となったとしても有罪判決を受けて刑罰を科せられたとなれば,この定住者告示第3号に該当することを理由として,ビザの更新が拒絶される可能性があります。
起訴猶予処分であれば問題にならない可能性が高い一方、有罪判決となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。
だからといってこの事件のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、在留期間更新を申請しなければなりません。
Aさんのような事案の場合,「すぐに退去強制事由になる可能性は低い,在留期間の更新が認められない可能性がある」,ということになります。

示談交渉の重要性

先述の通り,器物損壊罪で罰金刑でも有罪判決になってしまうと,在留期間の更新が得られなくなる可能性を指摘しました。
しかし,この罪の場合,示談交渉が進み示談が成立した場合,起訴猶予処分で不起訴となる可能性があります。
また,示談交渉の際に告訴状の取下げをしてもらえると,不起訴の可能性が大きく上がります。
ただし,物を壊された被害者の被害感情が強い場合には,Aさんと被害者の直接の交渉というのは難しいので,弁護士をつける方が望ましいです。
そのため,器物損壊罪で逮捕されてしまった,検挙されてしまったという方は,在留期間更新のためにいち早く弁護士にご相談ください。

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