2023年入管法改正の概要,「改悪」と言われる点はどこか

2023年6月9日に参議院本会議で入管法改正案が可決し、改正入管法が成立しました。

今回の改正入管法について、あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

今回の入管法改正の背景として、改正の目的として大きく分けて以下3つの課題が示されました。

現状の入管法が抱えていた「課題」

当局が考えていた課題としては,大きく3つのものがありました。

①送還忌避問題,②収容を巡る諸問題,③紛争避難民などを確実に保護する制度が不十分であること,の3つです。

課題①(送還忌避問題)は,退去すべきことが確定されたにもかかわらず退去を拒む外国人の存在に対しての課題です。

令和3年12月末現在で,特別な事情も理由がなく送還忌避(:帰りたくない,と言って拒むこと)をしている外国人は3224人いました。そのうち日本での前科がある人が1133人,さらに前科の内容として「実刑判決」を受けていた人が515人いました。

この515人を刑期別にみると,懲役1年以上3年未満の実刑が185人,懲役3年以上5年未満の実刑が141人,懲役5年以上7年未満が91人,懲役7年以上が98人いました。

これまでの入管法では,難民認定中の人は申請の回数や理由を問わず,また重大な罪を犯した者やテロリスト等であっても退去させることはできませんでした(送還停止効)。

このため過去に重大犯罪をおかし退去強制を受けている人が,退去を回避することを狙って難民申請を繰り返していることが指摘されていました。

 

課題②(収容を巡る諸問題)をどう解決していくかという課題です。

現行法では,退去すべきことが確定した外国人については,原則として,退去までの間,収容施設に収容することになっています。

しかしながらこれでは外国人が退去を拒み続けると収容が長期化しかねません。

収容の長期化を防止するためには現行法では「仮放免」制度を活用するしかありませんが,この制度はもともと,健康の理由等がある場合に一時的に収容を解除する制度で,逃亡等を防止する手段が十分ではありませんでした。

 

課題③(紛争避難民などを確実にする制度が不十分)

難民条約上の難民には必ずしも該当しないが、難民に準じて保護すべき紛争避難民などを確実に保護する制度がありませんでした。

改正法によって変わったところ

課題①の解決に向けて、今回の改正法では、以下の1~3の場合に送還停止効の例外を設けました。

  1. 難民申請は原則2回まで、3回目以降の難民申請は「相当の理由」がなければ申請を認めない。
  2. 3年以上の実刑に処せられた者はたとえ難民申請中であっても送還を可能とする。
  3. テロリスト等はたとえ難民申請中であっても送還を可能とする。

この改正部分が今回の入管改正法の審議の中で最も大きな争点となりました

法律の改正を訴えてきた入管は「この改正がなければ,理由なく難民申請を繰り返すことによって外国人が日本に居座ることができてしまう」と主張してきました。

そこには我が国の出入国在留管理行政を担う立場から、社会秩序の維持、公共の安全、適正で円滑な入国管理行政が根底にあるように思います。

この改正に反対する側の意見として,「日本の難民認定率は極端に低く,3回以上の難民申請を認めなければ本当の難民を見落とす危険性がある。本当の難民を強制送還して帰国させ,もし逮捕されて殺されたら取り返しがつかない」という点が挙げられていました。

この主張の根底には、少数者の人権保障が考え方あるように思います。

結果的に今回の入管法改正では入管側が求めるような法改正がなされた,ということになります。このため,今回の法改正が「改悪」と言われることもあります。

課題②に対応するため「監理措置」という制度が設けられました。

親族や知人など,退去強制対象者の監督等を承諾している者を「監理人」として選び,その監督の下で逃走を防止しつつ,収容しないで退去強制手続きを進めるというものです。さらに被収容者の収容を3か月毎に見直し,収容の必要のない者は監理措置に以降する仕組みを導入しました。

課題③に対応するものとして、今回の改正で「補完的保護」という認定制度を設けました。

紛争から逃れた人を難民に準じて保護するため「定住者」として在留資格を認めます。

また在留特別手続きの明確化が図られました。

以上がおおまかな入管法改正の目的です。

参考:出入国在留管理庁HP

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