退去強制されてから日本に再入国できるのか

1 退去強制された後の手続き

退去強制されると,日本国の費用で,もしくは自費で国籍国か市民権が属している国に送還されます。日本に不法入国などをしてパスポートを持っていない外国人の方は,入管を通じて国籍国の大使館に対して連絡を取り,パスポートを発給してもらいます。

退去強制され,送還先の国に到着してからは,日本の法律による手続はありません。退去強制された外国人の方が,改めて日本を訪れようとする場合,退去強制された理由によっては,概ね次のとおり,一定期間上陸を拒否されます。

  • 初めて退去強制された外国人の方⇒退去してから5年
  • 一定の犯罪により禁錮ないし懲役刑の判決を受け,判決確定前に出国した外国人の方⇒判決確定から5年    
  • 過去に退去強制されたことのある外国人の方⇒最後の退去から10年間
  • 犯罪をして1年以上の禁錮ないし懲役刑の判決を受けて確定した方⇒無期限
  • 薬物犯により罰金,禁固刑ないし懲役刑の判決を受けて確定した方⇒無期限    
  • 売春に直接関係がある業務に従事したことがある方⇒無期限

法律の規定は複雑ですが,

「退去強制される」ということと,「日本に再入国できない」ということは全く違うものである

ということだけ理解していただくと良いかと思います。

再入国に関する手続きで不安がある方,自分がどれくらいの間再入国できなくなるのか,そもそもよく分からない,という方は,素人判断をしてしまうのではなく,弁護士などの専門家に相談して疑問を解消しておきましょう。

 

2 日本に再入国できるのか,できないのか

いくつかの例をご紹介して,いつから日本に再入国できるようになるのか,どんな手続きが必要になるのか説明します。

次の例について,どの方も,これまで退去強制されたことも,出国命令によって出国したこともないとします。

 

①Aさんは,パスポートを持たないで日本に上陸したという不法入国によって,2020年3月31日に退去強制されました。

:解説

不法入国は退去強制事由に当たります。

初めて退去強制された場合には,退去した日から5年間日本への上陸が拒否されることになります。この期間については,退去した次の日を「1日目」として計算することになります(「初日不算入」と言われている期間の数え方,民法140条)。

2020年3月31日に退去した場合,2025年3月31日までは法律上,上陸審査で上陸が許可されません。

 

②Bさんは,日本で傷害罪により懲役10ヶ月執行猶予3年の有罪判決を受けて,これが確定する前に,2020年3月31日に日本から祖国に帰国しました。

:解説

・退去強制されるのか?

傷害罪によって有罪の判決を受け,執行猶予付きであっても,禁錮ないし懲役刑の判決を受けてそれが確定すると退去強制事由になりますが(入管法24条4号の2),判決の確定前は退去強制することが出来ません。

 

・再入国できるのか?

判決の確定前に出国した場合と確定後に退去強制された場合とで,再入国できるかどうかに違いがあっては不公平です。

そのため,②のBさんは退去強制されていませんが,判決の確定から5年間日本に上陸することが出来ません。

この場合,出国した日からではなく,判決が確定してから5年間を計算します。

 

③Cさんは,日本で窃盗罪により懲役1年6か月執行猶予3年の有罪判決を受けてこれが確定し,2020年4月1日に退去強制されました。

:解説

窃盗罪で禁錮ないし懲役刑の判決を受けて(執行猶予付きの場合も含む)確定すると,退去強制事由に該当します。通常の退去強制であれば,5年間再入国できないとされています。

しかし,懲役刑の部分が1年以上の場合,執行猶予が付いていても,無期限で再入国の上陸を拒否されてしまいます。

 

④Dさんは,日本で強制わいせつの罪により2020年4月30日に懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けて,控訴することなく判決が確定しました。Dさんは祖国の家族に挨拶に行くために日本を出国しようと思っています。

:解説

強制わいせつの場合には1年以上の実刑判決ではなければ退去強制されません。ですので,日本から出国する自由も,在留資格の延長許可を受けて在留を続けることも自由です。

しかし,③のとおり,懲役刑が1年以上の場合,無期限で上陸を拒否されてしまいます。

この場合,Dさんは,日本に留まることはできても,日本から一度出てしまうと原則再入国できない,という状態になっています。

 

3 どうしても再入国できないのか

上の例①,②の5年間のうちに日本に再入国したい場合や,③,④のように無期限での上陸拒否の場合であっても,「特別上陸許可」を受けることによって,日本に上陸することが出来ます。

特別上陸許可とは,上陸拒否事由(①,②の例の退去強制を受けたことや,③,④の懲役刑の判決を受けたこと)があっても,「特別に上陸を許可すべき事情がある」場合には,例外的に上陸を認めるというものです。これは「日本への上陸を認めるかどうか(入国審査のゲートを通していいかどうか)」という点の判断です。この場合であっても,適法な在留資格は取得しておく必要があります。

どのような場合に「特別に上陸を許可すべき」といえるかについて,明確な基準はありませんが,

A 日本人,永住者,特別永住者,定住者として在留している外国人と,法律上有効な婚姻をしている

B 婚姻が真剣なものであって信用できる

C 日本で安定した生活ができるだけの経済的な基盤がある

D 過去に有罪判決を受けたことがあるのであれば相応の期間が経過している

等の事情を考慮して,「この人を日本に上陸させるべきなのか」「上陸させても不都合がないか」という観点から判断されることになります。

これらが絶対の基準というわけではありませんが,AからD,その他の事情を含めて主張し,それを証明する証拠を提出することになります。

 

☆出国の前から準備ができないか?

例④のように,退去強制はされなくても上陸拒否されるような場合には,再入国する場合に備えて,事前に再入国許可を受けておくことが出来ます。出国の際に,事前に上陸拒否される事情があることを申告した上で,あらかじめ特別上陸許可されるかどうかの判断を受けておくのです。

この際に再入国許可を受けられれば,上陸審査の時に改めて特別上陸許可を受ける必要はなく,上陸拒否の特例により上陸することが出来ます。

 

☆上陸拒否期間中の再入国は,通常とは異なる入国に関する手続です。

入国の前から入管に対して手続を行っていなければなりませんし,通常の再入国許可よりも認められにくい傾向にあります。また,再入国許可を受けたとしても,実際に入国した際,入国審査で事実関係の確認などがなされます。

特別上陸許可,再入国許可について不安なことや分からないことがある方は,弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。弁護士などに依頼することによって,申請の手続きを代理してすることができます。入国審査の際に入国審査官に対して事情を説明してもらうこともできます。

上陸拒否期間に再入国を試みる場合には,弁護士などに依頼して,入国前の手続から最後の入国審査まで,きちんと日本に上陸できるようサポートを受けておくことが重要です。

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